報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「斉藤家の夜」 3

2022-03-26 20:15:08 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月5日21:30.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 斉藤家]

 私は斉藤家で風呂を頂いた。
 さすが富豪の家の風呂らしく、広くてジャグジーが付いていた。
 それを堪能させて頂いた後、寝巻は浴衣を借りる。

 オパール:「お湯加減、いかがでございましたか?」
 愛原:「ああ。なかなか良かったよ。次は御嬢様方が入るのかな?」
 オパール:「いえ、恐らくは旦那様かと思われます。御嬢様方は、その……ごゆっくり入られますので」
 愛原:「それもそうか。だが、あんまり長湯はさせない方がいいな」
 オパール:「かしこまりました」

 私は1階の奥の客間に向かった。
 それは応接間の隣にある。

 愛原:「もう1度、高橋に電話してみよう」

 私は風呂に入る前、一度高橋に電話していた。
 だが、電話には出なかった。
 きっとパールとよろしくヤっている最中なのだろうと思い、先に風呂に入ることにした由。

 愛原:「おっ、高橋か?どうだ、そっちは?」
 高橋:「先生、サーセン、電話に出れなくて……」
 愛原:「いや、いいよ。今、どこにいる?」
 高橋:「浦安のホテルです。先生は?」
 愛原:「斉藤社長の家だよ。パールとよろしくヤってたんだろ?」
 高橋:「は、はあ……」
 愛原:「邪魔して悪かったな。パールは?」
 高橋:「今、シャワー浴びてるところです」
 愛原:「そうか。明日には俺達も帰るから」
 高橋:「はい。俺達もです」
 愛原:「明日の夜になるんだろ?明日はディズニー・シーか?」
 高橋:「そんなところです」
 愛原:「まあ、ゆっくりしてこいや」
 高橋:「ありがとうございます」
 愛原:「ところで、さっき斉藤社長と話をしたんだが、今度の春休みも絵恋さんを旅行に連れて行って欲しいらしい」
 高橋:「またっスか。で、今度はどこっスか?」
 愛原:「どこでもいいらしい。本当なら連れて行かれる絵恋さんが希望を出してくれればいいのだが、絵恋さんのことだから、『リサさんと一緒なら、どこでも』って感じだろ?」
 高橋:「それもそうっスね」
 愛原:「オマエはどこか行きたい所とかあるか?」
 高橋:「俺っスか?俺もまた先生とは一蓮托生なんで、地獄でもどこでもお供しますよ」
 愛原:「……オマエに聞いた俺がバカだったよ。じゃな」

 私は電話を切った。
 それから善場主任にメールを打つ。
 先ほどの斉藤社長とのやり取りについてだ。
 私達が北海道に行きたがるのを、とても嫌がっていたという報告だ。
 土曜日の夜だから、すぐに返信は来ないだろうと思っていたが、意外にも早く返信が来た。

 善場:「了解です。報告、ありがとうございます。斉藤社長宅にいる間は、連絡は全てメールでお願いします。盗聴の恐れがありますので」

 とのことだ。
 盗聴どころか、盗撮もあるかもな。
 因みに、応接間には絶対盗聴器とカメラが仕掛けられてると思った。
 この際だから暴露してしまうが、大企業の応接室にも一部そのような部屋が存在する。
 大抵の大企業は、そういった応接室を備えていると見て良い。
 見分け方は大抵、『暴力団との取引には一切応じません』旨の宣誓書が掲げられている部屋だ。
 それだけで、どういった客を接遇するのに使われる部屋なのかが分かるというものだ(もちろん一般の来客でも、他に応接室が空いてなくて仕方なく使用する場合もある)。
 これ見よがしに絵画が飾られていたり、高級そうな置時計が仕掛けられている場合、その中に超小型のカメラとマイクが仕込まれている。
 それは警備室などで監視することができ、録画も録音もできるようになっている。
 私も警備員時代、某大企業のビルに派遣されていた時、そういう対応をしたものだ。
 幸いその時は暴力団員ではなく、ただのクレーマーの対応であったが。
 今時、企業ゴロとか総会屋とかいるのかねぇ?

