ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

おばあちゃんの思い出

2010年09月29日 | ひとりごと
シンガーミシンはわたしにとって、とても懐かしいミシン。

父方の祖父母は紳士服の仕立て屋を営んでいて、その家の通りに面した四角い部屋は、コの字の壁沿いにずらりとミシンが並んでいた。
一台一台のミシンには、決まったお針子さんが座っていて、足踏みも軽やかに、カタカタという小さな音をたてて、一日中縫い物をしていた。
そのミシンがすべてシンガーミシンだった。
毎日、使った後にきちんと手入れされていたミシンはどれも、黒光りしていて、近づくとフンと機械油の匂いがした。
幼稚園児だったわたしは、そのミシンを使ってみたくてたまらなかったのだけど、おばあちゃんに厳しく止められていたので、近づくこともできなかった。

ある日、なぜだか仕事場には誰も居なくて、おばあちゃんも表の軒先で近所の人と話し込んでいて、わたしはその、少し薄暗い部屋にそっと忍び込んだ。
そしてミシンにそぉっと近づいて行き、お針子さんの椅子をお尻でグイッとどかし、お姉さん達がやっていたように、見よう見まねで、そこにあった布を縫おうと、脚踏みに片足を乗せてぐっと踏み込んだ。
ところが、何も知識の無かったわたしは、糸押さえを下げないまま布に手を置いて踏み込んだので、布と一緒につられて動いていったわたしの右手の人差し指に、ぶっといミシン針がブツブツと刺さっていった。
あまりの痛さにあげたわたしの悲鳴を聞いて、おばあちゃんが家の中に飛んで入ってきた。
5針ほど縫われたわたしの指を見て仰天し、なにやら怒鳴りながら、とにかくその、拷問のような状態からわたしを救い出してくれた。
そしてわたしをおぶって、すごい勢いで病院に駆け込んでくれた。

おばあちゃんの背中は骨だらけで、足が地につくたびにゴツゴツとほっぺに当たって痛かった。
けれど、そんな痛さより、「あんたはアホや!あんなに触ったらあかんでっておばあちゃんが言うてたのに、ほんまにアホや!女の子やのに、こんな傷つけて、どないすんの!指動かんようになったらどないすんの!」と、ものすごく怒った声で言われたことの方が痛かった。

おばあちゃんに叱られたのは、それが最初で最後。
おばあちゃんとわたしは同じ誕生日で、それが毎年桜の満開を迎える時期だったので、「わたしらは桜の神さんの子やな。おんなじ誕生日っていうのはすごく特別やねんで。そやからわたしはまうみが一番好きや」と、いつもニコニコしてそう言いながら、庭から見える、見事な桜のトンネルを二人並んで眺めていた。
大抵の親戚は、気の利かない本ばかり読んでいる変な幼稚園児のわたしより、三つも下なのに愛想のいい三才の弟の方を気に入っていて、だからわたしは余計におばあちゃんっ子なのだった。

桜の老木の木の下に立ち、あんたもこっちにおいでと、にっこり笑って手招きしているおばあちゃん。
おばあちゃんを思い出す時はいつもその姿。
一度、本格的に死にかけた時、三途の川(といっても、とても幅の狭い、小川のような、けれども滅茶苦茶きれいな水だった)の真ん中あたりまで入って行った時、「まうみ!まうみ!」と、だんだん大きくなる声で呼び止めてくれたおばあちゃん。

いつだって見守ってくれている。ミシンと一緒に思い出したおばあちゃんのこと。

米国シンガーさん事情

2010年09月29日 | 米国○○事情
今朝はシンガーさんのことで盛り上がったレア家であります。
どうしてそんなことになったかというと、昨日の記事にかわちゃんがくれたコメントの中に、鍼はアメリカでも作られているか?という質問があったからです。
そういや、鍼灸用の鍼の、アメリカ製ってのを聞いたことがなかったなあ~と思ったわたしは、旦那に聞いてみました。

彼が治療に使っている鍼の多くは、中国製、韓国製、そして日本製です。
断トツに中国製の鍼が多いのだけど、それはひとえに一番安いから。
彼が治療に使う鍼の量ったらもう、それはそれはたくさんなので、経費節減のために妥当な選択なのですが、
とても神経質な人や、痛みを異様に恐がる人(←旦那はすぐそばにいい例がある、とニヤリ)の治療には、必ず日本製の鍼を使います。
けれども日本製の鍼は、それこそ異常に高価なので、調子に乗って注文していると、とんでもないことになってしまいます。
長くやっていると、それほど素晴らしい仕上がりではない鍼でも、痛みを感じさせないで打てるようになるので、中国製の鍼でも文句はほぼ出てこないそうです。
でも、最近、韓国製の鍼が、中国製ほどではないけれど安くて、日本製ほどではないけれどかなり精巧に出来ているので、使い出したと言っていました。

で、その時にふと、ドイツ製ってのは無いの?という疑問が出てきて、旦那が「ほら、シンガーっていうミシンの会社もあることやし」と言ったのがきっかけで、「え?シンガーってドイツの会社やったん?」とわたしが聞くと、「え?ほな、どこやと思てるん?」と聞かれ、「日本かと思た」と答えたら、「そんなわけないや~ん」とばかりにさっそくウィキで検索開始!

すると……へぇ~?!アメリカだったのでした!!え?そんなこととっくに知っとるわい!って?


『アイザック・メリット・シンガー(Isaac Merritt Singer、1811年10月27日 - 1875年7月23日)は、アメリカ合衆国の発明家、俳優、起業家。ミシンの設計に重要な改善を施し、Singer Sewing Machine Company を創業』

と、ここまでは良かったのだけど、シンガーさん、この方、すご~い精力の持ち主だったらしく、4人の女性と重婚をくり返しながら、一緒に暮らしたりもしちゃったりして、18人の子供を持ったのでした?!
そのグループが一段落(というか、いっぱい悶着があった末に、とりあえず終わり終わり~とばかりに片付けてしまった)した後にまた5人目の女性と一緒になり、4人だか6人だかの子供を授かっています。

このクソ忙しい時に、時間をこんなことに使っててどうする?!と思いつつ、あまりのややこしさに二回も読み直してしまいました。
まあ、うちの父も同じような回数の結婚をしたけれど、重婚は無かった(と思う)し、子供もわたしと弟、それからひとり、腹違いの姉の3人だけだ(と思う)し、さすがの父もこのシンガーさんには勝てなかったな……と、変な感慨にふけっておりました。

ということで、鍼灸師の鍼からえらいところまで飛んでしまいましたが、シンガーミシンは米国が誇る機械なのでありました。

*わたしが読んだ仰天解説を読みたい方は、『アイザック・メリット・シンガー』と打ち込んで検索してみてください。ウィキが出てきます。