石田リンネ著、『おこぼれ姫と円卓の騎士』が遂に完結しました。このシリーズは、私的に雪乃紗衣の『彩雲国物語』に次ぐヒット作です。シリーズ全体のまとまりとしては、『おこぼれ姫と円卓の騎士』の方が、最初から何冊かの長編として構想されていたために、1冊のデビュー作で完結する筈だった『彩雲国物語』よりもずっと優れています。両作品は、主人公が次期女王と大貴族の長姫で官吏という立場の違いを始めとする様々な設定の違いがあるものの、17歳の少女が政治に関わる活躍をするという点が共通しており、またクライマックスに政変が起こり、それをできる限り少ない犠牲で解決に持っていくところや恋愛面でもハッピーエンドなところが似通っています。それでも読んでいてドキドキ・ハラハラさせられ、甲乙つけがたい素晴らしい筆致だと思います。文学的な重さとかはないかも知れませんけど。
『おこぼれ姫と円卓の騎士』は、ソルヴェール国第一王子と第二王子の覇権争いに憂えた国王が第一王女レティーツィアに次期女王の座を譲ったことで、「おこぼれで王位継承権を得た姫」という意味で【おこぼれ姫】という不名誉な呼び名をつけられてしまった王女レティーツィアが主人公。しかし彼女は、実は神にして建国の王・騎士王の生まれ変わりであるため、自分が王になることを既に知っていたため、王位を継ぐために必要になることを自ら学んで準備してきたのです。ソルヴェール国では、大臣などの役職の代わりに十二人の円卓の騎士(ナイツオブラウンド)が国王を囲んで政治を執り行うのが伝統となっており、第一王子も第二王子もそれぞれの騎士を既に集めていたのに対して、王女レティーツィア(通称レティ)は即位までに自分の騎士たちを十二人集めなくてはならず、この物語は、彼女が自分に心から忠誠を誓う騎士たちを獲得していく物語とも言えます。
またレティは騎士王の生まれ変わりとして体内に12本の剣を持ち、それぞれの特性を生かして自分の身を守ったり、人外の力で魔を浄化したり焼き払ったり、はたまた天候に影響を与えたりする能力を持っていて、時間と共にそれを使いこなせるようになっていきます。そうして様々な問題を解決しながら騎士を獲得し、周りに自分が【おこぼれ姫】ではなく、次期女王に相応しいと認めさせるようになっていきます。だんだんと「次期女王はレティ」という国内の空気ができ始めたころに政変が起き、彼女は国外逃亡を余儀なくされます。
最終的にはハッピーエンドな物語ですが、その為にはかなりヤバい状況を乗り越える必要があるわけですね。
彼女の不器用な恋愛の行方もどうなるのかなと生温かく見守ってましたが、彼女の出した結論は「そう来たか」と思うようなちょっと意外なものでした。最終巻のタイトルは「新王の結婚」ですが…ネタバレになっちゃいますが、恋する相手との結婚ではなく、エリザベス1世のように国との結婚なんですね。これはまたなんというか、少女小説としては意外な結末なのではないでしょうか?