報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「少女達の密会 ~昼の部~」

2022-03-24 15:08:38 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月5日16:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 斉藤家1F応接間]

 オパール:「失礼致します。お茶のおかわりをお持ち致しました」
 愛原:「ありがとう」

 私は社長が帰って来るまで、応接間で待ちぼうけをさせられることになった。
 思えば、リサが絵恋さんに会う為に来たようなものであるので、私はオマケみたいなものだ。
 粗方、斉藤社長とは丸の内の本社で話が終わっているし。
 仕方ないので、土曜日であるが、私は善場主任に連絡した。
 といっても、メールのやり取りである。
 私が今、斉藤社長の家にいることを伝えると、主任は、なるべくデイライト側の動きを探らされないように、しかし斉藤社長の動きは探るように頼まれた。
 それにしてもヒマだ。

 オパール:「旦那様は先ほど、会社を出られました。今、こちらに向かっておられます」
 愛原:「分かりました」

 ハイヤーで戻って来るつもりかな。

 愛原:「リサは上の部屋かな?」
 オパール:「はい。御嬢様と過ごしておられます」
 愛原:「そうか。私も行ってみていいかな?」

 するとメイドのオパール、困惑した様子になった。

 オパール:「も、申し訳ございません。御嬢様から、『誰も部屋に近づけるな』との厳命でございまして……」
 愛原:「ほお……?と、言いますと?」
 オパール:「御嬢様はリサ様との2人きりの時間を、それはもう楽しみにしてございました。従いまして、例え愛原先生であっても、部屋に入れてはならぬという厳命を下されたのです。ですので、どうかご理解ください」
 愛原:「部屋で仲良くゲームでもやっているというレベルじゃないね、それは?」

 私が中高生の頃は、友達の家でよくゲーム三昧であったが……。
 桃鉄でキングボンビーが出た時の、人間関係崩壊の序章は今でも忘れられない。

 オパール:「は、はあ……」
 愛原:「部屋で何をしているのか、教えてもらえないかな?」

 リサの事だから、恐らく絵恋さんの老廃物と血液を啜っているのだろうが……。
 具体的には血中に含まれている老廃物といった方がいいか。
 これがリサが考え抜いた、合法的に血液と遺伝子を飲食する方法だった。
 マッサージと称して血管内にいくつもの細い触手を刺し込み、そこから血中老廃物と血液そのものを啜るのだ。
 リンパマッサージやリフレクソロジーだって、正に血中の老廃物を流すのが目的だから、それに被せたものだ。
 そして実際、リサに老廃物を吸い取られた後は、確かに血液がサラサラになっている感じはする。

 オパール:「具体的には申し上げにくいのですが……『運動』とか……」
 愛原:「それは18歳未満閲覧禁止の内容に抵触するものなのだね?」
 オパール:「えー……それは……」
 愛原:「部屋に案内してもらおうか!」
 オパール:「あっあっ、愛原様!どうかお待ちくださいませ!厳命が……」
 愛原:「高校生には禁止されている行為は止めるのが保護者というものだ!」

 私は応接間を出ると、3階へ上がる為にエレベーターに向かった。
 上のボタンを押すと、エレベーターがスーッと下りて来る。
 が、それは私の目の前を通過して下へ向かって行った。
 そして、窓からはリサと絵恋さんの姿が見えた。

 愛原:「んん!?今のはリサ達じゃないか?どこへ向かったんだ?」
 オパール:「恐らく、地下のプールまたはフィットネスルームかと思われます。御嬢様の御命令で、温水プールを稼働させておりますので」
 愛原:「リサの奴、水着なんか持ってきたのか」

 この家に行くことは予定済みではあったが……。

〔上に参ります〕

 そしてエレベーターが折り返してくる。
 その中にリサ達の姿は無かった。
 私はオパールを伴って、3階へ向かった。

〔ドアが閉まります〕

 思えば、屋敷の主人の娘の部屋に勝手に行くのも、それはそれでどうかとは思うが……。
 3階に着いて、私は絵恋さんの部屋に向かった。
 すると……。

 ダイヤモンド:「まあ!愛原様、どうなさいました?」

 部屋の掃除をしているダイヤモンドの姿があった。

 愛原:「リサ達は地下に行ったのか?」
 ダイヤモンド:「はい。こちらでの『お遊び』が一段落しましたので、今度はプールに入ろうかということになりました」
 愛原:「それで、何で掃除してるの?」
 ダイヤモンド:「御嬢様に後片付けを頼まれたものでして……」

