報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「色々と動き出す歯車」

2022-03-30 20:00:31 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月6日13:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 善場:「失礼します」
 愛原:「善場主任、お疲れ様です」

 私の連絡を受け、善場主任が私のマンションにやってきた。

 善場:「絵恋さんはどうしてますか?」
 愛原:「取りあえず、リサの部屋のベッドに寝かせてあります。行方不明くらいでは動じなかったコでしたが、さすがにあの事件だか事故にはショックだったようで……」
 善場:「でしょうね。失神しているだけですか?」
 愛原:「今のところは……」
 善場:「高橋助手達は?」
 愛原:「先ほど連絡して、ディズニーデートを中止させ、帰って来るように言ってあります」
 善場:「分かりました。ここまで手に入った情報によりますと、やはり件の飛行機に斉藤社長は搭乗していたようです。それも、偽名で」
 愛原:「偽名ですか」
 善場:「斎藤秀明という偽名で乗っています。チケットも法人名ではなく、個人名ですね」
 愛原:「ということは、会社の経費で搭乗したわけではなく、完全に自分のポケットマネーで乗ったということですね?」
 善場:「そういうことになります」
 愛原:「あの飛行機は成田空港から飛び立ったということですが、斉藤社長はタクシーで成田空港へ行ったのでしょうか?」
 善場:「いいえ。大宮駅に向かったことが明らかになっています」
 愛原:「やはり大宮駅ですか」
 善場:「そして、そこから電車で成田空港へ向かったと思われます」
 愛原:「ちょっと待ってください」

 私は自分の部屋から、交通新聞社発行のJR時刻表を持って来た。
 それで、“成田エクスプレス”のページを開いてみる。

 愛原:「確かに6時20分発、大宮始発の“成田エクスプレス”がありますね。これに乗ったんだ」

 これに乗ると、成田空港には8時過ぎには着く。
 そこから搭乗手続きや何やらで、9時台の飛行機に乗ったのだろう。
 そして、ハイジャックに巻き込まれてしまったと。

 善場:「問題は、どうして斉藤社長が北海道へ行こうとしていたのかです。愛原所長、斉藤社長は愛原所長方が北海道へ旅行に行くことを嫌がったそうですね?」
 愛原:「はい。どうしても、北海道以外の場所にして欲しいと言われました」
 善場:「愛原所長のことですから、北海道に足を踏み入れた場合、どうしても斉藤社長の足取りを確認したがるでしょう。それを嫌がったのでしょうね」
 愛原:「斉藤社長が冬休みの間に泊まったのは、ニセコとか倶知安の辺り……」
 善場:「やはり、あの辺を調べてみる必要がありますね」
 愛原:「私達も同行しますか?」
 善場:「いえ、それには及びません。ここまで来ると、民間の方の御協力は必要無いかと。ただ、当事者の絵恋さんには同行して頂くことになるかもしれませんね」
 愛原:「うわ、そりゃ大変だ」

 その時、善場主任のスマホが鳴った。

 善場:「失礼します」

 善場主任は電話に出た。

 善場:「……はい。……はい。そうですか。……はい。分かりました。ありがとうございます」

 そして、電話を切る。

 善場:「斉藤社長は生存者の中にいるそうです」
 愛原:「ええっ!?」

 そりゃ良かった。

 善場:「飛行機は確かに墜落しましたが、どちらかというと、胴体着陸に近い状態で墜落したとのことで、乗客の殆どが生存しているそうです」
 愛原:「おおっ!?」
 善場:「ただ、殆どが重軽傷とのことですが……」
 愛原:「日本からの救助隊は?」

 私がそれを聞いた時、主任は苦虫を噛み潰したような顔で首を振るだけだった。
 あのロシアが戦争状態で、日本からの救助隊を受け入れるわけがない。
 日本政府もまた、ロシアを侵略国として非難する声明を出しているので尚更だ。
 ハイジャック犯の生存率はどれくらいか分からないが、もしかしたら、ハイジャック犯だけ連行して、あとは知らんなんてことも考えられる。

 善場:「ロシアの救助隊がどれだけ動いてくれるか、です。ウクライナ侵攻前でしたら期待しても良かったのですが、今の状態ですと……」

 政治的な問題にもなりかねないということだ。
 まさかとは思うが、『日本国が民間機を使って、我が国ロシアに“カミカゼ攻撃”をしてきた。よって、これを宣戦布告と見做す』と、プーチン大統領が言ってもおかしくない。
 いくら日本側が、『ハイジャックのせいだ!』とか言っても、『ハイジャックを阻止できなかった責任を取れ』とか言われたら、反論できないだろうな……。
 最悪、『墜落したのは中国夏冬航空の旅客機なんで、日本の飛行機じゃなくて、中国の飛行機でーすw』とでも言うか。

