”Espurnes D'Anima”by Eybec
こういうのをアンビエントなロックと言うんだろうか。その辺の語句の使い方もよく分からんのだけれど。ともかく、スペインの耽美なグループの幻想作。意外にこれは、酷暑に打ちのめされつつ聴いても良い感じの盤なのだった。
やや甘さを含んで、ゆったりと空に向って伸びて行く女性ボーカリストの歌声が美しい。 それをサポートするギターやキーボードは、時の止まったような世界で静かにたゆたいながら思索的なフレーズを紡ぎ出し、絡み合いながら不可視の宮殿を中空に築きあげる。
なるほどスペイン産と言うべきか、描き出された地平線まで広漠と続く荒れ果てた大地と、そこに降り注ぐ剥き出しの南国の陽光のイメージの中で、幻想のページが次々に開示されて行く。
メジャー・セブンス系のコードが多いのだろうか、キーボードが、コーラスが奏でる和音がゆっくりと渦巻きながら陽炎のようにうつろう。パーカッション群が、不意に巻き起こる埃っぽい砂漠の風の歌を歌う。そしてギターが異境の祈りの響きを弦でなぞる。
古代の祈りにも似た女性ボーカルは、もう見つけるすべもない、荒野の果ての幻想の宮殿に至る道の記憶を歌い上げる。
もう30年も前になるのか、スペインのプログレバンドのアルバムをポツポツ買い集めていた頃を思い出した。こんな風に、どのアルバムにもアフリカの陽光の強烈な陰影が差し込んでいたものだった。
一幅の完璧な幻想絵画が歌う古代の不思議な物語に、寝苦しい夏の一夜の無聊を癒してもらった、そんな一枚。