報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「士が 大勢来る 不治の山 後にその名を 富士山と呼ぶ」

2021-03-28 11:38:49 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月20日09:31.天候:晴 静岡県富士宮市 JR富士宮駅]

〔まもなく富士宮、富士宮です。富士宮では、全部のドアから降りられます。……〕

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 ようやく私達は富士山の麓の町までやってくることができた。

 愛原:「キミ達はここで降りないの?」
 栗原蓮華:「ええ。私達は次の西富士宮で降ります」
 愛原:「そうか。じゃあ、気をつけて」
 蓮華:「先生方も」

 電車がホームに到着するが、すぐにドアは開かない。
 島式ホームの駅なので、運転士は左ハンドルの運転席から立って右側に移動し、それから車掌スイッチを操作して開扉するのである。

〔富士宮、富士宮です。……〕

 

 栗原姉妹を電車に残し、私達は電車を降りた。
 ローカル線ながら、線内では特急も停車する主要駅の1つということもあり、乗降客はそれなりに多い。

 リサ:「ここからどうするの?」

 富士宮駅は富士駅と同様の橋上駅舎である。
 ホームは地平にあるが、駅舎は2階にあるタイプ。
 なので、改札口へは階段を登る必要がある。
 その階段を昇りながら、リサが言った。

 愛原:「駅前のレンタカー屋に移動して、そこでレンタカーを借りる。それから色々と回ろうと思う。高橋、運転よろしくな?」
 高橋:「あ、はい。お任せください」

 駅舎からはイオンモールが見える。
 富士宮駅を発車した電車は、高架線を登って行くが、これはイオンモール前の踏切を解消する為に行われた立体交差化によるものだ。
 それまでは、踏切のせいでよく渋滞していたらしい。
 ローカル線ながら、西富士宮駅以南は比較的本数が多いので、踏切渋滞が多発していたのだという。
 用地は広大な操車場跡を利用したらしい。
 その操車場跡とは、かつて創価学会専用列車を留置していた所。
 専用列車が無くなり、ペンペン草が生えていた所、立体交差化の用地に使われたという。
 その為、今ではその操車場跡を見ることはできなくなっている。
 唯一、学会専用列車があった頃の名残があるのは、富士宮駅の1番線ホームか。
 今でも団体専用ホームとして指定されているが、全く使われておらず、埃被っている。
 ホームの外は車寄せになっており、1番線に学会員を満載した専用列車が到着すると、すぐに学会員達は車寄せに横付けされたバスに乗り込み、そのまま大石寺に向かったという。
 今では面影を僅かに残しているだけである。
 当時は165系が主に使用され、今なら373系といったところか。

[同日11:00.天候:晴 同市内 まかいの牧場]

 愛原:「うーむ……」

 ここは有名な観光スポットの1つである。
 ここには、リサ以外の者が来るべきだった。
 いや、すっかり忘れていた。
 リサを動物関係の施設に連れて行ってはいけなかったことを。

 馬:「ヒヒーン!」
 羊:「メェー!メェー!」
 牛:「モー!モー!」

 高橋が慌てて私の所に走って来る。

 高橋:「せ、先生!大変です!リサの行く先々で、動物達が怯えて脱走しようとしています!」
 愛原:「しまった……!そうだった」

 私は右手を頭にやって、あちゃーと思った。

 リサ:「どうしたの?別に取って食べようとか、思ってないのに……」
 斉藤:「リサさん、涎!」

 リサは第0形態になっていて、上手く人間に化けているはずなのだが、動物達には誤魔化せなかったようである。
 で、ここでゆっくり過ごせたのは、レストラン関係であった。

[同日12:00.同市内 道の駅“朝霧高原”]

 まかいの牧場をあとにした私達は、更に国道139号線を北上し、今度は道の駅に向かった。
 これは高橋の希望である。
 街道レーサーでもあった高橋は、こういうスポットには目が無いようだ。
 環境省が公開した『富士山がある風景100選』に認定されているだけあって、天気が良いとここからよく富士山が見える。
 今はまた雲が出て来てしまった為、頂上部分を見ることはできない。

