詩の現場

小林万利子/Arim 「詩のブログ」 詩をいつも目の前に
小林万利子/Arimの詩とエッセイと音楽Arim songs

聞こえる音

2015-01-27 | interest
狂気の時代がきた
ナオミよ
ジャックよ
苦悩の時代は閉じられることなく
きみたちの歩いた道がつづいている
後ろ姿が見えなくなるほど
遠くなり
おびただしい足跡
深い轍ができている道を
足元をとられながら進んでいく

―無用な意味よ
葬られよ 葬られよ
この橋を渡るのだ‥
シャイクが
よみがえったという報せに
急いで
言葉が 纏わされた汚れた衣装
素顔を隠す衣装を剥ぎ取っていく
―この世は意味に包まれすぎている‥

言葉は 言葉
原色の蝶が繁殖地の一木に群がるように
意味が 1つの言葉の息を止めようとしている
言葉の息づかいが世界から
消えていこうとしている
助けて 助けて
ジャックのいるあの町へ

むき出しの言葉
むき出しの心
むき出しの肉体
陽は脳天めがけて射し込み
地上の物体は 影を失なう
意味を失う
言葉も 影を失う

必要なのは 意味ではない
言葉 羽のはえない言葉
愛するという言葉も
音の中に沈み
心に沈み
地表に落下する 音 音 音

"What's in a name"
―名前が何なの‥
人間の影を連れにきたシャイク
言葉の意味を食べ尽くすのであれば
この世の悪夢をも 連れ去ってくれ
残された 私 という名前に
あなた という名前に
ただ ひざまずくだけ シャイク


ありがとうございます。応援してネ♪
にほんブログ村 ポエムブログ 現代詩へにほんブログ村

ハスの花

2015-01-27 | 詩を歩く
夏がはじまる頃になったら、
ハスの花を見にいきたいと思う。

今は、どこを見ても
冬枯れの植物で覆われている。
でも、くり返しくり返し
心に 咲く花がある。

美しいものにふれると
ひらく花がある。

時々、自分以外の人にも
届けたくなるけれど
ことによったら それは
人には知らせてはいけない
花なのかもしれないね。



ありがとうございます。応援してネ♪
にほんブログ村 ポエムブログ 現代詩へ
にほんブログ村

未来形で話したい

2015-01-27 | interest
ネコの詩を書いていられるような
やすらかな時があった

夜中に恋文をしたためられるような
美しい時間が流れていた

いとしいものに囲まれて
この地上には
そんな人間らしい幸せが
あふれていた

未来形で話したい
誰かに思われることがあろうか
誰かを思うことができようか
愛することは 傷つくこと
深いいのちのしじまを知るために
開けられた光さす隙間

その傷は
いつまでも 人間のDNAの螺旋階段に
刻まれて 残されていくといい
そうして
青い光の星が いつまでも輝くといい


ありがとうございます。応援してネ♪
にほんブログ村 ポエムブログ 現代詩へにほんブログ村

のらねこのマーサ

2015-01-27 | interest 2
きみにあいたくなったら
ひみつのとびらをあけるよ

ニャーゴといって
一声 なくんだ
それが合図だ
ママに気づかれないように

マーサ
きみは ぼくにあいにきてくれた
ぼくも きみにあいにきた

だから
マーサは 自由なぼくの友だちだ
もう決して のらねこなんかじゃない
きゅうくつな飼い猫でもない
きょうから きみは
ネコの王さまになった



ありがとうございます。応援してネ♪
にほんブログ村 ポエムブログ 現代詩へにほんブログ村

ピレッサイの泉 5

2015-01-15 | 連詩
この街の旧い聖典に
ピレッサイの泉とは
深い悲しみの底から
浮かびあがってくる水玉、
という意味があると
伝えられている

深い悲しみの底は
海にあるのかもしれない
砂漠にあるのかもしれない
山奥にあるのかもしれない
空のむこうがわにあるのかもしれない

深い悲しみとは、何ですか
私が尋ねようとすると
鋭い矢に 一瞬に
射ぬかれたように
熱くて 胸が焼け焦げるような
深い 深い悲しみが
こみあげてきた

いつのまにか
フクロウが 何羽も
すぐ近くの木の茂みに止まり
こちらを のぞきこんでいる
そして 誰がしゃべりだしているのか
細い声が 聞こえてくる

生きとし生けるものの持つ悲しみ
この深い悲しみは
決して手離してはいけない、と
言われているもの

だから
深い悲しみの半分を
落としてしまった人たちが
大勢 途方にくれて
この街に この男の家に
やってくるのだ…

2度めの太陽が昇るまでに
男は 泉に浮かびあがる水滴を
フクロウたちと一緒に
集めなければならない
涙袋を 空にして
目を閉じることも
できなくなっている人たちに
返しにいかなければならない

どうして ここにいるのですか
フクロウが 男と私の間に
つぎつぎに舞い降りてきて
羽音が 私の声を
泉の上に こだまさせていく

それは 長い長い年月を
経てみないとわからない、
おまえが 何故ここに来たのかも
長い時間をかけてみないと
わかりはしない、
夢から醒めることもあれば
醒めない夢もある

話をしている わずかの時間に
長い時間だったのか
短い時間だったのか
太陽が2つ廻っているのだから
本当には わからないのだが
ピレッサイの泉は
浮かびあがる水玉で
覆いつくされ
水滴のひとつひとつが
月を飲みこみ
ひかりだしていた



