
花便りが聞こえ始めた。この週末は、東京でも花見の場所取りが行われるらしい。こちらの開花は4月の10日過ぎか、例年より少し早そうである。ベランダの梅の花が、ハナビラを落とし始めた。夏目漱石の句に
ものいはず童子遠くの梅をさす 漱石
という句がある。江戸の俳句では、さかんに本歌取りの句が詠まれた。芭蕉の高弟である嵐雪の句に「沙魚釣るや水村山郭酒旗の風」というのがあるが、これは唐の詩人杜牧の「江南の春」を踏まえたものである。漱石も、江戸俳句の向こうをはって、同じ杜牧の「清明」を踏まえた。
「借問す酒家いずれのところにかある 牧童はるかに指さす杏花の村」という有名な詩の一節を取って、遠くの梅をさす、とした。杏の花を、梅に置き換えたところが、日本の春にふさわしい。だが、そもそも梅の花は、中国から渡来したものである。昔から日本人には舶来品を尊重する傾向があるらしく、梅が渡来するや、貴族は競って梅を植え、花見は梅ともてはやした。現代では花見といえば桜をさすようになっている。