[2021年12月30日22:00.天候:雪 北海道虻田郡某所]
斉藤秀樹:「こんな廃スキーペンションに、秘密の研究所があるとはな……」
男A:「こちらです」
ロクに除雪もされていない悪路を、RV車でやっとこさ来れる場所に、斉藤秀樹はいた。
運転しているのは黒服の男であり、助手席には同じ風体の男が座っている。
目的地に到着すると、秀樹は車から降りた。
そして、廃屋にしては照明の灯っている裏口から中に入る。
中自体は荒れていて、廃屋であることを物語っている。
先導の男達がライトを点けて進む。
そして、応接間のような部屋に入ると、男の1人が暖炉に近づいた。
暖炉の中には、三角形の吊り革のような金属製の取っ手があり、そこを引っ張ると、壁の一部が内側に開く。
隠し部屋があるのだ。
しかし、その中は納戸のようで何も無い。
別の男がポケットから鍵を取り出し、床の蓋の鍵穴に入れる。
それで鍵を開けると、男は床板を跳ね上げた。
その中には、下に降りる梯子がある。
男B:「どうぞ。この下です」
秀樹:「なるほどな」
秀樹は梯子を下った。
下りた先には通路があり、その途中には水が溜まっている。
今度は男Aがクランクを持って来て、それをパイプの穴に差し込み、グルグルと回す。
すると、水がザザーッと退いていった。
秀樹:「なるほど。これも、“バイオハザード”ならではの仕掛けだ。しかし、この寒いのに、水が凍っていないことに、侵入者達が怪しむとは思わんかね?」
男A:「さあ、どうでしょう……」
通路が開通したので、先に進む。
地下にも所々照明が灯っている。
通路の先にはドアがあり、そこを開けると……。
白井伝三郎:「やあやあ。よくここまで来てくれました」
秀樹:「お世話になった者として、当然です。それより、今日は何を見せてくれるのでしょう?」
白井:「斉藤さんはアレックス・ウェスカーを御存知ですかな?」
秀樹:「名前は聞いたことがあります。確か、北海の孤島で怪しげな実験をしていたそうですな?」
白井:「我々、天長会の奥義を体現しようとして失敗した女ですよ。しかし、『失敗は成功の母』と言いますからな。その失敗談を基に、ようやく成功の鍵を掴んだのですよ。あなたには、出資者として特別にお見せしたいと思ったわけです」
秀樹:「光栄です。しかし、何の実験を成功させようというのですか?」
白井:「『転生の儀』です。アレックス・ウェスカーは転生の儀をやろうとして失敗しましたが、私はそうはいきません」
秀樹:「転生……。生まれ変わるおつもりなのですか?」
白井:「そうです」
秀樹:「誰に?」
白井:「最初はあなたの娘にしようかと思いましたがね、あなたの娘に対する溺愛ぶりを見て、さすがに気が引けました」
秀樹:「当然です!私が最初、あなたを頼ったのも、娘の為ですぞ!」
白井:「分かっています。あなたには私の研究に対して出資してくれていますし、もっと別の者を探すことにしました」
秀樹:「しかし、他人の娘を使うのは……。これでは、かつての日本アンブレラと何ら変わりがない……」
白井:「そう。そこで、生きている人間を使うのはやめました。日本国憲法では、死んだ人間の人権までは保障されていませんから、好きに使わせてもらいますよ」
殺人事件等で、被害者の人権より、加害者の人権が手厚くされているように見えるのはこの為。
秀樹:「それで、誰の死体を使うんです?ていうか、死体なんか使えるんですか?」
白井:「ふふふ……。そのことについては、トップシークレット!出資者のあなたにもお話しできません」
秀樹:「私も、そこの話は聞いていいのか悪いのか分かりません。しかしせめて、どのように実験を成功させるのかの話は聞かせてもらいたいものですね」
白井:「良いでしょう。まずは遺骨を使います」
秀樹:「遺骨!?肉体ではないのですか?」
白井:「はい。実は、遺骨からでも『転生の儀』は可能だという結論に至りました。もちろん、その為には特殊な材料は必要です。特に、これですね」
