報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「上野東京ライン1853E列車」

2022-03-27 16:24:51 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[同日09:29.天候:曇 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅→上野東京ライン1853E列車5号車内]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の6番線の列車は、9時30分発、上野東京ライン、普通、品川行きです。この列車は、15両です。グリーン車が付いております。……〕

 大宮駅の券売機でグリーン券を買い、コンコースに入る。
 ホームに行く前にリサがトイレに行きたがったので、そこに立ち寄った。
 それからホームに向かったので、バスを降りてから電車に乗るまでの間にブランクが発生した由。

〔まもなく6番線に、上野東京ライン、普通、品川行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。この列車は、15両です。グリーン車が付いております。……〕

 グリーン車が来る辺りで電車を待っていると、接近放送が鳴り響いた。
 そして、電車がやってくる。
 往路と違い、今度は新型のE233系電車であるが、グリーン車の構造はE231系の物と大して変わらない。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ、大宮です。車内にお忘れ物の無いよう、お降りください。6番線の電車は上野東京ライン回り、普通列車の品川行きです」〕

 車内に入る。
 2階席ではまるっと空いている席が無かったので、平屋席に向かった。
 ドアと連結器の間にある部分である。
 普通車と同じ高さにある為、荷棚もある。
 但し、台車の外側部分に位置する為、揺れは大きい(連結器付近が大きく揺れるのはこの為)。
 進行方向左側に座る。
 私は1人で座り、その後ろに2人の少女が座った。

〔6番線の上野東京ライン、ドアが閉まります。ご注意ください。次の列車を、ご利用ください〕

 ホームから発車メロディが聞こえてくる。
 ドアチャイムの音色は、普通車もグリーン車も同じ。
 ただ、通勤電車と比べて、閉まる時にガチャンと大きい音がする。
 そして、スーッと走り出す。

〔この電車は上野東京ライン、普通、品川行きです。4号車と5号車は、グリーン車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください。次はさいたま新都心、さいたま新都心。お出口は、右側です〕

 リサ:「来る時に車内販売で買ったレモンドーナツっての、美味しかった」
 絵恋:「そうなの。何だか酸っぱそうね」
 リサ:「甘酸っぱい」
 絵恋:「甘酸っぱかったの。それなら、ちょっと食べてみたいわね」
 リサ:「車内販売で来る」
 愛原:「多分、さいたま新都心駅を出てからだな」

 と、私は言った。
 恐らく駅間距離が短い為、それが長くなるさいたま新都心駅を出てから、アテンダントが回って来るものと思われる。

 愛原:「ん?」

 またもや善場主任からのメールだ。
 それによると、斉藤社長は何時頃出て行ったかということだ。

 愛原:「絵恋さん、お父さんは何時頃出て行ったか分かるかな?」
 絵恋:「そんなの知りませんよ。私も、朝起きてからメイドに言われたんです」
 愛原:「分かった」

 私は今の絵恋さんの回答を、そのまま返信した。
 善場主任は、『分かりました。ありがとうございます』とのことだ。

[同日10:06.天候:曇 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

 それから電車内では、善場主任からの連絡は無かった。

〔まもなく東京、東京。お出口は、右側です。新幹線、中央線、山手線、京浜東北線、横須賀線、総武快速線、京葉線と地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです〕

 ここから帰るには都営バスに乗り換えれば楽である。
 だが、ネットで調べたところ、乗り換え時間はギリギリだ。
 走れば間に合うといった感じ。
 1時間に1~2本しかない、都営バスの中でも屈指のローカル線だから、乗り換えは実は不便だったりするのだ。
 すると、また善場主任からメールが来た。

 善場:「GPSでは都内に戻られたようですが、具体的にはどの辺りにいらっしゃいますか?」

 とのことだ。
 そこで私は、今は電車の中で、まもなく東京駅に着くという旨の返信をした。
 すると、『それでは東京駅構内のカフェで落ち合えませんか?』とのことだ。

 愛原:「キミ達、善場主任が東京駅で会いたいと言ってるんだが、いいかい?」
 リサ:「善場さんが!?……な、なに?わたし、何もしてないよ?」
 愛原:「違う違う。多分、斉藤社長のことだ。だから、むしろ絵恋さんと話がしたいんじゃないのかな?」
 絵恋:「でも、私は父の行き先なんて知りませんよ?」
 愛原:「それ以外にも聞きたいことがあるのかもしれない。とにかく、いいね?」
 リサ:「分かった」
 絵恋:「分かりました」