 愛原:「道の駅だから、お土産も売ってるんだよな」
 高橋:「そうです」
 愛原:「ここからボスにでも送るか。ボスには酒の方がいいだろう」

 尚、ここでもリサはレストランで何か食べようとしていた。

 愛原:「太るからやめなさい」
 リサ:「えー?私、こんなに体が小さいのに?」

 変化やBOWとしての怪力にエネルギーを大量消費する為、太るほどカロリーを貯めこまないのだという。

 斉藤:「ぽっちゃり系のリサさんも好きです!」
 リサ:「むー……。先生はロリ系の方が好きだからやめておく」
 斉藤:「ええーっ!」
 愛原:「読者が誤解するからやめなさい!」
 リサ:「『1番』とよろしくヤってたくせに……」
 愛原:「だから、あれは襲われたんだってば!」
 リサ:「私が『1番』の記憶を上書きしてあげようってのに……」
 愛原:「だからそれは違うって……」

[同日13:10.天候:晴 同市内上条 大日蓮華山大石寺 奉安堂]
(ここだけ三人称です)

 任務者のオバちゃん:「ちょっと、そこのあなた!長物の持ち込みは禁止です!」
 栗原蓮華:「ええーっ!?」
 栗原愛里:「だから言ったのに……」
 蓮華:「ここに置いていきます……」
 愛里:「休憩坊の報恩坊様に置いてくれば良かったのに……」

 泣く泣く長物(鬼斬りの刀)を置いて、堂内に入る蓮華だった。

 愛里:「今頃先生達、どこにいるカナ?」
 蓮華:「観光スポットを回ると言ってたから、あちこちじゃない?白糸の滝にでも行ってるかもね」
 愛里:「愛原先生、温泉が好きなんでしょう?華の湯とか?」
 蓮華:「あるかもね」

〔「御開扉に先立ちまして、注意事項を申し上げます。……」〕

 蓮華:「愛原先生達をお連れできたら……」
 愛里:「鬼はヤダ。絶対ヤダ」
 蓮華:「御本尊様に『鬼子母神』の名前が入っているから、鬼でも連れて来ていいんだろうけどね」

 尚この時、リサはくしゃみを何回かした上、『誰か私の悪口を言っている』と、地獄耳を立てていたという。
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“私立探偵 愛原学” 「異流儀の つはものどもが 夢の跡 身延線路に はえる草也」

2021-03-27 20:00:39 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月20日08:52.天候:晴 静岡県富士市 JR富士駅南口→富士駅・身延線ホーム]

〔「ご乗車ありがとうございました。富士駅南口です」〕

 私達を乗せた路線バスは住宅街の中を進んたり、県道を進んだりした。
 今日乗ったこの便は中型バスであったが、時間帯によってはコミュニティバスなどでよく見るタイプの小型バスで運転されることもあるという。
 富士駅南口のロータリーに入り、バスが停車した。
 前扉が開いて、乗客達が前の方に動き出す。

 運転手:「ありがとうございました」

 因みにこの辺りの路線バスでも、運転席や前扉のすぐ後ろの1人席はコロナ対策で封鎖されている。
 バス会社によっては、満席になった時には開放する所もあるようだし、或いは開放しなくとも、荷物置き場としての使用ならOKという所もあるようだ。
 尚、このバス会社の場合、高速バスにおいては最前列席でも着席可能である(貸切観光バスは不明)。
 私はPasmoで運賃を払うと、バスを降りた。
 富士駅南口は、富士駅から見て裏口に当たる。
 バス停の目の前に跨線橋を兼ねた駅の入口があるので、それを登る。
 富士駅は橋上駅舎なのである。
 バスでPasmoが使えるのなら、富士駅でもToikaが使える。
 もちろん、JR東海ではTokiaなだけで、JR東日本のSuicaももちろん使える。
 自動改札機を通ると、身延線ホームは1番線と2番線にあることが分かる。

 