 どうやら、激しい『運動』をしたようだな。
 リサが着ていた制服は無造作に脱ぎ捨てられ、そして窓が開けられて換気中とはいえ、微かにリサと絵恋さんの体臭の匂いがした。
 ここで汗をかくほどの『運動』をしたことに他ならない。

 愛原:「……分かった。だいたい、予想通りだと分かったよ。リサは水着なんか持って来たかな……」
 ダイヤモンド:「お持ちのようです。『学校のを持って来た』と仰っておりましたので……」
 愛原:「何だかんだ言って、リサもリサで楽しんでるみたいだなぁ……」
 オパール:「愛原様……」
 愛原:「分かったよ。俺は下に戻る」

 私は絵恋さんの部屋をあとにした。

 愛原:「待てよ。プールは?」
 オパール:「プールでございますか?」
 愛原:「部屋は立入禁止だって、命令してたじゃない?」
 オパール:「はい」
 愛原:「プールも立入禁止っていう命令はしていた?」
 オパール:「少々お待ちください。今、確認を……」
 愛原:「いや、待ってくれ。絵恋さん本人に確認すると、『そうね。忘れてたわ。プールも立入禁止』とか言いかねん。他のメイドさん達がそれを聞いているか確認してくれ」
 オパール:「かしこまりました」

 オパールは今日出勤しているメイド達に確認した。

 オパール:「お待たせ致しました。私も含め、他のメイド達も御嬢様からそのような命令は承っていないとのことです」
 愛原:「よし、分かった。ありがとう」

 私はエレベーターに乗り込むと、地下階のボタンを押した。

 オパール:「行かれるのですか?」
 愛原:「プールの中で、ヘタすりゃ溺死するかもしれん危険な『運動』をしているかもしれんだろ?それを止めに行くのが保護者たる私の使命だ」

 私は地下のプールへ向かった。
 案の定、2人の少女達は、せっかく着て行った水着を脱いで全裸水泳ばかりか、【ぴー】や【ぴー】、おまけに【あらあら】【うふふ】なことをしていたので、強く注意をした。
 それに驚いた絵恋さんがびっくりして足を攣り、却って溺れるという結果を招いてしまったが、すぐにリサが助けに入ったので事なきを得たのであった。
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“私立探偵 愛原学” 「斉藤家を訪問」

2022-03-22 20:54:50 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月5日13:42.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅]

 私達を乗せた宇都宮線電車は、順調に大宮駅に接近した。

〔まもなく大宮、大宮。お出口は、右側です。新幹線、高崎線、埼京線、川越線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。電車とホームの間が広く開いている所がありますので、足元にご注意ください〕

 愛原:「そろそろ到着だな。降りる準備をしよう」
 リサ:「うん」

 2階建てグリーン車の1階席と2階席は天井が低い為、荷棚が無い。
 なので、荷物は床の上に置くことになる。
 リサはバッグを床に置いて、足の間に挟むようにして置いていた。

〔「今度の高崎線下り、特別快速、高崎行きは、11番線から13時51分。その後、普通列車、高崎行きは、8番線から13時55分。川越線、各駅停車、川越行きは、21番線から13時51分の発車です。……」〕

 愛原:「なあ、リサ」
 リサ:「なに?」
 愛原:「よく、女子中高生が電車で立つ時に、鞄を床に置いて足の間に挟んだりするだろう?」
 リサ:「あるね。わたしもよくやるよ。サイトーは御嬢様だから、『そんな床に置くなんて汚い』なんて言ってるけど」
 愛原:「だろうな」
 リサ:「それがどうしたの?」
 愛原:「いや、その鞄にカメラを仕掛ければ、いかにも『JC・JKスカート盗撮』とかできるよなぁ……なんて」
 リサ:「! 先生、わたしので良かったら、カメラ貸してくれれば、それやってあげる!」
 愛原:「いや、そうじゃないんだ。そう考えると、まさかとは思うが、ワザとやってて金を稼ぐ悪いコなんかいるのかなぁって思うんだ」
 リサ:「あー……」