 善場:「とにかく、国際的な問題に発展する可能性が非常に高くなった以上、国内の仕事をする我々はお手上げです。あとは外務省などの管轄になると思います」
 愛原:「飛行機は危ないんで、新幹線で行った方がいいかもしれませんね?」
 善場:「そのつもりです。いえ、飛行機が怖いのではなく、斉藤一家は新幹線で北海道に向かったそうですね?普通は飛行機で行くでしょうに、あえて陸路を取ったことに何か意味があるのかもしれません。それを確認したいのもあります」
 愛原:「分かりました。私で何かお手伝いできることはありますか?」
 善場:「ありがとうございます。今のところは、絵恋さんのことを看ていてあげてくださいといったところでしょうか」
 愛原:「今はリサが看病しています」
 善場:「お付きのメイドさんが帰ってきたら、自宅へ帰った方がいいかもしれませんね」
 愛原:「ええ、そうしましょう」

[同日15:00.天候:曇 東京都葛飾区小菅 東京拘置所]
(ここから三人称になります)

〔「……大日本製薬代表取締社長の斉藤秀樹氏が搭乗していたと思われる、サマー・ジャパンの旅客機ですが、ロシアのウラジオストク郊外に墜落し、多数の重軽傷者が出ています。それに対し、地元当局によりますと……」〕

 拘置所内に流れるラジオのニュース。
 拘置所では午後にラジオを聴くことができる。
 その独居房に収監されているこの男も、そんなラジオ放送を聴いていた。

 五十嵐皓貴:「ふむ……。斉藤のヤツ、ついにロシアに渡ったか……」

 それは、日本アンブレラの元社長の五十嵐皓貴。
 日本アンブレラが国内で起こした事件の数々について、その使用者責任や指示の有無を巡り、裁判で係争中である。
 宮城県内で拘束されたが、その後、東京に移送されている。
 そして東京地裁で有罪判決が出たのだが、今度は東京高裁に控訴して、今はそこで争っている最中なのである。
 なので拘置所内での立場は、未決囚ということになる。
 雑居房に入らなかったのは、息子の元副社長も同じ容疑で裁判中であり、一緒に収監できないこと、社会に与えた影響が大きいことから、他の一般未決囚と同居はさせられないと拘置所側が判断したからである。

 五十嵐:「ちょっと、すいません」
 刑務官:「何だ?」
 五十嵐:「弁護士先生への接見をお願いしたいのですが……」
 刑務官:「は?」

 一般の面会者と違い、弁護士との接見は大きな制限は無いとされるが……。
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“私立探偵 愛原学” 「斉藤秀樹の安否」

2022-03-30 15:09:12 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月6日11:26.天候:曇 東京都千代田区大手町 呉服橋バス停→都営バス東20系統車内]

 善場主任との話が終わった私達は、その足で最寄りのバス停に向かった。
 東京駅日本橋口の前には永代通りという大通り(国道1号線)が通っており、その向かい側の歩道に都営バスの停留所がある。
 高速バスは『東京駅日本橋口』なのだが、都営バスは『呉服橋』。
 バス会社が違うと、バス停名も変わるという例である(そのような例はさいたま市内にも存在する)。

 絵恋:「あーあ……。お父さんのせいで、とんだ無駄な時間だったわ」
 愛原:「お疲れさま。ちょうどお昼時だ。向こうに着いたら、何かお昼でも御馳走するよ」
 リサ:「ほんと!?」
 愛原:「どっちみち、高橋もパールも夕方までは帰って来ないからな。マックでも買って帰るか?」
 絵恋:「そうですね。早いとこ、リサさんの部屋でゆっくりしたいので……」
 リサ:「いや、リビングでゲームでもしようよ?」
 絵恋:「ええっ!?」
 愛原:「仲いいね~」

 そんな事を話していると、バスがやってきた。
 このバス停からは、錦糸町駅前行きが出ているのだが、系統番号に注意だ。
 東20系統と東22系統。
 後者は菊川駅前を通らないので注意だ。

 愛原:「お願いします」

 前扉からバスに乗り込み、先にICカードで運賃を払う。
 さすがにこれには、リサもすっかり慣れた。
 1番後ろの席は既に先客がいたので、2人席に2人の少女が座り、その前の1人席に私が座った。
 東22系統よりも本数が少ないので、その分空いてはいる。

〔発車致します。お掴まりください〕

 バスは永代通りを東へ進んだ。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。この都営バスは、門前仲町、東京都現代美術館前経由、錦糸町駅前行きでございます。次は日本橋、日本橋でございます。地下鉄銀座線、東西線ご利用の方は、お乗り換えです。次は、日本橋でございます〕

 私達が乗ったバスでは、運転席の後ろにモニタが設置されている。
 これは電車の乗降ドアの上に設置されているモニタと似たような用途で、広告や天気予報、ニュースや鉄道の運行情報が流れている。
 やはり速報なのか、ハイジャックされた中華系の旅客機がロシアのウラジオストク郊外に墜落したということを流していた。
 何だか、大変だな。
 私もスマホを開いて、ニュースを見てみることにした。

