報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「東北新幹線“なすの”278号」

2022-03-09 20:10:15 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月25日15:30.天候:晴 福島県郡山市 JR郡山駅・新幹線ホーム→東北新幹線“なすの”278号車内]

〔11番線に停車中の電車は、15時37分発、“なすの”278号、東京行きです。この電車は、各駅に止まります。グランクラスは10号車、グリーン車は9号車、自由席は1号車から5号車です。尚、全車両禁煙です。……〕

 私達は新幹線ホームに上がった。
 郡山駅のホームは2面5線である。
 そのうち、2線はホームに面していない通過線である。
 “はやぶさ”などの速達列車が高速で通過する。
 11番線は上り始発列車のホーム。
 そこに、私達の乗車する列車が停車していた。
 この時点では、まだ自由席もガラガラだ。
 “なすの”は、“やまびこ”の停車しない駅での需要を見越して設定された列車である。
 東京中央学園の生徒達は、中間車の6号車と7号車が確保されている。
 6号車は本来自由席であるが、こういう団体の予約があった場合は指定席に変わる。
 往路と違い、中間車に乗ることになるので、リサのことは善場主任に報告済みだ。
 リサが感じている違和感は、新幹線車内でも続いていた。

 愛原:「おいおい、東京までついてくる気じゃないだろうな?」
 リサ:「どうする?」
 愛原:「もしも東京までついて来たなら、帰る前に善場主任に報告しよう。もしかしたら、鬼斬りを紹介してくれるかもしれんw」
 リサ:「わたしごと斬られそう……」

〔「ご案内致します。この電車は15時37分発、東北新幹線上り“なすの”278号、東京行きです。終点の東京まで、各駅に停車致します。発車までご乗車になり、お待ちください。……」〕

 リサと絵恋さんは、2人席に並んで座っている。
 往路の特急列車と同じで、コロナ対策の為、座席を向かい合わせにすることは禁止されていた。

 絵恋:「リサさん、まだお菓子余ってるよ」
 リサ:「おー!」

 このまま、正体は分からず仕舞いなのか……。

[同日15:37.天候:晴 JR東北新幹線“なすの”278号・7号車内]

 発車時刻になり、列車は定刻通りに発車した。
 発車メロディはGReeeeNの“キセキ”をアレンジしたものであった。
 最近、JR東日本の発車メロディは『ご当地メロディ』を採用することが多い。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、“なすの”号、東京行きです。次は、新白河に止まります。……〕

 高橋:「先生、もう探さないんですか?」

 座席に座った私を見て、高橋が聞いて来た。

 愛原:「多分、今は闇雲に探し回ってもダメなんだろう。もし向こうが何か悪巧みを考えているのなら、絶対に向こうから仕掛けてくる。その時でいいだろう」
 高橋:「なるほど。それもそうですね」
 リサ:「何か、ゴメン。わたしのせいで……」
 愛原:「いや、いいんだよ。怪しいのがいるのは事実だからね」
 高橋:「白井が送り込んだスパイでしょうか?」
 愛原:「新しいBOWでも開発したのかなぁ?」

[同日15:59.天候:晴 栃木県那須塩原市 JR那須塩原駅]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、那須塩原です。宇都宮線、黒磯、矢板方面はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。那須塩原の次は、宇都宮に止まります〕

 事態が一変したのは、那須塩原駅に着いてからだった。

〔「まもなく那須塩原、那須塩原です。お出口は、左側です。那須塩原で、しばらく停車致します。発車まで、しばらくお待ちください」〕

 列車は上り副線ホームに入線した。
 本線上りは通過線で、ホームは無い。

〔「ご乗車ありがとうございました。那須塩原、那須塩原です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。……」〕

 “やまびこ”が停車しない為、この駅からの乗車も多い。
 ただ、殆どの場合、自由席に乗って行ったようである。
 6号車と7号車は貸切だから、乗って来る一般客はいない。
 尚、一般客用の普通車指定席は8号車である。