〔とうきょう、東京。ご乗車、ありがとうございます〕

 私達は電車を降りた。
 そして、そのまま改札口へと向かう。
 そこから向かったのは、日本橋口の方。
 八重洲側の改札口を出て北に向かうと、それはある。
 団体客が待ち合わせなどに使う広場があるが、この辺りは丸の内中央ビルというビルの中に当たる。
 そこの2階にスターバックスコーヒーがあり、そこで待ち合わせることになった。

 愛原:「俺が席を確保しているから、先に買ってきていいよ」
 リサ:「はーい」

 私はテーブル席を確保し、リサ達に先に買いに行かせた。
 すると……。

 善場:「愛原所長、お疲れ様です」

 エスカレーターを昇って、善場主任がやってきた。

 善場:「お休みのところ、真に申し訳ありません」
 愛原:「いえいえ、善場主任こそ、週末なのに大変ですね」
 善場:「いえ。……あのコ達は、先に買いに行ってるのですね?」
 愛原:「そうです」
 善場:「では、私も買って来ましょう。所長はいつものブレンドコーヒーでいいですか?」
 愛原:「はい。……って、いえいえ!コーヒー代くらい、自分で出しますよ!?」
 善場:「お時間を取らせてしまったので、そのお詫びです。お気になさらないでください」

 いつもはポーカーフェイスの善場主任が微笑を浮かべた。
 仕方が無いので、ここは御厚意に甘えることにした。
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“私立探偵 愛原学” 「斉藤家の朝」

2022-03-27 14:25:10 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月6日07:00.天候:曇 埼玉県さいたま市中央区 斉藤家]

 私は訳の分からぬ夢を見て目が覚めた。
 どうも、枕が変わると眠りが浅くなるせいか、変な夢を見てしまう。
 今回の夢はどんなのかと聞かれても、口では説明できない。
 悪夢というわけではないのだが、かといって吉夢というわけでもない。
 とにかく、何とも言えぬ夢だ。
 私はベッドから出ると、洗面所に向かった。

 オパール:「おはようございます、愛原様」
 愛原:「ああ、おはよう」

 メイドのオパールが挨拶して来た。

 オパール:「愛原様の御用意ができ次第、御朝食の用意をさせて頂きますので、いつでもダイニングにお越しください」
 愛原:「ああ。ありがとう」

 顔を洗い、携帯用の自分の歯磨きセットで歯を磨き、旅行用の乾電池式のシェーバーで髭を剃る。
 そうしているうちに、30分は経つ。
 なので私がダイニングに行った時には、既に7時半にはなっていた。

 リサ:「先生、おはよう」
 愛原:「ああ、おはよう」

 ダイニングに行くと、既にリサと絵恋さんが朝食を食べていた。
 さすがに2人とも、昨夜の体操服から着替えている。
 リサは制服に着替えていたし、絵恋さんも御嬢様っぽい私服を着ていた。

 サファイア:「おはようございます。まずはコーヒーをどうぞ」
 愛原:「ああ、ありがとう」

 いい匂いがする。
 インスタントではなく、ちゃんと豆から挽いたレギュラーコーヒーだというのが分かる。

 リサ:「先生。サイトーも一緒に行くことになった。いいでしょ?」
 絵恋:「先生、よろしくお願いします」
 愛原:「俺は構わないけど、社長……キミのお父さんは?」
 絵恋:「父は朝早くに出ました。今日は帰らないそうです」
 愛原:「ええっ!?はい!?」
 リサ:「どうした、先生?何をそんなに驚いている?」
 愛原:「いや、社長にちょっとお話があったんだけど……。何か急用?」
 絵恋:「そのようです。なので、『家族団らんの為に週末は実家にいる』という必要も無くなったので」

 絵恋さんの母親も、今週はいない。

 愛原:「そうなのか……。いや、まあ、そういうことならいいけど……」
 絵恋:「ありがとうございます。交通費なら、自分で払いますから!」

 絵恋さんはアメリカンエキスプレスを取り出した。
 何色のカードかは、【お察しください】。

 愛原:「いや、せめてSuicaを用意しようね?」
 リサ:「その通りだ、サイトー。バスや電車に、アメックスで乗るバカはいない」
 絵恋:「え?でも、タクシーなら乗れますよ?」
 愛原:「まさか、菊川のマンションまでタクシーで行くつもりだったのか???」

 お金持ちの金銭感覚って……。

[同日08:50.天候:曇 同地区内 上落合公園前バス停→丸建つばさ交通“けんちゃんバス”車内]

