The Tempest

2005年02月27日 19時23分47秒 | Weblog
 ナポリの王アロンゾーは、娘の結婚式から帰ってくる途中に、海上で大嵐に襲われる。船にはアロンゾーの他に、王子のファーディナンド、アロンゾーの弟セバスチャン、ミラノの君主アントーニオー、顧問官の老人ゴンザーローなどが乗っていた。この大嵐は、実は孤島に住むプロスペローが魔術を使って起こしたものだった。プロスペローは、かつてはミラノの君主であったが、アロンゾーと手を組んだ腹黒い弟アントーニオーによってミラノを追い出されたのである。今、アロンゾーたちが孤島のそばを通ったのを機に、プロスペローは彼らを島に引き止めようとして嵐を起こしたのだった。

 島にはプロスペローの他に、彼の娘ミランダ、空気の精エアリエルを始めとする様々な精霊たち、そして魔女から産まれた醜い姿のキャリバンが住んでいた。エアリエルはかつて魔女の召使いだったが、魔女の酷い命令に従わなかったため、12年間松の幹の中に閉じ込められていた。だが、この島にやって来たプロスペローに助けられ、今は彼のために忠実に働いている。キャリバンは生来邪悪な心の持ち主で、かつてミランダを襲おうとしたことがあった。その時以来、プロスペローの厳しい監視下に置かれ、常に精霊たちに見張られている。どんなに遠くにいる時でさえも、キャリバンに邪悪な心が起きると、プロスペローは精霊たちに命じてキャリバンを戒めていた。その戒めの苦しさに、キャリバンの心は常にプロスペローへの憎しみでいっぱいであった。

 プロスペローはエアリエルに命じて、ファーディナンドを自分の岩屋に連れてこさせる。物心ついた時からこの島の世界しか知らないミランダにとって、父親以外の人間を見るのは初めてだった。ミランダとファーディナンドは一目で互いを好きになる。それはプロスペローの狙いでもあったが、彼はファーディナンドの愛情を試すためにわざと彼に冷たくし、試練を与える。

 島の別の場所には、アロンゾーたちが流れ着いていた。アロンゾーは、ファーディナンドが死んでしまったものと思いこんで嘆き悲しむ。この機会にセバスチャンは、アントーニオーと相談して兄から王位の座を奪うことにする。そこで、アロンゾーとゴンザーローが寝ているところを襲って、二人を殺そうとするが、エアリアルが見えない姿でやって来てゴンザーローを起こしたために計画は失敗に終わる。剣を持っているのを見られたセバスチャンは「獣の声がした」と言ってその場を取り繕う。その言葉を信じたアロンゾーは、そこを離れファーディナンドを探すことにする。

 プロスペローの言いつけで薪を拾いに来たキャリバンが、プロスペローの悪口を言いながら歩いていると、あの船で難破したアロンゾーの道化師トリンキュローが向こうからやって来る。トリンキュローを精霊だと思い込み、また苦しめられるのを恐れたキャリバンは、地面にうつ伏せになり上着をかぶって身を隠す。キャリバンに躓いたトリンキュローは、この魚のような人間のような奇妙な姿に驚くが、再び嵐の訪れを感じ、キャリバンの上着に潜り込む。そこへアロンゾーの執事ステファノーが徳利を持ってやって来る。恐れおののくキャリバンを発見したステファノーは、キャリバンが発作にかかっているのだと思い込み、酒を飲ませてやる。酒によってすっかり元気になったキャリバンは、二人が精霊ではないことを確信し、彼らを味方につけてプロスペローを倒すことにする。

 ファーディナンドを探し求めて歩き疲れたアロンゾーたちが眠ろうとした時、突然不思議な音楽が聞えてくる。そして、精霊たちが宴会の食卓を彼らの前に運び、食べるようにすすめて消える。一同が食卓につこうとした瞬間、ハーピー(女の顔と身体をし、鳥の翼と爪を持つ怪物)の姿をしたエアリアルが現われる。エアリエルは一瞬にして食卓の物を消し去り、アロンゾー、セバスチャン、アントーニオーの三人に向かって彼らの罪の深さを思い知らせる。三人は半狂乱となり、その場から駆け出して行く。

 プロスペローは、試練を耐え抜いたファーディナンドにミランダとの結婚を許す。二人を祝福して、プロスペローは精霊たちに美しい劇を演じさせるが、それが終わりにさしかかった頃、彼はキャリバンたちが自分を殺しにやってくることを思い出す。三人が岩屋にやって来ると、プロスペローは猟犬に姿を変えた精霊たちを使って彼らをこらしめる。

 一方アロンゾーたちは狂ったまま、森に留まっていた。心優しいゴンザーローは、この事態に涙を流し、途方に暮れていた。そのひどい有様をエアリエルから聞いて心打たれたプロスペローは、彼らにかけた術を解いて正気に戻すことにする。そして、今後一切魔術を使わないことを決意する。魔術を解かれたアロンゾーたちは、プロスペローが目の前に立っているのを見て、非常に驚く。プロスペローは、彼らを許し快く迎える。アロンゾーも心からプロスペローに昔の非を詫び、ナポリの隷属国となっていたミラノを返す。そして、もう会えないと思っていた息子が生きてミランダと結ばれたことを知り、非常に喜ぶのである。

 プロスペローは、自分の命令に忠実に従ってくれたエアリエルを解放する。そして、これまでのことを語るために一同を岩屋へと招き入れるのである。

作成:松村優子
みどころ

 言うまでもなく、この作品の最大の奇跡は、自分を不幸に陥れた悪者たちを許すという、プロスペローの寛大な行為である。アロンゾーはともかく、王子がいなくなったのを機に、兄を殺して王座を奪おうとしたセバスチャン、それに輪をかけて極悪非道なアントーニオーは、当然許されるべき人間ではないように思われるが、それだけにプロスペローの「許し」は、非常に気高いものに感じられる。

 常に憎しみを抱いているキャリバンは醜い姿をしているが、そのことは「憎しみ」という感情がいかに醜く、おぞましいものであるかということを表わしている。つまり、憎しみを抱きつづける人間は、キャリバンのような化け物同然であり、憎しみを捨て去らない限り、いつまでたっても救われないと言える。プロスペローは、相手を許すことで自らも憎しみから解放したのである。

 またプロスペローの寛大さは、心優しい老人ゴンザーローの影響もあるように思われる。プロスペローとミランダが追放される時、親切に生活必需品や大事な書物を渡してくれたのは、ゴンザーローだった。この高潔な人物であるゴンザーローの存在は、人を陥れ、踏みにじるような冷たい人間社会が、まだ完全に絶望的なものではないことをプロスペローに教えている。どん底に落ちた人間の、唯一の心の支えとなったゴンザーローの優しさは非常に重要で尊いものだと言える。

 この作品は、魔術、姿を自由自在に変える精霊、不思議な音楽など超自然的なものが多く登場するが、それだけに非常に幻想的で美しい場面を思わせる。また、清らかな心の持ち主であるミランダと、愛のために試練を貫き通したファーディナンドの結婚は、非常に清々しく爽やかである。だがこの作品で何よりも美しいのは、やはりプロスペローの「許し」であり、そのことは私たちの心を洗い清めるのである。

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