まりっぺのお気楽読書

読書感想文と家系図のブログ。
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『ナイン・ストーリーズ』バイバイ、セラピスト

2009-05-14 01:15:51 | アメリカの作家
NINE STORIES 
1953年 J・D・サリンジャー

“ あとがき ”によるとサリンジャーはこの9篇以外の短編を封印してしまったということで
よほどの自信作だと思われますし、たしかに面白く読めました。

正直言って私はこのタイプの小説はあまり好きではありません。
物語の随所にセラピストが顔を出して “ ◯◯症候群 ” やら“ ◯◯シンドローム ” と
言い出しそうな人物ばかりが登場する話なんて…

でも面白かったんだよねぇ…どうしてだろう?
主人公は皆ちょっとだけ正気じゃないと思うんだけど、いたって普通に生活してるわけ。
こういう人、今となっては隣の部屋に住んでそうだし会社にもいそう。
へたしたら自分も人から見ればイカれてる部分があるかもしれない、なんて
思いながら1冊読んでしまいました。

好きだった3篇をあげてみます。

『小舟のほとりで(Down at the Dinghy)』
ふたりのメードがキッチンでおしゃべりしていると、女主人のブーブーがやって来て
4歳の息子ライオネルが「家出をするらしい」と言って出て行きます。
ブーブーは小舟の上のライオネルの気を引くため海軍中将のふりをしますが
彼はまったくのってきてくれません。

これは唯一可愛げのある子供が出てくるので好きなのよね。
子供には子供なりに深刻な悩みがあるわけよ、たとえ意味は分からなくても。

『ド・ドーミエ=スミスの青の時代(De Daumier-Smith's Blue Period)』
パリから帰国したジャンはケベックの美術学校の教員採用に応募して見事合格します。
しかし、母の再婚相手ボビーとニューヨークに別れを告げた彼を待っていたのは
教員が風変わりなヨショト夫妻だけというアパートの一室でした。
ジャンは生徒であるアーマという尼僧が描いた絵に感銘を受け手紙を出します。

不本意だと思いつつ働かなければならないというのは大人だったら誰もが経験すること、
思い通りの職を得られる人というのはそうそういるものではないんですもの。
早く見切りをつけるもの賢明な策ではありますけど
そこに踏みとどまってどんなやりがいを見いだすか、というのも大事かもね。

『テディ(Teddy)』
イギリスからアメリカへ向かう船上、10歳の天才少年テディはある男と議論します。
男はテディが他人の死を予言できるのかを聞き出そうとしますが、テディはそれに答えて
「自分だって今すぐ死ぬかもしれない」と答えます。

最近すごいIQの少女が現れましたね?
勉強にせよスポーツにせよ、子供の時に天才的だったからといって大物になるとは
限らないわけでね…小さい頃「この子は天才!」って言われたことって
思った以上に多くの人が経験してたりするんですよね。

サリンジャーがアメリカ文学の進むべきひとつの道を指し示したことは
否定のしようがありませんが、こういうタイプの小説は誰が書いても上手くいく、
というものではないですよね?
きちんとした筋書きがないとただのおバカがハチャメチャをしているだけになってしまふ。

きっと有象無象の作家志望の青年たちが “ なんちゃってサリンジャー ” な作品に手を出し
夢破れて打ちひしがれたことでしょう

ナイン・ストーリーズ 新潮社


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