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SEA side

静けさの中で波の音だけが永遠に響きつづける。
美しいものとの出会いの記憶・・・・。

映画 「ホテル・ルワンダ」

2006年03月15日 | 映画(ハ行)
 フツ族とツチ族という部族の対立が生んだ地獄絵図からの脱出劇。

 両者の差は肉体的差異にもあるというが、劇中の欧米ジャーナリストにはまったく区別がつかない。アメリカのような人種間の抗争ではなく、ほとんど同じ姿の隣人達があるとき急に、相手をゴキブリとののしるほどの対立関係に陥る恐怖が描かれる。
 ドン・チードル演じる主人公の家庭も夫婦がそれぞれの出身なのだ。

 国連軍さえ見守ることしか出来ず、大国も「介入する価値がない」という理由で見放す。マスコミは事件を「大虐殺」と呼ぶことに対し、何人殺されればそう呼べるのかというような不毛な議論を繰り返している。(「南京大虐殺はあったのか」もそれに近い?)

 そんな中で、主人公の意識が「家族を守ること」から「救いを求めるすべての人を守ること」に変わっていく。

 冒頭で、ビールと間違って積まれた荷が崩れ、中国から格安で仕入れたというおびただしい鉈(ナタ)が床に散乱する。これが後の凄惨なエピソードを暗示する程度で、直接的な描写を画面に出さない姿勢には、昨今まれな製作者の品位が感じられた。

 ホアキン・フェニックスやニック・ノルティやジャン・レノが出演していることなど鑑賞するまでまったく知らなかった。

 重量級の作品。 

映画 「プライドと偏見」

2006年02月23日 | 映画(ハ行)
 原作の小説は昔から「高慢と偏見」のタイトルで邦訳されている。NHKテレビ版も人気があったらしいが未見。

 ジェーン・オースティン原作の映画化作品は「エマ」「いつか晴れた日に」など名作が多い。後者はエマ・トンプソンが主演のみか脚本も書いてアカデミー脚色賞を受賞している。
 先日のゴールデングローブ賞授賞式ではプレゼンテーターをつとめたエマが「歳のために今回はオファーがなかった」とコメントして会場を沸かせていた。
 本作もエンド・クレジットに "Special Thanks" でエマの名前が出てくる。脚本にノーギャラで手を加えてあげたらしい。

 女性に財産相続権がなかった時代の、結婚にあこがれる5人姉妹のラブ・ストーリー。ちょっと外国版「細雪」のような雰囲気もある。
 高慢だと思っていた男性が姉と妹の婚約のために見せた善意に次女が惹かれていくのだが、「姉のために見せた善意」の中身が今ひとつはっきりしなかった。

 が、イギリスの美しい景観を舞台に繰り広げられる古典的な恋愛劇が、実に贅沢な時間をもたらし、豊かな気分にさせてくれる。

 配役では姉妹の父親役のD・サザーランドが素敵だ(おそらく今までの出演作で一番)。息子のキーファー(『24』)しか知らない世代も多いのだろうな。



映画 「PROMISE」

2006年02月15日 | 映画(ハ行)
 絢爛豪華な映像、アジア各国スターの顔合わせと話題性の大きな作品。

 冒頭に延々と続く、チャン・ドンゴン演じる奴隷の駿足ぶりが描かれる場面で、暮れに見た「キングコング」の、恐竜の群れが暴走するシーンを思い出してしまった。
 この荒唐無稽なファンタジー世界に入り込めるかどうかで評価が違ってくるだろう。

 神と人が同次元に存在する神話の世界なのだ。同じ神話でも、ギリシャ神話・「トロイ」でブラッド・ピット=アキレスの駿足がきわめてリアルに俳優の肉体に即して描かれていたのとは対極の描写。

 神の告げる運命(PROMISE)に抗う人間たちのドラマとして、仕掛けやビジュアルが壮大な交響曲を奏でているかのようなのだが、予言の中身は結局「恋愛占い」で絶世の美女・傾城を巡る恋の駆引きという数人の男女間の極めて小さな世界の話に閉じこもってしまっている。

 予告やTVスポットは作品を最も魅力的に見せるシーンを選りすぐってあるが、全編そのテンションで貫かれている映像は一見の価値がある。
 

「博士の愛した数式」

2006年02月08日 | 映画(ハ行)
 良い作品に年明け早々にめぐり逢えて幸せである。

 数学教師が自分の思い出を生徒に語るという枠組みで物語が進む。少年役が、かつて吉岡が演じた「北の国から」の純君を思わせるところがあり、長じて数学教師(吉岡)になるという設定が素直に受け入れられる。

 ラストシーンはさながら家族の肖像であるが、同じ擬似家族を描いて宮部みゆきの「理由」とは(物語の性格が)対極にある。

 さわやかな作品ながら深いところで哀しい。全体の影のように存在する浅岡ルリ子がそのトーンを支えている。

映画 「フライトプラン」

2006年02月02日 | 映画(ハ行)
「パニック・ルーム」に続いて母娘が困難に見舞われる映画だが、今回はその娘が忽然と消えてしまう物語なのでジョディの孤軍奮闘となってしまう。

 脚本が良く練られている。冒頭でジョディの幻想に浸るシーンが後で効いてくる。ひょっとしたらと観客も思ってしまうわけだ。
 ただ分業の発達した国で、エンジン設計の技術者が機内全体をあそこまで良く把握しているものなのだろうか。

 それにしても悪い人というのは何でもやってしまうんだな、というのが今回の感想。しかし、もし犯人の「想定外」が一つでも起こるととたんに崩れてくることになるが、あらゆる場合を想定してあったのだろう、と善意に解釈する。

