ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

オイルシティ・メッシン・アラウンド

2009-08-17 01:36:12 | イスラム世界


 ”Timenna”by Abdullah Al Rowaishid

 ここのところ気になっている”アラブの白装束野郎”シリーズ(?)である。いや、そういうジャンルがあるのかどうか知らないが、独特の白い民族衣装に身を固めた男性歌手の盤は各種目につくしね。
 そして、クウェートの大歌手の本年作というこの白装束盤などは聴いていると、「ダブつくオイルマネーを持て余してろくでもない罪を重ねてしまった男たちのダルい午後のブルース」とか、勝手に副題を振ってやりたくなったのである。
 もちろんこちとらアラビア語はまるで出来ないんで、「どんな歌詞なのか?」の実際はなにも分らず、完全に言いがかりなのではあるが。

 ともかくなんか歌手自身にゴージャス感漂っているのである。ジャケ写真、袖口に覗くでかい(高価そうな、と言うより”でかい”とまず思える)腕時計やら、民族衣装に身を包んで豪華な革張りの椅子にそっくり返った際の決まり具合はどうだ。そしてこれはあのヴィン・ラディンなんかも同じものを感じるのだが、先祖代々スケールの違う金持ちであるがゆえにであろう、なんの屈託もなく伸びきった身長は、そして顔の長さはどうだ。

 まあこんな事、書けば書くほどこちらの品が下ると言うものだが、何しろ相手は地面を掘れば石油が出てくる国のヒト。どこを掘ったってなにも金目のものは出てこないから地味に働くしかない貧乏国国民の我々には当然の事としてさまざま僻む権利がある。なにしろ、このCDの演奏時間が77分越えているのも、お大尽からの施し、みたいに思えてしまうのだ、私など。

 独特の、粘着質の歌声の持ち主である。ムチのようにしなう独特のコブシの廻しが、妖しげな陰影を振り撒く。
 スローめの曲も多く、湾岸諸国風の華麗にして壮大なる、民族色濃いアラブポップ・サウンドをバックに、時にじっくりと囁くように迫る。ひっそりとウードがかき鳴らされ・・・ひときわヤバい雰囲気があたりに漂う。
 分厚いストリングスと女性コーラスをバックにするシャウトも、たとえばライの歌い手が行なう叫びとはまったく違う意味がありそうに響く。

 ウード一本をバックにじっくりと絡み合い、切々と語りつくす5曲目が勝負どころだろうか。彼ら一族の内なる、砂漠の遊牧民の魂と正面から向き合ったみたいな気分になるこの唄あたりからロワイシッド大尽の歌声は、グッと深みを増すように感じられるのだ。
 この盤で聴かれるウードは高名な奏者によるものなのだろうか。ここぞ!という瞬間に現われては忘れがたいフレーズ一閃を決めて行く。
 これまで接してきたアラブの歌謡世界には、まだまだ未知の広大な領域があるのだなと思わせる一枚と言えるだろう。

 民俗打楽器群がドクドクと脈打ちストリングスが波打ち、アラブの夜を独特のリッチ感と、それと裏腹な不思議な寂寥感に染め上げながら、ロワイシッドお大尽の粘着質の歌声がベッタリと渡って行く。冒頭にわざと書いてみたゼニカネ妄想はどこかに吹っ飛び、お大尽のボーカルはなんだか路上のブルース歌手のような切実さを持ってこちらの心に忍び入っている。こいつはクセになるかも知れない。