詩の現場

小林万利子/Arim 「詩のブログ」 詩をいつも目の前に
小林万利子/Arimの詩とエッセイと音楽Arim songs

「ストリート ストーリー (street story)」(1)

2016-12-11 | interest 3
…先刻、一日中激しく降り続いた雨が、にわかにあがったばかり。いつのまにか、また夜になった。雨に光る石畳の路が続く街。石畳のストリート。放射状に拡がる大きな交差点を横切り、急ぎ足で細い通路へ入る。その通りを抜け線路の向こうへ帰りたいのだが、あいにく遮断機は、かれこれ半時も下りたまま。夜中の、貨物列車が通る時間なのだ。踏切警告機は夜間は音を消している、赤い点滅ランプは止まない。…

戻って戻って…
誰かが呼んでいる。
後ろを振り返る。
この声は、どこかで聴いたことがある。

暗がりに目をやるが、人らしき影は何も見えない。猫、案の定、黒猫が、曲がり角を横切っていく。ついて来い、とでもいうように、決まって現れる猫、ギータに違いない。夜ストーリートを徘徊する猫、たまに人間の言葉も喋るという猫。

ギータの後をついて行くでもなく、ついて行く。見失ったら、それはそれで引き返そう、そんな気持ちだったのだから。

だが、猫は、注意深く僕を誘導する。僕の歩く速度が遅くなり、離れそうになると振り向いて鳴いている。わかったよ、どこまでもついていくよ。


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「ストリート ストーリー (street story)」(2)

2016-12-11 | interest 3
ギータは、先ほど僕がいた場所、石畳の大きな交差点に僕を連れてきた。…なんだ、また戻ってしまったというのか。…雨がすっかり上がり

いつのまにか、深夜だというのに、いつものピアノが置かれている。ここの商店街の店主達の夢であるピアノ、いつでもピアノが置いてあるストリート。

雨が上がれば、夜だろうがお構い無し、ピアノが運び出され、道行く人に提供される。

近くの公園に住まうホームレス、彼らもこぞって、深夜のピアノ弾きとなる。ピアノに向かう人を、この街の住人は、誰1人貶さない。住人は交代で、ピアノの横のサイドテーブルに、暖かなお茶とクッキーを置いていく。



僕は、ここの一番長いピアノ弾き。僕の姿を見かけると、みんなはピアノの前をあけてくれる。だが、今はいいよ。皆で弾いてほしい、皆のメロディーを聴きたいんだ。…



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「ストリート ストーリー (street story)」(3)

2016-12-11 | interest 3
ギータが足元で、何か催促している。今日はどうしたというのだろう。

今日が、噂に聞くと、8天文年間80月Q(クワイエット)日だという。何かが変わる、いや、この街には、隠れたドアが4枚あって、その扉が開く日だと言われている。昔むかしの言い伝え。誰もそんな約束事を覚えてはいない。ただ、僕が知っているのは偶然。ピアノの隠し扉に入れてあった古い楽譜の1ページに、記されてあったメモ書きを、見たことがあったせい。

そして、僕の足元を去らない猫のギータ。この子が落ち着かないのも、今日がその日だと知っているからなのだ。


4枚の扉とは、何だろう。踏切の遮断機が開かない時間。…広場では、皆がピアノを弾いている間に、僕はギータとその辺を探してみることにした。

僕の住むこの街。石畳の街の名はパルティア。古語で楽園とも訳せるらしい。考えてみたら、誰も病気をしないし、喧嘩もしない。火事や地震もない。裏切りも憎しみも苦悩もない。悲しみもない。あるのは、愛と希望と音楽と町中の壁に色を塗り何かを描き続けるための絵。

かつてその4枚の扉をつけたために、ここは祈りを捧げる場所になったとも聞く。子供たちが歌う童謡に、そんな歌詞があった。

放射状に伸びる交差点。四隅に行ってみようか。東西南北という四隅。ギータが僕の前を歩いていく。すると、赤白青黒に色塗られた扉が順番に現れた。

僕とギータは、一枚づつ扉を訪ねてみる。

扉の向こうからは、大きな音が聴こえてくる。赤の扉。ああ、なんていうことだろう。僕は扉の向こうに見たこともない砂煙と赤い炎と焦げ臭い匂い 、爆音を聴いたのだった。そして、この扉に気がついた親子がいる。赤ん坊を両脇に抱えている。どうぞ、こちらへ。僕は大急ぎで扉を全開にし親子を迎えた。あとから、同じような親子がつづく、つづく。

