報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「新たなる疑惑」

2022-03-21 15:20:43 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月5日10:00.天候:晴 東京都千代田区丸の内 大日本製薬東京本社]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を営んでいる。
 今日は土曜日だが、斉藤社長に呼ばれた。
 それも、自宅ではなく、会社である。
 不思議なのは、リサは呼ばれて、高橋は呼ばれなかったこと。
 しかも何故か高橋とパールには、ディズニーリゾートのペアチケットが送られ、そこへ行けという有り様だった。

 愛原:「一体……斉藤社長は何を考えている?」

 丸の内へ向かうタクシーの中で、私は終始、斉藤社長の真意について考え込んでいた。
 隣には制服姿のリサがいる。
 さすがに土曜日とはいえ、私服で行くわけにはいかないだろう。

 運転手:「お客様、あそこが夜間通用口の前ですが……」
 愛原:「あっ、ああ。じゃあ、そこで止めてください」
 運転手:「はい」

 週末はオフィスビルの正面エントランスは閉鎖されている。
 この場合は、夜間・休日通用口を出入りすることになる。
 それは大抵、防災センターの出入口だったりする。

 愛原:「それじゃ、タクシーチケットで……」
 運転手:「はい、ありがとうございます」

 私は社長が寄越してきたタクシーチケットで、料金を払った。
 先にリサが降りる。

 愛原:「ここから入るのは初めてだ……」

 後から降りた私は、リサを伴ってビルの防災センターの入口に向かった。

 愛原:「こんにちは。大日本製薬の斉藤社長とお会いする約束で伺った、愛原と申しますが……」

 私は防災センターの受付にいる警備員に言った。

 警備員:「愛原様ですね。まもなく、秘書の方が来られると思いますので……」
 愛原:「あ、そうですか」

 土曜日でも秘書さんがいるとは……。
 まあ、社長が出勤しているのだから、必然的に秘書さんも出勤になるのか。

 秘書:「お待たせ致しました。ご案内致します」

 そこへ秘書さんがやってきて、私とリサの入館証を持って来た。
 一般の入館者と違い、役員室エリアに入れるゴールドカードだ。
 秘書さんに付いて行くと、エレベーターホールがあった。
 しかし、呼び出す時にIDカードを読取機に当てないと、エレベーターが呼べないらしい。
 それは秘書さんのカードを使用した。
 そして、エレベーターに乗り込む時もカードが必要だ。
 1階から乗り降りする場合は必要無いのだが、1階はそもそもエレベーターホールに出入りするのにセキュリティゲートがあるからだ。
 エレベーターで一気に役員室エリアまで上がる。

 リサ:「耳がキーンってなる……」
 愛原:「地下1階から地上30階まで一気に上がるからな」

 エレベーターを降りると、地味で如何にもバックヤードといった感じの地下1階と比べ、30階はエグゼクティブといった感じのシックな装飾になっている。

 秘書:「こちらでお待ちくださいませ」

 豪華な応接室に通される。

 愛原:「さすが、うちの事務所のソファよりふかふかだな」
 リサ:「お尻が沈み込むから、足開いちゃう。パンツ見えちゃうよ」
 愛原:「じゃあ、足開くなよ」

 社長が来るかと思いきや、再び秘書さんが現れた。

 秘書:「お待たせ致しました。愛原学様、こちらへどうぞ」

 応接室と社長室は繋がっている。

 愛原:「あ、はい。……って、このコもですよね?」
 秘書:「いえ、愛原学様だけです。お連れの方は、こちらでお待ち頂くようにと……」
 リサ:「ええっ!?じゃあ、わたし何で呼ばれたの!?」
 秘書:「申し訳ありませんが、社長の御命令ですので……」
 愛原:「まあ、いいや。リサ、ちょっとここで待っててくれ。どうせ、すぐ隣の部屋だから……」
 リサ:「ぶー……」

 私も不思議な感じを持ちながら、隣の社長室に入った。
 社長室に入ると、秘書さんはドアを閉めた。

 斉藤秀樹:「やあやあ、愛原さん、ようこそお越し下さいました」
 愛原:「いいえ、社長。失礼します」
 秀樹:「どうぞ、お掛けください」
 愛原:「ありがとうございます」

 私は社長室内にある応接セットのソファに腰かけた。
 すぐに秘書さんがコーヒーを持って来てくれる。

 秘書:「お連れ様には、ジュースをお出ししてございますので」
 愛原:「あ、ありがとうございます」
 秘書:「失礼します」

 秘書さんが退出すると、社長が口を開いた。

 秀樹:「引き継ぎ業務で多忙なものでしてね。時間の空いている、土曜日に来て頂いた次第です」
 愛原:「そうでしたか。それで本日は、どんな御用件で?」
 秀樹:「単刀直入に伺います。あなたの助手、高橋正義氏とは一体いかなる人物ですか?」
 愛原:「は?」
 秀樹:「私には、どうしても白井伝三郎を事故死させたのが偶然とは思えないのですよ。しかも、本人達は無傷ときています」
 愛原:「それは私も同意見ですが……。しかし、本人はあくまで偶然を主張しています。もっと詳しく言えば、パールに促されたとのことですが……」
 秀樹:「恐らく、そのようなことはないでしょう。私自身は高橋氏が何らかの理由で白井伝三郎の現在地を知り、何らかの理由で車を衝突させ、事故死させたと見ています」
 愛原:「……!」
 秀樹:「愛原さん。差し支えない範囲で構いませんので、高橋氏の事を教えて頂けないでしょうか?」
 愛原:「は、はあ……。あいつは……」

 そういえば私、あいつのことはあまり詳しく知らないんだった。
 新潟県出身で、お世辞にも良い家庭環境とは言えない所で育ち、そのせいでグレて少年鑑別所から少年刑務所までコンプリートしたことくらいだ。
 それにしても、不思議な所が1つある。
 今あいつは住み込みの弟子をしているが、住み込み初日、あいつは……。

 愛原:「……私に惜しげも無く、1000万円をドンと置いたんですよ。そして一言、『部屋代なら前金でお支払い致します』と」
 秀樹:「……複雑な家庭環境に生まれ育ち、矯正施設に何度も出入りしたような元・少年犯罪者が1000万円の大金ですか。その時、愛原さん、不思議に思わなかったのですか?」
 愛原:「思いましたが、あの時は今よりも経営状態が逼迫していたので、あまり深く追及することはしなかったのです」
 秀樹:「そうでしたか」

 斉藤社長は高橋を怪しんでいる。
 確かに不思議な所はあるが、都合良く白井伝三郎の車に正面衝突させた上、死なせながらも自分は無傷ってところは怪しい。

 愛原:「パールはどうなんでしょう?高橋の車に同乗していて、同じく無傷でしたが……」
 秀樹:「パールについては、うちの家事使用人なので、私の方で調べます。しかし、高橋氏については、あなたよりも知らない。そこで、教えて頂きたいわけです」
 愛原:「そうですね……。それでは、私の知っていることをお話しさせて頂きます」

 私は高橋と出会った時から、今までの事を話すことにした。

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