 朝食を終えてから家を出ると、私達は最寄りのバス停に向かった。

 愛原:「悪いけど、電車とバスで行くよ?」
 リサ:「サイトー。先生の仰ることは絶対」
 絵恋:「もちろん、リサさんと一緒なら徒歩でもいいです」
 愛原:「いや、さすが歩いて菊川には帰りたくない」

 バスを待つ間、斉藤社長に電話をしたが、電話には出てくれなかった。

 愛原:「うーむ……。斉藤社長が出てくれない……」
 リサ:「あ、バス来た」

 往路と同じ車種の小型バス(日野・ポンチョ)がやってきた。
 これが大型バスなら、横断歩道に車体がはみ出してしまう危険なバス停になってしまうが、小型バスなら問題ない。
 それを知ってて、わざと交差点の角にバス停を設置したのだろう。
 バスに乗り込むと、空いている1番後ろの席に並んで座った。

〔「発車します。ご注意ください」〕

 バスは市道を南下した。

〔ピンポーン♪ 次は児童センター入口、児童センター入口でございます〕

 愛原:「絵恋さん、お父さんがどこに行くとか言ってた?」
 絵恋:「分かりません。ただ、週末はゴルフに行くことが多いです」
 愛原:「ゴルフかぁ……」
 絵恋:「色々と付き合いの為のゴルフらしくて……。でも、最近はコロナ禍でそれもできなかったんですよ」
 愛原:「だけどその場合、車がいるよね?」
 絵恋:「新庄がいた頃は、新庄の車でゴルフ場に行ってました」
 愛原:「すると、今は新庄さんがいないから……」
 絵恋:「ハイヤーで行くことになりますね。でも、コロナ禍でゴルフ接待とかも自粛になったので、結局一度もハイヤーでは行ってません」
 愛原:「それが急に行くことになったか……」

 私はスマホを取り出すと、揺れるバスの中、善場主任にメールを打った。
 さすがに日曜日の朝だからか、今度は返信が来るのは遅かった。

[同日09:10.天候:曇 埼玉県さいたま市大宮区 大宮駅西口バス停→JR大宮駅]

 善場主任から返信メールが来たのは、バスが終点近くの付近を走行している頃だ。
 大宮駅の東西は車が混みやすい。
 私達のバスもまた、そういった混雑にハマってしまった。
 考えようによっては、ゆっくり返信メールが見れるということではあるのだが……。

 善場:「斉藤社長が逃走したのですね?承知しました。すぐに私共の組織で追跡します」

 とのこと。
 な、何だか話が物騒になっていないか?

 善場:「何か新しい情報が入りましたら、すぐにお知らせください」

 と、締められていた。
 まさかこれは、タイーホなのか?
 前回は書類送検で済んだ斉藤社長、今度という今度はタイーホなのか!?

〔「お待たせ致しました。ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、大宮駅西口、大宮駅西口です。お忘れ物、落とし物にご注意ください」〕

 バスはかつて西武大宮線の廃線跡を走行する。
 中途半端な1車線分の道路幅なのは、かつて単線で運転されていた西武鉄道大宮線の廃線跡だからである。
 そして、その先にある小さなバス停に到着した。

 愛原:「あ、このバス、現金でしか乗れないんだけど、現金ある?」
 絵恋:「現金……」

 絵恋さんが財布を開くと、カードしか入っていなかった。

 愛原:「大人3人です」
 運転手:「ありがとうございます」

 しょうがないので私は、600円を運賃箱の中に入れた。

 リサ:「サイトー、運賃は自分で払う約束……!」
 絵恋:「ご、ゴメンなさい。まさか、現金だけだなんて……」
 愛原:「いや、先に言うのを忘れてたよ。絵恋さんは悪くない」
 絵恋:「お詫びに新幹線代は出させて頂きます」

 絵恋さんは再びアメリカンエキスプレスを取り出した。

 絵恋:「新幹線のキップなら、これで買えるはずなので」

 た、確かに。
 いや、しかし……。

 愛原:「無駄金使っちゃダメだって。在来線で行こう。在来線のグリーン車ならいいだろう?」
 リサ:「フム。あれなら車内販売もある」
 絵恋:「リサさんがそう言うなら……」
 愛原:「よし、決まりだな」
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“私立探偵 愛原学” 「斉藤家の夜」 3

2022-03-26 20:15:08 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月5日21:30.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 斉藤家]

 私は斉藤家で風呂を頂いた。
 さすが富豪の家の風呂らしく、広くてジャグジーが付いていた。
 それを堪能させて頂いた後、寝巻は浴衣を借りる。

 オパール:「お湯加減、いかがでございましたか?」
 愛原:「ああ。なかなか良かったよ。次は御嬢様方が入るのかな?」
 オパール:「いえ、恐らくは旦那様かと思われます。御嬢様方は、その……ごゆっくり入られますので」
 愛原:「それもそうか。だが、あんまり長湯はさせない方がいいな」
 オパール:「かしこまりました」

