哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)

2008-09-07 08:09:05 | 科学
 以前から話題になっていたが、最近やっと掲題の本を読んだ。生物学に関する入門本のように思って読み始めたら、出だしは面白くなくて退屈だったのだが、読み進むにつれて引き込まれていき、結局東京出張の往復の機内で一気に読んでしまった。帯に「極上ミステリー」と書いてあるが、まさにその通りで、読み物としての面白さが際立っている。わくわくさせる物語の展開(とくに前半のDNAのらせん構造発見のところ)は、筆者の優れた文章力によるのだろう。

 ウイルスは自己複製機能をもつが、それだけでは生物とはいえず、生物というには代謝機能をもつことが必要である、という話は誰でも知っている生物の定義だが、この本ではその代謝の仕組みを、シュレーディンガーという物理学者の書いた『生命とは何か』という本をきっかけに深く分析的に記述していく。確かに物理的には、自然にあるものは、自然のままではエントロピーが増大していくことになるし、生物も原子から成る以上、同じ自然法則に従っているはずである。しかし、生物はその自然の流れに逆らうことなく体内に取り込み、自然の流れの中で一定の生体を保つ仕組みを作った。それを“動的平衡”という。
 そして、その仕組みの解明として著者の携わった「細胞膜」のダイナミズムの探索の過程が、後半のストーリーとなっている。

 この本の面白さは、生物学の最新知見の説明に加え、ノーベル賞に直結する発見に至るまでのミステリーのような人間ドラマが、その学問的説明に密接に融合したストーリー展開にある。新書にしては超お薦め本といっていいだろう。


 もちろん、池田晶子さんが常々指摘する通り、ではなぜこのように生命が存在するのか、という問いは残るのであるが。