梟の独り言

色々考える、しかし直ぐ忘れてしまう、書き留めておくには重過ぎる、徒然に思い付きを書いて置こうとはじめる

酒場遍歴記 さわの2 今風に言えばタイマン

2017-06-09 10:27:50 | 昭和の頃
「さわ」の常連に「キクチ」さんと言う客がいた、ダンプの運転手でこの辺りでは喧嘩が強いと有名な男だがどうやらママに岡惚れらしい、こういうタイプなので言葉は乱暴だが誰が見ても分かる、
流石にママさんは上手に転がしているのだが暗い処で見てもかなり年上でご亭主は堅いサラリーマンらしい、何回か店に顔を出したところを見たが眼鏡をした銀行マンの様な人で(なんでこんな組み合わせ)と思ったものだが、そのころは小学生の兄弟が居たので40前後、かれは30くらいか、毎日なんだかんだと開店から閉店までカウンターの隅っこで飲んでいた、
一度「女だけの店はおかしな奴が来るからな」と用心棒を自任しているらしい、それはママも否定しなかった、何しろ彼はこの辺りでは評判の男で気風もよくそれこそ強きをくじき弱気を助けると言った古風の男だった、無論すっ気質である、
しかしその評判が気に入らないと言う輩も居るらしくある日勢いよく入って来た二人組の男達が菊池さんに顔をくっつけて何か言っている、
どうやら「でかい面が気に入らない、どっちが上か決着をつけよう」と言う事らしい、
隣は交番なんだがママはかなりの物で「キクチさん、店でやられちゃ困るからやるならそとでやって」と言う、
「解った」と彼は普段と変わらない表情で裏のドアから外に出る、裏は畑をつぶした駐車場で人影はない、
出際に自分に「悪いが立会人になってくれ」と言うので私も着いて出た、
彼は名前を聞いてから「これからやる事は恨みっこ無し、獲物無しで良いな」と右手を出し握手をする、一旦別れたらそれからは本当にあっと言う間だった、どう言う形でそうなったかほとんど覚えていないが1分も経たないで相手は鼻血を出し、腹を押さえてうずくまっていた、
一緒に来た男と其処において店に戻るとママが黙ってビールを差し出しそれを一気に飲んでからおしぼりで手を拭いた、「悪かったな」と言いながら両手を差し出して見せたがその手の震えは暫くおさまらなかったようだ、やはり「何事もなかったように」とはいかないのだろう、真剣なやり取りでもしかしたら畑に転がっていたのは彼かも知れないのだから、
どう言う訳か私はこの手の連中に好かれる、見るからに喧嘩は弱そうな男だが彼らを怖がらないのがいいのかも知れない、実はそれには理由があるのだがそんなことは無論話して居ない、今までも筋の親分も中には警視庁一課の偉いさん(課長ではなかったと思う)などと付合いが出来たが一緒に酒を飲むだけで互いにプライベートの事は話さないのが良かったのか大抵「あんたみたいに普通に接してくれる奴は居ないんでね」と必ず言われる、
キクチ氏との会話も彼の田舎が岩手県の千厩と言う処だと言う話がきっかけで「せんまやと読める奴はあまり居ない」と言う話から田舎の話などしているうちに顔を合わせると世間話をするようになったのだ、
一課のデカさんと大森のやくざは又別の店の話、その内に書居てみよう