哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

「プロジェクトX」の終焉

2005-12-29 02:07:33 | 時事
プロジェクト X 【NHKエンタープライズ】

 昨日でNHKの有名な番組「プロジェクトX」が終わりました。失われた10年で意気消沈した日本を元気付ける、まさに時代を反映した番組の意義はすばらしいものでした。

 確かに名作もあったが、最近はあまり大したことないものを大げさに取り上げているとの批判も多かったですね。しかし、この番組がなければ知らないことも多かったし、お涙頂戴のお決まり的展開が橋田壽賀子さんがおっしゃる通り、番組の作り方としては良かったのでしょう。
 全体的に技術者の話が多く、昨日の番組によれば、戦後日本の復興を模範としたい外国でも上映・放送されているそうです。

 名作とされているものは、やはり初期の第Ⅰ期、第Ⅱ期に集中しています。改めて見るならこの時期のものだけで十分でしょう。ちなみに私は、泣き虫先生と天才外科医の巻は購入してしまいました。

 それから中島みゆきさんの「地上の星」は名曲ですよね。こういういかにも歌謡曲というのは個人的には嫌いなのですが、嫌いではあっても名曲だと思います。驚いたのは、この曲は番組の内容を教えられ、そのイメージで作られた曲だということ。こういう内容で作ってくれと言われて、それを詩的に作り上げる才能はやはり凄いなと思いました。

大原孫三郎さん

2005-12-26 07:04:30 | 知識人
 日経の経済教室に、倉敷の大原美術館創設等で有名な大原孫三郎さんの話が連載されました。書いているのは、労働経済の猪木武徳教授です。大原さんは大地主の子だったそうで、小作人の厳しい環境を見て農業の振興にも力を入れたとのこと。

 大原さんがもっとも影響を受けた書物は、『旧約聖書』と『報徳記』だそうです。猪木教授は「『新約』でなく『旧約』というところが面白い」と書いています。『旧約』は、ユダヤ教、キリスト教、イスラームなどの西方の思想が生まれた源流であり、人間の自意識、絶望と希望、「神」の発見、個性の卑小さ、人間の悪業と精神の病の全て記されているそうです。

 旧約聖書はユダヤ教の聖書かと思っていましたが、それだけではないんですね。

神経幹細胞と骨髄細胞

2005-12-25 19:45:24 | 科学
 脳の話ですが、今回は医療分野に関しての話です。あるTV番組の話では、脳のダメージを回復する方法として再生医療が急速に進んできているそうです。

 そもそも生物の一定範囲は脳にダメージを受けても(失っても)、自然に脳が再生するそうです。ミミズとかトカゲとか。境目はおたまじゃくしと蛙で、前者は回復可、後者は不可だそうです。もちろん哺乳類は一切不可です。

 脳神経を再生する役割を担うのは、神経幹細胞で、この細胞は人間の子供時代にはまだ多くあるそうです。ところが大人になると減ってしまいます。しかし大人でも全くなくなってしまうわけではなく、脳のある部分に残っているので、それを取り出して培養して戻す方法により、脳の失った部分を再生することが考えられます。

 さらにもっと簡便な方法が、骨髄細胞を使う方法です。骨髄細胞は血液を本来作るそうですが、心臓の筋肉や神経にも変化できるらしいのです。実際に脳梗塞のねずみの静脈に骨髄細胞を注射すると、脳が再生されたそうです。骨髄であれば、すでにある骨髄移植の方法で脳が再生できることになり、今後期待されています。

エイジングはおいしいぞ(週刊新潮今週号の「人間自身」)

2005-12-23 17:09:39 | 哲学
 池田晶子さんの週刊新潮連載「人間自身」今週号は、「エイジングはおいしいぞ」という題でした。主なところを要約しつつ抜粋します。

「アンチエイジング=抗加齢、老いることの拒否である。老いることが価値ではないと。しかし、我々の人生は老いるという形式以外ありえず、老いるということが人生を生きるということそのものなのである。
 若さのもたらす快楽に価値があっても、快楽はいずれ失われるというまさにそのことによって、容易に苦痛に転化する。本当の価値は、決して失われない永続的な快楽、別名、幸福である。老いて若さを失うことに決まっている以上、生きることの幸福を味わい、人生を幸福なものとしたいと望むなら、老いることを価値とする以外はあり得ない。そうすれば、人生はほっといても価値である。生きることはそのままで幸福である。」


 内容は先週の続きです。アンチエイジングの愚かさを繰り返し述べています。
 今回の文では「老いることに価値を」といい、そうすれば「人生はほっといても価値である」と書いてありますが、我々凡人が何も考えずに幸福になれるというのも、ちょっとおこがましい話になってしまいます。

