詩の現場

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西脇順三郎のことを少し

2015-10-19 | 気になる人、ことば
西脇順三郎のことを少し。…

「旅人」

汝カンシャクもちの旅人よ
汝の糞は流れて、ヒベルニアの海
北海、アトランチス、地中海を汚した
汝は汝の村へ帰れ
郷里の岸を祝福せよ
その裸の土は汝の夜明だ
あけびの実は汝の霊魂の如く
夏中ぶらさがつてゐる

(西脇順三郎「旅人かへらず」から)


"汝カンシャクもちの旅人よ"
一行目が特に印象深い。
西脇順三郎はご自信も
カンシャク持ちの一面があったという。
この詩の旅人は西脇でもある。
時々、ふと思い出す詩だ。

30年近く詩人の傍らにいた鍵谷幸信さんは
西脇が亡くなられた後、
「詩人西脇順三郎」という西脇の追想記を出された。
詩人の詩への思考や詩が生まれるときのこと、
また日常のたくさんのエピソードが書かれている。
鍵谷さんでなければ書けない詩人の魅力的な人間性、
そして怪西脇の超俗の姿を垣間見させてもらい、
とても楽しく切ない。

ずっと西脇の詩の人生に伴走したとも言える鍵谷さんは、
西脇が他界して暫くして亡くなった。
きっと西脇が天上界で呼ばれたんだな、と思ったものだ。
それを思うと鍵谷さんの著述はことさら心に残るのだ。

詩神西脇はある時、鍵谷さんとエズラ・パウンドのことで
考えの行き違いがあり、
鍵谷さんが西脇邸から帰ろうとした時、
寒い夜の外へ靴下のままで飛び出してきたそうだ。
「鍵谷君、詩というものはそんな簡単なもんじゃないッ。
よく考えることだな」と言われた。
詩人の、詩への真剣な姿のこのエピソードが
いつも心に蘇る。

…新しい詩を書き終わると、私は、大丈夫かなと、
勝手に心の中で西脇順三郎の姿を思い
この言葉の洗礼を受ける…。
自分が怒られるような気がして。
いつか、天上界の西脇に笑われながら、
まあ、いいんじゃないかと言われるような
一篇を書けるといいと思っている。



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