 身延線ホームは頭端式になっていて、車止めが付いている。
 しかし、線路は東海道本線とも繋がっていて、朝には一本、身延線から熱海駅に向かう電車が運転されている。
 元々、線路は静岡の方を向いていた。
 それが創価学会の台頭により、東京方面からの学会専用列車が多数運転されるようになると、富士駅でのスイッチバックがネックになり、線路を東京方面に付け替えたそうである。
 向きを変えられた途中にあった駅は廃止されたが、代わりに新線部分に柚木駅が誕生している。
 そして旧線部分は、遊歩道になっているとのことだ。
 ホームに行くと、ちょうど折り返し列車が到着する所だった。
 2両編成のワンマン運転列車だったが、身延線の終点である甲府まで行くらしい。

 

 東海道本線を走っている同形式の車両がロングシートだったのに対し、こちらはボックスシートがあった。
 もちろん私達は、そちらに座った。

 

 世代的には、JR東日本で言うところのE231系とかE233系と同世代だろう。
 しかしそれらの車両と比べれば窓は大きく、眺望には優れている。

 栗原蓮華:「進行方向右側ですと、富士山が見えますよ」
 愛原:「そうなのか。じゃあ、そうしよう」

 私と高橋、リサと斉藤絵恋さんは進行方向右側のボックスシートに座った。
 栗原姉妹はドア横の2人席に座った。
 もう何回も乗っているのか、それともリサにトラウマを持つ妹の愛里がリサと目を合わせないようにする為か……。

〔「ご案内致します。この電車は9時12分発、身延線の普通電車、甲府行きです。富士宮、身延、鰍沢口方面、甲府行きです。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 運転士が乗り込んで、マイクで肉声放送を行う。
 やはり、ワンマン運転のようだ。
 運転室との境の窓も、JR東日本のそれより大きい。
 また、ワンマン運転に対応している為、フルカラーLED式の運賃表や運賃箱もあった。

 愛原:「はい、2人とも撮るよー」

 私は仕事用のデジカメを取ると、窓側に向かい合って座るリサと絵恋さんを撮影した。
 これは新幹線の中でもそうした。
 後でクライアントの斉藤社長に報告書と一緒に提出する際、証拠の写真としてである。

 愛原:「あ、そうだ。2人も撮るかい?」

 私は2人席に座る栗原姉妹に言った。

 栗原蓮華:「じゃあ、お願いします」

 蓮華さんは私のデジカメではなく、自分のスマホを出した。

 愛原:「はいよ」

 私は蓮華さんからスマホを借りると、ロングシートに仲良く座る姉妹を撮影した。

 蓮華:「愛原先生、写真撮るの上手ですね」
 愛原:「証拠の写真は的確に撮らないといけないからな」
 高橋:「どうだ、恐れ入ったか?先生の撮影技術はプロ並みだ」

 高橋がまるで自分の事のように自慢した。

 愛原:「但し、カメラマンとしての凝り方は違うぞ。プロにとっては、被写体だけガッツリ写して、その周りはボかす撮影技術とかあるだろ?例えば走っている電車はガッツリ写すものの、その背景は流して撮るヤツとか……」
 蓮華:「流し撮りってヤツですね」
 愛原:「そうそう。場合によっては被写体までわざとボかして撮影する芸術まであるらしいが、それは探偵には求められていない技術だ。しっかり、はっきり写すのが肝心なんだよ」
 高橋:「メモっておきます!」

 高橋は急いで自分の手帳を取り出すと、いま私が言ったことをパパッとメモした。

[同日09:12.天候:晴 同市内 JR身延線3627G列車先頭車内]

〔「お待たせ致しました。9時12分発、身延線の普通電車、甲府行き、まもなく発車致します」〕

 運転士が肉声で放送すると、運転室の窓から顔を出してホームを見る。
 車外スピーカーからはオリジナルの乗降促進チャイムが鳴った。

〔ドアが閉まります。ご注意ください〕

 そして、ドアチャイムが鳴ってドアが閉まった。
 東海道新幹線の音色より甲高く、響くチャイムである。
 しかしこれはJR東海オリジナルではなく、東京の京王電車でも流れるチャイムである。
 閉扉を確認すると、運転士は運転席に座り、そして電車が走り出した。

