ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

サルサの裏庭にて

2010-08-04 03:51:44 | 南アメリカ

 ”Return On Wings Of Pleasure”by Pedro Padilla Y Su Conjunto

 もうほんとに毎日クソ暑くてだね、何の音楽を聴いていいのやらも分からず。しょうがないから、今夜は思い切り暑そうな国のCDを引っ張り出した次第。
 カリブ海の、ニューヨーク・サルサの故郷と私なんかはまずそういう認識しかないのだが、プエルトリコ島。そこの白人貧農の心の歌、ヒバロ音楽のアルバムである。フィーチュアされるのは、ヒバロ音楽を象徴するような民俗弦楽器、クアトロ。ボディだけ見るとギターに近いが、マンドリンみたいに複弦の4コースとなっている、中米音楽では、お馴染みの楽器である。この楽器を弾いてもう40年と言う Pedro Padilla 率いる楽団の、1997年度作品である。

 CDが廻り出すと、行きなりカリブ海の小島の土の香りが部屋に満ちる。お洒落な都会の響きなんかかけらも無い。いかにも田舎の、裸の民衆の歌、という感じだ。シンプルなパーカッションとギターの爪弾きに乗せて、クアトロが鄙びた味のソロを取り、歌い手たちのコーラスが始まる。
 クアトロはいかにもラテン音楽らしい華麗なる装飾音を大量に含んだフレーズを歌い上げるのだが、どうしても漂ってしまう貧しい島の哀感。それが胸に迫る。
 入れ替わり立ち代りソロを取る歌い手たちも、やや喉を詰めた発声に、どこか”カリブのブルース”などと呼びたくなってしまう重苦しい情熱が漲る。

 その中でいささか唐突に始まるのが、あの懐かしいライ・クーダーの70年代のライブアルバムで聞き慣れている切ないナンバー、”Volver,Volver”である。あれはメキシコの曲だろうに、なんでここでと思うのだが、カリブ海を囲むスペイン語文化圏というくくりの中で珍しいことではないのかも知れない。それにしても、この曲だけ澄んだ声の、いかにも村一番の二枚目といった歌い手に歌わせているのがいかにも、で楽しい。
 そういえば他にも、あまりにも地味なアレンジなんであんまり印象に残らなかったがメレンゲなんかも、彼ら村の楽団はこのアルバムの中で演奏をしているのだった。

 こんな素朴な音楽を胸の奥に抱いて、この島から大都会ニューヨークへ職を求めて旅立っていった若者たちがいたのだなあ、と思うと万感胸にに迫るものがある。そして出来上がったのが、あのシャープな都会の音楽、ニューヨーク・サルサ、というのが信じられないくらい、ペドロ氏の率いる村の楽団は、素朴な祝祭を繰り広げてくれたのだった。

 (You-tubeには残念ながらPedro Padilla楽団の演奏は見当たらなかったのだが、Pedro の作った曲をマンドリン・プレイヤーが演奏しているものがみつかった。プエルトリコの哀感の雰囲気だけでも、お味わいください)