 私は1階の奥の客間に向かった。
 それは応接間の隣にある。

 愛原:「もう1度、高橋に電話してみよう」

 私は風呂に入る前、一度高橋に電話していた。
 だが、電話には出なかった。
 きっとパールとよろしくヤっている最中なのだろうと思い、先に風呂に入ることにした由。

 愛原:「おっ、高橋か?どうだ、そっちは?」
 高橋:「先生、サーセン、電話に出れなくて……」
 愛原:「いや、いいよ。今、どこにいる?」
 高橋:「浦安のホテルです。先生は?」
 愛原:「斉藤社長の家だよ。パールとよろしくヤってたんだろ?」
 高橋:「は、はあ……」
 愛原:「邪魔して悪かったな。パールは?」
 高橋:「今、シャワー浴びてるところです」
 愛原:「そうか。明日には俺達も帰るから」
 高橋:「はい。俺達もです」
 愛原:「明日の夜になるんだろ?明日はディズニー・シーか?」
 高橋:「そんなところです」
 愛原:「まあ、ゆっくりしてこいや」
 高橋:「ありがとうございます」
 愛原:「ところで、さっき斉藤社長と話をしたんだが、今度の春休みも絵恋さんを旅行に連れて行って欲しいらしい」
 高橋:「またっスか。で、今度はどこっスか?」
 愛原:「どこでもいいらしい。本当なら連れて行かれる絵恋さんが希望を出してくれればいいのだが、絵恋さんのことだから、『リサさんと一緒なら、どこでも』って感じだろ?」
 高橋:「それもそうっスね」
 愛原:「オマエはどこか行きたい所とかあるか?」
 高橋:「俺っスか?俺もまた先生とは一蓮托生なんで、地獄でもどこでもお供しますよ」
 愛原:「……オマエに聞いた俺がバカだったよ。じゃな」

 私は電話を切った。
 それから善場主任にメールを打つ。
 先ほどの斉藤社長とのやり取りについてだ。
 私達が北海道に行きたがるのを、とても嫌がっていたという報告だ。
 土曜日の夜だから、すぐに返信は来ないだろうと思っていたが、意外にも早く返信が来た。

 善場:「了解です。報告、ありがとうございます。斉藤社長宅にいる間は、連絡は全てメールでお願いします。盗聴の恐れがありますので」

 とのことだ。
 盗聴どころか、盗撮もあるかもな。
 因みに、応接間には絶対盗聴器とカメラが仕掛けられてると思った。
 この際だから暴露してしまうが、大企業の応接室にも一部そのような部屋が存在する。
 大抵の大企業は、そういった応接室を備えていると見て良い。
 見分け方は大抵、『暴力団との取引には一切応じません』旨の宣誓書が掲げられている部屋だ。
 それだけで、どういった客を接遇するのに使われる部屋なのかが分かるというものだ(もちろん一般の来客でも、他に応接室が空いてなくて仕方なく使用する場合もある)。
 これ見よがしに絵画が飾られていたり、高級そうな置時計が仕掛けられている場合、その中に超小型のカメラとマイクが仕込まれている。
 それは警備室などで監視することができ、録画も録音もできるようになっている。
 私も警備員時代、某大企業のビルに派遣されていた時、そういう対応をしたものだ。
 幸いその時は暴力団員ではなく、ただのクレーマーの対応であったが。
 今時、企業ゴロとか総会屋とかいるのかねぇ?

 愛原:「分かりました」

 と、返信してその日は終わった。
 どれ、あまり他人の家で夜更かしするのもアレだから、早めに寝るとしよう。
 あー、でもその前に、リサ達に一言言っておきたいかな。
 私は自分のスマホを取ると、それでリサに電話した。

 リサ:「なーに、先生?」
 愛原:「リサ、今時間あるか?」
 リサ:「大丈夫だよ」
 愛原:「絵恋さんに、『私達のジャマをしないで!』って怒られないかな?」
 リサ:「大丈夫。サイトーに文句は言わせない」
 愛原:「そうか。それじゃ、どうしようかな?俺からそっちに行こうか?」
 リサ:「うん、来て。待ってる……」

