詩の現場

小林万利子/Arim 「詩のブログ」 詩をいつも目の前に
小林万利子/Arimの詩とエッセイと音楽Arim songs

空に星が光るとき

2015-06-28 | interest 2
星がまだ 宇宙を運行する天体ではなかった頃
夜のおとずれは 小さな子供たちの引く
カーテンが合図だった
1人 2人 3人…
絵の具箱をひっくり返したように
代わりばんこに 布を取りだしていき
最後の小さな子供が
黒色のカーテンを引き終わる

次に 星の飾りを持って 少年たちが
戸口から出ていく
少年たちの自転車は
いつも はしごを積んでいた

だが 8番目の少年の自転車には
はしごが積まれていなかった
ここのところ 空に
星が 1つ足りないのは
そのせいだった

星の形をした小さな街
星の飾りを作るガラス工房と
星磨きの道具屋
はしごを作る木工屋
自転車の修理屋
ペンキ屋が 建ち並ぶ

スピカという名の少女が
街はずれに住んでいた
このペンキ屋で働いていた

8番目の少年のはしごを
今日こそは届けなければならない
街じゅうの人に頼まれ
木工屋に頼まれ
スピカはでかけた

白木のままのはしごは
8番目の少年のもとに届き
少年は星の飾りを持って
空の一番高いところまで
上っていった

スピカは はしごを押さえながら
ペンキ屋の仕事をはじめる
はしごの足元が
白く光ったと思うと
みるみる
赤橙黄緑青藍紫の帯色に
仕上がっていく

セキトーオーリョク…
セイーランー…
シー…

スピカは歌いながら
どこまでも 伸びていく
長い 長いはしごに
暗闇でも光りつづける色を
塗りあげていく

夜空に 虹がかかる時間を
知ってる?

8番目の少年が
空に星を飾っている時
スピカが はしごの下で
少年を見上げている時間だと
おぼえていて




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花に会いに行く…

2015-06-15 | 詩を歩く
…花に会いに行く。とは言うものの、
その時の気持ちは、晴れやかな思いと、
一方で、細くてほの暗いトンネルを、
1点の灯りを頼りに向こう側へ抜けて
いくような心細さを伴った花への憧れ
とが同居している、とも言えようか。

花は凛と咲く。それは植物がようやく
たどり着いた地点。
次のいのちへひるがえっていくための
最初で最後の舞台を勤めている場所。
花の色はどれもあまりに美しい。
まもなく一変してしまう花は、
開いた瞬間から死と隣り合わせの時間を
生きているせいだ。

花のいのちに触れたい、一時を花の心に
寄り添うていたい。
夕焼けの残照のように、自分のいのちが
物影に落ちて行く前に花の色は匂い立つ。
鳥を呼び、虫を集め。
2度とない光と眠りの世界のあわいに
立ち尽くす色。
その花の姿を心に刻みに行くのだ。
花に会いに行くとは、
花の色を心に受け継ぎ、
花へのお礼に行くことでもある。



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いつかのウサギ 3

2015-06-07 | interest 3
   (あるじゃない、ほらそこに)
(いや違う 絶対消えないぼくの影)
(根っこの生えた 留守番ができるぼくの影)

西の空から夕焼けがはじまった
ウサギの目は 夕日を飲み込みさらに赤くなり

なぜ留守番ができないといけないのか
もう時間がない  

ウサギの気持ちウサギのニュアンス…
鞄に入れたり 留守番させたり 
まえ後ろに入れ替わって歩いたり
自分が消え入りそうになっても
いつもどこかで待っている
そんな影 探してたらしい

夕闇は 衣擦れさせながらせまりくる
ウサギの影も 木々の影も 
大きな黒影の城に連れていかれる時間

いますぐにだよ
空の合図だ

   (ねぇウサギ きみの影に話しかけてごらん)
   (きみの影は 笑っているかもしれないし
    怒っているかもしれない 泣いているかもね)

      ー僕の胸の上には 犬も猫も 鳥も虫も
       皆が遊びにやってくる
      ―きみの失くしたものを
       僕はいつだって拾って歩くよ
      ー僕はきみに気づかれないから
       ときどき雨みたいに泣いている

影のきみに
ウサギのきみは話しかけた
影のきみに
ウサギのきみは話しかけた

ウサギのきみとウサギのきみの影
見えない大きな影のなかにとっぷりと眠る
夜の闇がひらいてみせる混沌の果てに
目覚めればいい

見えない世界と見える世界の
入り口と出口に立ち
1つだけのさがしもの
ウサギのきみの影



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いつかのウサギ 2

2015-06-07 | interest 3
(もう 無理なんだ)
ウサギが慌てて話しだす
   (いま 始まったばかりじゃない)
ウサギに流れる時間は 速いらしい
   (そんなに先に 1人で行ってはダメよ)

(もう 無理なんだ)
ウサギがくりかえす
(夜がやってきたら もう終わりなんだ)
ウサギの声が小さくなった

   (わかったわ)
   (ねぇ ところで何を探しているの)
早口で聞いてみた

ウサギはそこらじゅうの地面に穴を掘っていた手を止めた
(何って)
(わかっているのかと思ってた)
(こんなに探しているのだから)
(この世で探しているっていったら1つしかない…)

時間のないウサギは まくしたてるように話して
悲しそうな目をした

   (わからないよ)
   (探しものって、結局は1つかもしれないけれど
    言葉にしないと わからないんだよ)
   (ことばにしたら、それこそ人の数、いや、ウサギの
    数ほどあるに決まってる)
   (きみは 何を探しているの?)

ウサギは諦めたように 話しだした  
(ぼくの影)




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いつかのウサギ 1

2015-06-07 | interest 3
(探してる 探してる)
   (何を探してるの)
(…時間がないんだ)

いつかのウサギ
反対語をしゃべるいつかのウサギ
玄関先を横切っていく

   (きみは 反対語を話すウサギでしょ?)
(ちがう ちがう)
(私は 本当のことをいうウサギ)
(時間がないウサギ)
(だから 探してる 探してる)

急いでいるのは わかったわ
お願いだから 花の根を掘りおこさないで
   (一緒に 探してあげるから)




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