 リサは素直には答えなかった。
 答えなかったということは……。

 リサ:「まあ、金に汚いヤツはどこにでもいるから」
 愛原:「リサの学校にもいるのか!?」
 リサ:「お察しください」
 愛原:「こら!」

 そして、電車が駅に到着する。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ、大宮です。車内にお忘れ物の無いよう、お降りください。9番線の電車は13時43分発、宇都宮線の普通列車、宇都宮行きです。終点の宇都宮まで、各駅に止まります」〕

 私達は電車を降りた。
 さすがグリーン車は恵まれていて、車両のすぐ前が階段である。
 ……できれば、エスカレーターかエレベーターがあった方がいいな。

 JK1:「この人、痴漢です!!」
 愛原:「ん?」
 リサ:「?」

 階段を昇ろうとしたら、何か騒ぎが起きた。
 隣の6号車はロングシートの普通車であるが、そこから降りて来たJK3人が気弱そうなサラリーマン風の男性を捕まえて降りて来た。

 リーマン:「そ、そんな……わ、私は何も……。だいいち、こんな空いてる車両で痴漢なんて……」
 JK2:「うそ!今さっき降りる時に私のお尻触りましたよね!?」
 リーマン:「そ、それは、キミ達の方から近づいてきたんじゃないか……」
 JK3:「オジさん、ケーサツに来てもらうからね!」
 リーマン:「そ、そんな……警察は……」

 どうやら痴漢騒ぎらしい。
 しかし、サラリーマンの言う通り、土曜日の午後の下り電車で、痴漢ができるほど混んでいるだろうか?
 それとも、グリーン車の前後は混みやすいと聞いていたので、そうである6号車は混んでいたのだろうか?
 それに、JK達は制服姿だったが、その制服は……リサが着ているものに酷似していた。

 リサ:「あれは5組の菱川達!」
 愛原:「知ってるのか?クラスが違うのに……」
 リサ:「さっきわたしが話した、『金に汚い奴ら』だよ。クラスは違っても、そんな噂が聞こえるほどだってこと」
 愛原:「最近のJKは怖いな……」
 リサ:「今も昔も、だよ」
 愛原:「えっ?」
 リサ:「……って、“花子さん”が言ってた。ちょっと行って来る」
 愛原:「え?おい……」

 リサは騒動の現場に向かった。

 菱川:「いいからオッサン、さっさと来な!示談にしてやっからよ!」
 リーマン:「か、カンベンしてください……」
 愛原:「菱川、また金に汚いことやってるの!」
 菱川:「あぁ?……あっ!オマエは3組の愛原!」
 JK2:「誰?」
 菱川:「3組の『終焉の始まり』、愛原リサだよ!」
 JK3:「ええっ!?あいつが!?」

 リサの通り名の由来は、“リサのテーマ”のモデルが“終焉の始まり”という曲名だからである。
 https://www.youtube.com/watch?v=BayW7aXI0zI

 リサ:「また痴漢冤罪で稼いでるの?」
 菱川:「またとは何!?」
 リサ:「この前は池袋駅でも同じことやってなかったっけ?」
 菱川:「はあ!?」
 リサ:「更にその前は、秋葉原駅でもやったんだって?確か、渋谷駅でもやったって聞いてるけど?」
 JK2:「ちょっ……!何でコイツ知ってんの!?」
 菱川:「バカ!黙ってろ!」
 JK2:「あっ……」
 愛原:「あんた、今のうち逃げろ!」
 リーマン:「それでも僕はやってましぇーん!」
 菱川:「愛原!後で覚えてろよ!」
 愛原:「『終焉の始まり』を直に体験したい?」

 痴漢冤罪JKグループは立ち去った。

 愛原:「よくやったと褒めたいが、大丈夫か?ああいうのは、必ず復讐してくるタイプだろ?」
 リサ:「先生、わたしを誰だと思ってるの?日本版リサ・トレヴァー『2番』だよ?」
 愛原:「わ、分かっているが、彼女らをゾンビにしてはいかんぞ?もちろん、食い殺してもダメだ」
 リサ:「分かってるよ。早く行こう」

 私達は階段を昇った。

[同日15:15.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 斉藤家]

 駅前のタクシー乗り場からタクシーに乗って、斉藤家に向かう。
 タクシーとしてはあまり乗り心地の評判は良くない、商用バンタイプのタクシーだが、贅沢は言っていられない。
 それで、斉藤家の正門前に着けてもらう。
 この前バスで来た時は、わざわざバス停まで迎えに来ていた絵恋さんも、さすがにタクシーでは迎えに来ないか。
 私がタクシーチケットで料金を払い、後から降りると、既にリサは門扉の横のインターホンを押していた。