 だがその時、電話口が急に変わった。

 絵恋:「いえっ!大丈夫です!私達から行きます!部屋で待っててください!」

 とのこと。

 リサ:「サイトー、どうした?」
 絵恋:「部屋がオジさんくさ……」

 その時、電話が切れた。
 何か最後、気に障るようなことを言っていたような気がしたが……。
 それからしばらくして、リサがやってきた。
 リサはTシャツにジャージのズボンを穿いていた。

 リサ:「サイトーは先生に対してとても失礼なことを言っていたので、ボコして先に寝かせておきました」
 愛原:「おおかた、『部屋がオジさん臭くなるから来ないで!』とでも言っていたのかな?」
 リサ:「他のオジさんならそうかもしれないけど、先生に対しては物凄く無礼。だからボコしておいた」
 愛原:「お、お手柔らかにしてあげるんだぞ?ただでさえオマエは、ラスボスクラスの上級BOWなんだから」
 リサ:「分かってる。で、なに?」
 愛原:「うん。さっき斉藤社長と話をしたんだが、春休みも絵恋さんと一緒に旅行に行って欲しいらしい」
 リサ:「ほお……」
 愛原:「それで、どこか行きたい所は無いかと思って」
 リサ:「うーん……。先生と一緒なら、地獄でもどこでも行くけど?」
 愛原:「高橋と同じこと言うなよ」
 リサ:「でもわたしは、こうして地上を歩けるだけでも奇跡だからね。本当なら、他のリサ・トレヴァーみたいにとっくに地獄に堕ちているはずだよ」
 愛原:「結局、俺が決めなきゃいけないのか」
 リサ:「どこでもいいから、先生が決めて。わたしは先生とお出かけできるだけで幸せだから」
 愛原:「ありがたいこと言ってくれるな」
 リサ:「これくらいお安い御用。何なら今夜はここに泊まって、先生と一緒に寝る」
 愛原:「ええっ?」
 絵恋:「ちょぉぉぉぉぉっと待ったぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 バァンと思いっ切りドアを開けて、絵恋さんが突入してきた。

 絵恋:「そうはいかないわ!リサさんは私と一緒に寝るの!」
 リサ:「サイトー!?復活早っ!オリジナル大先輩みたい!」

 日本版リサ・トレヴァーの元祖はアメリカのリサ・トレヴァー。
 警察の特殊部隊の前に現れた時には既に不死身状態であり、銃弾を何十発も食らわせて、ようやく一時的にダウンさせられるだけであった。
 こっちのリサ・トレヴァー達にとっては、確かに大先輩に当たる。
 そ、それにしても……。

 愛原:「絵恋さん、どうして体操服にブルマーなの?」
 絵恋:「こっ、これは!!」

 絵恋さんは慌てて体操服の裾を引っ張って、ブルマーを隠そうとした。

 リサ:「一緒に寝る時はそれを着ることにしてるの。わたしもほら、ちゃんと下に穿いてるよ?」

 リサはジャージのズボンを脱いでみせた。
 するとその下には、絵恋さんとお揃いの緑ブルマーがあった。
 東京中央学園で、かつて着用されていたブルマーである。
 今は事実上の廃止状態で、クォーターパンツに切り替わっている(校則で明文化されていない他、学校指定店等では購入できるので、正式な廃止ではないと言える)。

 愛原:「お気遣い、ありがとう」

 ここで否定すると、リサの機嫌が途端に悪くなる。
 ここは、やんわり肯定してあげるのが正しい選択肢。

 愛原:「絵恋さん、春休み、また私達と旅行に行くことになるみたいだけど、リサと一緒に行ってみたい所とか無いの?」
 絵恋:「ええ。強いて言うなら、一緒に地獄に堕ちる覚悟です」
 リサ:「勝手にわたしを地獄行きにするな。先生、本当に先生が決めていいから。先生と一緒なら、地獄でもどこへでも行くから」

 何で皆して地獄に行きたがるんだ?
 こういう輩共に、『入信しないと地獄に堕ちる』と折伏しても無駄よ?

 愛原:「キミのお父さんは、北海道には行くなと仰ったんだ。キミが嫌がるからなんだって。そんなに向こうでは嫌な思いをしたかい?」
 絵恋:「確かに随分と退屈でしたけど、リサさんと一緒に行けるのなら、全然かまいませんよ?」

 とのこと。
 そうなんだよな。
 彼女の場合、リサが一緒なら地獄に行く覚悟なら、北海道なんか天国みたいなものだ。

 愛原:「そうだよな。じゃあ、娘さんの証言も取れたところで……」

 そこへ、メイドのオパールが入って来た。

 オパール:「失礼します。御嬢様方、お風呂の御用意ができました」

 いいタイミングで入ってきやがる。
 やはりこの部屋も、盗聴・盗撮されているのだろうか。

 愛原:「メイドさん、社長には会えますか?」
 オパール:「あいにくですが、旦那様はこれよりお休みになられるということで、また明日にお願い致します」
 愛原:「そうですか」