秀樹:「これは……何の薬品ですか?」
白井:「名前は無いのですが、これは愛原公一という農学者が開発した化学肥料です。……本人はあくまで化学肥料だと言い張っていますが、いやはや、私が使えば死んだ人間が蘇る、とんでもないシロモノですよ。表向きには、『枯れた苗を蘇らせる』ということですが、私が使えば苗どころか、人間が蘇るんですからな」
秀樹:「それで、これは誰の遺骨なんですか?」
白井:「それはトップシークレットです。とにかく、私は必ずや実験に成功させてみせますぞ!」
秀樹:「実験に成功したか否かの基準は何ですか?出資者として、私は何を基準に成功か否かを判断すれば宜しいのでしょう?」
白井:「私が国家機関に逮捕されれば失敗、そしてその前に私が死ねば実験成功です」
秀樹:「はあ?」
[2022年2月28日10:00.天候:晴 東京都千代田区丸の内 大日本製薬東京本社社長室]
斉藤秀樹:(白井は死んだ。ということは、実験に成功したということだ。あの話しぶりでは、遺骨の人間を蘇らせ、その人間として転生することになる。あの遺骨は一体誰なんだ?愛原さんに調査させるか?……いや、愛原さんは国家機関にも通じている。私の依頼を通じて、私の事がバレてしまう)
秘書:「失礼します。社長」
秀樹:「ああ。何かね?」
秘書:「NPO法人デイライトの善場優菜様と仰る方が、社長に面会を要請されています」
秀樹:「アポ無しでか?」
秘書:「はい。もちろん、『お約束の無い方とはお会いできません』とお断りしたのですが、『それなら今度は捜査令状を持って来ます。世間が騒ぐことなるかと思いますが、よろしいですか?』ということでして……」
秀樹:「構わんよ。恐らく、令状は取れないだろうから」
秘書:「分かりました」
秀樹:(揺さぶりを掛けて来たか……。それにしても……白井が死ぬことは想定していたが、あのような死に方は……。捜査が及ぶ前に、調べておいた方がいいか?)
斉藤秀樹:「こんな廃スキーペンションに、秘密の研究所があるとはな……」
男A:「こちらです」
ロクに除雪もされていない悪路を、RV車でやっとこさ来れる場所に、斉藤秀樹はいた。
運転しているのは黒服の男であり、助手席には同じ風体の男が座っている。
目的地に到着すると、秀樹は車から降りた。
そして、廃屋にしては照明の灯っている裏口から中に入る。
中自体は荒れていて、廃屋であることを物語っている。
先導の男達がライトを点けて進む。
そして、応接間のような部屋に入ると、男の1人が暖炉に近づいた。
暖炉の中には、三角形の吊り革のような金属製の取っ手があり、そこを引っ張ると、壁の一部が内側に開く。
隠し部屋があるのだ。
しかし、その中は納戸のようで何も無い。
別の男がポケットから鍵を取り出し、床の蓋の鍵穴に入れる。
それで鍵を開けると、男は床板を跳ね上げた。
その中には、下に降りる梯子がある。
男B:「どうぞ。この下です」
秀樹:「なるほどな」
秀樹は梯子を下った。
下りた先には通路があり、その途中には水が溜まっている。
今度は男Aがクランクを持って来て、それをパイプの穴に差し込み、グルグルと回す。
すると、水がザザーッと退いていった。
秀樹:「なるほど。これも、“バイオハザード”ならではの仕掛けだ。しかし、この寒いのに、水が凍っていないことに、侵入者達が怪しむとは思わんかね?」
男A:「さあ、どうでしょう……」
通路が開通したので、先に進む。
地下にも所々照明が灯っている。
通路の先にはドアがあり、そこを開けると……。
白井伝三郎:「やあやあ。よくここまで来てくれました」
秀樹:「お世話になった者として、当然です。それより、今日は何を見せてくれるのでしょう?」
白井:「斉藤さんはアレックス・ウェスカーを御存知ですかな?」
秀樹:「名前は聞いたことがあります。確か、北海の孤島で怪しげな実験をしていたそうですな?」
