万福寺 大三島のつれづれ

瀬戸内・大三島 万福寺の日記です。
大三島の自然の移ろいと日々の島での生活を綴ります。

生樹の門(いききのもん)

2013年11月16日 | Weblog
                        


神戸須磨にお住まいの在間洋子(ざいまようこ)さんより『生樹の門』と題された詩集が贈られて来ました。数年前にも詩集

『花瓶の水』をいただきました。その前には生家のお姉さんから詩集『手結び』をいただきました。

 洋子さんは大三島の浦戸に生まれられ、旧姓は藤原と云われ私(住職)より1学年上の方でした。ご主人の勤務の関係で神戸に

住まいされるようになりその頃より詩作をされるようになられたようです。それにしても洋子さんの豊かな詩才には感動いたしま

す。眼耳鼻舌身意のたおやかな感性がきらきらする語彙となってあふれ出ているような感がいたします。

 巻頭の詩「のこり湯」とこの詩集のタイトルとされた「生樹の門」の2篇の詩をご紹介しておきます。


        のこり湯

   わたしたちの住む北半球では
   水の渦は左巻きと聞く
    
   わたしの家の水はどうだろう
   たとえば 風呂ののこり湯
   浴槽の掃除をしながら排水するので
   右に左に巻き返し
   最後は東子で一気に追われ
   チャバチャバキュウ
   騒いで出て行く

   そうだったのか 
   のこり湯だって 旅立つ時には
   左に巻いていたいのだ
   静かに
   宇宙の磁気に誘われながら

   わたしに残る命の水も
   去る時は穏やかであれよ
   今日は排水栓を抜いておく
   それだけにする


        生樹の門(いききのもん)

   わたしの故郷 大三島に在る
   樹齢三千年の楠の大樹は
   今日も好い香りを放っている
   
   生樹の門 と呼ばれるこの樹は
   根元にぽかりと大きな洞がある
   空を覆う梢を見上げ
   樹の腹をくぐり抜けると
   石畳の参道が奥の院へつづき
   古い御堂の薄闇に
   釈迦三尊像が祀られている

   初夏には白い花をつけ
   樹は三千年 ここに在った
   小鳥が訪れ 蟻が這い
   ひとが祈りを捧げていった
   生き替わり死に替わりまた生まれて

   これから何千年 樹はここに在るだろう
   幾億個の鳥や蟻 人の生を見るだろう
   朝なあさな葉末に結ぶ
   露の無数を見るように
   それでも 樹は知っているのだ
   夜ごと星を仰ぐとき
   星の雫のひと粒ほどの
   はかない自分の生のことを

   好い香りを放つ樹の門をくぐり
   わたしは祈るためにやって来た
   結ばれたわたしをほどく朝の陽に
   小さくとも よく空を映す
   澄んだひと粒でありたいと


 洋子さんの長年にわたる何冊もの詩集は種々の文学賞を受賞されています。作品に目を通しておりますと、心の襞に溜まったゴ

ミが取れるような感じがします。ありがとうございました。

   
  
コメント
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