〔お待たせ致しました。次は柚木、柚木です。柚木では、後ろの車両のドアは開きません。お降りのお客様は、前の車両にお移りください。……〕

 少し走り出すと、左側から東海道本線の線路が合流してくる。
 なるほど。
 かつての創価学会専用列車は、その線路を走って来たというわけか。
 当時は165系が使用されていたそうだが、今なら373系か。
 JR東日本の車両を使うなら185系かな。
 その185系も引退したから、373系一択だろうな。
 373系なら、かつて東京駅まで乗り入れていたくらいだから可能だ。
 そして、この身延線を走る特急“ふじかわ”も373系だから、どう考えても適役だ。
 電車は東海道本線と別れ、進路を北に向けて進んだ。
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“私立探偵 愛原学” 「静岡県富士市」

2021-03-27 16:05:29 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月20日08:31.天候:晴 静岡県富士市 JR新富士駅]

〔♪♪(車内チャイム。“いい日旅立ち・西へ”サビ)♪♪。まもなく、新富士です。新富士を出ますと、次は静岡に止まります〕

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 ようやく富士山の見える町まで来たのだが、あいにくと天候はそこまで良好というわけではなかった。
 恐らく気象庁的には晴れに分類する空模様なのだろうが、肝心の富士山の上層部分が雲に隠れてしまっていた。

〔「まもなく新富士、新富士です。お出口は、左側です。駅に停車する際、ポイント通過の為、電車が大きく揺れる場合がございます。お立ちのお客様、お気を付けください。当駅で6分停車致します。発車は8時37分です。発車まで、しばらくお待ちください」〕

 網棚から荷物を降ろしていると、確かに列車がカクンと揺れた。
 しかし、思っていたほど大きな揺れではない。
 速度制限に余裕を持たせたポイントになっているのだろう。
 確かこの駅は、ポイントが結構手前にあるのだと聞いた。

 愛原:「よし。じゃあ、降りようか」
 リサ:「はーい」

 リサはリュックを背負い、斉藤絵恋さんはキャリーバッグの取っ手を掴んだ。
 制服姿の栗原姉妹を見て、リサは言った。

 リサ:「私達も制服で来た方が、修学旅行感あったかな」
 愛原:「あー、なるほど。言われてみれば、そんな気もするな。だけどまあ、今日はもうしょうがないさ」

 だいたい、私服の学校だってあるわけだから……。
 デッキに出ると、列車がホームに停車した。
 そして、ピンポーンピンポーンとドアチャイムが鳴って、ドアが開いた。

〔「ご乗車ありがとうございました。新富士、新富士です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。8時37分発、“こだま”705号、名古屋行きです。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 

 ホームに降りた私達はホーム中央にある階段に向かって歩き出した。
 その間、ゴォッ!という轟音を立てて、通過線を通過列車が猛スピードで通過していった。

 リサ:「おお~!」
 愛原:「相変わらず、新幹線が高速で通過していく様はなかなかスリリングだね。帰り際は通過する所が直接見れるんじゃない?」
 リサ:「そうなの?」

 “こだま”より本数の多い“のぞみ”と“ひかり”だ。
 待避線に“こだま”がおらず、単独で新富士駅を通過する列車もいるだろう。
 新幹線の駅は例え地方にあっても、一部の在来線ローカル駅と違い、列車毎に改札するタイプ(例、会津鉄道会津田島駅やJR鳴子温泉駅など)ではない。
 つまり、キップさえ持っていれば、いつでもホームに上がれるのである。
 で、あるなら、30分おきにしか停車列車の無い駅だ。
 早めに上がって、通過列車がスリリングに通過する様を観るのもオツなものだろう。
 私はそんなことを考えていた。
 ようやく階段を下り、自動改札口を出る。
 改札口の横には喫煙ルームがあるが、高橋はそこに入ろうとはしなかった。
 恐らく熱海駅を出てから、3号車の喫煙ルームでタバコを吸い溜めしていたからだろう。

 