 上手い事、逃げられたか。
 まあいい。
 明日の朝食まで御一緒するはずだから、その時に話をしよう。
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“私立探偵 愛原学” 「斉藤家の夜」 2

2022-03-26 15:48:14 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月5日20:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 斉藤家1F応接間]

 夕食が終わった後、私と斉藤社長は応接間に移動した。

 斉藤秀樹:「ウィスキーでもどうですか?」
 愛原:「はあ……ありがとうございます」

 斉藤社長は内線電話を取ると、それでメイドに言い付けた。

 秀樹:「水割りを2つ持って来てくれ」

 しばらくして、メイドのオパールが水割り2つを持って来た。

 愛原:「今日はありがとうございました」
 秀樹:「いえいえ、こちらこそ、うちの娘のワガママに付き合ってもらって恐縮です」
 愛原:「本当に御嬢様は、リサのことが大好きみたいで……」
 秀樹:「ホントですね」
 愛原:「でもそんなワガママを叶えてあげる、社長もなかなかの親バカぶりでは?」
 秀樹:「はっはっは!いやあ、返す言葉もありません。何しろ私の、大事な一人娘ですからな。本当はダメだと知りつつ、どうしても聞いてしまうのですよ」
 愛原:「うちのリサも気に入っているようですし、こういうので良ければ、またお引き受け致しますよ」
 秀樹:「真にかたじけない」
 愛原:「それより、今月中には蔓延防止が解除されるようですね」
 秀樹:「そのようですな」
 愛原:「春休みはどう致しましょう?また、娘さんをお連れしましょうか?」
 秀樹:「ふむ、そうですね……。まあ、私も異動などで忙しいのは間違いないので……」
 愛原:「BSAAでの取り決めもありますので、海外はちょっとムリですが……」

 生物兵器たるリサを海外へ移送することは禁止されている。
 なので、リサにはパスポートは発行されない。
 例え数日の旅行であったとしてもだ。
 最初は本州からも出られないという縛りがあったが、八丈島の件以降は『本州内』から『日本国内』へ、交通手段も『陸路限定』から『限定解除』と緩和されている。
 つまり、んっ?さんの九州へ行くことも可能となったわけである。

 秀樹:「でしょうね。どこか、オススメの所とかありますか?」
 愛原:「そりゃもう色々ありますよ。というか、メインの御嬢様がどこに行きたいかですよね」
 秀樹:「はっはっは!娘のことですから、『リサさんと一緒なら無間地獄にだって行くわ』と言うはずです。ですのでね、そこは愛原さんが決めて頂いて大丈夫ですよ」
 愛原:「そうですか。実は、リサが関心を寄せた場所があるのですよ」

 ウソである。
 ここから先は、私の探偵の仕事だ。

 秀樹:「どこでしょう?」
 愛原:「北海道です」
 秀樹:「北海道ですか」
 愛原:「社長方、冬休みは北海道に行かれましたでしょ?」
 秀樹:「はい」
 愛原:「リサはまだ北海道に行ったことがないので、凄く関心を寄せているんですよ」
 秀樹:「そうなんですか」
 愛原:「確か社長方、倶知安とかニセコの方とかに滞在されたんですよね?」
 秀樹:「そうです」
 愛原:「あの辺はどうですか?」
 秀樹:「私みたいにのんびりと過ごしたい場合はいいですが、活発に動きたい娘には苦痛だったようです」
 愛原:「あそこにはスキー場とかもあったはずですが?」
 秀樹:「はい。ですが、かといってずっと毎日滑っているわけにもいきません。また、1日中吹雪の日もあって、そんな日は外にも出られませんから、やはり屋内にいるしかないのです。元々はマスコミなどから逃げる為でしたが、娘には苦痛を与えてしまいました」
 愛原:「どういう所に泊まられたんですか?」
 秀樹:「知り合いが経営しているペンションですよ。これがリゾートホテルなら、まだホテル内に色々と施設がありますから、そこで気を紛らわすという手もありますが、一個人経営のペンションでは……」
 愛原:「なるほど」
 秀樹:「娘としては、北海道はしばらくは控えたいようです。……ので、別の場所でお願いできますか?」
 愛原:「リサが行きたいと言った場合は?私も、絵恋さんはリサと一緒なら地獄迄も一蓮托生といった感じだと思います。その場合は?」
 秀樹:「……父親として許可しかねます。リサさんには、第2希望でお願いすることになると思います」
 愛原:「そんなに北海道は許可できませんか?」
 秀樹:「娘には窮屈な思いをさせてしまったので」
 愛原:「宿泊先は札幌の大きなホテルとかでは?」
 秀樹:「ですから、娘は今、北海道に行くこと自体がトラウマになっているのです」