 後半のジョディはまことにたくましく、さすがに以前FBI捜査官としてハンニバル・レクターと渡り合っただけのことはあると感心してしまった。

 カメラアイが滑らかに動いて、狭い機内(広いので迷子になってしまったと機内アナウンスがあるが)を舐めまわすように撮っている。エンドクレジットを見ると一機丸ごとの空間データがコンピュータに取り込まれていることがわかる。
 最初のタイトルバックも画面と文字が一体化して面白く作りこまれていた。

映画「8月のクリスマス」 ~ 日本リメイク版

2006年01月19日 | 映画(ハ行)
 韓国映画の日本リメイク作品で、抑制的な表現のメロドラマ。韓国オリジナル版は未見なので比較は出来ない。

 難病路線の映画なのだが、特にそれについての説明はないし、物語を進行させるキーとしてドラマチックに扱われることもない。

 恋とまでは呼べない思いを抱えたまま、また互いに双方の事情を知らないまま、男の入院や女の転勤でお互いが欠落した時間が生じる。さらにそこに加わる男の死という決定的な欠落、だけど日常の時間はこれからも、今までと同じように流れつづけていくことが淡々と描かれる。

 今までいた人が一枚の写真に変わってしまうという事実が映像で表現されるシーンがあり、そこがまさに物語の核である。

 鑑賞中にハンカチを涙で濡らすというより、見終わった後の余韻が時間とともに深まってくるような作品。

憂鬱な「ブラウン・バニー」

2005年12月26日 | 映画(ハ行)
 ギャロのいじけた憂鬱に付き合わされる90分余。一体、主人公のここまでの憂鬱の原因は何なのか、見ている方はさっぱり分からないままアメリカのドライブ風景を延々と楽しむことになる。

 最後の最後にその憂鬱の正体が姿を現し、そこから全体を照射して映画の全貌が明らかになる、というすごい作品なのだが、問題はそこまで観客が待ててるかということとラスト近くにある強烈なラブシーンをどう評価するかということだ。

 この脚本を見せられて女優が出演をOKするには相当な覚悟がいるだろう。それに挑んだクロエ・セヴィニーがいなければ実現しなかっただろう作品だ。

ハリー・ポッターと炎のゴブレット ~ 娯楽大作?

2005年12月07日 | 映画(ハ行)
 年齢制限がある対抗戦の選手として、出場できないはずのハリーがなぜか指名されてしまう。

 それはどういう目的で誰が仕組んだものなのか?というのが本筋だが、映画はもっぱらその脇筋である対抗戦の模様をじっくり見せてくれる。3種目の戦いが見事な撮影で2時間半の長尺があっという間に終わってしまう。

 ただよく考えると、その「目的」のためにこれだけ大掛かりな仕掛けが必要なのだろうかという気にはなってくるが、ここは素直に楽しんだほうが良いだろう。

 多くの新しいキャラクターが登場するにもかかわらず、いずれも描写が淡白で人間的な魅力が感じられないのが惜しい。スペクタクル度に比べてドラマの弱さは否めない。

 また全編を通しての暗い色調も何とかならないのだろうかと思ってしまう。少なくともクリスマスシーズン、子供も見に来る娯楽大作でアート系作家のフィルムではないのだから。
 もっとも監督のマイク・ニューウェルはイギリス人でフィルモグラフィーを見る限りハリウッド型娯楽大作の監督ではないのだが。

映画「ブラザーズ・グリム」 ~ 森の中へ

2005年11月14日 | 映画(ハ行)
 グリム兄弟が中世の贋ゴースト・バスターズとして描かれている。相当な遍歴を重ねている設定なのだがそれについては最初ワンエピソード紹介され、それ以降は本当のモンスター退治に駆り出されてしまう。

 特にそれがグリム兄弟である必要はまったくないのだが、話の端々に赤ずきんやジャックと豆の木、白雪姫、シンデレラ、ヘンゼルとグレーテルのイメージがちりばめられている。その後半のファンタジーがそれほど練られた話ではないので、むしろ贋物としての諸国遍歴話の方をじっくり見せて欲しかった気がする。

 なにしろテリー・ギリアム監督にとって、中世の遍歴ストーリーは得意分野であり、「ドン・キホーテ」などもってこいの題材なのだがこの企画は頓挫して、その作られなかった映画のメイキングがドキュメンタリーになるという前代未聞の出来事があったほどなのだから。

 ギリアム・ファンにはやや物足りない一作。ダーク・ファンタジーとしてみると本作に関する限りティム・バートンには一歩(というより数歩?)及ばない感じがした。

 おなじグリム作品をちりばめたブロードウェイ・ミュージカルの秀作「Into the Woods」(日本版:宮本亜門演出)が来年再演されるそうなのでこちらも楽しみにしている。

映画 「春の雪」

2005年11月02日 | 映画(ハ行)
 三島由紀夫の「豊饒の海」四部作中第一部の映画化だが、映画の方はシリーズになるとは思えないのでこれ独自で完結したものとみなすべきだろう。

 したがって原作のテーマ「輪廻転生」はすっぽり抜け落ちて純粋なラブストーリーに仕上がっている。とはいえ三島作品だけにドロドロした駆け引きの中に話が展開していく。

 仕掛けたつもりの自分自身がその罠の虜になってしまう悲劇が描かれるが、主人公の心がとても屈折しており、若者のそこまでの屈折に納得がいくかどうかで好き嫌いが分かれるだろう。

 役者では脇の大楠道代、岸田今日子と久々の若尾文子がさすがの安定感で見ごたえがある。またパンを多用したカメラワークが大きな効果をあげているように思った。

 原作は「輪廻転生」なので主人公が死なないことには次に続かないのだが、映画はむしろその逆のような暗示で終わる。そしてラストに宇多田ヒカルなのだが、どうなのでしょう?