徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:川村裕子編、『和泉式部日記』(角川ソフィア文庫、ビギナーズ・クラッシクス)

2017年08月15日 | 書評―古典

 『和泉式部日記』は、この日記の中で語られているお相手である敦道(あつみち)親王がわずか27歳で亡くなった後に、悪い噂を払拭しようと和泉式部が寛弘5年(西暦1008年)に書いたものと言われています。ただし他作説もあるようです。

全35段はおよそ次の3部に分けられます(本書解説より):

  1. なかなか進まない恋(1~17段)
  2. 燃え上がる恋(18~32段)
  3. 現実を変えた運命の恋(33~35段)

和泉式部という女性は、恋多き女性、情熱的な歌人として有名ですが、世間の噂ほどには浮ついた人ではなかったということをこの日記で主張しているようです。

「和泉」の名は彼女の最初の夫が和泉守に就任したことから来てます。つまり本名がどうだったかは不明なわけですね。この最初の夫とは一女をもうけたものの関係はすぐに冷えたらしく、夫の方が離れて行ったらしいです。

次のお相手は為尊(ためたか)親王で、これも身分違いの恋で当時随分なスキャンダルだったようです。為尊親王はあろうことか流行り病で26歳の若さで亡くなってしまい、まるで和泉式部のような下賤の女のところに通ったから死んだかのように『栄花物語』に記されています。

和泉式部の中宮彰子の下での同僚であった紫式部も「モラルに反するところがあった」と彼女を評しているようなので、かなり派手な噂のある人だったみたいですね。

さて、この日記の相手である敦道親王は、亡くなった為尊親王の弟で、和泉式部よりも3歳ほど年下。為尊親王が亡くなってから1年ほどして、彼が亡き兄から引き継いだ小舎人童(こどねりわらわ)を和泉式部のもとに遣わすことから二人の恋物語が始まります。二人の歌と文のやり取りが中心です。まあ、平安時代外でデートするとかはあり得なかったので、基本的に男が女のもとに通うしかないわけですが、なにせ男は天皇の息子。皇太子ではなくともそうそう外出などできないご身分なので、通うこともままならないのですね。

おまけに彼は和泉式部にまつわる噂に惑わされ、嫉妬したりいじけたり、最初は結構引に彼女と関係を持ったにもかかわらず、その後は結構煮え切らない態度を示すので、「おいおい、最初の強引さはどうした?」と疑問に思うほどです。

それでも二人の恋が続いたのは、お互いの孤独さ、頼りなさ、信仰心などを通じて響き合う仲だったからみたいですね。紆余曲折を経て、結局和泉式部は敦道親王のお邸に入ることになります。ところがそこには彼の冷めた仲とはいえ北の方、つまり奥さんが居て、和泉式部が来たことに酷くプライドを傷つけられ、お姉さん(春宮・居貞(いやさだ)親王の女御)が里帰りしている実家に誘われて帰ってしまいます。このあたりの経緯を描いているのが第3部(33~35段)で、そこには和歌は登場しません。

和泉式部は「手紙も和歌も、言葉がきらりと自然に光っている感じ」というのが紫式部の和泉式部評のようですが、原文を読んでも私には残念ながらその「きらりと自然に光っている」言葉は分かりませんでした。ところどころ、切り返しがうまいなと思うところはありましたが。

全体的にどちらも噂や人目を気にし過ぎで、非常に窮屈な感じがします。狭い貴族社会に縛られている人たちだから仕方のないことなのかもしれませんが、それでも「噂にそこまで惑わされなくてもよいのでは?」と思うところが所々あります。「しめやかで切ない」と言えばそうかも知れませんが、私の感覚では「嘆き過ぎじゃないか?」という感想の方が強くあります。

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え、緑茶は膀胱がんのもと?(がん闘病記5)

2017年08月15日 | 健康

今日は血液検査のためにがん専門クリニックへ行ってきました。

採血はCVポートで試してダメだったので、腕の静脈から。今日は上手な人で、一発で当たり、痛みも殆どありませんでした。

血液の方には全く問題ないそうで、その点では今のところ抗がん剤に対して問題ある反応をしていないと言えます。

ドクターとの面談で、副作用のことなどを話しました。肌のかゆみやかぶれやすさなどは、抗がん剤 Paclitaxel に含まれるイチイの植物毒によるもので、取りあえず我慢するしかないとのことでした。関節痛もその副作用の一つですが、ひどくなったらイブプロフェンなどの鎮痛剤を服用していいと言われました。