 斉藤社長は、私達が北海道に行くことを必死で止めようとしている。
 私達に北海道に行かれること、それも、斉藤社長らが滞在した場所を探索されるのを恐れているようだ。

 秀樹:「愛原さんこそ、何か北海道に思い入れでもあるんですか?」
 愛原:「まあ、警備会社にいた頃、社員旅行で何度か訪れた思い出の地ですから」

 それは本当だ。
 年によっては、逆方向の沖縄に行ったこともある。

 秀樹:「それだけですか?」

 私は1つだけ情報を出してあげることにした。

 愛原:「社長は、白井伝三郎が羽田空港近くの道路で事故死したことは御存知ですね?」
 秀樹:「ええ。テレビでも新聞でも、大きく報道されていましたから」
 愛原:「その白井は捜査の目を掻い潜っている最中、北海道に潜んでいたそうですよ」
 秀樹:「そうなんですか」
 愛原:「ついでに、白井が滞在していたとされる場所に行ってみようかなと思いましてね。本人はもう死亡していますし、こんな一探偵が知り得たわけですから、捜査機関もとっくに知っているでしょう。なので、直接現場までは行けないと思いますがね」
 秀樹:「そんな野次馬根性に、娘を付き合わされても困ります。何度も言うように、春休みも娘の事はお願いするとは思いますが、行き先は北海道以外でお願いします」
 愛原:「分かりました」

 このやり取りは、後で善場主任に報告しておこう。

 愛原:「では後でリサに第2希望はどこか聞いておきますので、またその時に……」
 秀樹:「よろしくお願いします」

 話が終わったのを見計らったかのように、オパールが入って来た。

 オパール:「失礼致します。お風呂の準備ができました」
 秀樹:「分かった。愛原さん、先に入ってください。私はまだ残務がありますので……」
 愛原:「分かりました」

 私は応接間をあとにした。
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“私立探偵 愛原学” 「斉藤家の夜」

2022-03-24 20:11:49 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月5日17:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 斉藤家1F応接間→B1Fプレイルーム]

 真冬ならもう真っ暗という時間帯だが、3月の今はまだ明るい。
 そんな時、家の前に黒塗りのハイヤーが到着した。
 前はお抱え運転手の新庄さんが送迎を務めていたが、新型コロナウィルスに感染してしまい、今なお後遺症と闘病中の為、復職できないでいる。
 その間は、地元のタクシー会社で東京でも営業している所とハイヤー契約を結び、それで通勤している。

 ダイヤモンド:「お帰りなさいませ、旦那様」

 そこは『御主人様』ではないらしい。
 メイドカフェと区別する為か?

 斉藤秀樹:「ああ。愛原さんは?」
 ダイヤモンド:「はい。探偵の愛原様は、奥の応接間でお待ちでございます。リサ様は御嬢様と一緒に、地下のフィットネスルームで……」
 秀樹:「愛原さんはずっと応接間に?」
 ダイヤモンド:「はい」
 秀樹:「はい、じゃない。それでは、ずっと暇を弄ばれたのではないか?」
 ダイヤモンド:「それは……」
 秀樹:「プレイルームにも案内すれば良かったのに……」
 ダイヤモンド:「も、申し訳ございません」

 そんな話し声が応接間の外から聞こえて来た。

 秀樹:「愛原さん、お待たせしました。長らくお待たせしてしまいまして、真に申し訳ない」
 愛原:「いいえ。全然かまいませんよ。社長こそ、お忙しい中、お疲れ様です」
 秀樹:「ちょっと仕事がおしてしまいましてね……。本当ならプレイルームで時間を潰して頂いても良かったのですが、うちの使用人の気が回らなくて申し訳無かったです」
 愛原:「いいえ、そんな……」

 どうせ、プチカジノバーみたいな部屋だ。
 スロットマシーンやルーレット、ビリヤード台にトランプ台があるだけに過ぎないだろう。
 私がそう思っていたら……。

 秀樹:「知り合いのパチンコ業界関係者から、中古のパチンコ台(“海物語”)を購入しましたので、それでヒマを潰して頂ければなと思っていたので……」
 愛原:「後で是非やらせてください!」
 秀樹:「さて、夕食まで時間がございますので、ご案内致しますよ」
 愛原:「ありがとうございます」