 改札口を出てから右に曲がると、富士山口に出る。
 その名の通り、富士山のある方の出入口なわけだが、要は北口だ。
 その途中に、ASTY新富士という名の商業施設がある。
 観光案内所や飲食店などがあるらしいのだが、ここで私はセブン銀行のATMを利用しに行く。
 手持ちは用意してきたつもりだが、少々不安になったので、追加することにした。

〔カードと明細書をお取りください〕
〔紙幣をお取りください。ありがとうございました〕

 愛原:「お待たせ」

 お金を下ろしてくると、私は再び合流し、駅の外に出た。

 

 愛原:「本数と時刻表的に、ここに到着する“こだま”に合わせたダイヤになっているのかもな」

 私はバス停の時刻表を見て言った。

 栗原蓮華:「因みに、向こうの5番乗り場が大石寺行きです」
 愛原:「そうなのか。じゃあ、ここからそれに乗って行くのか?」
 蓮華:「いえ。バスが出るのはもっと後なので、今日は電車で行きます」
 愛原:「そうか」

[同日08:45.天候:晴 同市内 富士急静岡バス“ゆりかご”車内]

 バスが来たが、普通の中型ノンステップバスだった。
 このバス会社でもSuicaやPasmoが使えるのは便利である。
 バスに乗り込むと、私は1番後ろの席に座った。
 他にも、地元民と思しき乗客が3人ほど乗り込んで来る。

〔「富士駅南口行き、発車致します」〕

 バスは定刻通りに発車した。
 尚、このバスの後ろには、同時発車の富士山世界遺産センター行きのバスもいる。
 これは富士宮駅経由なので、富士駅での乗り換えが無くて済む私達にとっては後ろのバスの方が便利かもしれない。
 もしもここに栗原姉妹がいなかったら、後ろのバスに乗っていたかもしれない。
 もっとも、今日は鉄道旅行の気分なので、やっぱり富士駅経由を選択するだろうな。

〔ピン♪ポン♪パーン♪ ご乗車ありがとうございます。このバスは、富士駅南口行きです。次は下横割、下横割でございます。冨士大石寺顕正会自宅拠点へおいでの方は、こちらが御便利です。お降りの際は、押釦でお知らせください〕

 バスがロータリーを出て大通りに出ると、一瞬だけ雲の隙間から富士山の頂上部分が見えた。
 当たり前だが、雪を被っている。

 愛原:「向こうに着く頃には、富士山ももっとよく見えるようになっているといいんだがな」
 高橋:「先生は良い行いをされていますから、きっと大丈夫ですよ」
 愛原:「あ、そんなことを言われたら、却って不安になってくるわ」
 高橋:「ええっ!?」

 まあ、雨に当たらなかっただけでもマシだと思わないとな。
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“私立探偵 愛原学” 「卯酉東海道」

2021-03-25 21:01:56 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月20日07:27.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅15番線ホーム→東海道新幹線705A列車1号車内]

 

〔15番線に、停車中の電車は、7時27分発、“こだま”705号、名古屋行きです。終点、名古屋までの各駅に止まります。自由席は1号車から6号車までと、15号車、16号車です。グリーン車は8号車から10号車です。尚、全車両禁煙です。喫煙ルームは3号車、7号車、10号車、15号車です。……〕

 

〔ご案内致します。この電車は“こだま”号、名古屋行きです。終点、名古屋までの各駅に止まります。……〕

 雲羽:「カットカット!おい、愛原!もうカメラ回ってるぞ!早くトイレから出ろ!」
 多摩準急名誉監督:「ちょっとカメラ止めろ!」

 ガチャ、ガラガラガラ……バンッ!(トイレの引き戸を急いで開けた音)

 愛原:「失礼!ちょっと長居してしまいました!」
 雲羽:「困るよ!もう発車なんだから!」
 多摩:「はい、もう1回!愛原がトイレから出て来る所から!」
 AD:「テイク2いきまーす!5、4、3、2……」