 リサ:「このバス、Wi-Fi入るよ」
 絵恋:「そうね」

 高校生のスマホプランでギガ数が制限されている場合、Wi-Fiが繋がるのはありがたいことだ。
 私のは仕事用でもあるので、ギガ数が多いプランに入っている。
 一般の路線バスでWi-Fiが入るのは珍しい。
 それでニュースアプリを立ち上げ、ハイジャック機墜落事故について閲覧してみる。
 内容が更新されており、犯人グループはヤング・ホーク団というマイナーなテロ組織らしい。
 過去にはアメリカでも国内線航空機をハイジャックしたことがあり、それもまた墜落事故を起こしているが、同乗していた日本人乗客らの尽力により、墜落時の死亡者はいなかったという。
 犯行に及ぶ際、抵抗の有無を問わず、乗員全員を射殺する残忍な手口が彼らの手法だ。
 また、彼らの警告に従わない乗客も躊躇無く殺すらしい。
 てか、そんなことするから飛行機が墜落するのではないか?
 過去にハイジャック事件で、機長を殺したのは全日空機の1人しか私は知らない。
 もちろんそれは、ハイジャック犯が自分で操縦できるので、パイロットは却って邪魔だから殺したのだろうが。
 それにしても、日本国内の国内線で外国人テロ組織によるハイジャックとは……世も末だ。
 犯行声明によれば、ロシアのウクライナ侵攻はプーチン大統領をも陰から操る黒幕のしわざであり、両国に平和を訪れさせる為、その黒幕を討ちに行くのだということだったが……。
 その行き先がウラジオストク?どういうことだ?
 その黒幕さんとやらは、ウラジオストクにでもいるのだろうか???
 テロ組織の考えることは分からん。
 ……分からん方が良い。

[同日12:15.天候:曇 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 菊川駅前でバスを降り、菊川駅前交差点の角にあるマクドナルドで昼食を買う。
 昼時なのでレジも少し混んでいたが、何とか目当ての物を買うことができた。
 それを手に、マンションへ向かう。

 愛原:「どうぞ」
 リサ:「サイトー、ウェルカム」
 絵恋:「お邪魔しまーす!」

 ダイニングのテーブルに買った物を置いた。

 愛原:「食べる前に着替えて来たら?」
 リサ:「うん、分かった。……体操服とブルマがいい?」
 愛原:「私服でいいから!」
 リサ:「分かった。もしも先生が『体操服とブルマに着替えて』って言うんだったら、サイトーも着替えてもらう」
 絵恋:「ええっ!?」
 愛原:「親友を巻き込むな!」

 リサは自分の部屋に行った。

 絵恋:「……ゴクッ!」
 愛原:「絵恋さん、いくら親友でも、故意の覗きはどうかと思うよ?」
 絵恋:「ちちち、違うますぅ!そんなんじゃないですぅ!!」
 愛原:「でも、アレだな。もしも私が、『体操服とブルマに着替えて』って言ったらリサはそうして、絵恋さんにもそうしてもらうって言ってただろ?」
 絵恋:「そうですね」
 愛原:「もしも私が、『スクール水着に着替えて』って言ったら、そうするのかな?」
 絵恋:「何考えてるんですか!?変態!」
 愛原:「いや、だから、もしもの話だってば!」

 私は慌ててリビングのテレビの電源を入れた。
 それで、情報バラエティ番組のチャンネルに切り替える。
 情報バラエティなので、速報でハイジャック事件のことをやっていた。

 リサ:「先生、着替えて来た」
 愛原:「おー!じゃ、食べようか」

 リサは白いTシャツに黒いプリーツのミニスカートというラフな格好に着替えて来た。

〔「えー、ここで続報が入ってきました。多くの日本人乗客を乗せたハイジャック機墜落事故ですが、乗客の中に、大日本製薬代表取締役社長の斉藤秀樹氏が入っているとの情報が入って来ました」〕

 愛原:「ええっ!?は?!」
 絵恋:「!!!」
 リサ:「サイトーのお父さんが?」

〔「乗客名簿の中に斉藤秀樹社長の名前は無かったのですが、その後のロシア当局の情報によりますと、大日本製薬株式会社の代表取締役社長、斉藤秀樹氏がいるとの情報が入っております。何故、乗客名簿に無かったのか、それは不明であり、また、現在は本人確認の最中であります」〕

 絵恋:「お、お父さんが……」
 愛原:「今の話だと、生きてるんだか死んでるんだか分からんな……。あっ!」

 絵恋さんは呆然としていた。
 当然だろう。
 父親が行方不明になったと思えば、何故か飛行機に乗っていて、しかもその飛行機がハイジャック後にロシアで墜落していたというのだから。

 リサ:「サイトー、どうした?」

 リサがポンと肩を叩くと、絵恋さんはそのまま体を震わせて、バタッと床に倒れた。

 愛原:「わあっ!?大丈夫か!?」
 リサ:「サイトー、お腹空き過ぎて倒れた?」
 愛原:「そうじゃない!ショックで失神したんだ!取りあえず、部屋で休ませろ!リサの部屋でいいな?!」
 リサ:「いいけど……。サイトーの分のハンバーガーは?」
 愛原:「取りあえず置いとけ!早く絵恋さんをベッドに運ぶんだ!俺は善場主任に連絡する!」

 私は自分のスマホを取り出すと、それで善場主任に電話を掛けた。
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