 この後の文で、池田さんは自分の話をし、「老いることとして生きることが面白い」とか「老いることはおいしいことだ」と書いています。その内容は、「老いることの内省と思索」の悦びだそうです。つまり、人生の幸福は内省と思索の賜物、つまりは池田さんの著作の帯にある「悩むな、考えよ」が老いることの幸福を得る前提条件なのでしょう。凡人にとっては必ずしも平坦な道ではなさそうですが。

カレル・チャペック著 『ロボット』(岩波文庫)

2005-12-22 23:59:59 | 
 1920年初版のこの戯曲は、ロボットという言葉を発明し広めた作品として有名だそうです。作品の後ろには、ロボットと言う言葉がどうしてできたか、も親切に載せてあります。

 内容は、心のないはずのロボットが反乱を起こし、人類を滅亡させる話です。SFでは何度も使いまわされている展開ですが、発端はこの作品なんですね。

 ロボットといっても、この作品の中では肉も骨もあって人間そっくりなので、人造人間という言い方の方がぴったりくる印象です。映画で言えば、「ウエストワールド」の機械人間よりも「ブレードランナー」の人造人間のイメージに近いようです。

 一言で言えば、科学の無限の進歩による人間の堕落・崩壊への恐れを描いたと言えるようですが(でも最後の場面では新しい展開になってしまうようです)、ある意味、映画の「博士の異常な愛情」にも通じるブラックユーモアな作品です。

『博士の愛した数式』

2005-12-20 04:39:33 | 
 フィクションより、ノンフィクションの方が好きなので、あまり小説は読まない方ですが、この小説は最近文庫本になり、しかも映画化された話題作というので読んで見ました。

 いきなり話がずれますが、題名は明らかにスタンリー・キューブリック監督の名作ブラックコメディ『博士の異常な愛情』を思い出させます。この映画は、かのコメディ脚本家の三谷幸喜さんがもっとも薦めるコメディの2番目として推薦されていました(1番目は秘密だそうですが)。私も当時の時代背景を想起できることも含めて、この映画は大好きです。主人公の役者が1人3役で、アメリカ英語・イギリス英語・ドイツなまり英語を使い分けるのもおもしろいと思いました。

 またもう一つ話がずれますが、精神病の数学者という設定は、映画『ビューティフル・マインド』も思い出します。主演のラッセル・クロウの前作『グライディエーター』が大変気に入ったし、ゲーム理論の数学者の実話という話に惹かれて映画館に見に行きました。 

 で、この小説の方ですが、こちらはあくまで軽い読み物でしたので、テレビでドラマをつらつら眺めるような感じで読める、一服の清涼剤のようでした。よく練られた内容の小説だとは思いますが、ちょっと映画化作品はあまり見る気にはなっていません。

藤原正彦さんの『国家の品格』

2005-12-18 07:21:56 | 
 この本の挑戦的な題名と、書いた人が大数学者という理由で気になり、本屋でパラパラと拾い読みをしたのですが、その限りではあまり読んでみようという気になりませんでした。しかし、たまたま週刊新潮今週号の「闘う時評」の福田和也氏も薦めていたし、またこの本の中で私も注目するゲーデルの不完全性定理に少し触れていたので、結局一通り読んでみました。

 読後感としては、やはり期待したほどではありませんでした。大数学者に対して失礼ではありますが、国家の品格を問題にしながら、文章に品格が欠けているのではないかと正直思いました。

 内容の細かいところでは、首是できる部分も若干あります。例えば「精神性を尊ぶべき」と「何かにひざまずく心(自然を畏れる)」とかは、池田晶子さんが常々言っていることです。あるいは「民主主義」や「自由・平等」の限界の話もわからないわけではありません。

 しかし全体的に、日本人はどうだとか、欧米人はどうだとかのステレオタイプ的決め付け発言が多いことが気になります。さらに「論理より情緒」「武士道精神の復興」となると、ちょっと首を傾げる部分もあります。

 論理ですべて解決しようとするとうまく行かないというのは仰るとおりでしょうが、少なくとも言葉も論理ですよね。この本の主張内容に単純な矛盾(もしくは説明不足?)が多くあって首尾一貫してないところが結構あります。
 例えば欧米の合理的精神がイギリスの産業革命を産んだが、その論理が破綻して文明の荒廃が広がっていると言いながら、情緒が大事な理由として挙げている普遍的価値の例として、世界に尊敬されるイギリスが生んだものの例を挙げています(学問のみならず、コンピューターもジェットエンジンもレーダーもビートルズもイギリス発だ、と)。
 またこの本の最後の方では、人類の当面の目標は「2度と大戦争を起こさぬこと」と言っています。であるなら、武器を携える武士道よりも、茶道のほうがずっとふさわしいと思います。