 カチン!🎬

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日はリサ達を卒業旅行に連れて行ってやるところだ。

〔「お待たせ致しました。7時27分発、“こだま”705号、名古屋行き、まもなく発車致します。ご乗車になりまして、お待ちください」〕

 トイレから出て座席に戻ろうとした時、発車の時刻になった。
 空いているドアからは、賑やかな駅員の放送が聞こえる。

〔「レピーター点灯です」〕

 そして、かつては“のぞみ”号の車内で放送前のチャイムとして流れていた発車メロディが鳴り響く。

〔15番線、“こだま”705号、名古屋行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕
〔「15番線はまもなく発車致します。11号車のお客様、車内にお入りください。ドアが閉まります。……ITVよーし!乗降、終了!」〕

 ブー!という客終合図の音がして、ドアチャイムと共にドアが閉まった。
 ピンポーンピンポーンというチャイムが2回鳴ったが、京王電車のそれや、同じJR東海の在来線車両のそれと比べれば柔らかい音色だ。

 高橋:「あ、先生。遅かったですね。まさか、このまま降りちゃったのかと思いましたよ」
 愛原:「んなわけない」

 客室に入って座席に戻ると、高橋にそんなことを言われた。

〔♪♪(車内チャイム。“いい日旅立ち・西へ”イントロ)♪♪。今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は“こだま”号、名古屋行きです。終点、名古屋までの各駅に止まります。次は、品川です〕

 私達は進行方向右側の2人席に腰かけている。
 ちょうど6人いるのだから、仲良く3人席を向かい合わせにしてワイワイやりたいところだ。
 だが、コロナ禍でそれは許されなかった。
 実際に、

〔「……お客様に新型コロナウィルス対策について、お願いを申し上げます。【中略】座席を向かい合わせにしての会話や飲食は御遠慮頂きますよう、感染症対策に御理解と御協力をお願い申し上げます」〕

 という車掌の肉声放送が流れたからだ。
 因みに、在来線車両のボックスシートは致し方無いらしい。
 だが恐らく今後、鉄道会社はボックスシート車の製造を行わなくなるのではなかろうかという不安が過る。
 ロングシートか転換クロスシート、あるいはリクライニングシートしか造らないのではないかと。
 実際、横須賀線・総武快速線に新しくデビューしたE235系は普通車からボックスシートを廃止し、全てロングシートにしている。
 まあ、これは違う理由だろうが、とにかくボックスシート以外で向かい合わせに座ることは禁止されてしまった。
 その為、私達は2人席を3つ並んで確保している。
 もちろん、向かい合わせにはしていない。
 乗車車両は先頭車であり、これには事情を知らない栗原愛里さんが首を傾げていた。
 ここにリサがいなかったら、もっと中間車に乗っていただろう。
 愛煙家の高橋に合わせて、3号車辺りにでも乗るか。
 NPO法人デイライトを通してBSAAから、リサが暴走した際、外から対応しやすいよう(攻撃目標を定めやすいよう)、先頭車か最後尾に乗るように言われたからだ。
 もちろん、指定席やグリーン車に乗るなどの理由で、それが中間車にしか無い場合はこの限りではない。

 愛原:「どれ、駅弁食うか」

 私は窓側の座席に座ると、弁当の蓋を開けた。

 

 私と高橋の後ろにリサと斉藤絵恋さんが座り、その後ろに栗原姉妹が座っている。

 高橋:「先生の駅弁はビールのつまみに合いそうですね。ていうか、ビールは買わなかったんですね」
 愛原:「さすがに引率者として、昼間から飲むわけにはいかんな。それに、これは俺達にとっては仕事なんだから、それを考えてもやっぱり昼間から飲むわけにはいかない」
 高橋:「仰る通りだと思います」

 高橋は大きく頷いた。
 そして高橋自身は、牛タン弁当を食べていた。
 仙台に行くわけではないのに、何故か東海道新幹線乗り場の駅弁売店で売っていたのである。
 それも、紐を引っ張ると温かくなるタイプであった。