 ダイヤモンド:「いらっしゃいませ、愛原様」
 サファイア:「お待ちしておりました。どうぞ、お上がりくださいませ」
 オパール:「絵恋御嬢様も、首を長くしてお待ちしておりました」
 リサ:「! サイトー、いつの間にBOWになったの!?首を長く伸ばせるの!?」
 愛原:「ンなワケない。あくまでも、比喩だよ」

 すると、バタバタと絵恋さんが家の奥から走ってきた。

 絵恋:「リサさん!?」
 リサ:「サイトー、また来た。歓迎よろしく」
 絵恋:「もちろんよ!なに!?絵恋さん、何で来たの!?」
 リサ:「何って、タクシーだけど?」
 絵恋:「タクシー!?おかしいわね。黒い車、全てチェックしてたけど、タクシーなんて……」
 愛原:「ああ、そうか。いやね、絵恋さん、今日は、大宮のタクシーにしては珍しく、黄色い車で来たんだ」

 確かに大宮駅の東西で客待ちしているタクシーの、9割以上は黒塗りである。
 残り1割以下に、シルバーやイエローがある程度だ。

 絵恋:「そ、そうだったんですか」
 リサ:「サイトー、ゴメン」
 絵恋:「い、いいのよ」

 それより絵恋さんは、どうやってチェックしていたのだろう?

 リサ:「それよりサイトー、話がある」
 絵恋:「な、なに?ケッコンの話なら……」
 リサ:「違う。5組の金の亡者、菱川達のことだ」
 絵恋:「ああ。世の中、金が全てで、金で買えない物は無いって本気で言ってる人達だったっけ?それがどうしたの?」

 リサは手短に、大宮駅であったことを話した。
 すると絵恋さん、サッと表情が変わる。

 絵恋:「へぇ~……。リサ様に、よくもまぁケンカ売ってくれたわねぇ……」
 愛原:「リサ……様!?」
 リサ:「サイトーの金の力で、あいつらを痛い目に遭わせてほしい。報酬は『一晩のお付き合い』」
 絵恋:「リサ様の御命令!お任せを!」

 絵恋さんは自分のスマホを取り出した。
 そして、どこかに連絡し始めた。
 わ、私は知らんぞ。
 最近のJKは怖いねぇ……。
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“私立探偵 愛原学” 「斉藤家へ」

2022-03-21 19:59:06 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月5日13:08.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅・上野東京ラインホーム]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の7番線の列車は、13時9分発、普通、宇都宮行きです。この列車は、15両です。グリーン車が付いております。……〕

 話が終わった後、昼食を挟んで、今度は斉藤家へ向かうことになった。
 絵恋さんがどうしてもと、社長の携帯に何度も掛ける始末だったからだ。
 私とリサが了承すると、社長は済まなさそうにしていた。
 お詫びと御礼の印として、昼食はビル内のレストラン街で鰻重を御馳走してくれた。
 久しぶりの鰻に私は舌鼓を打ったが、魚介類より肉類の方が好きなリサは物足りなさそうにしていた。
 しかも斉藤家に向かう為に、わざわざ大宮までの新幹線のキップを秘書さんに取らせようとしていた有り様だ。
 私達に気を使ってくれるのもあるのだが、それほどまでに娘さんを溺愛していることに他ならないと私は思った。
 折衷案として、在来線のグリーン車のキップと大宮駅からのタクシーチケットだけをもらうことにした。
 これなら、新幹線よりも安く済む。

〔まもなく7番線に、普通、宇都宮行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまで、お下がりください。この列車は、15両です。グリーン車が付いております。……〕

 尚、斉藤社長はまだ残務処理があるので、会社に残るとのこと。
 夕方には帰るそうだ。
 中距離電車のグリーン車は、4号車と5号車にある。
 つまり、中間車だ。
 そこにリサを無断で乗せるのは協定違反になるので、善場主任に伝えておいた。
 善場主任は、私とリサが斉藤社長と会社で会ったことに驚いていたが、グリーン車への乗車は了承された。