ありがとうございます。応援してネ♪
にほんブログ村 ポエムブログ 現代詩へ
にほんブログ村



ピレッサイの泉 4

2015-01-11 | 連詩
ピレッサイの空には
2つの太陽がめぐる
1度めの太陽が
地球の裏側に移動し
この街のちょうど真下にくる時
ピレッサイの泉に
小さなガラス玉のような
水滴が 浮かびあがってくる

男は 泉の真中まで歩いていき
一輪 花を手折るように
浮かんできた水滴を 摘みとり
不透明な袋に入れる
すると また1つ
泉のはしの方で
浮かびあがり

つぎつぎと
水滴を摘みとっていく音が
音符がならんでいくように
あたりに ひびきだす

音色に 惹きこまれていると
男は急に 横に立っていて
一粒の水滴を
私の手のひらにのせた

宙天に昇ってきた下弦の月灯りに
照らしてみると
水滴のなかには 緑色のかけらが
核をつくり
美しい球体に 輝いている

男は 私の心に
謎のように話しかけてくる

欠けていくものを
知っているかな
失っていくものを
知っているかな
傷つくものを
知っているかな

月のかけら
誰かの指輪
猫の瞳
放たれた言葉の半分
世界の淵から
こぼれ落ちていく かげろたちが
この水玉に
生まれ変わり

大きな音を立てて
壊れたものでなければ
ここには 生まれてこれない
と言い そして



ありがとうございます。応援してネ♪
にほんブログ村 ポエムブログ 現代詩へ
にほんブログ村

ピレッサイの泉 3

2015-01-07 | 連詩
…この太陽が沈みかけたら
行かなければならない…

ピレッサイの泉の男は
私に近づき
そう告げると 歩きだした
私が来ることを
知っていたというのだろうか
「どこへ」
暮れかけた空の一隅から
鳥たちが けたたましく騒ぎたて
質問の声をかき消していく

男の後を 追っていくだけだ
暗やみを歩くのは慣れているが
街はずれにさしかかると
何一つ 灯りは見えなくなり
樹々や土の匂いを嗅ぎながら
星の足下を探っていく

森の一番奥のどこかにあるという
泉 ピレッサイの泉に
向かっているにちがいない

闇に隠れていた男の姿が
ぬかるみに足をとられそうな場所
まで来ると
急に ほの暗い光を浴びて
丸い影を うつしだした

フクロウ…
夢の中の覚醒のように
そう気づいたとたん
男は しゃべりだした



ありがとうございます。応援してネ♪
にほんブログ村 ポエムブログ 現代詩へ
にほんブログ村




ピレッサイの泉 2

2015-01-03 | 連詩
ピレッサイの泉の街には
太陽が1日に2度めぐると
いわれていた
私には ふつうの1日のように
思えたが
住人は 当たり前のように
太陽の数を 数えていた

駅に 朝がなかなかやってこない理由は
皆 2度目の太陽を待っていたからだ
そのうち
街の隅々から人々が うごめきだし
雑踏の音が ふくらみ
今日が はじまっていく

ピレッサイの泉の男は
まもなく 通りかかるだろう
今日こそ
この男に ついていってみる

いつか
夢にでてきた メンフクロウは
ギリシャ彫刻のような顔立ちの男を
私の脳裏に刻みつけていった
そうだ あれが
ピレッサイの泉の男にちがいなく



ありがとうございます。応援してネ♪
にほんブログ村 ポエムブログ 現代詩へ
にほんブログ村






ピレッサイの泉 1

2015-01-02 | 連詩
ピレッサイの泉という街に住む一人の男
名前は誰も知らない
だからピレッサイの泉の男としか
呼ばれたことがない

ピレッサイの泉は
ピンク色の大理石の産地
家も路も 街中が石造り
だが 男の家はレンガと木でできていて
樹齢400年ほどの樹々のはざまで
森の時間を 刻んでいる

男には 家族がいない
とはいえ この家からはいつも
誰かが出てくる

暗いうちに 大きな鍋をかかえ
戸口を出ていく老女
つづいて 長い髪の向こうに
憂い顔を見せる美しい女
深紅のルージュの香りが
辺りを染めあげ
朝焼けの始まりのように
森がざわめいていく

そして また一人
削りあげたばかりの木箱を持ち
裸足で飛び出していく
大きなメガネをかけた背の高い男たち

ピレッサイの泉の街の朝
駅の時計台は
男の家から誰も出てこなくなるまで
新しい時を告げない
昨日も 今日も

この街に来て一ヶ月ほど経つが
ピレッサイの泉の男の
戸口から出て来る同居人に
私はまだ 同じ人物を見つけたことがない




ありがとうございます。応援してネ♪
にほんブログ村 ポエムブログ 現代詩へ
にほんブログ村


明けましておめでとうございます

2015-01-02 | トークタイム
新年明けましておめでとうございます。
2015年が、皆様にとりまして
素敵な1年となりますように
心からお祈りいたします。

今年も、いろいろな新しい詩との出会いを
お見せできればと思います。

「詩の現場」へお気軽にお越し頂き
どうぞ、ご高覧頂けますよう
宜しくお願い致します。



ありがとうございます。応援してネ♪
にほんブログ村 ポエムブログ 現代詩へ
にほんブログ村