詩の現場

小林万利子/Arim 「詩のブログ」 詩をいつも目の前に
小林万利子/Arimの詩とエッセイと音楽Arim songs

白いレプリカ

2010-02-11 | My詩集から
夜ふけに
歩きまわるくせが
なおらない
人間の夜明けに
たちながら
長い長い夜ふけ
長い長い夜明け
縄文人が
めざめた朝
あれから 地球は
かたむいたのかどうか
私たちの垂直歩行は
地平線にぶつかっては
きえていく
下弦の月が 北の天高く
かけたままなのはなぜか
緯度をななめにさかのぼる
月がまるみをおびる地点まで
歩いていくのだ
日がのぼる国を
いくつもいくつも
とおりすぎて
いまは 聖徳太子にも
卑弥呼にもあわず
白いレプリカを
手にいれるために
彫刻家の工房へ
たちよる
ホップを植えると
いいね
人類のために
ミューズが
酒屋の主人を
ゆりおこしてくれた
畑は ひげののびた
とうもろこしが
漆黒の風に
たなびく時間


        詩集「月がまるみをおびる地点まで」より


               

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2010-01-08 | My詩集から
はるかな世界と 私の目のまえを
風にのり 雨をつたい
光と一緒に いったりきたりしている天使
今日は 特別の日
カーテンをあけると
かがやきにみちた朝がはじまった


               詩集「ひかり」より




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2009-12-10 | My詩集から
水たまりに 雨のしずくがおちる
細くつらなり つぎつぎにおちる
雨は 着地点を中心に
円をえがく
自分よりもおおきな円をえがく
リズミカルな
雨の呼吸の音をきく
雨のうたをきく

土のうえに 石のうえに
わたしたちのきざむ足音も
こんなふうなひびきなのかもしれない
見知らぬ土地へたどりつき
なつかしい人々と
手をつないでは
心をほどいていく
わたしたちの笑う声が
空中にちらばり
天にとどくと
また雨が仲間に入れてと
やってくるのだ
地上にもっとたくさんの輪をつくりたくて

 
             詩集「ひかり」より



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タイム・オーバー

2009-11-29 | My詩集から
「よいどれ」 がいってしまった飲み屋のイ
スに 何日も何日も 腰をかけていたいと
おもう 日が暮れるたびに パチパチと破
裂しそうな薪ストーブに 手や足を近づけ
暗い闇からの足音をきくために
 入口の扉があき 風が吹きぬけると つ
かれた老人のひたいは しだいにコップの
影にみえなくなる
 こわれた時計は動きだし 音楽隊はまだ
こない
 壁や棚 机やボトルが 風のなかにかき
けされ 残されたストーブが  いつまでも
あかあかと燃えあがり 二つの瞳は閉じる
こともできず乾ききり  今夜も 天井には
焼けあとのような空が  ひろがるだけ

        詩集「月がまるみをおびる地点まで」より


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マルセル・デュシャンのはなしをしてくれた人

2009-11-15 | My詩集から
わからないから すきなんだ
といった人のことを
私も わからないから すきになった
すきという感情は
絹の糸よりも やわらかくて 強い
空中に 生みだされる 糸
糸をたどる
つぎつぎに 糸は 光の七原色を
はらみ 変化する
マルセル・デュシャンのなぞのように
あの人の 心へ はなしかける


     詩集「月がまるみをおびる地点まで」より




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未 来

2009-11-11 | My詩集から
夜の街路を もう一つの影と歩く
ポプラ並木は 風にゆれながら
しずかに 目を閉じている
ガス灯もなく ときおり車が
ヘッドライトをながして
とおりすぎる
地球は 星々と 遠くはなれ
私たちの投げる放物線は
とりとめのない会話をするほど
近くなった
未来はどこからやってくるのか
私たちは ときどき 立ちどまって
かんがえた そして ふたたび
世界のはじまりのように
歩きだすしかなかった