 話がずれますが、かつて故後藤田元官房長官が憲法改正の論議のとき、「もし改正するなら、憲法前文に、和をもって尊しとなす、と入れてほしい」と言ったと聞きましたが、これこそ日本人らしき品格ある発言だと思いました。

 さて、この本は大学での講演をもとにしているそうですが、むしろ飲み屋で酒を飲みながらの放言にふさわしいレベルです。所詮新書版の本なんてそんなものだ、と言われればそれまでですが。

恐怖のアンチエイジング(週刊新潮今週号の「人間自身」)

2005-12-16 23:59:59 | 哲学
 池田晶子さんの週刊新潮連載「人間自身」今週号は、「恐怖のアンチエイジング」という題でした。主なところを要約しつつ抜粋します。

「化粧品やサプリメントによるアンチエイジングなんて、実際に可能だろうか。そもそも「アンチエイジ」というコピーは、同一体で追試できないことにつけ込んでいる。使った十年と使わなかった十年を比較できない限り、十年後に差が出るかどうか誰にもわからない。
 同一個体で追試できないという「人生の一回性」をよく考えてみるといい。人は同じ人生を二度生きることはできない。「生きる」とは「老いる」ということに他ならない。であれば、老いるという一回限りの経験も貴重なものと思えるはずである。時間軸に沿って経験を重ねて、人間は賢くなるのである。歴史も人類も我が事として思索できるようになるのである。」

 アンチエイジング批判文も以前から池田晶子さんは何回も書いておられますね。でも何回言われても、無意識のうちに若く見せたい見られたいという意識は多くの人に巣くい続けます。70歳の人が50歳位に見えたり、90歳の人が肉体労働を難なくこなしていたりしたら、「お若いですねぇ!」と普通褒めます。経営者のトップが少年のような好奇心をもつことも普通褒めます。

 要は、見かけの老いの進行を極度に嫌って無思慮にアンチエイジングに走ることの愚かさを言っているわけで、普段の身だしなみが年相応か若く見えるかは大したことではない(そう見えるならそれでよい)というくらいでいいのでしょう。むしろ精神の成熟をしっかりしろということですね。

 ちなみに表題の「恐怖のアンチエイジング」とは、四十歳の体と知恵しかない百歳の人間がぞろぞろと生きている光景を想像してのようです。

人生の幸福や物事の喜びを奪う価値観

2005-12-14 06:20:30 | 科学
人生の幸福や物事の喜びを奪う『不合理な信念と不適応な仮定』について

 心理学と価値観の話と言い換えてもいいのでしょうが、上記サイトでは、単一の価値観(固定観念)を持つがために人生を悲観しがちな事例を、心理学の観点から解説しています。

 サイトの冒頭で、極端な価値観を持つことの危険性を、車の車輪の数で比喩させています。言い得て妙な比喩ではあります。このような極端な価値観も自ら想像した観念に過ぎないにもかかわらず、社会の中で生きる術(すべ)となってしまい、そう思う本人の生死を左右する問題となってしまうわけですね。

 思いますに、複雑な社会になったからでしょうか、人間というのは科学での統一理論志向と同様、単純な考えを追い求める傾向がどうしてもあるようです。だから生き方についても「確固たる信念」をひとつ持てばよいと思いがちなのかも知れません。しかし、それが確固たるかどうかは検証不能ですから、心理学でいう問題事例が発生するのでしょう。

 心理学のいう健全な価値観とは何かは明確ではありませんが、池田晶子さんの考え方(=哲学の考え方)は処方の一つとして有用かとは思います。人生を悲観する考えとは無縁ですから。ただし癒しにもならないので使用にはご注意を。

ネアンデルタール人

2005-12-13 04:52:41 | 科学
 先日たまたま子供向けの科学番組(たぶんNHK教育)で、人類史についてクイズ形式のレクチャーをしていた。

 類人猿から現代人までは、進化の過程でいくつも枝分かれし、最後に残ったのが現代人であるホモ・サピエンスだそうだが、直前の枝分かれがホモ・サピエンスとネアンデルタール人だそうだ。そしてネアンデルタール人は3万年前に絶滅したという。

 そこで問題。生き延びたホモ・サピエンスと絶滅したネアンデルタール人の大きな違いは何か。

 答えは、ホモ・サピエンスは壁画や耳飾りなどをしたがネアンデルタール人にはそのような行為はなかったとのこと。つまり、ホモ・サピエンスには物事を想像し、抽象的なものを理解する力が宿り、暦も作り、季節の周期や動物の習性も理解して、将来の予測もできたということだそうだ。それによって4万年前から始まった氷河期を生き抜いたという。

 ただ、たまたま本屋さんで見かけた別冊サイエンス『人間性の進化』の「消えたネアンデルタール人」を読むと、そう簡単な話でもなさそうである。