〔「7番線、ご注意ください。宇都宮線の普通列車、宇都宮行きが到着致します。終点、宇都宮まで各駅に止まります」〕

 風を切って15両編成の電車が入線してくる。
 そろそろ昼間は暖かくなる頃だが、風は冷たいし、朝晩は冷える。
 にも関わらず、リサはもうコートを着ていなかった。
 ブレザーの下には、ニットのベストは着ているが……。
 BOWは、暑さ寒さはそんなに感じないらしい(ただ、さすがに火は熱いと感じるようだが)。

〔とうきょう、東京。ご乗車、ありがとうございます。次は、上野に止まります〕

 ドアが開くと、ここまでの乗客達が降りて来る。
 東海道本線の平塚駅から来た電車ということもあり、そんなに混んでいなかった。
 そもそも、下車客が多いので。
 また、高崎線よりも宇都宮線の方が空いている傾向にはある。
 5号車に乗り込み、2階席へ向かった。
 リサが先にホイホイと乗り、少し急な階段を昇ったので、私の顔にリサのスカートの裾が当たった。

 リサ:「ここがいい」
 愛原:「そうか」

 進行方向右側。
 窓側にリサが座り、通路側に私が座る。

 リサ:「あ……」
 愛原:「どうした?」
 リサ:「ジュースとお菓子買うの忘れた……。サイトーとLINEに夢中で……」

 リサはガックリと肩を落とした。

 愛原:「しょうがない。車内販売が来たら買ってやるよ」
 リサ:「本当!?」
 愛原:「ああ。どうせ紙のグリーン券だから、アテンダントが改札に来るはずだ。その時、買えばいいさ」
 リサ:「なるほど。分かった」
 愛原:「俺の見立てでは、上野駅を出た辺りに来るな」
 リサ:「どうして上野駅?」
 愛原:「まず、東京駅はターミナル駅だから、結構な乗り降りがあっただろ?」
 リサ:「うん」
 愛原:「次の上野駅もターミナル駅だから、結構な乗り降りがあるはずだ。なので、東京駅を出た時よりも、上野駅を出た時にグリーン券のチェックをやった方が効率がいい。俺がアテンダントだったら、そうするね」
 リサ:「なるほど。さすが先生。名推理」
 愛原:「いやいや。ただの鉄ヲタ知識だよ」

 などと得意気になった私だったが、もし当てが外れて上野駅を過ぎてもアテンダントが来なかったらどうしようと少々不安になった。

[同日13:16.天候:晴 東京都台東区上野 JR宇都宮線1590E列車5号車内]

 電車は上野駅を定刻通りに出た。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は宇都宮線、普通電車、宇都宮行きです。4号車と5号車は、グリーン車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください。次は、尾久です〕

 アテンダント:「失礼します。グリーン券はお持ちでないでしょうか?」
 愛原:キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
 リサ:「? 先生、グリーン券だって」
 愛原:「お……おっと!」

 私は急いでグリーン券を差し出した。

 アテンダント:「ありがとうございます」

 アテンダントは先に出したリサのグリーン券に、青い改札印を押した。
 駅で押される改札印は赤だが、車内で押されるのは青である。
 これはJRバスも同じ(だが、JRバステックではQRコードを読み取るだけで、改札印の押印も無ければ、乗車券の回収も無かったと作者の体験談)。

 リサ:「車内販売やってる?」

 リサはアテンダントが持っているバスケットを見て言った。

 アテンダント:「はい、ございますよ。何になさいますか?」
 リサ:「……レモンドーナツ。あと、ボトルコーヒー」
 アテンダント:「ありがとうございます」

 レモンドーナツとは栃木県の地産品の1つらしい。
 期間限定での販売だ。
 しょうがないので、私も1つ頂くことにした。
 あとは、私も缶コーヒー。

 アテンダント:「ありがとうございました」

 購入した後で、早速食べてみる。

 愛原:「レモンの味だ……」
 リサ:「酸っぱ!……でも、ドーナツ美味しい」
 愛原:「そりゃあ良かった」

 どうせ斉藤家でも、お茶とお菓子で接待してくれそうだがな。
 あ、それとも、歓迎されるのはリサだけかな。
 
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“私立探偵 愛原学” 「新たなる疑惑」

2022-03-21 15:20:43 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月5日10:00.天候:晴 東京都千代田区丸の内 大日本製薬東京本社]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を営んでいる。
 今日は土曜日だが、斉藤社長に呼ばれた。
 それも、自宅ではなく、会社である。
 不思議なのは、リサは呼ばれて、高橋は呼ばれなかったこと。
 しかも何故か高橋とパールには、ディズニーリゾートのペアチケットが送られ、そこへ行けという有り様だった。