 愛原:「分かりました」

 と、返信してその日は終わった。
 どれ、あまり他人の家で夜更かしするのもアレだから、早めに寝るとしよう。
 あー、でもその前に、リサ達に一言言っておきたいかな。
 私は自分のスマホを取ると、それでリサに電話した。

 リサ:「なーに、先生?」
 愛原:「リサ、今時間あるか?」
 リサ:「大丈夫だよ」
 愛原:「絵恋さんに、『私達のジャマをしないで!』って怒られないかな?」
 リサ:「大丈夫。サイトーに文句は言わせない」
 愛原:「そうか。それじゃ、どうしようかな?俺からそっちに行こうか?」
 リサ:「うん、来て。待ってる……」

 だがその時、電話口が急に変わった。

 絵恋:「いえっ!大丈夫です!私達から行きます!部屋で待っててください!」

 とのこと。

 リサ:「サイトー、どうした?」
 絵恋:「部屋がオジさんくさ……」

 その時、電話が切れた。
 何か最後、気に障るようなことを言っていたような気がしたが……。
 それからしばらくして、リサがやってきた。
 リサはTシャツにジャージのズボンを穿いていた。

 リサ:「サイトーは先生に対してとても失礼なことを言っていたので、ボコして先に寝かせておきました」
 愛原:「おおかた、『部屋がオジさん臭くなるから来ないで!』とでも言っていたのかな?」
 リサ:「他のオジさんならそうかもしれないけど、先生に対しては物凄く無礼。だからボコしておいた」
 愛原:「お、お手柔らかにしてあげるんだぞ?ただでさえオマエは、ラスボスクラスの上級BOWなんだから」
 リサ:「分かってる。で、なに?」
 愛原:「うん。さっき斉藤社長と話をしたんだが、春休みも絵恋さんと一緒に旅行に行って欲しいらしい」
 リサ:「ほお……」
 愛原:「それで、どこか行きたい所は無いかと思って」
 リサ:「うーん……。先生と一緒なら、地獄でもどこでも行くけど?」
 愛原:「高橋と同じこと言うなよ」
 リサ:「でもわたしは、こうして地上を歩けるだけでも奇跡だからね。本当なら、他のリサ・トレヴァーみたいにとっくに地獄に堕ちているはずだよ」
 愛原:「結局、俺が決めなきゃいけないのか」
 リサ:「どこでもいいから、先生が決めて。わたしは先生とお出かけできるだけで幸せだから」
 愛原:「ありがたいこと言ってくれるな」
 リサ:「これくらいお安い御用。何なら今夜はここに泊まって、先生と一緒に寝る」
 愛原:「ええっ?」
 絵恋:「ちょぉぉぉぉぉっと待ったぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 バァンと思いっ切りドアを開けて、絵恋さんが突入してきた。

 絵恋:「そうはいかないわ!リサさんは私と一緒に寝るの!」
 リサ:「サイトー!?復活早っ!オリジナル大先輩みたい!」

 日本版リサ・トレヴァーの元祖はアメリカのリサ・トレヴァー。
 警察の特殊部隊の前に現れた時には既に不死身状態であり、銃弾を何十発も食らわせて、ようやく一時的にダウンさせられるだけであった。
 こっちのリサ・トレヴァー達にとっては、確かに大先輩に当たる。
 そ、それにしても……。

 愛原:「絵恋さん、どうして体操服にブルマーなの?」
 絵恋:「こっ、これは!!」

 絵恋さんは慌てて体操服の裾を引っ張って、ブルマーを隠そうとした。

 リサ:「一緒に寝る時はそれを着ることにしてるの。わたしもほら、ちゃんと下に穿いてるよ?」

 リサはジャージのズボンを脱いでみせた。
 するとその下には、絵恋さんとお揃いの緑ブルマーがあった。
 東京中央学園で、かつて着用されていたブルマーである。
 今は事実上の廃止状態で、クォーターパンツに切り替わっている(校則で明文化されていない他、学校指定店等では購入できるので、正式な廃止ではないと言える)。

