「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

牡丹絢爛二重らせんの縺れ出す 成田一子 「滝」6月号<瀬音集>

2015-06-21 19:02:50 | 日記
今年の牡丹は見事だった。まさに絢爛。注目は中七以下。
遺伝子は生命体を根本的に規定している構造物。二重らせん
と結び目で構成されている。生命体が自らを複製し子孫を残
すには、多彩なDNA代謝を繰り返す。その際、時としてら
せんに縺れや絡まりなどが生じてしまう。それらが解消され
ない限り、代謝の進行は物理的に不可能となり停止する。中
七下五の「二重らせんの縺れ出す」は、生命体の危機的状態
の序章。こうなった場合は、細胞の中にあるDNAトポイソ
メラーゼという酵素が活躍する。二重らせんの縺れや絡まり
をほどいたり、交叉したDNAが互いに通り抜けられるよう
にしたりする。それでも解消できない縺れもあり、その個体
には死が訪れる。しかし遺伝子は滅びない。個体は死滅して
も種全体としては必ず生き延びる。遺伝子は生と死の反復の
不思議をも内蔵しているからだ。牡丹の圧倒的な輝き。作者
はその豪華さの中に清浄無垢を見た。同時にそこには滅びの
呪文も潜んでいると感じたのだ。(石母田星人)

コメントを投稿