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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

いせひでこ「ルリユールおじさん」絵本原画展@丸善

2008-03-03 16:05:32 | 好きなもの・美術館や展覧会

春めいてきた3月最初の日曜日、ルリユールおじさんの原画と
いせひでこさんのギャラリートークを聴くために、丸善日本橋店に
行ってきました。

サイン会の整理券を貰うために、昼過ぎ、東京駅からお店へ直行し、
本を買ったあとに、ソーキソバを(また)食べるために駅へと戻り、
午後3時からのトークを聴くために、2時半頃にまた丸善へ。
椅子席30名はすでに埋り、ギャラリー内も多くの人でごった返していました。

正直に言いますと、私は昨日まで伊勢英子さんという方とその著作を
そう多くは知りませんでした。(ルリユールおじさんと、よだかの星
水仙月の四月くらいしか)そんな私が、40分弱のお話を聴いているうちに
すっかり伊勢英子さんが好きになり、その本を隅から隅まで読んでみたいと
いう気持ちになりました。

感じたことを感じたままに、思ったことを思ったようにお話になる伊勢さんの
「姿勢」が私に伝わり、私の体の中に響き渡ったからこそ、たったの40分ですっかり
「好き」になってしまったのだと思います。遠くから眺めていたのではわからないことが
話すという手段によって、こんなにも近くへ人を引き寄せるのだということを
あらためて知ったのでした。

サイン会で、娘の名前を本に書いていただいた時、伊勢さんが
「お嬢さんもお話を聴いてくださったの?」とrに聞いてくれました。
はい、聴きましたの返事を受けて、「お子さんが一緒に話を聴いてくれるのが
一番嬉しいんです。そう、聴いてくれたのね、ありがとう」とおっしゃって
くださいました。
その言葉からも、伊勢さんが、自分の言葉で自作を語ることを大切に
しているのだということがわかります。

さて、肝心のルリユールおじさん、です。

伊勢さんは、ある日ある時のパリ旅行で、偶然ひとつの窓に惹きつけられた
のだそうです。ルリユールという仕事も知らず、その窓の奥がその工房だと
いうことも知らずに。
だから、取材をさせて欲しい、仕事の様子をスケッチさせて欲しいと
頼んだときには、ストーリーどころか、構想も何もなかったのだそうです。

ルリユールおじさんの、絵本をお持ちの方は、「もうひとつの表紙」を
よくご存知だと思いますが、そこにある手はもちろんモデルとなって
くれたM氏の手です。
ルリユールという仕事は、60工程にも渡るすべてが手作業で行われる
仕事です。伊勢さんは、作業中のM氏に文字通りくっついて、クロッキー
にクロッキーを重ねたそうです。それこそ1枚が10秒かかってなかった
というスピードで。
原画を仕上げるときには、それらのクロッキーやらデッサンやらを元にして、
何度も何度も描き直して1枚の絵として完成させるわけですが、
「もうひとつの表紙」の手だけは、どんなに書き直しても、最初に
パリの工房で描いたクロッキーを越えることはできなかったそうなんです。

この話は、その日のトークの中で最も私の印象に残った箇所でした。
表紙の手を見ることで、その手が描かれた時の、パリの工房の空気を
私も、感じ取ることができるように思ったからです。
すごく気持ちが高揚しました。
人の手を通して描き出された絵によって、その場所に存在していなかった
私たちが、まるでその時を共有してたかのような錯覚に陥ることができるのです。


ルリユールと出会い、本にしようと思い、実際に本となるまでは
何年もの時間がかかったそうです。
もうひとつの『ルリユールおじさん』として、この本を合わせて読んでくれると
パリでの生活の様子などもよくわかってもらえると思うとおっしゃっていました。

旅する絵描き―パリからの手紙
  『旅する絵描きーパリからの手紙』



絵について、ほとんど触れてませんでしたー。
もちろん美しい水彩画でした。実際の本に使われていない場面もあり、
それらもあわせて楽しめました。3月5日まで展覧会は行われています。


それと、嬉しいニュースを聞いたのでお知らせします。
4月終わりから5月の初めにかけて、丸善丸の内店で、
新作の『にいさん』の原画展が開催されるそうです。

にいさんとは、画商テオの「にいさん」だから、ヴァン・ゴッホのことですね。

伊勢さんの、ゴッホとテオに関する著作もこれから読んでいきたいなあと
強く思っています。



コメント (8)
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