 愛原:「お気遣い、ありがとう」

 ここで否定すると、リサの機嫌が途端に悪くなる。
 ここは、やんわり肯定してあげるのが正しい選択肢。

 愛原:「絵恋さん、春休み、また私達と旅行に行くことになるみたいだけど、リサと一緒に行ってみたい所とか無いの?」
 絵恋:「ええ。強いて言うなら、一緒に地獄に堕ちる覚悟です」
 リサ:「勝手にわたしを地獄行きにするな。先生、本当に先生が決めていいから。先生と一緒なら、地獄でもどこへでも行くから」

 何で皆して地獄に行きたがるんだ?
 こういう輩共に、『入信しないと地獄に堕ちる』と折伏しても無駄よ?

 愛原:「キミのお父さんは、北海道には行くなと仰ったんだ。キミが嫌がるからなんだって。そんなに向こうでは嫌な思いをしたかい?」
 絵恋:「確かに随分と退屈でしたけど、リサさんと一緒に行けるのなら、全然かまいませんよ?」

 とのこと。
 そうなんだよな。
 彼女の場合、リサが一緒なら地獄に行く覚悟なら、北海道なんか天国みたいなものだ。

 愛原:「そうだよな。じゃあ、娘さんの証言も取れたところで……」

 そこへ、メイドのオパールが入って来た。

 オパール:「失礼します。御嬢様方、お風呂の御用意ができました」

 いいタイミングで入ってきやがる。
 やはりこの部屋も、盗聴・盗撮されているのだろうか。

 愛原:「メイドさん、社長には会えますか?」
 オパール:「あいにくですが、旦那様はこれよりお休みになられるということで、また明日にお願い致します」
 愛原:「そうですか」

 上手い事、逃げられたか。
 まあいい。
 明日の朝食まで御一緒するはずだから、その時に話をしよう。
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“私立探偵 愛原学” 「斉藤家の夜」 2

2022-03-26 15:48:14 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月5日20:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 斉藤家1F応接間]

 夕食が終わった後、私と斉藤社長は応接間に移動した。

 斉藤秀樹:「ウィスキーでもどうですか?」
 愛原:「はあ……ありがとうございます」

 斉藤社長は内線電話を取ると、それでメイドに言い付けた。

 秀樹:「水割りを2つ持って来てくれ」

 しばらくして、メイドのオパールが水割り2つを持って来た。

 愛原:「今日はありがとうございました」
 秀樹:「いえいえ、こちらこそ、うちの娘のワガママに付き合ってもらって恐縮です」
 愛原:「本当に御嬢様は、リサのことが大好きみたいで……」
 秀樹:「ホントですね」
 愛原:「でもそんなワガママを叶えてあげる、社長もなかなかの親バカぶりでは?」
 秀樹:「はっはっは!いやあ、返す言葉もありません。何しろ私の、大事な一人娘ですからな。本当はダメだと知りつつ、どうしても聞いてしまうのですよ」
 愛原:「うちのリサも気に入っているようですし、こういうので良ければ、またお引き受け致しますよ」
 秀樹:「真にかたじけない」
 愛原:「それより、今月中には蔓延防止が解除されるようですね」
 秀樹:「そのようですな」
 愛原:「春休みはどう致しましょう?また、娘さんをお連れしましょうか?」
 秀樹:「ふむ、そうですね……。まあ、私も異動などで忙しいのは間違いないので……」
 愛原:「BSAAでの取り決めもありますので、海外はちょっとムリですが……」

 生物兵器たるリサを海外へ移送することは禁止されている。
 なので、リサにはパスポートは発行されない。
 例え数日の旅行であったとしてもだ。
 最初は本州からも出られないという縛りがあったが、八丈島の件以降は『本州内』から『日本国内』へ、交通手段も『陸路限定』から『限定解除』と緩和されている。
 つまり、んっ?さんの九州へ行くことも可能となったわけである。

 秀樹:「でしょうね。どこか、オススメの所とかありますか?」
 愛原:「そりゃもう色々ありますよ。というか、メインの御嬢様がどこに行きたいかですよね」
 秀樹:「はっはっは!娘のことですから、『リサさんと一緒なら無間地獄にだって行くわ』と言うはずです。ですのでね、そこは愛原さんが決めて頂いて大丈夫ですよ」
 愛原:「そうですか。実は、リサが関心を寄せた場所があるのですよ」