そうだ、僕の記憶の扉が開いた。僕もかつてこの扉を誰かに開けてもらい、ここの街へ来たのだった。

猫のギータは、僕がモタモタしている間に、残りの3つの扉も開けた。

黒い扉の向こうには、海が拡がっている。
フクシマと書かれた旗がはためく船。ここはフクシマ。扉の前に並んでいたおばあさん、どうぞ、こちらへ。僕とギータは扉の向こうの管理人に話に行く。来たい方、どうぞこちらへ。そして僕達はこの扉の鍵を手渡した。

「ストリート ストーリー (street story)」(前半)

つづく

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いつかのウサギ 3

2015-06-07 | interest 3
   (あるじゃない、ほらそこに)
(いや違う 絶対消えないぼくの影)
(根っこの生えた 留守番ができるぼくの影)

西の空から夕焼けがはじまった
ウサギの目は 夕日を飲み込みさらに赤くなり

なぜ留守番ができないといけないのか
もう時間がない  

ウサギの気持ちウサギのニュアンス…
鞄に入れたり 留守番させたり 
まえ後ろに入れ替わって歩いたり
自分が消え入りそうになっても
いつもどこかで待っている
そんな影 探してたらしい

夕闇は 衣擦れさせながらせまりくる
ウサギの影も 木々の影も 
大きな黒影の城に連れていかれる時間

いますぐにだよ
空の合図だ

   (ねぇウサギ きみの影に話しかけてごらん)
   (きみの影は 笑っているかもしれないし
    怒っているかもしれない 泣いているかもね)

      ー僕の胸の上には 犬も猫も 鳥も虫も
       皆が遊びにやってくる
      ―きみの失くしたものを
       僕はいつだって拾って歩くよ
      ー僕はきみに気づかれないから
       ときどき雨みたいに泣いている

影のきみに
ウサギのきみは話しかけた
影のきみに
ウサギのきみは話しかけた

ウサギのきみとウサギのきみの影
見えない大きな影のなかにとっぷりと眠る
夜の闇がひらいてみせる混沌の果てに
目覚めればいい

見えない世界と見える世界の
入り口と出口に立ち
1つだけのさがしもの
ウサギのきみの影



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いつかのウサギ 2

2015-06-07 | interest 3
(もう 無理なんだ)
ウサギが慌てて話しだす
   (いま 始まったばかりじゃない)
ウサギに流れる時間は 速いらしい
   (そんなに先に 1人で行ってはダメよ)

(もう 無理なんだ)
ウサギがくりかえす
(夜がやってきたら もう終わりなんだ)
ウサギの声が小さくなった

   (わかったわ)
   (ねぇ ところで何を探しているの)
早口で聞いてみた

ウサギはそこらじゅうの地面に穴を掘っていた手を止めた
(何って)
(わかっているのかと思ってた)
(こんなに探しているのだから)
(この世で探しているっていったら1つしかない…)

時間のないウサギは まくしたてるように話して
悲しそうな目をした

   (わからないよ)
   (探しものって、結局は1つかもしれないけれど
    言葉にしないと わからないんだよ)
   (ことばにしたら、それこそ人の数、いや、ウサギの
    数ほどあるに決まってる)
   (きみは 何を探しているの?)

ウサギは諦めたように 話しだした  
(ぼくの影)




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いつかのウサギ 1

2015-06-07 | interest 3
(探してる 探してる)
   (何を探してるの)
(…時間がないんだ)

いつかのウサギ
反対語をしゃべるいつかのウサギ
玄関先を横切っていく

   (きみは 反対語を話すウサギでしょ?)
(ちがう ちがう)
(私は 本当のことをいうウサギ)
(時間がないウサギ)
(だから 探してる 探してる)

急いでいるのは わかったわ
お願いだから 花の根を掘りおこさないで
   (一緒に 探してあげるから)




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