 高橋:「牛タンも美味いっスね」
 愛原:「また実家に帰省する機会があれば、連れてってやるよ」
 高橋:「あざーっス!お供させて頂きます!」

 新幹線の旅はまだまだ始まったばかり。
 緊急事態宣言解除を目前にしての人出であるが、“のぞみ”や“ひかり”はそれなりに賑わっていたのに対し、この“こだま”はガラガラである。
 JR東海は“のぞみ”を1時間に12本運転する計画を打ち出したが、“こだま”は1時間に2本だけである(朝夜を除く)。
 それだけ“こだま”は需要が少ないということの現れであろう。
 しかし、私達はその“こだま”しか停車しない駅で降りようとしているので、この列車に乗っているわけである。
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“私立探偵 愛原学” 「リサの卒業旅行」 1

2021-03-24 20:16:32 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月20日07:00.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 私達はマンションに呼んだタクシーに乗り込み、それで東京駅に向かった。
 斉藤絵恋さんは直接私のマンションに来た。

 運転手:「はい、ありがとうございます。1380円です」

 タクシーが八重洲側の乗降場に到着した。
 私がタクシー代を払おうとすると、絵恋さんが先に手を出した。

 絵恋:「タクシーチケットで払います」

 絵恋さんがクレジットカード会社発行のタクシーチケットを差し出した。

 運転手:「あ、はい。では、御記入お願いします」

 タクシー運転手も、まさか少女からタクシーチケットを差し出されるとは思わなかったのだろう。
 少し驚いた様子でチケットを受け取り、それをバインダーに挟んでボールペンと一緒に渡した。
 絵恋さんは慣れた手付きで、チケットに必要事項を書き込んだ。
 今日みたいにお抱え運転手の新庄さんが送り迎えができず、タクシーを使う場合はいつもこのようにしているのだろう。
 いくら社長でも……いや、社長だからこそ今日みたいな日は休みで、お抱え運転手もヒマだろうに、何か理由があるのだろうか。
 それとも、働き方改革はお抱え運転手にも及んでいて、今日は休みにしないとダメなのだろうか。

 運転手:「ありがとうございました」
 絵恋:「どうも~」

 絵恋さんはチケットの控えと領収書を受け取って、タクシーから降りた。

 高橋:「いきなり金持ちぶりを見せつけやがって」
 絵恋:「あら?ビジネスマンなら普通よ」
 高橋:「オメーはビジネスマンじゃねーだろうがよ」
 愛原:「まあまあ。本当にいいの?私が払うつもりだったけど……」
 絵恋:「いいんです。父も頷いてくれますよ」
 愛原:「そ、そうか」

 絵恋さんがタクシーチケットで払っている間、先に助手席から降りた高橋がトランクから荷物を下ろしてくれた。
 それから駅構内に入る。

 愛原:「そうそう。これから行く静岡県富士宮市なんだけどね、大勢の方が楽しいだろうと思って、途中まで同じ学園の人達が付いて来てくれます」
 リサ:「おー!だれ?」
 絵恋:「えー?私、なるべくならリサさんと2人っきりがいいんですけどォ……」
 リサ:「いや、皆で行こうよ」

 八重洲南口改札に行くと、栗原蓮華と栗原愛里の姉妹がいた。
 2人とも何故か制服姿である。
 で、蓮華さんの方は相変わらず布袋に包んだ長物を持っている。

 栗原蓮華:「愛原先生、おはようございます!」
 リサ:「!」
 絵恋:「げ……!」
 愛原:「はは、おはよう」
 高橋:「あー?どういうことだ?」
 栗原愛里:「…………」
 蓮華:「ほら、愛里。ちゃんと挨拶しな」
 愛里:「お、おはようございます……」

 リサはジッと愛里を見据えた。

 愛里:「ひぅ……!」

 愛里はリサに『捕食』されそうになったのだが何とか免れ、しかしリサとしてはそれに失敗したことに腹を立て、トイレで失禁させるイジメを行なったのである。
 もちろん、加害者たるリサが全面的に悪い。
 これを聞いた姉の蓮華が現在持っている刀を手に復讐しに行ったことは当然の結果であり、そのせいで更にリサの正体がこの姉妹に露見してしまったということがあった。
 そこに日本版リサ・トレヴァーで唯一の男性である『10番』が関わって来たものだから、かなりややこしいことになった。
 最終的にはリサが謝罪し、2度と愛里には関わらないという約束をさせて収まった。

