詩の現場

小林万利子/Arim 「詩のブログ」 詩をいつも目の前に
小林万利子/Arimの詩とエッセイと音楽Arim songs

沼地の花

2009-10-31 | 詩と陶によるコラボレーションの記録
ところで きいた話だが                   
この辺には 前前から                       
へんなかっこうの男が 時折やってくるらしい      
                               
破れかけたぼうしを 深々とかぶり              
顔一面をおおうような めがねをかけ
地面までとどきそうな長い丈の             
黒いコートをはおり                   
ちょっと猫背ぎみの男                 
                            
いつも未明なので はっきりとは             
しないのだが                      
コートの下にのぞく足は         
どうやら 一本                     
                            
そして さらに悪いことには              
いくら歩いても
沼地には 足跡が残らないので
これも 確かではないのだが
男の通った後には
タイヤのような縞模様のある
ニワトリのものを思わせる
細い線数本

男は 遠くから笛を吹きながら
現れる すると
水辺に しゃがみこみ
半時程 何かつぶやいていく

しわがれた声の持ち主 かと思うと
透明なかん高い声もでて
日本語のような音声で
意味は ききとれない

実は 子供の頃 近所の老人に
きいた話だったのだが
今 私の目の前にも
そんな男がいる
ちがうのは やはりへんなかっこうの女も
一緒だ ということ

今朝 私は ここを立ち去ることにしたが
ハスの咲く沼には
昔も今も 
訪ねてくるものたちが大勢いて
多くは 初めて会うというのに
なぜか なつかしい気がする

またそれが 人間でも
人間でなくても
どちらでも かまわないのだ




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リフレイン

2009-10-27 | My詩集から
またしてもだ!
暗がりで手をさしのべてくれる人
にであい 手に手をとって暗黒の
アルコールにみちた街へおりてい
く ミューズよ!ミューズよ!と
心はさけびつづけるが 小さな袋
小路をぬけるとデーモンがついて
きた 地下室から星のみえる屋上
へ  黒い舞踏家のように 次々に
音をのみこみ歩いていく  腹の中
瞳の上がふくらんでいく とたん
に  舞台は足元からくちはじめ
観客席からバーの入口へころがり
おちる 三角形の部屋は  一枚一
枚の床板が平行に 不均衡に並べ
てあって  決して桟をふまずにと
びこえるのがきまり  桟をふんだ
ら人生がかわってしまうよ!と耳
もとの虫がささやいてきえる
川の流れはつねならず 時間が逆
流している  のかどうかもわから
ない 仁和寺の和尚 徒然法師が
窓のすきまをのぞいてはとおりす
ぎる 長明の影ぼうし  誰かのく
つがおきざりにされている  手を
さしのべてくれる人  どこへいっ
たの 40Wの電灯の下に ようや
くたどりつくと  モノクロームの
陰影が 見知らぬ顔をあぶりだす
大きな手をした  フロックコート
の下に マダム!マダム! 黒い
しっぽをかくした  神様がすわっ
ているよ

    詩集「月がまるみをおびる地点まで」より


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記 憶

2009-10-24 | 詩と陶によるコラボレーションの記録
もし 私が死んだあとに
目が残るとしたら 何を見る

もし 私が死んだあとに
鼻が残るとしたら 何を嗅ぐ

もし 私が死んだあとに
口が残るとしたら 何を話す

もし 私が死んだあとに
耳が残るとしたら 何を聞きたい

でも 本当は
死んだあとではなくて
今 私は 知りたいのです

左のずっと奥の 遠くの方から息づいて
右のさらにずっと先の むこうまでもつづく
はるかな営みについて

川面に足を 投げだして
流れの温度や速度を感じるように

誰かに 聞いてみたいのです 




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秋の音

2009-10-23 | My詩集から
木の葉が
カサコソ音をたてるのは
どうして

タヌキやカササギや
こおろぎや人間が
秋をさがして
歩きまわるからさ
お月さまも
そっと加担している
秘密だけどね


        詩集「ひかり」より





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「未来の場所が、ひかっているところ」

2009-10-16 | おすすめPoem 記事
子供に、はじめて目覚まし時計を持たせた。

小学1年生になる練習に、
朝7時に目覚まし時計をセットした。

目を輝かせて、時計の説明を聞く。
「7時になったら鳴るよ」(母)

「どこどこ?
朝の7時って、どこ?」(子供)

「未来の場所が、ひかっているところ?」(子供)

どこから、こんな言葉が降りてくるのだろう。

天啓のような、素晴らしい言葉を教えてくれて、
ありがとう。





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ことばのリレー2

2009-10-14 | 子供のこと、子供のことば
夜寝る前の、子守歌がわりの、しりとりは続いている。
子供に触発され、子供バージョンのことばを選びながら、
ことばのリレーを続ける。
「フ」。
決して「不況」「不文律」などと言ってはいけない。
「ふだん着」ぐらいにしてみる。

最近は、単なるしりとりではなく、ことばのイメージから
広がるリレーになり、新鮮だ。
「ふろしき」(子供)-「きもの」(母)みたいに。

昨夜は、「海」(子供)と言ってすぐに「砂」と言い出した。
「お母さんの番だよ」と言うと、
「あ、そうか、海には砂が似合うなアと思って」と言っていた。




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満月のかけら

2009-10-13 | My詩集から
満月のかけらを ひろった
きのうも 今日も

あすの朝になると きっと
ここにも あそこにも 見つかるだろう

時計の止まった 部屋のすきまに
無数のかけらが しきつめられていく
飲みかけの ワイングラスの中に
かたくなったパンの上に
冷えきったベッドに
骨ばった手にも

かけらを かんでみる
ちいさな音が 生まれる
光のような音符が
つぎつぎに つながり
かけ足で 朝がめざめてしまいそうだ

満月のかけらは つめたくて あたたかくて
かたくて やわらかくて
思い出せそうで 思い出せない味
すぐ そばで
いつも 一緒にいながら
まだ 見たことのないものたちとの
おしゃべりのような