 愛原:「一体……斉藤社長は何を考えている?」

 丸の内へ向かうタクシーの中で、私は終始、斉藤社長の真意について考え込んでいた。
 隣には制服姿のリサがいる。
 さすがに土曜日とはいえ、私服で行くわけにはいかないだろう。

 運転手:「お客様、あそこが夜間通用口の前ですが……」
 愛原:「あっ、ああ。じゃあ、そこで止めてください」
 運転手:「はい」

 週末はオフィスビルの正面エントランスは閉鎖されている。
 この場合は、夜間・休日通用口を出入りすることになる。
 それは大抵、防災センターの出入口だったりする。

 愛原:「それじゃ、タクシーチケットで……」
 運転手:「はい、ありがとうございます」

 私は社長が寄越してきたタクシーチケットで、料金を払った。
 先にリサが降りる。

 愛原:「ここから入るのは初めてだ……」

 後から降りた私は、リサを伴ってビルの防災センターの入口に向かった。

 愛原:「こんにちは。大日本製薬の斉藤社長とお会いする約束で伺った、愛原と申しますが……」

 私は防災センターの受付にいる警備員に言った。

 警備員:「愛原様ですね。まもなく、秘書の方が来られると思いますので……」
 愛原:「あ、そうですか」

 土曜日でも秘書さんがいるとは……。
 まあ、社長が出勤しているのだから、必然的に秘書さんも出勤になるのか。

 秘書:「お待たせ致しました。ご案内致します」

 そこへ秘書さんがやってきて、私とリサの入館証を持って来た。
 一般の入館者と違い、役員室エリアに入れるゴールドカードだ。
 秘書さんに付いて行くと、エレベーターホールがあった。
 しかし、呼び出す時にIDカードを読取機に当てないと、エレベーターが呼べないらしい。
 それは秘書さんのカードを使用した。
 そして、エレベーターに乗り込む時もカードが必要だ。
 1階から乗り降りする場合は必要無いのだが、1階はそもそもエレベーターホールに出入りするのにセキュリティゲートがあるからだ。
 エレベーターで一気に役員室エリアまで上がる。

 リサ:「耳がキーンってなる……」
 愛原:「地下1階から地上30階まで一気に上がるからな」

 エレベーターを降りると、地味で如何にもバックヤードといった感じの地下1階と比べ、30階はエグゼクティブといった感じのシックな装飾になっている。

 秘書:「こちらでお待ちくださいませ」

 豪華な応接室に通される。

 愛原:「さすが、うちの事務所のソファよりふかふかだな」
 リサ:「お尻が沈み込むから、足開いちゃう。パンツ見えちゃうよ」
 愛原:「じゃあ、足開くなよ」

 社長が来るかと思いきや、再び秘書さんが現れた。

 秘書:「お待たせ致しました。愛原学様、こちらへどうぞ」

 応接室と社長室は繋がっている。

 愛原:「あ、はい。……って、このコもですよね?」
 秘書:「いえ、愛原学様だけです。お連れの方は、こちらでお待ち頂くようにと……」
 リサ:「ええっ!?じゃあ、わたし何で呼ばれたの!?」
 秘書:「申し訳ありませんが、社長の御命令ですので……」
 愛原:「まあ、いいや。リサ、ちょっとここで待っててくれ。どうせ、すぐ隣の部屋だから……」
 リサ:「ぶー……」

 私も不思議な感じを持ちながら、隣の社長室に入った。
 社長室に入ると、秘書さんはドアを閉めた。

 斉藤秀樹:「やあやあ、愛原さん、ようこそお越し下さいました」
 愛原:「いいえ、社長。失礼します」
 秀樹:「どうぞ、お掛けください」
 愛原:「ありがとうございます」

