ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

アフリカ最強の歌手、アインラ・オモウラ!

2005-11-20 04:29:00 | アフリカ


 我が最愛のアフリカ人歌手について。ナイジェリアのアパラなる音楽の歌い手、アルハジ・アインラ・オモウラ(Alhali Ayinla Omowura)である。

 アパラという音楽の説明がなかなか難しい、というか私にもよく分かっているとは言いがたいのだが、まあ、とりあえずはっきり言えるのはナイジェリアのイスラム系の文化内から生まれた音楽である、ということか。そもそもオモウラの名の冒頭に付いている”アルハジ”は、「メッカに巡礼の経験のあるイスラム教徒」を意味する尊称であると聞く。

 イスラム世界の日常において、コーランを独特の節回しで詠唱する声など聴かれたことがあるかと思うが、あの節回しと同じような調子で歌い上げられる、語り物と解釈すれば良いのか、アフリカ版の強力にリズミカルな浪曲といった代物である。バックを担当するのは、ナイジェリア音楽につきもののトーキング・ドラムと、他の地域のそれと比べて大分低く、ゴンゴンといった感じで鳴る親指ピアノを中心にしたパーカッションばかりの、コーラスも兼任するらしい20人にも及ぶ”バンド”である。

 ともかく凄まじい迫力のオモウラの歌声と音楽なのであって、冒頭、ストトンと挨拶代わり(?)のトーキングドラムの一叩きがあり、それとともにパーカッション群が複雑に交錯しあったまま強力なスピード感でなだれ込む。と同時に、イントロもなにもあったものではない、オモウラの、歌うというよりは吼えるという表現の方が似つかわしい、鋼の喉から飛び出す、強力にうねるコブシを伴ったボーカルがもう頭から爆発する。

 どうやら基本はコール&レスポンスの形を取る音楽のような気もするのだが、オモウラの歌声もバックのコーラスも、休むことなく吼え続ける。アナログLPの片面すべてを中断することなく一息に、そのままの勢いで歌いきってしまうパワーには恐れ入るしかない。LPの片面を一気にと書いたが、何曲かがメドレーになっている構成であり、その曲のチェンジの瞬間、バンドのリズムがズム!と切り替わる瞬間などは、何度聞いても血が騒ぐ思いする。
 これほどの力強い疾走感を持って迫る音楽といえば、坂田明などがいた頃の、一番強力だった山下洋輔トリオの演奏くらいしか比べようもないだろう。

 冒頭にも書いたが、アパラなる音楽の細かい定義が、もどかしい事ながら分からない。ナイジェリアには、これもマニアが少なくないフジ・ミュージックなど、アパラと同様の構造を持ったパーカッションとボーカル中心の音楽が数多くあるようであり、それらがそれぞれどのような定義によってジャンル分けされているのか、せめて知りたく思うのであるが。

 ちなみにオモウラは、そのキャリアの絶頂期にマネージャーとギャラに関して揉め、酒の席で殴り殺されるという、これも大衆音楽のヒーローにはある意味似つかわしい(?)壮絶な人生の終え方をしている。なんとも惜しい話で、せめて彼の残したレコーディングが残らず公にされることを期待したいが、それどころか、何枚もの傑作アルバムのCD再発さえまともに進んでいる気配はなく、これもなんとも口惜しい話ではある。