ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

仏教フォークは雲の上

2007-04-24 02:44:45 | アジア


 ”因此更美麗”by 齊豫

 その全体像を概要だけでも知りたいと思いつつも、相変らず茫洋たる謎の空間として存在し続ける、”東アジアの仏教系ポップス”シーン。
 いや、”シーン”と名付けるのが可能なほどの明確な形があるのやら、それ自体も分かりませんが。ともかく、仏教の影の差す大衆音楽が東アジアのあちこちに存在しているのだけは事実。
 とりあえず、その方面の一方の宝庫と言えそうな台湾からの一作を。2004年盤。

 ”齊豫”と書いて”チー・ユィー”と発音するようですが。台湾の美声歌手として、もう長いキャリアを重ねている女性であります。でも、見かけも声も凄く若々しくて、長いキャリアって実感が湧かない。このアルバムでも、御仏の前で歌を奏上するにふさわしい清浄な乙女の歌声を聞かせてくれます。

 収められているのは”懺悔文””大吉祥天女””般若波羅密多心経”の3曲のみ。とは言え、全体の収録時間は普通のCDと変わらないのであって、一曲一曲がいかに長いか。音盤一枚の中に、まことに悠揚たる時間が収められているわけですねえ。

 音楽的には、台湾独特のフォーク歌謡が基本となっているんですが、ほのかに読経っぽいニュアンスのメロディと感じられないこともない。ピアノ、生ギター、シンセなどが穏やかな起伏を織り成しながら静かに奏でられるうちに、そんなメロディがゆったりと歌い上げられて行く。一言一言をじっくり時間と想いを込めて。

 ラストの”般若心経”は、例のあのお経に曲を付け、全編歌ってしまうんですが、なにしろ「ギャーティギャーティハラギャーティ」なんてインパクト強い発音のお経なんで、どんな具合かと心配(?)したのですがね、聞いてみると実に愛らしいフォーク調のメロディが付けられている。このあたり、日本人との感覚の違いですかねえ。

 ともかく悠然たる時間の流れるこのCDのペースに気持ちを合わせて聴いていると、せわしない現世から離れて、水墨画なんかであるでしょう、山紫水明なる深山幽谷に庵を結んで瞑想にふける高僧にでもなった気分で、心洗われるんですなあ。