[3月19日11:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日はリサと高橋が散髪に行った。
私は理容室派なのだが、この2人は美容室派だ。
愛原:「はい、愛原学探偵事務所です。……あ、斉藤社長お疲れ様です」
私が1人で事務所にいると、斉藤社長から電話が掛かって来た。
斉藤:「明日はよろしくお願いします。それにしても、いいんですか?もっと設備の整ったリゾートホテルなんかの優待券もありましたのに……」
愛原:「いいんですよ。やはり卒業旅行というからには、ただ単に温泉に入って宴会をやるような慰安旅行ではないと思うんです。観光もしてナンボだと思うんですね」
斉藤:「そうですか」
愛原:「文字通り慰安目的の慰安旅行と違い、卒業旅行は旅行気分が大事ですから」
斉藤:「そういうことでしたら、愛原さんにお任せします。コロナ禍のせいで修学旅行が中止になった娘達の為、せめて卒業旅行はさせてやりたいと思いますので」
愛原:「でしょうね」
私の勝手な思い込みだが、修学旅行と言えば新幹線、飛行機、観光バスである。
まずその1つ、新幹線はクリアしたい。
それで高橋の車案を却下したのである。
もっとも、現地での観光は車の方がいいだろうから、それは既に考えている。
飛行機はそもそもまだ遠出をするのが憚れる時期であるし、観光バスなんかも、団体旅行ではないのだから現実的ではない。
斉藤:「明日は朝から出発ですか」
愛原:「ええ。やっぱり旅行気分はですね、朝から出発ですよ」
斉藤:「一家言おありのようですね。期待していますよ」
愛原:「お任せください」
そんなやり取りがあってから電話を切ると……。
リサ:「ただいまー」
高橋:「戻りましたー」
美容室に行っていた2人が戻って来る。
リサは少し髪が伸びていたのだが、それをまた肩の所で切った。
愛原:「お帰り。リサはまた綺麗にしてもらったな」
リサ:「ありがとう。先生はロング嫌い?」
愛原:「そういうわけじゃないんだが、日本版リサ・トレヴァーのロングヘアーって『1番』を思い出すからさぁ……」
リサ:「ああ、あいつね。だから前にも言ったじゃん?私が『1番』が先生にしたことと同じことをして、そいつの記憶を上書きしてあげるよって。……いたっ」
リサの発言の直後、高橋がリサにゲンコツをかます。
高橋:「アホか!先生はあんな変態プレイは御望みじゃねぇ!」
リサ:「そうかなぁ……?」
リサは目を細めて私を見た。
愛原:「高橋も髪形キマったな」
高橋:「あざっス」
まあ、イケメンはどんな髪形でも似合うんだがな。
高橋:「留守の間、何かありましたか?」
愛原:「さっき斉藤社長から電話があった。明日、よろしくって」
高橋:「ああ。そうですか」
愛原:「それと警察から。高野君の行方について」
高橋:「またですか。何度聞いてきても、俺達はアネゴの居場所なんて知らねぇってのに」
愛原:「あれだろ?霧生市で“青いアンブレラ”のヘリに乗ってたんだろ?で、『1番』にロケランぶっ放したって」
高橋:「らしいっスね」
リサ:「うん。高野さんが一番美味しい所持ってっちゃった」
それで『1番』が大ダメージ食らったところを、栗原さんが首を刎ねてとどめを刺したとのこと。
愛原:「今や“青いアンブレラ”の活動拠点は海外だから、高野君もそっちにいるだろ」
高橋:「でしょうね」
愛原:「次に会うとすれば、またどこかでバイオハザードが発生した時だろうなぁ……」
高橋:「ですね。先生が行方不明になっておられる間、この事務所やマンションの場所を決めたのはアネゴなんですよ」
愛原:「え?そうなの?」
高橋:「世界探偵協会と交渉していたのは俺じゃなくてアネゴだったもんで、王子の事務所兼マンションが爆破された後はアネゴが主導で動いていたんですよ」
愛原:「そうだったのか」
高橋:「ちょうど新築のビルとマンションが見つかったからってんで、紹介されたのがここだったわけです」
愛原:「高野君スゴいな。でもそれって……」
高橋:「“青いアンブレラ”がバックにいたんでしょうね」
愛原:「ここにしたのも、何か理由があるのかな?」
高橋:「さあ……?たまたま新築で、その割には家賃も安いからって話でしたけど……」
愛原:「確かにな。まあ、墨田区だから、そりゃ港区とか世田谷区とか、あっち方面よりは安いだろうよ。それでも新築だと、高めに設定されそうなものなんだけどな。王子のボロビルとだいたい同じ値段って凄いなって思った」
高橋:「ええ。そうっスね」
別にこのビルもあのマンションも、特に変わった所は無い。
墨田区や隣の江東区によくある小規模のテナントビルだ。
