天命を知る齢に成りながらその命を果たせなかった男の人生懺悔録

人生のターミナルに近づきながら、己の信念を貫けなかった弱い男が、その生き様を回想し懺悔告白します

映画『切腹』娘役の20歳新人岩下志麻と9歳しか違わない父親役の29歳仲代達矢の老成した名演に深く感動

2012-07-04 21:51:45 | 日記
今日の日記は、松竹映画『切腹』(1962年製作 小林正樹監督 橋本忍脚本 仲代達矢 岩下志麻 石浜朗 三國連太郎 丹波哲郎主演)その4のことです。
津雲半四郎(仲代達矢)が語ったとても悲惨な身の上話の中でも、もの静かに最も壮絶な人間の生き様を表現したシーンが、添付した写真です。
この写真は、出かけた日の夜・戌の刻を過ぎて、娘婿・千々岩求女(石浜朗)を連れ帰って来た井伊家の家臣3人らを、驚きの表情で静かに応対する津雲半四郎(仲代達矢)と娘・美保(岩下志麻)です。
そして、仲代達矢は、井伊家の沢潟彦九郎(丹波哲郎)に、その竹光での切腹の仔細を尋ねます。以下に、二人の問答を引用・掲載します。
・仲代達矢『では、求女は 井伊家の方々より差料を拝借して?』
・丹波哲郎『いや さにあらず ものの見事に、それをお使いになってな!』
・仲代達矢『求女は そ~その竹光で!』
・丹波哲郎『左様 家中一同 竹光での腹の切りよう とくと拝見仕ったが、やはり見苦しい、武士ならば せめて最後は我が魂の業物で、きれいに飾りたいもの!ムハハハハ・・では これにて!』
このシーンでの沢潟彦九郎(丹波哲郎)の言い様は、完全に狂って何かを間違えてしまった武家社会の虚飾と武士道の残酷さを、痛烈に表現しています。
じっと耐えて、その暴言を聞く全く無力だった仲代達矢と後ろで静かに見守る岩下志麻の刹那さに、私は深い哀しみに陥りました。そして、二人の迫真の演技に、私は息を呑みました。
お互いに親子の役を演じた二人ですが、映画製作時は、仲代達矢は29歳で岩下志麻はまだ20歳になったばかりでした。親子を演じた二人の年齢差は、9歳しかなかったのです。新人女優の岩下志麻が若かったから、その年齢差は多少開きましたが、もっとベテランの女優を起用していたら、もっと年齢差は縮まっていたでしょう。
でも、29歳の仲代達矢は、その実年齢をまったく感じさせない老成した演技を、映画で見せています。それは、彼が稀代の名優と言われる所以です。最近、映画『一命』で同じ役を演じた33歳の歌舞伎役者には、その足元にも及ばない仲代達矢の傑出した力量です。
だから、何度見ても、深く感動する日本映画の不朽の名作です。

コメント
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