ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

日本経済新聞の「キヤノン デジカメ生産無人化」の記事を読んで考えました

2012年05月15日 | 日記
 2012年5月14日発行の日本経済新聞紙朝刊の一面トップの記事「デジカメ生産無人化、キヤノン、世界初」を読んでいくつか考えました。

 日本経済新聞紙は5月14日朝刊から新紙面になりました。1面は、主な記事の見出しとリード文を載せ、雑誌の目次のような役目になりました。紙媒体としての主な売り物記事をできるだけ読んでもらうための道しるべを1面が担うという紙面構成のようです。

 新紙面の最初の日だけに、1面トップの記事は有力候補から選ばれた企画記事です。



 日本経済新聞社のWebサイトでは、見出しがWeb版用に少し変わっています。

 この記事が伝えることは、キヤノンがデジタルカメラを生産する工程に、ロボットだけで部品を組み立てる“完全無人化ライン”を2015年に構築するというものです。人件費が東南アジアや中国などに比べて高い日本国内でも、無人化によって生産コストを引き下げ、国内の生産拠点を維持することを目指すという狙いのようです。

 よく分からないのは、ロボットだけで部品を組み立てる、キヤノンの“完全無人化ライン”とは、1980年代以降に日本の大手メーカーが導入した“完全無人化ライン”とどう違うのかが具体的に説明されていない点です。量産品の自動組み立てラインは珍しくありません。また、人間が扱いにくい微細な部品を、ロボットを用いて精密組み立てする生産ラインも1990年代に電機メーカーが導入済みです。CCD(電荷結合素子)カメラや視覚センサーと精密組み立てロボットを組み合わせた自動化ラインは、大手企業の工場ではそんなに珍しいことではありません。

 ここで注意したいのは、組み立て作業は自動化できても、組み付ける部品の的確な供給作業や組み立て品の検査作業の自動化などを、今回のキヤノンではどうするのかの説明がありません。取材した記者は、“完全無人化ライン”という言葉を鵜呑みし、その中身をあまり吟味していないようです。どこまでどのように無人化しているのかが問題なのです。

 しかも、記事に書かれているように、“完全無人化ライン”は多品種少量生産には適していません。このため、日本では市場での売れ筋商品に応じて生産品種を柔軟に変える手法として、セル生産方式に移行しました。今回のキヤノンの“完全無人化ライン”は生産品種を柔軟に変える工夫をどう凝らしているのかについて説明がありません。そう簡単に解決できる課題ではありません。ここまでは、生産技術面での疑問です。

 “完全無人化ライン”ということは、工場に作業員があまり必要ないということになります。日本国内に製造工場を残すということは、日本国内での従業員の雇用を維持するという大きな目的があります。この点を、今回の記事は説明していません。小見出しに「主力工場、国内で維持」とありますが、無人化されて削減された従業員は「工場の生産管理や成長分野の新規事業部門に移す」と説明していますが、この説明は当たり前のことでで、やはり無人化によって従業員数は減らすようです。

 国内に工場を維持することと、海外に工場を移すことの違いは何かの具体的な解説がありません。ここが製造業が国内に工場を持つことの本質があるように思えます。海外工場で生産しても、生産計画や品質管理などの業務を国内でどうマネジメントするのか、その具体像が求められています。結局、今回のキヤノンの“完全無人化ライン”の本質的な革新・改良とは何かがよく分かりませんでした。

 新紙面の最初の日だけに、1面トップの記事の編集には多くのデスク(編集局長も)が参加して編集・制作したものと想像できます。少子高年齢化時代の2010年代に、国内工場は何を目指し、どういう生産技術を投入するのかという根底の問いに記事は答えていないように感じました。最近の管理系マネージャーが全体を見通す構想力が弱くなっていることの事例にはならないことを祈っています。

 この記事は、日本の製造業の今後を占う指針となる可能性があったものでした。