             詩集「ひかり」より



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西脇順三郎 1

2009-10-12 | 気になる人、ことば
久しぶりに「現代詩手帖」10月号を買った。
創刊50周年記念 復刻 現代詩手帖で、
「金子光晴と西脇順三郎」の特集だった。

西脇順三郎追悼座談会の内容を、懐かしく読む。
吉岡実、大岡信、那珂太郎、入沢康夫、鍵谷幸信の各氏が
有名な西脇エピソードや、遠いもの同士の連結や、詩は、
思考をつくることだ、という西脇が繰り返した詩の真髄に
触れ、西脇順三郎をめぐる詩の談議に、至高の時が流れて
いる。

私が、学生時代に卒論の為、毎日寝ても覚めても、熱病に
かかったように、西脇順三郎のことを考えつづけられた、
幸せな時間を思い出した。

偉大な詩魂を持つ、「永遠」の詩人西脇順三郎も、また、
あの時代を生きた多くの詩人も、いまは、もうだいぶいなく
なってしまった。
「現代詩」を日々、真剣に作りあげて生きた詩人たちの姿を
思うにつけても、淋しさに、心が痛い。

又、八木忠栄氏の「現代詩手帖」編集日録抄5も、感動的だ。
メールやFaxで用事が足りてしまう今の時代と比べ、当時の、
詩人宅へ足でおもむき、原稿依頼し原稿をもらって、雑誌を
つくる情熱は、美しい。




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ひかり

2009-10-06 | My詩集から
この世にあるものは
みな うつくしい
だが いつか このすべてと
別れなければならない
いつくしみに充ちた この世界で
たくさんの いのちにかこまれて
時のうつろいを 歩いた
よろこびの符号は
光のなかに 記憶されて

今日 去っていくいのちの
かすかな光の残りの奥に
小さくゆらめき 浮きあがる形
闇からの心音が
いたるところに 浸透し
ひびきあい
ほら 緑の葉かげに また
ちいさな 羽虫が 生まれている


         詩集「ひかり」より


 

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ことばのリレー1

2009-10-03 | 子供のこと、子供のことば
6才になる次女と、寝る前にしりとりをする。
赤ん坊の頃から寝つきが悪く、あの手、この手を使ってきた。

深夜11時、気持ちを落ち着かせ安眠を誘うように、
玉ねぎの薄切りを枕元に置き、絵本を読む。
2冊読んでも、まだ寝ない。次はふとんに入りながら、
「犬の冒険」や「猫の冒険」の作り話をする。

いつも、私の方に先に睡魔が訪れるので、話はすぐに途だえて、
沈黙‥‥。怒られて、再び話し続けるが、頭はもうろうとし、
わけのわからないことを口走るらしい。

ゲラゲラ笑う娘の声でハッと目覚める。
娘は寝ない。私は眠くなる。悪循環を繰り返す。
とうとうネタも切れ、作り話も限界だ。そこで、ひらめく。

ふとんに入りながら、しりとりをしよう。娘にも考えさせ、
私は考えるのが半分ですむ。最初、娘は、りんご、ごりら、
らっぱ、という保育園児らしい、当たり前のしりとりだった。

しかし、私も同じことばには辟易するので、意地悪な、少し難しい
ことばでつなげることにした。それが、思わぬ、驚きの方向に
変わっている。日々、娘のボキャブラリーや、ことばによる
イメージが広がりだした。すばらしい副産物だ。

最近の娘のことばから。とかい、ロマンチック、いなか、しずく、
さっきょく、つりばり、まき、リゾート、つりびと、かいそう、
すなぼこり‥‥思わず、眠気が吹っ飛んでしまうことばに出会う。

「えぇー、何でそんなことば知ってるの?」を繰り返してしまうこと
がある。案の定、私は眠いので、途中、沈黙し、いずれ寝てしまう
のだが、時々怒られて再開すると、思わず跳ね起きてしまうことば
にぶつかる。

「あこがれ」!!「でも意味知らなーい、どーいうこと?」
そんな一言にホッとしつつ、子供とのことばのリレーは、
やる価値あると思っている。




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ときめき

2009-10-02 | My詩集から
いつからここにいるのですか
ある日 いつものように太陽がのぼり
魚は魚 葉っぱは葉っぱ 蛇は蛇
あなたはあなただった世界が 一変した
すべてのことばは 風に翻訳され
鳥は鳥 花は花 海は海 山は山
の形をとどめたまま
私はみずすましになり いもむしになり
砂漠になり せせらぎになり
あなたをみつけた


            詩集「ひかり」より



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詩の現場について

2009-10-02 | 詩を歩く
はじめまして。今日から詩のブログを開設いたしました小林万利子です。
詩の現場とは、詩の建築現場であるように、いつも詩の「場」に自分が立つことを認識すること。
そこには又、いろいろな事象、人々が関わってくる現場です。
日常にまみれ、詩の只中を歩いていきます。ゆっくり、末長くおつきあい下さい。

仕事のこと、結婚、出産、子育て・・・
1人で詩にむかえる時間は皆無の日々。詩作をする時間が途切れて何年がたつだろう。
正直、焦りとあきらめに似た思いがあったが、ある時、腹を決めたのだ。
忙しい生ある日々、子育ては、私の今の詩そのものであると。
詩の道はつづいている・・・





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陶芸家 田村六鵬の「陶芸ブログ in 山梨