1フロア毎に1テナントが入るようなビル。
エレベーターは辛うじて存在するが、定員10人前後の小さい物が1基だけ。
そしてそれは、マンションも同じ。
3LDKなのでそこそこ大きなマンションではあるが、それでも港区や世田谷区にあるようなタワマンと比べれば、何十分の一ほどにも小さい。
そんなことを話しているうちに、そろそろお昼の時間になりつつあった。
愛原:「どれ、そろそろお昼にしよう。12時台になると店が混むからな、今のうちに買ってこよう」
何だかんだ言ってこの辺、小さな事業所がいくつもあるから、昼休みになれば飲食店は混雑するのである。
高橋:「俺、行ってきますよ」
愛原:「いや、いいよ。今度は俺が行こう。ずっと午前中は事務所に居っ放しだったし」
高橋:「先生は何になさいますか?」
愛原:「今日は“ほっともっと”にしよう。リサ、一緒に来てくれ。高橋は留守番頼む」
リサ:「分かったー」
高橋:「分かりました」
私とリサは事務所を出た。
さすがのリサも今は私服を着ている。
年頃ながら、あまり私服には無頓着のようだ。
斉藤さんがいかにも御嬢様といった感じの服装なのに対し、リサはパーカーやデニムのショートパンツといったところである。
事務所の入口のドアの斜め向かいにあるエレベーターのボタンを押す。
5階建てのビルの最上階なので、外側のボタンは下しか無い。
当たり前だ。
〔下に参ります〕
エレベーターがやってきて、ドアが開く。
1階のボタンを押すが、ここでふと気づく。
〔ドアが閉まります〕
このエレベーター、B1のボタンもあるのだ。
確かに1階から乗ろうとすると、下のボタンもある。
但し、普段は行けないように設定されているのか、ボタンを押してもランプは点かない。
〔ランプの点かない階には、止まりません〕
このようなアナウンスも流れる。
このビルには地下駐車場は無く、代わりに裏手に数台止まれる駐車場がある。
私は恐らく機械室とか、管理人室でもあるのかと思っていたが……。
今度、管理会社の人から来たら聞いてみるか。
〔ピンポーン♪ ドアが開きます。1階です〕
エレベーターが1階に着いて、ドアが開く。
そしてエレベーターを降りた時に、ふとまた気づいた。
マンションも5階建てだが、やはりそこのエレベーターも地下1階のボタンがあったような気がする。
そのマンションの地下にも、やはり住人が利用できる施設は無く、機械室か倉庫があるだけかと思っていたのだが……。
リサ:「どうしたの?」
愛原:「いや、何でも無い」
私は首を振って、ビルの外に出た。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日はリサと高橋が散髪に行った。
私は理容室派なのだが、この2人は美容室派だ。
愛原:「はい、愛原学探偵事務所です。……あ、斉藤社長お疲れ様です」
私が1人で事務所にいると、斉藤社長から電話が掛かって来た。
斉藤:「明日はよろしくお願いします。それにしても、いいんですか?もっと設備の整ったリゾートホテルなんかの優待券もありましたのに……」
愛原:「いいんですよ。やはり卒業旅行というからには、ただ単に温泉に入って宴会をやるような慰安旅行ではないと思うんです。観光もしてナンボだと思うんですね」
斉藤:「そうですか」
愛原:「文字通り慰安目的の慰安旅行と違い、卒業旅行は旅行気分が大事ですから」
斉藤:「そういうことでしたら、愛原さんにお任せします。コロナ禍のせいで修学旅行が中止になった娘達の為、せめて卒業旅行はさせてやりたいと思いますので」
愛原:「でしょうね」
私の勝手な思い込みだが、修学旅行と言えば新幹線、飛行機、観光バスである。
まずその1つ、新幹線はクリアしたい。
それで高橋の車案を却下したのである。
もっとも、現地での観光は車の方がいいだろうから、それは既に考えている。
飛行機はそもそもまだ遠出をするのが憚れる時期であるし、観光バスなんかも、団体旅行ではないのだから現実的ではない。
斉藤:「明日は朝から出発ですか」
愛原:「ええ。やっぱり旅行気分はですね、朝から出発ですよ」
斉藤:「一家言おありのようですね。期待していますよ」
愛原:「お任せください」
そんなやり取りがあってから電話を切ると……。
リサ:「ただいまー」
高橋:「戻りましたー」
美容室に行っていた2人が戻って来る。
リサは少し髪が伸びていたのだが、それをまた肩の所で切った。
愛原:「お帰り。リサはまた綺麗にしてもらったな」
リサ:「ありがとう。先生はロング嫌い?」
愛原:「そういうわけじゃないんだが、日本版リサ・トレヴァーのロングヘアーって『1番』を思い出すからさぁ……」
