哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

『理性の限界 不可能性・不確定性・不完全性』(講談社現代新書)

2008-09-01 08:08:31 | 
 この本の内容を知ったとき、自分自身も前から同じアイデアを持っていたので、学者の先生が本にしたのを知ったときは大変驚いた。

 そのアイデアというのは、経済学の不可能性定理と、量子力学の不確定性原理、そして数学の不完全性定理を、それぞれのもつ逆説的真理とその哲学的深淵さについて、共通の視点から横串的に組み直して理解することだ(自分がこれらを知った経緯は、理系志向だった高校時代にブルーバックスの『不確定性原理』に感銘し、浪人時代の予備校教師から『ゲーデル・エッシャー・バッハ』と共に不完全性定理を教えてもらい、そして経済学部に入学して「不可能性定理」を知ったという経緯にある)。

 この本はこのことをそのまま行っていて、かつ文章が池田晶子さんばりに対話編になっているので、大変読みやすい本である。ただ惜しむらくは、各定理の紹介が極めて表面的に留まり、少し詳しい内容でさえ専門書に当たらなければわからない点だ。

 とはいえ、これらの定理をほとんど知らない人には、何が問題なのかをまず知ってもらうことが先決だし、最近の新書版の読みやすさレベルからすると、やむを得ないレベルなのだろう。


 ところで、これらの定理をごくごく簡単に紹介すると、不可能性定理とは完全な民主主義の不可能性、不確定性原理とは存在自体の不確定性、不完全性定理とは論理だけでは完結しえない不完全性、を示す。とすれば、いずれも池田晶子さんが文章にしている内容であることに気づかないだろうか。