 私は社長室内にある応接セットのソファに腰かけた。
 すぐに秘書さんがコーヒーを持って来てくれる。

 秘書:「お連れ様には、ジュースをお出ししてございますので」
 愛原:「あ、ありがとうございます」
 秘書:「失礼します」

 秘書さんが退出すると、社長が口を開いた。

 秀樹:「引き継ぎ業務で多忙なものでしてね。時間の空いている、土曜日に来て頂いた次第です」
 愛原:「そうでしたか。それで本日は、どんな御用件で?」
 秀樹:「単刀直入に伺います。あなたの助手、高橋正義氏とは一体いかなる人物ですか?」
 愛原:「は?」
 秀樹:「私には、どうしても白井伝三郎を事故死させたのが偶然とは思えないのですよ。しかも、本人達は無傷ときています」
 愛原:「それは私も同意見ですが……。しかし、本人はあくまで偶然を主張しています。もっと詳しく言えば、パールに促されたとのことですが……」
 秀樹:「恐らく、そのようなことはないでしょう。私自身は高橋氏が何らかの理由で白井伝三郎の現在地を知り、何らかの理由で車を衝突させ、事故死させたと見ています」
 愛原:「……!」
 秀樹:「愛原さん。差し支えない範囲で構いませんので、高橋氏の事を教えて頂けないでしょうか?」
 愛原:「は、はあ……。あいつは……」

 そういえば私、あいつのことはあまり詳しく知らないんだった。
 新潟県出身で、お世辞にも良い家庭環境とは言えない所で育ち、そのせいでグレて少年鑑別所から少年刑務所までコンプリートしたことくらいだ。
 それにしても、不思議な所が1つある。
 今あいつは住み込みの弟子をしているが、住み込み初日、あいつは……。

 愛原:「……私に惜しげも無く、1000万円をドンと置いたんですよ。そして一言、『部屋代なら前金でお支払い致します』と」
 秀樹:「……複雑な家庭環境に生まれ育ち、矯正施設に何度も出入りしたような元・少年犯罪者が1000万円の大金ですか。その時、愛原さん、不思議に思わなかったのですか?」
 愛原:「思いましたが、あの時は今よりも経営状態が逼迫していたので、あまり深く追及することはしなかったのです」
 秀樹:「そうでしたか」

 斉藤社長は高橋を怪しんでいる。
 確かに不思議な所はあるが、都合良く白井伝三郎の車に正面衝突させた上、死なせながらも自分は無傷ってところは怪しい。

 愛原:「パールはどうなんでしょう?高橋の車に同乗していて、同じく無傷でしたが……」
 秀樹:「パールについては、うちの家事使用人なので、私の方で調べます。しかし、高橋氏については、あなたよりも知らない。そこで、教えて頂きたいわけです」
 愛原:「そうですね……。それでは、私の知っていることをお話しさせて頂きます」

 私は高橋と出会った時から、今までの事を話すことにした。
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“愛原リサの日常” 「斉藤秀樹と白井伝三郎」

2022-03-21 13:21:23 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2021年12月30日22:00.天候:雪 北海道虻田郡某所]

 斉藤秀樹:「こんな廃スキーペンションに、秘密の研究所があるとはな……」
 男A:「こちらです」

 ロクに除雪もされていない悪路を、RV車でやっとこさ来れる場所に、斉藤秀樹はいた。
 運転しているのは黒服の男であり、助手席には同じ風体の男が座っている。
 目的地に到着すると、秀樹は車から降りた。
 そして、廃屋にしては照明の灯っている裏口から中に入る。
 中自体は荒れていて、廃屋であることを物語っている。
 先導の男達がライトを点けて進む。
 そして、応接間のような部屋に入ると、男の1人が暖炉に近づいた。
 暖炉の中には、三角形の吊り革のような金属製の取っ手があり、そこを引っ張ると、壁の一部が内側に開く。
 隠し部屋があるのだ。
 しかし、その中は納戸のようで何も無い。
 別の男がポケットから鍵を取り出し、床の蓋の鍵穴に入れる。
 それで鍵を開けると、男は床板を跳ね上げた。
 その中には、下に降りる梯子がある。

 男B:「どうぞ。この下です」
 秀樹:「なるほどな」

 秀樹は梯子を下った。
 下りた先には通路があり、その途中には水が溜まっている。
 今度は男Aがクランクを持って来て、それをパイプの穴に差し込み、グルグルと回す。
 すると、水がザザーッと退いていった。

 秀樹:「なるほど。これも、“バイオハザード”ならではの仕掛けだ。しかし、この寒いのに、水が凍っていないことに、侵入者達が怪しむとは思わんかね?」
 男A:「さあ、どうでしょう……」