また抗がん剤点滴後は普段以上に水分を取ると循環器系の問題も起きにくく、「起き上がれない」、「だるい」といった症状が緩和されるとのことです。次回の点滴は8月29日なので、そのあとは気をつけることにしましょう。

こうして話が水分に至ったところで、私がよくお茶を飲んでいることを伝えると、「緑茶ばっかりじゃないでしょうね?」と質問されてちょっと驚きました。「お茶は、緑茶や様々なハーブティーまたはジンジャーティーなど色々だし、水もよく飲む」と答えると、彼はうんうんとうなずいて「それでいい」と言い、「緑茶ばかり飲んでると膀胱がんになるからね」と衝撃的なことをのたまいました。

今まで緑茶は健康にいいと思っていたのでビックリ( ゚Д゚)

でもがん専門医が言うことならそれなりに根拠があることなのでしょう。

調べてみると、緑茶に含まれる没食子酸エピガロカテキン(Epigallocatechin gallate、EGCG)は強力な抗酸化活性を示すため、がん治療に有益とされる一方で、この活性ゆえに発がん性の可能性もあるというようなことを見つけました。直接に膀胱がんに関する記述は見当たりませんでしたが、がん専門誌などにそういう報告があったのかも知れませんね。

何事も「過ぎたるは猶及ばざるが如し」。

がん闘病記6


唐突ながん宣告~ドイツの病院体験・がん患者のための社会保障(がん闘病記1)

化学療法の準備~ドイツの健康保険はかつら代も出す(がん闘病記2)

化学療法スタート(がん闘病記3)

抗がん剤の副作用(がん闘病記4)

書評:Kelly A. Turner著、『9 Wege in ein krebsfreies Leben(がんが自然に治る生き方)』(Irisiana)


書評:糸森環著、『恋と悪魔と黙示録』全9巻(一迅社文庫アイリス)

2017年08月15日 | 書評ー小説:作者ア行

『恋と悪魔と黙示録』は2012年からのシリーズで、2017年7月に刊行された9巻で完結しました。

私がこれを読みだしたのは2014年以降です。ティーン向け(?)ファンタジーライトノベルですが、きちんとファンタジー世界が構築されており、一度入ってしまえば難なく楽しめます。

主人公は悪魔の名を記した聖沌書を複製する森玄使であるレジナ・バシリス、16歳。兄を悪魔に喰われて失った彼女は教会に引き取られて、勉学に励み、森玄使となりました。教会の敬う神は「ラプラウ神」。ある日彼女は神魔と呼ばれる高位の魔物を召喚してしまいます。それは赤毛の獣の姿でしたが、人型になると美しく禍々しくなります。その名はアガル。彼と契約することによって、レジナは神魔を使役し《名もなき悪魔》の名を書に記す朔使となります。

このシリーズのベースラインはこの二人(一人と一頭?)の恋物語なんですが、神魔は契約主を盲目的に溺愛し、それ以外は世界が滅びてもどうでもいいというような人間離れした感覚の持ち主で、かつ妙に乙女だったりするので、そのずれっぷりが笑えます。

ストーリーが進むごとに段々話のスケールも大きくなっていき、タイムスパンも8巻で急激に伸びます。世界はラプラス神の保護のない魔の時代へ突入し、魔王マグラシスが悪魔に「進化」をもたらそうと人間界を侵略していきます。

荒唐無稽と言ったらそれまでですが、幾重にも織り込まれた伏線が複雑に絡み合い、感情がもつれて関係が複雑化していく様子の描写には力があり、引き込まれます。

そしてどんな深刻な状況でも、乙女心を忘れず、レジナを褒め称え、一人で照れるのんきな神魔の脱力感がまた魅力です。

脱力すると言えば、ラプラウ神の化身である小汚い灰色の鳩。本当に神なのか?と疑わしくなるほど的外れにのんきな「くるっぽー」という鳴き声を発し、おまぬけにも敵に捕獲されてしまうという情けなさがまた味わい深いです。

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