徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:山本淳子編、『紫式部日記』(角川ソフィア文庫、ビギナーズ・クラッシクス)

2017年08月17日 | 書評―古典

『源氏物語』の作者である紫式部の手記、『紫式部日記』は、寛弘5-7年(西暦1008-1010年)の間の中宮彰子を中心とする宮中または土御門での出来事とそれに対する紫式部の所感などを綴ったものですが、全体の統一感はなく、その成立過程には様々な議論があるようです。

その構成は:

A 前半記録部分~寛弘5年秋の彰子出産前から翌年正月3日まで

B 消息体~「このついでに」に始まる手紙文体部分

C 年次不明部分~いつのことか知らされない断片的エピソード

D 後半記録部分~寛弘7年元旦から正月15日まで

となっています。

中宮彰子は、平安貴族の中で現代で恐らく最も名の知られた大貴族・藤原道長の娘で、一条天皇のもとに入内しますが、その時藤原道隆の娘・定子が帝の寵愛を受けていたため、懐妊するまでに9年もかかってしまったというちょっとお気の毒なお姫さま。紫式部は彼女に仕え、最初こそ慣れない宮仕えに戸惑っていたものの、主人を思いやり、主人のために働く意識の高い女房に成長していったようです。そのことがAとBの間の内容的ギャップに現れています。

Bでは、当時才女として名をはせていた人たちに対する評や彰子に仕える女房達への批判、改善点などが書かれていて、私はこの部分が一番面白いと思いました。和泉式部評もここに収録されています。でも紫式部がここで一番批判したかったのは、『枕草子』ですでに随筆家として名を馳せていた元定子の女房だった清少納言だったようです。定子後宮と彰子後宮が常に比較され、「女房の質が悪い」と彰子後宮が悪く言われていたことが余程悔しかったようですね。「得意顔でとんでもない(したり顔にいみじう侍りける人)」とか、「利口ぶって漢字を書き散らして(さばかりさかしだち、真名書き散らして侍るども)」とか、「人との違い、つまり個性ばかりに奔りたがる人(人に異ならむと思ひ好める人)」とか、彼女の書くことは「上っ面だけの嘘(あだなるさま)」ばかりだとか、すごく辛辣で、いかに彼女が清少納言を敵視していたかが、ひしひしと伝わってきます。

AとDの記録部分はどちらも出産祝いにまつわる話ですが、祝い事の様子や、誰誰が来て、どんな服装だったとか、非常に細かく描写されていて、それはそれで当時の貴族文化を知ることができて面白いと思います。

本書は、現代訳も優れていますが、解説も豊富で、この作品の背景、人間関係などがよく分かるようになっています。



書評:谷知子編、『百人一首』(角川ソフィア文庫)&あんの秀子著、『ちはやと覚える百人一首(早覚え版)』

書評:大友茫人編、『徒然草・方丈記』(ちくま文庫)

書評: 菅原高標女著、『更級日記』(角川ソフィア文庫、ビギナーズ・クラシックス)

書評:清少納言著、『枕草子』(角川ソフィア文庫、ビギナーズ・クラシックス)

書評:藤原道綱母著、『蜻蛉日記』(角川ソフィア文庫、ビギナーズ・クラッシクス)

書評:坂口由美子編、『伊勢物語』(角川ソフィア文庫、ビギナーズ・クラッシクス)

書評:紀貫之著、西山秀人編、『土佐日記』(角川ソフィア文庫、ビギナーズ・クラッシクス)

書評:川村裕子編、『和泉式部日記』(角川ソフィア文庫、ビギナーズ・クラッシクス)


ドイツ:持たざる者ほど多い税等負担~ベルテルスマン財団調査

2017年08月17日 | 社会

今日公表されたベルテルスマン財団の税負担に関する調査結果が衝撃的です。

調査は、ベルテルスマン財団の委託により欧州経済研究センター(ZEW)が、より多く働くことがどのくらいの手取り収入増加に繋がるかを各年収クラス、家計形態ごとに調べたものです。

結果を要約すれば「低収入の人ほど、より多く働いても家計の収入増につながらない」という理不尽なものです。

まずは限界収入1ユーロ、つまり通常収入を超えて得た1ユーロにどのような課税などの負担があるかを表す指標が【実効限界負担】(Effektive Grenzbelastung)です。

上のグラフを見ると、福祉分野の支援(住宅支援、児童手当など)減額・打ち切り、所得税、社会保険保険料で1ユーロのうちの半分強を占めています。

ただこれはあくまでも平均的な負担を示すもので、元の収入及び家計形態によってその割合は違ってきます。

シングル家計で年収が1万7千ユーロ(約219万円)であれば、1ユーロ余計に稼いでも手取り額は増えません。それに対して年収が7万5千ユーロ(約966万円)であれば、余計に稼いだ1ユーロのうち56セントが手元に残ることになります。

夫婦で子供が二人の家系においては、家計年収が4万ユーロ(約515万円)であれば、余計に稼いだ1ユーロのうち56セント、家計年収が9万ユーロ(約1,160万円)であれば、66セント手元に残ることになります。

場合によっては限界負担が120%、すなわち余計に稼いだ1ユーロに対して税等の負担が1ユーロ20セントになり、20セントのマイナス収入になることもあります。これはドイツで就労能力のある失業者に給付される生活保護である第二種失業手当(俗に「ハルツ4」)が、労働収入に応じて減額される場合などに起こるようです。

シングルマザー家計でも状況は厳しく、年収23,800ユーロ(約306万7千円)までは限界負担が一貫して60%で、年収4万千ユーロ(約528万円)あたりから漸く限界負担が下がり始めます。

この調査からの提言は、児童手当、住宅手当、失業手当などの社会保障的給付金の相互調整を行い、より多く働こうとするモチベーションを上げるべきだということです。

やはりそこが一番喫緊に改善されるべきところでしょうね。

累進課税自体にももちろん改善の余地があるので、9月の連邦議会選挙を目前に控えた選挙活動の中でも様々な提案がなされてますが、連立政府は4年も時間があったにもかかわらず、その問題を放置し、なんで選挙前になって今更のようにそこに改善の余地があることに気付いたのか疑問に思う限りです。

調査報告はこちら

参照記事:

Zeit Online, "Mehrarbeit lohnt sich häufig nicht", 17. August 2017
Bertelsmann Stiftung - Aktuelle Meldung, "Wer wenig hat, wird am stärksten belastet: Steuer- und Sozialsystem benachteiligt Geringverdiener", 17. August 2017


ドイツ:5人に1人の子供が継続的に貧困 ベルテルスマン財団調査報告(2017年10月23日)

ドイツ:最新貧困統計(2016年度)

ドイツ:貧富の格差はヨーロッパ最大