ヒトリシズカのつぶやき特論

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富士通のスーパーコンピューター「京」の展示モデルを拝見しました

2012年05月19日 | イノベーション
 富士通が東京国際フォーラムで開催した「Fujitsu Forum 2012」に展示した、開発中のスーパーコンピューター「京」(愛称(けい)の展示モデルを拝見しました。

 スーパーコンピューター「京」は、民主党の事業仕切りの際に、「何で世界で一番でなくてはならないのですか」という問いに、文部科学省の担当者が的確に答えられなかったことで有名になったものです。文科省は、この事業仕分けの指摘などを踏まえて、次世代スーパーコンピューター計画を開発者視点から利用者視点の施策に転換し、革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラを構築する施策として継続しました。

 文科省と理化学研究所が当初推進したスーパーコンピューターの開発計画は、さまざまな用途に応用できる汎用計算機を目指しました。このため、ベクトル機とスカラー機からなる複合型のスーパーコンピューターを開発する計画でしたが、2009年5月にベクトル機の開発を担当していたNEC(日本電気)が開発から撤退したことから、富士通が開発を担当するスカラー型に設計が変更されました。NECは想定以上に開発費がかさみ、これ以上の負担はできないとして撤退しました(その後、NECと理化学研究所は係争中でした)。

 「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」計画の中で、富士通は理化学研究所と共同で、2012年11月の供用開始を目指し“次世代”スーパーコンピューター「京」)の開発を進め、6月に理化学研究所の計算科学研究機構(神戸市)に納品されます。

 スーパーコンピューター「京」は富士通が設計・開発したCPU(中央演算機構)「SPARC64 VIIIfx」を用いています。CPU「SPARC64 VIIIfx」は1プロセッサー当たり(8コア)当たり128ギガフロップスの計算能力を持ち、かつ富士通のメインフレームの高信頼性技術を継承しているそうです。

 CPU「SPARC64 VIIIfx」には、デザインルール45ナノメートルの半導体プロセス技術が使われています。演算能力は10.51ペタフロップス(1秒間に行う浮動小数点演算の回数が毎秒1万510兆回、1ペタフロップスは10の15乗回です)と、世界最高性能で実行効率は93.2%になったそうです。

 このCPU「SPARC64 VIIIfx」を収めたシステムボードです。CPUは水冷で約30度(華氏)を保っています。その周辺は空冷されています。



 システムボードを収めたシステムラック(展示品)です。



 システムボードのCPUなどは、「Tofu」と名付けられた“6次元メッシュ”・トーラス結合のインターコネクトでつながる(通信する)ように工夫され、複数の処理をプロセッサー群に的確に割り当てる仕組みです。

 スーパーコンピューター「京」はシステムとしては、プロセッサー数が8万8128個で、総メモリー数は1.4ペタバイトだそうです。この超大規模システムの高性能を使って、 計算風洞(コンピューター支援エンジニアリングで風洞実験の代わりをする)や天気や地震などの大規模シミュレーション、創薬の分子設計などの高度な計算に適用する予定です。

 富士通はスーパーコンピューター「京」を6月に理化学研究所に納品した後に、この技術を基に、独自のスーパーコンピューター事業を展開する計画です。スーパーコンピューター単独では、事業収支が出ないので、何らかの工夫をして収支を上げるそうです。

 富士通は、日本の企業としてスーパーコンピューター事業をどう進めるのかに挑戦します。事業をどう構築するかも、イノベーションの一つです。