 プレイルームは地下にある。
 メイドのダイヤモンドに鍵を開けてもらい、中に入ると、確かに見覚えのあるパチンコ台があった。

 秀樹:「これで夕食まで時間を潰してください。話の続きは、また夕食後にしましょう」
 愛原:「ありがとうございます」

 私は早速、パチンコ台の前に座った。

[同日18:00.天候:晴 斉藤家1Fダイニング]

 時間になり、メイドのオパールが呼びに来た。
 因みにパチンコ台は、未だにアミューズメント仕様になっていたので、当たりが出やすい設定にはなっていなかった。
 ただ、釘は甘くなっていたので、魚群を回しやすくはなっていたが。

 リサ:「先生、いくら稼いだの?」
 愛原:「いやいや、ゲーセンのパチンコ台みたいなものだから、換金とか無いよ」
 リサ:「そんなにウリンが好きなの!?」
 愛原:「何でいきなりロリキャラ出す!?普通、メインキャラのマリンちゃん出さない?」
 リサ:「先生、ロリコンっぽいし」
 愛原:「ンなワケあるかーっ!」

 普通はマリンちゃんのボインに目が行くだろうが。

 リサ:「めんそーれ沖縄♪ちゅちゅちゅらちゅら沖海♪」
 愛原:「レッツゴー!……って、こら!」
 秀樹:「楽しんで頂けて何よりです。また中古台手に入りそうなら、導入しておきますからね」
 愛原:「は、はあ……」
 絵恋:「お父さん!そんな無駄なお金使うくらいなら……」
 秀樹:「何を言ってる?オマエの大好きなリサさんは、愛原さんと一緒じゃないと来れないのだぞ?」
 絵恋:「先生!今度は何の機種がいいですか!?エヴァ!?それとも大工の源さん!?」
 愛原:「ハハハ。まだ高校生のキミが立ち入って良い話題じゃないよ。因みに私は、“海物語”と“バイオハザード”派だ」
 秀樹:「“バイオハザード”ですか。もしかしたら、CRバイオハザードリベレーションズ2が手に入るかもしれませんな」
 愛原:「あれ、まだ比較的新しい台なんじゃ?さすが社長ですね」
 リサ:「どんな話?」
 愛原:「ナタリア・コルダっていう10歳の女の子が登場する……」
 リサ:「やっぱりロリコンじゃないの!」
 愛原:「いや、本当の話なんだって!」
 リサ:「そいつはエブリンみたいに悪いヤツなの?」
 愛原:「いや、今は確かBSAAの元職員のバリー・バートン氏の家で世話になっているはずだ。カナダのどこか」
 秀樹:「2011年の話ですね。あの頃は日本では東日本大震災があった為に、北海の孤島で起きたバイオハザード事件は、殆ど報道されませんでしたな」

 そしてその2年後、東欧の紛争地帯やアメリカのトールオークス市、中国の香港でバイオハザードが起きる。

 サファイア:「お待たせ致しました」

 キッチンメイドのサファイアが、分厚いステーキを焼いて持って来た。
 300gはありそうだ。

 リサ:「おおーっ!」

 リサはまだ赤身が多く残っているうちから、ナイフとフォークを突き刺した。

 絵恋:「これはテンダーロイン?」
 サファイア:「さようでございます。リサ様は赤身肉がお好きと伺ったもので」
 愛原:「うん。ステーキは血が滴るのが好きだっていうから、赤身肉がいいだろうね」

 その為、リサはいつもレアで注文する。
 本当は更に生に近いブルーレアが良いらしいが、それを受け付けてくれるレストランは、まず日本には無いのではないか。
 最低でもレアからだろう。
 因みに私はミディアム派である(が、作者は店で勧められる焼き方をそのまま選択するという)。
 食中毒を経験したことのある人は、用心してウェルダンを注文するのだとか。

 秀樹:「私達はサーロインですよ」
 愛原:「あ、なるほど。肉が違うのですね」
 秀樹:「はい」
 愛原:「因みに高橋から、宿泊先は浦安駅近くのビジホだとの連絡が入りました」

 そこはディズニーリゾートオフィシャルホテルではないらしい。
 まあ、そこまであの2人にカネは掛けられないか。

 秀樹:「舞浜から路線バスで行ける場所ですからね。けして、不便ではないと思いますよ」
 愛原:「確かにそうですね」

 夕食の後、私と社長は再び応接間へと移動した。
 一方、リサと絵恋さんも再び3階の部屋へ……。
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