白井:「我々、天長会の奥義を体現しようとして失敗した女ですよ。しかし、『失敗は成功の母』と言いますからな。その失敗談を基に、ようやく成功の鍵を掴んだのですよ。あなたには、出資者として特別にお見せしたいと思ったわけです」
秀樹:「光栄です。しかし、何の実験を成功させようというのですか?」
白井:「『転生の儀』です。アレックス・ウェスカーは転生の儀をやろうとして失敗しましたが、私はそうはいきません」
秀樹:「転生……。生まれ変わるおつもりなのですか?」
白井:「そうです」
秀樹:「誰に?」
白井:「最初はあなたの娘にしようかと思いましたがね、あなたの娘に対する溺愛ぶりを見て、さすがに気が引けました」
秀樹:「当然です!私が最初、あなたを頼ったのも、娘の為ですぞ!」
白井:「分かっています。あなたには私の研究に対して出資してくれていますし、もっと別の者を探すことにしました」
秀樹:「しかし、他人の娘を使うのは……。これでは、かつての日本アンブレラと何ら変わりがない……」
白井:「そう。そこで、生きている人間を使うのはやめました。日本国憲法では、死んだ人間の人権までは保障されていませんから、好きに使わせてもらいますよ」
殺人事件等で、被害者の人権より、加害者の人権が手厚くされているように見えるのはこの為。
秀樹:「それで、誰の死体を使うんです?ていうか、死体なんか使えるんですか?」
白井:「ふふふ……。そのことについては、トップシークレット!出資者のあなたにもお話しできません」
秀樹:「私も、そこの話は聞いていいのか悪いのか分かりません。しかしせめて、どのように実験を成功させるのかの話は聞かせてもらいたいものですね」
白井:「良いでしょう。まずは遺骨を使います」
秀樹:「遺骨!?肉体ではないのですか?」
白井:「はい。実は、遺骨からでも『転生の儀』は可能だという結論に至りました。もちろん、その為には特殊な材料は必要です。特に、これですね」
秀樹:「これは……何の薬品ですか?」
白井:「名前は無いのですが、これは愛原公一という農学者が開発した化学肥料です。……本人はあくまで化学肥料だと言い張っていますが、いやはや、私が使えば死んだ人間が蘇る、とんでもないシロモノですよ。表向きには、『枯れた苗を蘇らせる』ということですが、私が使えば苗どころか、人間が蘇るんですからな」
秀樹:「それで、これは誰の遺骨なんですか?」
白井:「それはトップシークレットです。とにかく、私は必ずや実験に成功させてみせますぞ!」
秀樹:「実験に成功したか否かの基準は何ですか?出資者として、私は何を基準に成功か否かを判断すれば宜しいのでしょう?」
白井:「私が国家機関に逮捕されれば失敗、そしてその前に私が死ねば実験成功です」
秀樹:「はあ?」
[2022年2月28日10:00.天候:晴 東京都千代田区丸の内 大日本製薬東京本社社長室]
斉藤秀樹:(白井は死んだ。ということは、実験に成功したということだ。あの話しぶりでは、遺骨の人間を蘇らせ、その人間として転生することになる。あの遺骨は一体誰なんだ?愛原さんに調査させるか?……いや、愛原さんは国家機関にも通じている。私の依頼を通じて、私の事がバレてしまう)
秘書:「失礼します。社長」
秀樹:「ああ。何かね?」
秘書:「NPO法人デイライトの善場優菜様と仰る方が、社長に面会を要請されています」
秀樹:「アポ無しでか?」
秘書:「はい。もちろん、『お約束の無い方とはお会いできません』とお断りしたのですが、『それなら今度は捜査令状を持って来ます。世間が騒ぐことなるかと思いますが、よろしいですか?』ということでして……」
秀樹:「構わんよ。恐らく、令状は取れないだろうから」
秘書:「分かりました」
秀樹:(揺さぶりを掛けて来たか……。それにしても……白井が死ぬことは想定していたが、あのような死に方は……。捜査が及ぶ前に、調べておいた方がいいか?)
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