徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:広瀬隆著、『原発処分:先進国ドイツの現実ー地底1000メートルの核のゴミ地獄』(五月書房)

2017年08月01日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

広瀬隆著、『原発処分 先進国ドイツの現実』(五月書房)は2014年4月に初版発行された本なので、その後のドイツの最新情報はもちろん含まれていません。しかしながら、2014年以降に問題解決の糸口が見つかったとか、政治的に大きな変化があったということはなく、小手先の政策変更や合意があった程度なので、本書で列挙されている原発廃炉および放射性廃棄物の最終処理問題は2017年現在でも本質的に何も変わっていません。

本書は著者と山本太郎氏および映像監督・山根亮一氏がドイツ取材に行き、山本太郎事務室(http://www.taro-yamamoto.jp)から発売されているDVD「核のゴミどうすんの!? 山本太郎と広瀬隆のドイツ取材3000㎞の旅」(購入はこちら)であまり扱われなかった廃炉現場および放射性廃棄物の「最終処分場」に焦点を絞って報告しています。

目次は以下の通り。

I ドイツ廃炉の現場

廃炉を決定づけた二つの他国の原発大事故

グライフスヴァルト廃炉現場

オブリッヒハイム原発廃炉現場

廃炉間近のグラーフェンラインフェルト原発

II 放射性廃棄物の処分場で起こっていた現実

ドイツにおける放射性廃棄物の流れ

ゴアレーベンの現実

コンラート最終処分場

アッセの地獄

アッセで進行する地下水侵入

地層処分とは、何をすることなのか

III ドイツの選択・日本の選択

シェーナウで聞いた話

自然エネルギーの普及とメルケルの思惑

ドイツ人が日本に対して思うこと

旅の終わりに―「10万年先の問題」ではない、「一刻を争う問題」だ!

 

目次を見ただけでもおおよその内容の予想がつくと思いますが、本書の良い所は、反原発運動にかかわる人たちから「脱原発の国・ドイツ」と夢見るように語られるイメージを正し、厳しい現実を簡単に提示していることです。

著者と山本太郎氏が地底1000メートルで見たものは、人類滅亡の未来を暗示するような、おそろしい事態だった!

とあるように、岩塩層を利用した「地層処理」の無謀さと危険性が指摘されています。放射性廃棄物の入った、すでに劣化している容器を深刻な地下水問題にさらされているアッセ処理場から取り出すことが安全性のための喫緊の課題ですが、具体的にどのように取り出すのかについては、それこそ「福島第一原発のメルトスルーしてしまった核燃料を取り出す」というのと同じくらい雲を掴むような話です。

「脱原発の国・ドイツ」では2017年現在でまだ8基の原発が稼働しています。それだけでも危険ですが、廃炉作業にも放射性廃棄物の処理にも相当の危険が伴います。

しかも廃炉作業で出る廃棄物のたった1%しか「放射性廃棄物」として扱われ、それ以外は通常の産業廃棄物または家庭ごみと同じ扱いになるというのもとんでもない現実です。そのクリアランスレベルは1㎏あたり1万ベクレルと定められているため、日本の8000ベクレルまでの汚染土を再利用する計画の方が「まし」に見えてくるくらいです。そういう意味ではドイツの原発政策も油断も隙もあったものではなく、継続的に厳しく政治を監視し、根気よく反原発運動をしていかなければ、とんでもない方向に転がっていく危険性が高いのです。2022年までの脱原発は既に決定事項なので、日本のように「再稼働」が議論されることはもうありませんが、それでも物事は原発事業者に都合の良いように進んでいく傾向があるという意味ではドイツも日本と五十歩百歩の違いしかないと言えるでしょう。

まだドイツを夢の国のようなイメージを抱いている方はぜひこの本を読んでほしいと思います。残念ながら絶版になっているようなので、古本を買うか図書館で借りるしかないみたいですが、お勧めです。


書評:広瀬隆著、『東京が壊滅する日 フクシマと日本の運命』(ダイヤモンド社)

 

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