 愛原:「リサ」
 リサ:「はぁい……」

 私の注意にリサは愛里さんから目を放した。
 愛里さんは中学1年生だったから、来月から2年生になる。

 蓮華:「愛里。確かにこのコは『鬼』だけど、お兄ちゃん達の敵討ちの協力をしてくれたのも事実なの。それはそれとして、ちゃんと御礼を言わなきゃね」
 愛里:「あ、あの……。兄達の敵討ちをしてくれて、ありがとうございました……」
 リサ:「別にいいよ、御礼なんて。私はヤツを追い回しただけで、それ以上のことは何もしていない」

 だが結果的にそれが、『1番』が“青いアンブレラ”と鉢合わせすることになり、高野君が放ったロケットランチャーの直撃を食らうことになったのだ。
 なのでリサが『1番』を追い回した結果については、賞賛に値するだろう。

 愛原:「そうか。愛里さんにとっては、2人のお兄さんか」
 愛里:「は、はい。私は……末っ子なので……」

 蓮華さんの兄で長男と弟で次男が食い殺された。
 愛里さんだけは東京の家にいて、難を逃れたのである。
 本当は『1番』は蓮華さんも食い殺すはずだったのだが、左足に食らい付いたところでBSAAが駆け付け、仕方なく左足だけ食い千切って逃走した。
 なので今、蓮華さんの左足は義足となっている。
 スラックスにすれば義足は隠せるだろうに、あえて蓮華さんはスカートである。

 愛原:「そうか。……あ、そろそろ行こう。キップは1人ずつ持とうな」

 私は予め買っておいた新幹線のキップを皆に配った。

 蓮華:「私達はもう買ってありますので」
 愛原:「ああ、分かった」

 蓮華さんだけは障がい者割引で購入したもよう。
 歩く時、確かに義足からは金属のカチャカチャという音はするのだが、歩き方に関しては健常者と大して変わらない。
 よほど歩く訓練をしたのか、或いは義足が特注品なのか(いや、基本的に義足は使用者に合わせて造られた特注品だということは知っている。それを踏まえた上で、更に特別な仕様になっているのかという意味だ)。
 改札口を通ってコンコースに入ると、私達はまず駅弁を購入することにした。
 ただ、コンコース内の売店は混んでいたので、ホーム上の売店に行くことにした。
 緊急事態宣言解除2日前だというのに、もう解除ムードが出ている。
 もっとも、私達もそれに乗じて旅行する者達であるので、他人の事は言えない。
 エスカレーターに乗ってホームに向かう時、私は蓮華さんに聞いた。

 愛原:「そういえば、どうしてキミ達は制服姿なんだ?」
 蓮華:「今日はお彼岸なので」
 愛原:「ああ、そうか。お寺さんに行くって言ってたね。それでか」

 社会人なら喪服に黒いネクタイだろうが、彼女ら学生(高校生以下)だと制服になるか。

〔新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。まもなく15番線に、7時27分発、“こだま”705号、名古屋行きが入線致します。安全柵の内側まで、お下がりください。この電車は、各駅に止まります。……〕

 ホームに上がって売店に向かっていると、接近放送が鳴り響いた。

 愛原:「今やもうN700系オンリーだな」

 その中でもいくつかバリエーションがあるが、それを確認する前に、私達は売店の中に入ってしまった。

 絵恋:「リサさんは何にするの?」
 リサ:「肉系統かな」
 蓮華:「人間の肉はやめてね」
 リサ:「わ、分かってるよ……」

 いくら高野君の一押しがあったとはいえ、実際に『1番』の首を刎ね飛ばしたのは蓮華さんである。
 それまで3人のリサ・トレヴァーを倒していたから、その実力はかなりのものだろう。
 リサもそれを目の当たりにしたので、蓮華さんには逆らえないと思っているようだ。

 高橋:「先生はどうします?」
 愛原:「俺は魚系統でいいよ」
 高橋:「了解っス」

 駅弁や飲み物を買い求めると、私達は再びホームに出た。
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