 リサ:「……!!」

 リサはバッとホームの方を見た。
 2人席はホームとは反対側なので、3人席越しに見ることになる。
 リサの形相に、3人席の生徒達はびっくりしてしまった。

 リサ:「リン!」
 愛原:「えっ!?」

 ホームには、ばつが悪そうな顔をして立っている上野凛の姿があった。

 愛原:「あれ!?」

 リサは乗降口に向かった。
 私も後を追う。

 上野凛:「ど、どうも。こんにちは……」
 愛原:「凛さん、どういうことだ?」
 凛:「ご、ごめんなさい。多分、色々と怪しかったと思いますけど……。私、ここで降りますから」
 愛原:「も、もしかして……会津若松から付いてきてた?」
 凛:「はい」
 リサ:「どういうことだ、コラ!?」
 愛原:「リサ、落ち着け。多分、キミ1人でやったことじゃないね?」
 凛:「はい。詳しくは、善場さんにお願いします」
 愛原:「やっぱり善場主任か……。あんまりやる気無さそうにしていたのは、これのせいだったのか……」

 列車が発車してから、私はデッキに移り、善場主任に直接電話した。

 善場:「抜き打ちのような状態になり、真に申し訳ございません」
 愛原:「一体、どういうことなんですか?」
 善場:「上野凛の上京があと1ヶ月に迫ったことで、彼女の潜在的能力についてテストしたかったのです。彼女もまた半分人間ではありませんが、リサとはまた違った能力を秘めていることが分かりました。それがどんなものなのかをテストしたかったのです」
 愛原:「昨晩ホテルにわざわざ来たのは、凛さんを連れて来る為でしたか」
 善場:「そうです。ですので実質的に、テストは昨夜からスタートしてました」
 愛原:「リサは完全にしてやられたようですが?」
 善場:「リサを出し抜けたということで、期待値が高いです」
 愛原:「リサ、だいぶ怒ってますけど?」
 リサ:「ウゥウ……!!」

 リサ、貫通扉の向こうから赤い瞳を光らせ、牙を剥き出しにして唸り声を上げている。

 善場:「リサには詫び料として、後でクオカードを進呈すると伝えておいてください」
 愛原:「わ、分かりました。一体、どんな能力だったのでしょう?」
 善場:「詳しいことはまた別の機会にお話ししますが、特異菌感染者の中で、特に適合率が高い人と同じような能力が使えるようですね」
 愛原:「はあ……」

 善場主任としては良かったのかもしれないが、こちらはリサを宥めるのに凄い苦労させられたのだが……。
コメント (1)
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“私立探偵 愛原学” 「修学旅行3日目の昼」 3

2022-03-09 16:05:08 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月25日14:00.天候:晴 福島県耶麻郡猪苗代町 野口英世記念館・駐車場]

 出発の時間になり、バスに戻ってくる東京中央学園の生徒達。
 当然、引率の教師達が点呼を取って、生徒が置き去りにされないようチェックをしている。

 愛原:「先生、名簿と生徒さんの数は合いますか?」
 1組担任:「合いますよ」
 愛原:「知らない顔が乗ってきているなんてことはありませんね?」
 1組担任:「当たり前ですよ。どうしてですか?」

 担任教師の目は上手く誤魔化せている。
 私は1号車に乗り、マイクを手に取った。

 愛原:「1組の皆さん、私はPTA会長代理の愛原です。今、皆さんの周りで、見たことのない人が隣にいるなんてことは無いですか?」

 ざわめく車内。
 しかし、手を挙げる者はいなかった。

 愛原:「名簿から1人ずつ名前を読み上げます。呼ばれたら手を挙げて返事をしてください」

 私は1人ずつ名前を読み上げた。

 愛原:「今、名前を呼ばれていない人はいますか?周りで、『この人、呼ばれてません』って人はいませんか?……いませんね。最後に、写真を撮ります」

 私はデジカメで、もう1枚は同行のカメラマンが持っている一眼レフカメラで撮影してもらった。
 同じことを2号車にもする。
 しかし、2号車も同じだった。
 一応、私達が乗っている3号車にも同じことをする。
 しかし、リサは3号車からは違和感はしないという。

 愛原:「やはり、ダメか……」

 私は眉を潜めて首を傾げた。

 リサ:「わたし、ウソついてないよ!?」
 絵恋:「そうですよ!リサさんがウソをつくわけがないです!」
 愛原:「分かってるよ。……ありがとうございます。出発してください」
 バスガイド:「はい。それでは皆様、出発致します」

 バスは再び国道49号線に入った。

 バスガイド:「皆様、最後の観光、如何だったでしょうか?バスはこれより、猪苗代磐梯高原インターより磐越自動車道に入り、郡山市へと向かいます。……」
 リサ:「分からない……。一体何なのか、分からない……」

 リサも頭を抱えた。
 気配はするのに、全く見えないのだ。

 愛原:「もしかして、幽霊じゃないだろうな?」
 絵恋:「ええっ!?」
 愛原:「“トイレの花子さん”だって実在したんだぞ?怪しいじゃないか」
 絵恋:「それは……」

