「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

褸紅草ひらく赤子の溜息に 成田一子

2021-09-07 05:06:31 | 日記
「褸紅草」の「褸」は一縷の「る」。細い糸のような葉を持つ。その花は小さいけれど、朝顔や昼顔のような長い花筒に星形の鮮烈な赤い花を咲かせる可愛い花。それだけで「赤子」に通じて来て連想の妙を思うが、だからこそ「溜息に」に驚く。溜息は思い悩んだり、苦しみ、失望、落胆などを思わせて、天真爛漫な赤ちゃんと無縁のもののように思われた。調べて見ると、赤ちゃんの溜息は深呼吸のようなもの。若しくは、ママの真似だそうで、コロナ禍で溜息の多い今だけれど、赤ちゃんの仕草はもれなく可愛い。まるで魔法のように褸紅草を咲かせた赤ちゃんにみんな笑顔。そんな句だと思いたい。(博子)

抱きたるペガサスの夢風の死す 阿部風々子

2021-08-25 05:33:52 | 日記
一読目に感じた絶望感からしばらく逃れられなかった。「風死す」の息苦しさを感じる耐え難い暑さは、ペガサスの夢を阻害しているかに思われた。が、「夢」とは何だ、と思った時、ペガサスは自由を象徴する存在であり、今そのペガサスの夢は、コロナ禍で自由を奪われた耐え難い地上を一新する夢を抱いて、大きな真っ白な翼を羽ばたかせて、地球に向かっているのかもしれない、と、天と地のあわいに「吾」置く句ではないのかと思えて来た。羽風がもうすぐ無害な空気をもたらして息苦しさから解放されるのかもしれないと少しのあいだ呑気にもなれた句だった。(博子)

砕かるる土偶尊し夏祓 原田健治

2021-08-22 19:18:51 | 日記
土偶は長い間埋もれていたから壊れたのではなく、縄文時代中期に作られた土偶は壊すために作っていたと考えられており、自分の身代わりにしていたという説もある。例えば、腕を怪我したとき、うでを壊した土偶の破片を集落のまわりにまくことで治癒を願ったりしていたらしい。夏祓は十二月の大祓は廃れ、疫病などが流行する時期の夏の祓が一般的になり、茅の輪、形代、川社など各地の神社で見られる。人形(ひとがた)や形代は、息を吹きかけたり触れたりしてその人の穢れを移し、それを川に流してみそぎとするそうで、「砕かるる土偶」と、古今の空間が「尊し」でリンクしてするような句だった。(博子)


碧き水白蛇沼を一直線 鈴木弘子

2021-08-20 02:59:54 | 日記
どこの沼なのでしょうね。沼の背景の緑と碧い水、そこを白蛇が泳いでいる。神々しく、美しい沼の精霊の目撃は吉兆めいて、人類の幸せの為の行動としての意志を感じる「一直線」が力強い。災害続きの今だからそう思うのかも知れない。白蛇は各地に伝承、伝説、俗信があり、私が住まう大崎市にも「化女沼」があり、この不思議な名前の由来となった伝説が残されている。
「この沼のそばに、かつて一人の長者がいた。その長者には美しい一人娘がいた。名は照夜姫と言い、毎日のように沼へ来て日を過ごしていた。その美しさのために、いつしか姫が沼のほとりに近づくと、水面にたくさんの蛇が集まるほどであったという。ある時、一人の旅の美男が長者の家にやって来て、宿を借りることになった。照夜姫とはすぐに相思相愛の仲となったが、また旅を続けるためにと男は去って行った。男との別れを嘆き悲しんでいた照夜姫であったが、しばらくして突然の体調の異常に気づく。そのまま産気付いた姫は、その夜のうちに子供を産んだ。しかし赤子は人間ではなく、白蛇だったのである。驚く姫をよそに、生まれた白蛇は沼の底へと沈んでいった。そして姫もその後を追うようにして、愛用の機織りの道具を持って沼へ身を投げたのである。
それから毎年7月7日には、沼の中から機織りをする音が聞こえてくる」
と、伝えられている。掲げる句にも何か物語があるのかも知れませんね。(博子)

五月晴れ仙台平の足さばき 今野紀美子

2021-08-18 03:34:54 | 日記
「仙台平」は仙台伝統の絹織物。フィギアスケートの羽生結弦選手が国民栄誉賞の表彰を受けたときの美しい袴姿を真っ先に思い出すが、「嫁取り」と題した五句。そういえば御子息が結婚したことを「夫婦茶碗」の句の鑑賞の時のコメントに書いてあったように覚えている。新型コロナウイルス感染症の蔓延で出来ずにいた結婚式が挙げられたのですね。
「白無垢にかしぐ番傘白牡丹 今野紀美子」
もあり、新郎新婦が見えるようでした。おめでとうございます。(博子)