 ウソである。
 ここから先は、私の探偵の仕事だ。

 秀樹:「どこでしょう?」
 愛原:「北海道です」
 秀樹:「北海道ですか」
 愛原:「社長方、冬休みは北海道に行かれましたでしょ?」
 秀樹:「はい」
 愛原:「リサはまだ北海道に行ったことがないので、凄く関心を寄せているんですよ」
 秀樹:「そうなんですか」
 愛原:「確か社長方、倶知安とかニセコの方とかに滞在されたんですよね?」
 秀樹:「そうです」
 愛原:「あの辺はどうですか?」
 秀樹:「私みたいにのんびりと過ごしたい場合はいいですが、活発に動きたい娘には苦痛だったようです」
 愛原:「あそこにはスキー場とかもあったはずですが?」
 秀樹:「はい。ですが、かといってずっと毎日滑っているわけにもいきません。また、1日中吹雪の日もあって、そんな日は外にも出られませんから、やはり屋内にいるしかないのです。元々はマスコミなどから逃げる為でしたが、娘には苦痛を与えてしまいました」
 愛原:「どういう所に泊まられたんですか?」
 秀樹:「知り合いが経営しているペンションですよ。これがリゾートホテルなら、まだホテル内に色々と施設がありますから、そこで気を紛らわすという手もありますが、一個人経営のペンションでは……」
 愛原:「なるほど」
 秀樹:「娘としては、北海道はしばらくは控えたいようです。……ので、別の場所でお願いできますか?」
 愛原:「リサが行きたいと言った場合は?私も、絵恋さんはリサと一緒なら地獄迄も一蓮托生といった感じだと思います。その場合は?」
 秀樹:「……父親として許可しかねます。リサさんには、第2希望でお願いすることになると思います」
 愛原:「そんなに北海道は許可できませんか?」
 秀樹:「娘には窮屈な思いをさせてしまったので」
 愛原:「宿泊先は札幌の大きなホテルとかでは?」
 秀樹:「ですから、娘は今、北海道に行くこと自体がトラウマになっているのです」

 斉藤社長は、私達が北海道に行くことを必死で止めようとしている。
 私達に北海道に行かれること、それも、斉藤社長らが滞在した場所を探索されるのを恐れているようだ。

 秀樹:「愛原さんこそ、何か北海道に思い入れでもあるんですか?」
 愛原:「まあ、警備会社にいた頃、社員旅行で何度か訪れた思い出の地ですから」

 それは本当だ。
 年によっては、逆方向の沖縄に行ったこともある。

 秀樹:「それだけですか?」

 私は1つだけ情報を出してあげることにした。

 愛原:「社長は、白井伝三郎が羽田空港近くの道路で事故死したことは御存知ですね?」
 秀樹:「ええ。テレビでも新聞でも、大きく報道されていましたから」
 愛原:「その白井は捜査の目を掻い潜っている最中、北海道に潜んでいたそうですよ」
 秀樹:「そうなんですか」
 愛原:「ついでに、白井が滞在していたとされる場所に行ってみようかなと思いましてね。本人はもう死亡していますし、こんな一探偵が知り得たわけですから、捜査機関もとっくに知っているでしょう。なので、直接現場までは行けないと思いますがね」
 秀樹:「そんな野次馬根性に、娘を付き合わされても困ります。何度も言うように、春休みも娘の事はお願いするとは思いますが、行き先は北海道以外でお願いします」
 愛原:「分かりました」

 このやり取りは、後で善場主任に報告しておこう。

 愛原:「では後でリサに第2希望はどこか聞いておきますので、またその時に……」
 秀樹:「よろしくお願いします」

 話が終わったのを見計らったかのように、オパールが入って来た。

 オパール:「失礼致します。お風呂の準備ができました」
 秀樹:「分かった。愛原さん、先に入ってください。私はまだ残務がありますので……」
 愛原:「分かりました」

 私は応接間をあとにした。
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