まりっぺのお気楽読書

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『アイルランド・ストーリーズ』神と戦いと人生

2010-09-20 10:18:20 | イギリス・アイルランドの作家
IRELAND STORIES 
ウィリアム・トレヴァー

大好きなウィリアム・トレヴァーの短篇集…素晴らしかった。
同じく栩木伸明氏訳で国書刊行会の『聖母の贈り物』、新潮クレストの『密会』より
少し頑迷で、わずかに暴力的でメッセージフルな気がしないでもないですが
やはり、しっとり哀愁が漂うトレヴァー・ワールドが広がる一冊でした。

この本に収められている物語は1981年から2007年と書かれた年代もまちまちですが
ほぼ全てにアイルランド紛争のエピソードが盛り込まれています。
物語のテーマになっているものもあれば、主題には直接関係ないものもあります。
いずれにしても、紛争が人々に大きな不安や遺恨を与えていたことが想像できます。

そんな中から、男女をモチーフにした物語を3篇、ご紹介します。

『第三者(The Third Party)/1990年』
ホテルで待ち合わせた男性ふたり、ひとりは妻をとられそうなボーランドで
もうひとりはボーランドの妻を奪おうとしているレアードマンでした。
ボーランドは妻アナベラには辟易していて、さっさとくれてやりたいのですが
なぜか、嬉しそうなレアードマンとの会見を打ち切りたくありません。

ボーランドという男性の言うことが本当なら
レアードマンはとんでもない女性を引き受けちゃうことになるわけ。
しかし恋をしている人には “ あばたもエクボ ” ですもんね。
ボーランドの心を占めていたのは決して未練じゃないと思うけど…夫婦の不思議です。

『パラダイスラウンジ(The Paradise Rounge)/1981年』
不倫を終わらせるために小旅行に出たベアトリスと男。
なんの取り柄もないホテルのラウンジで、ベアトリスは着飾った老女に目を留めます。
老女ミス・ドウニーは、35年間、毎週土曜日にバーに通って来ていました。
ミス・ドウニーも夫婦とは思えないふたりの、特にベアトリスに注目していました。

最後の最後に旅行に行こうという心理が私にはわからないのですが…
この物語はベアトリスとミス・ドウニーの愛を書いています。
気持ちは同じでも、時代が違うと愛の行方は違ってしまうものなのかしら?
どちらの結末が哀しいものかは読者によると思いますが
私にはミス・ドウニーの方が哀しく見えるかな。

『見込み薄(Against the Odds)/2000年』
60歳のミセス・キンケイドは、厄介ごとがあって身を隠すことにしました。
バスに乗ってたどり着いた町の食堂で、彼女はブレイクリーと相席になりました。
ブレイクリーは14年前、爆弾テロで妻とひとり娘を亡くしていました。
ミセス・キンケイドは、思いとどまることができず彼にちょっかいを出し始めます。

実直に生きてきたやもめの男性を落とすにはこうすりゃいいのか!とよくわかります。
ミセス・キンケイドほどの女性なら、タイプ別に攻略法がありそうです。
お年寄りが恋をすると、よく「騙されてる!」とか忠告するでしょ?
でも騙されていたとしても、中には幸せなケースもあるんじゃないかと思うのよ…

イギリスを恨む気持ちと憧れる気持ちの葛藤や、頑迷な宗教対立の中の共存など
考えさせられることがたくさんありそうです。

でも(無責任に言えば)アイルランドの紛争問題をより詳しく知りたきゃ
専門書を読めばいいわけで、この本では物語を純粋に楽しみたい。

紛争に関係がある人も無い人も、日々何かを感じて生きているのです。
国家とか主義なんて大層なものじゃないけど、自分なりに問題を抱えているのです。

ウィリアム・トレヴァーは、そういうところの描き方が神業です。
まだまだ長生きしてたくさんの作品を残していただきたいです。

短編の神業をどうぞ!
読んでみたいな!という方は下の画像をクリックしてね


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