 通路が開通したので、先に進む。
 地下にも所々照明が灯っている。
 通路の先にはドアがあり、そこを開けると……。

 白井伝三郎:「やあやあ。よくここまで来てくれました」
 秀樹:「お世話になった者として、当然です。それより、今日は何を見せてくれるのでしょう?」
 白井:「斉藤さんはアレックス・ウェスカーを御存知ですかな?」
 秀樹:「名前は聞いたことがあります。確か、北海の孤島で怪しげな実験をしていたそうですな?」
 白井:「我々、天長会の奥義を体現しようとして失敗した女ですよ。しかし、『失敗は成功の母』と言いますからな。その失敗談を基に、ようやく成功の鍵を掴んだのですよ。あなたには、出資者として特別にお見せしたいと思ったわけです」
 秀樹:「光栄です。しかし、何の実験を成功させようというのですか?」
 白井:「『転生の儀』です。アレックス・ウェスカーは転生の儀をやろうとして失敗しましたが、私はそうはいきません」
 秀樹:「転生……。生まれ変わるおつもりなのですか?」
 白井:「そうです」
 秀樹:「誰に?」
 白井:「最初はあなたの娘にしようかと思いましたがね、あなたの娘に対する溺愛ぶりを見て、さすがに気が引けました」
 秀樹:「当然です!私が最初、あなたを頼ったのも、娘の為ですぞ!」
 白井:「分かっています。あなたには私の研究に対して出資してくれていますし、もっと別の者を探すことにしました」
 秀樹:「しかし、他人の娘を使うのは……。これでは、かつての日本アンブレラと何ら変わりがない……」
 白井:「そう。そこで、生きている人間を使うのはやめました。日本国憲法では、死んだ人間の人権までは保障されていませんから、好きに使わせてもらいますよ」

 殺人事件等で、被害者の人権より、加害者の人権が手厚くされているように見えるのはこの為。

 秀樹:「それで、誰の死体を使うんです?ていうか、死体なんか使えるんですか?」
 白井:「ふふふ……。そのことについては、トップシークレット!出資者のあなたにもお話しできません」
 秀樹:「私も、そこの話は聞いていいのか悪いのか分かりません。しかしせめて、どのように実験を成功させるのかの話は聞かせてもらいたいものですね」
 白井:「良いでしょう。まずは遺骨を使います」
 秀樹:「遺骨!?肉体ではないのですか?」
 白井:「はい。実は、遺骨からでも『転生の儀』は可能だという結論に至りました。もちろん、その為には特殊な材料は必要です。特に、これですね」
 秀樹:「これは……何の薬品ですか?」
 白井:「名前は無いのですが、これは愛原公一という農学者が開発した化学肥料です。……本人はあくまで化学肥料だと言い張っていますが、いやはや、私が使えば死んだ人間が蘇る、とんでもないシロモノですよ。表向きには、『枯れた苗を蘇らせる』ということですが、私が使えば苗どころか、人間が蘇るんですからな」
 秀樹:「それで、これは誰の遺骨なんですか?」
 白井:「それはトップシークレットです。とにかく、私は必ずや実験に成功させてみせますぞ!」
 秀樹:「実験に成功したか否かの基準は何ですか?出資者として、私は何を基準に成功か否かを判断すれば宜しいのでしょう?」
 白井:「私が国家機関に逮捕されれば失敗、そしてその前に私が死ねば実験成功です」
 秀樹:「はあ?」

[2022年2月28日10:00.天候:晴 東京都千代田区丸の内 大日本製薬東京本社社長室]

 斉藤秀樹:(白井は死んだ。ということは、実験に成功したということだ。あの話しぶりでは、遺骨の人間を蘇らせ、その人間として転生することになる。あの遺骨は一体誰なんだ?愛原さんに調査させるか?……いや、愛原さんは国家機関にも通じている。私の依頼を通じて、私の事がバレてしまう)
 秘書:「失礼します。社長」
 秀樹:「ああ。何かね?」
 秘書:「NPO法人デイライトの善場優菜様と仰る方が、社長に面会を要請されています」
 秀樹:「アポ無しでか?」
 秘書:「はい。もちろん、『お約束の無い方とはお会いできません』とお断りしたのですが、『それなら今度は捜査令状を持って来ます。世間が騒ぐことなるかと思いますが、よろしいですか?』ということでして……」
 秀樹:「構わんよ。恐らく、令状は取れないだろうから」
 秘書:「分かりました」
 秀樹:(揺さぶりを掛けて来たか……。それにしても……白井が死ぬことは想定していたが、あのような死に方は……。捜査が及ぶ前に、調べておいた方がいいか?)
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