[同日14:25.天候:晴 福島県郡山市熱海町玉川 磐越自動車道・五百川パーキングエリア]

 本当なら郡山駅まで直行するはずである。
 ところがバスは、途中で唯一のパーキングエリア、五百川(ごひゃくがわ)パーキングエリアに立ち寄った。
 何でも、1号車で具合の悪い生徒が出たらしい。
 担任教師に連れられて、トイレに向かう女子生徒がいた。

 大沢:「何でも、不気味な人影を見たってことで、大声を上げて失神してしまったんです」
 愛原:「ええっ!?」

 1号車に添乗しているツアコンの大沢さんが、私に言った。
 私は1号車に乗り込んだ。

 愛原:「不気味な人影を見たというのは!?」
 女子生徒A:「そこです……」

 他の生徒達も、近くにいたコ達が動揺していた。

 男子生徒:「そこ(9Cと9D)の席は空いてたんですよ。で、こっち(9B)に座っていた佐々木さん(叫び声を上げた女子生徒)が、そっち(9Cと9D)の方を見たら、黒い人影がそこ(9D)席に座っていたっていうんです」

 男子生徒は8D席に座っていた。

 愛原:「キミの真後ろだな。何か気配は感じた?」
 男子生徒:「いや、話をしてたので、気が付かなかったです」
 愛原:「そうか……」
 女子生徒B:「佐々木さん、霊感強いもんね」
 女子生徒C:「旧校舎に行くと、必ず何か見るって言うし……」

 おいおい、本当に幽霊かよ……。

 愛原:「リサ!ちょっと見てくれ!」

 私は3号車からリサを呼び寄せると、件の座席を調べさせた。
 リサは座席を見るだけでなく、モケットの匂いも嗅いで調べてみた。

 リサ:「微かにBOWの臭いがする……」
 愛原:「なにっ!?」
 リサ:「でも、この匂いって……どこかで……」
 愛原:「知っている匂いなのか?」
 リサ:「多分……。でも、何だろう?よく思い出せない」
 愛原:「でも、幽霊ではないんだな?」
 リサ:「多分。“花子さん”は匂わなかったし」

 自分もバリバリのBOWであるリサが、『BOWの臭い』だと判断したのだからそうなのだろう。
 私は一応、その座席の写真を撮った。
 もしかしたら、何か写るかもしれないと思ったのだ。
 しかし、モニタで確認したが、それらしいのは写っていなかった。

[同日15:10.天候:晴 福島県郡山市燧田 JR郡山駅]

 バスは無事にJR郡山駅に着いた。
 パーキングエリアを出てからは、特に何事も無かった。
 あのメモのある通り、本当に『今は』何もしないつもりなのだろう。
 だが、まだ油断はできない。
 バスを降りて、ぞろぞろと駅構内に入って行く。
 その間、リサは眉を潜めていた。
 聞くと、未だに違和感はあるという。
 その違和感は、BOWの気配だということが分かった。
 明らかにBOWがこの団体の中に紛れ込んでいる。
 しかし、それは分からない。

 愛原:「なあ?もしかしたら、姿を消せるBOWなのかもな」
 リサ:「姿を消せる……。消せたところで、臭いや気配まで消せるわけじゃない。だから、本当は私の目や鼻は誤魔化せないはず。だけど、今は誤魔化されてる。……悔しい」
 愛原:「うーん……」

 時間まで、コンコース上に整列して待つことになった。
 この間、トイレに行きたい人は行って良いことになる。
 私は善場主任への連絡を行なった。
 特に、五百川パーキングエリアでの出来事は重要だ。

 善場:「そうですか。リサでも分かりませんでしたか……」
 愛原:「そうなんです。ただ、どこかで覚えのある匂いではあるようですが……」
 善場:「それは重要ですね。早いとこ、リサには思い出してもらう他ありません」
 愛原:「どうしてリサは思い出せないのでしょうか?」
 善場:「それは、記憶が曖昧になっているからでしょう。リサも色々なBOWと接してきました。その中には、今みたいにリサの目や鼻を誤魔化せる者もいたかもしれません。そういう時に限って、あまり印象が無かったのかもしれませんね」
 愛原:「一体、どういうことなんでしょうな?『今は』というのは……」
 善場:「分かりませんが、引き続き警戒は怠らないようにお願いします」
 愛原:「分かりました」
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