    詩集「月がまるみをおびる地点まで」より




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ペルセポネの夏

2009-11-04 | My詩集から
 いまはいない彫刻家の ギリシャ神話につ
いて かんがえていると  足音をひきずる男
が一日に四回 五回と 部屋をたずねてくる
ようになった  ハーケンを右手にもち  一つ
一つの岩間にうちつけて 海岸線を 星座の
ように見わたす  この地上まであがってくる
ことが どれほど 骨のおれる仕事であるか
を  とはずがたりにしゃべりだす
 英雄ペルセウスのように 西へ 東へ 南
のはてへ 死者のむらにたちより 骨をつぎ
たし 毒蛇をのみこみ 歩きつかれる道のり
こそは  くもが糸をはきつづけるよりも  人
間が眠れぬ夜をかさねるよりも 実に たい
へん偉大である そのうえ 岩は 底なし岩
で ハーケンを 沈みこむ寸前にひきあげて
つぎの岩にうつさなければならない この緊
張の連続は プロメテウスの苦痛よりも  イ
エス・キリストの受難よりも  はるかに尊く
感謝されるに値する
 あいている片方の手には バーベルをもち
上下運動をくりかえしては  たえまなく腕の
筋肉を強化して  咳きこみながら 古いアル
ファベットの変形語を  ならべかえる
 ところで、ビールを一杯、もらえないだろ
 うか。
 私の見知らぬ記憶の分子は 体内をあわた
だしくかけだし  森の老婆が通りぬけるよう
に 声帯を奇妙な音色にふるわす
 あいにくだね。
 ここには、おいてないんだよ。
 深夜 アフロディーテの出現を夢みつつ
白く泡立つコップの底を  手のなかにつつみ
こんでいると そのたびに  私の耳のあたり
には  竹の子の頭のような花が咲きだして
窓ガラスにうつってはきえていく


詩集「月がまるみをおびる地点まで」より


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リフレイン

2009-10-27 | My詩集から
またしてもだ!
暗がりで手をさしのべてくれる人
にであい 手に手をとって暗黒の
アルコールにみちた街へおりてい
く ミューズよ!ミューズよ!と
心はさけびつづけるが 小さな袋
小路をぬけるとデーモンがついて
きた 地下室から星のみえる屋上
へ  黒い舞踏家のように 次々に
音をのみこみ歩いていく  腹の中
瞳の上がふくらんでいく とたん
に  舞台は足元からくちはじめ
観客席からバーの入口へころがり
おちる 三角形の部屋は  一枚一
枚の床板が平行に 不均衡に並べ
てあって  決して桟をふまずにと
びこえるのがきまり  桟をふんだ
ら人生がかわってしまうよ!と耳
もとの虫がささやいてきえる
川の流れはつねならず 時間が逆
流している  のかどうかもわから
ない 仁和寺の和尚 徒然法師が
窓のすきまをのぞいてはとおりす
ぎる 長明の影ぼうし  誰かのく
つがおきざりにされている  手を
さしのべてくれる人  どこへいっ
たの 40Wの電灯の下に ようや
くたどりつくと  モノクロームの
陰影が 見知らぬ顔をあぶりだす
大きな手をした  フロックコート
の下に マダム!マダム! 黒い
しっぽをかくした  神様がすわっ
ているよ

    詩集「月がまるみをおびる地点まで」より


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秋の音

2009-10-23 | My詩集から
木の葉が
カサコソ音をたてるのは
どうして

タヌキやカササギや
こおろぎや人間が
秋をさがして
歩きまわるからさ
お月さまも
そっと加担している
秘密だけどね


        詩集「ひかり」より





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満月のかけら

2009-10-13 | My詩集から
満月のかけらを ひろった
きのうも 今日も

あすの朝になると きっと
ここにも あそこにも 見つかるだろう

時計の止まった 部屋のすきまに
無数のかけらが しきつめられていく
飲みかけの ワイングラスの中に
かたくなったパンの上に
冷えきったベッドに
骨ばった手にも

かけらを かんでみる
ちいさな音が 生まれる
光のような音符が
つぎつぎに つながり
かけ足で 朝がめざめてしまいそうだ

満月のかけらは つめたくて あたたかくて
かたくて やわらかくて
思い出せそうで 思い出せない味
すぐ そばで
いつも 一緒にいながら
まだ 見たことのないものたちとの
おしゃべりのような

             詩集「ひかり」より



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ひかり

2009-10-06 | My詩集から
この世にあるものは
みな うつくしい
だが いつか このすべてと
別れなければならない
いつくしみに充ちた この世界で
たくさんの いのちにかこまれて
時のうつろいを 歩いた
よろこびの符号は
光のなかに 記憶されて

今日 去っていくいのちの
かすかな光の残りの奥に
小さくゆらめき 浮きあがる形
闇からの心音が
いたるところに 浸透し
ひびきあい
ほら 緑の葉かげに また
ちいさな 羽虫が 生まれている


         詩集「ひかり」より


 

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ときめき

2009-10-02 | My詩集から
いつからここにいるのですか
ある日 いつものように太陽がのぼり
魚は魚 葉っぱは葉っぱ 蛇は蛇
あなたはあなただった世界が 一変した
すべてのことばは 風に翻訳され
鳥は鳥 花は花 海は海 山は山
の形をとどめたまま
私はみずすましになり いもむしになり
砂漠になり せせらぎになり
あなたをみつけた


            詩集「ひかり」より



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