リサ:「ああ、あいつね。だから前にも言ったじゃん?私が『1番』が先生にしたことと同じことをして、そいつの記憶を上書きしてあげるよって。……いたっ」
リサの発言の直後、高橋がリサにゲンコツをかます。
高橋:「アホか!先生はあんな変態プレイは御望みじゃねぇ!」
リサ:「そうかなぁ……?」
リサは目を細めて私を見た。
愛原:「高橋も髪形キマったな」
高橋:「あざっス」
まあ、イケメンはどんな髪形でも似合うんだがな。
高橋:「留守の間、何かありましたか?」
愛原:「さっき斉藤社長から電話があった。明日、よろしくって」
高橋:「ああ。そうですか」
愛原:「それと警察から。高野君の行方について」
高橋:「またですか。何度聞いてきても、俺達はアネゴの居場所なんて知らねぇってのに」
愛原:「あれだろ?霧生市で“青いアンブレラ”のヘリに乗ってたんだろ?で、『1番』にロケランぶっ放したって」
高橋:「らしいっスね」
リサ:「うん。高野さんが一番美味しい所持ってっちゃった」
それで『1番』が大ダメージ食らったところを、栗原さんが首を刎ねてとどめを刺したとのこと。
愛原:「今や“青いアンブレラ”の活動拠点は海外だから、高野君もそっちにいるだろ」
高橋:「でしょうね」
愛原:「次に会うとすれば、またどこかでバイオハザードが発生した時だろうなぁ……」
高橋:「ですね。先生が行方不明になっておられる間、この事務所やマンションの場所を決めたのはアネゴなんですよ」
愛原:「え?そうなの?」
高橋:「世界探偵協会と交渉していたのは俺じゃなくてアネゴだったもんで、王子の事務所兼マンションが爆破された後はアネゴが主導で動いていたんですよ」
愛原:「そうだったのか」
高橋:「ちょうど新築のビルとマンションが見つかったからってんで、紹介されたのがここだったわけです」
愛原:「高野君スゴいな。でもそれって……」
高橋:「“青いアンブレラ”がバックにいたんでしょうね」
愛原:「ここにしたのも、何か理由があるのかな?」
高橋:「さあ……?たまたま新築で、その割には家賃も安いからって話でしたけど……」
愛原:「確かにな。まあ、墨田区だから、そりゃ港区とか世田谷区とか、あっち方面よりは安いだろうよ。それでも新築だと、高めに設定されそうなものなんだけどな。王子のボロビルとだいたい同じ値段って凄いなって思った」
高橋:「ええ。そうっスね」
別にこのビルもあのマンションも、特に変わった所は無い。
墨田区や隣の江東区によくある小規模のテナントビルだ。
1フロア毎に1テナントが入るようなビル。
エレベーターは辛うじて存在するが、定員10人前後の小さい物が1基だけ。
そしてそれは、マンションも同じ。
3LDKなのでそこそこ大きなマンションではあるが、それでも港区や世田谷区にあるようなタワマンと比べれば、何十分の一ほどにも小さい。
そんなことを話しているうちに、そろそろお昼の時間になりつつあった。
愛原:「どれ、そろそろお昼にしよう。12時台になると店が混むからな、今のうちに買ってこよう」
何だかんだ言ってこの辺、小さな事業所がいくつもあるから、昼休みになれば飲食店は混雑するのである。
高橋:「俺、行ってきますよ」
愛原:「いや、いいよ。今度は俺が行こう。ずっと午前中は事務所に居っ放しだったし」
高橋:「先生は何になさいますか?」
愛原:「今日は“ほっともっと”にしよう。リサ、一緒に来てくれ。高橋は留守番頼む」
リサ:「分かったー」
高橋:「分かりました」
私とリサは事務所を出た。
さすがのリサも今は私服を着ている。
年頃ながら、あまり私服には無頓着のようだ。
斉藤さんがいかにも御嬢様といった感じの服装なのに対し、リサはパーカーやデニムのショートパンツといったところである。
事務所の入口のドアの斜め向かいにあるエレベーターのボタンを押す。
5階建てのビルの最上階なので、外側のボタンは下しか無い。
当たり前だ。
〔下に参ります〕
エレベーターがやってきて、ドアが開く。
1階のボタンを押すが、ここでふと気づく。
〔ドアが閉まります〕
このエレベーター、B1のボタンもあるのだ。
確かに1階から乗ろうとすると、下のボタンもある。
但し、普段は行けないように設定されているのか、ボタンを押してもランプは点かない。
〔ランプの点かない階には、止まりません〕
このようなアナウンスも流れる。
このビルには地下駐車場は無く、代わりに裏手に数台止まれる駐車場がある。
私は恐らく機械室とか、管理人室でもあるのかと思っていたが……。
今度、管理会社の人から来たら聞いてみるか。
〔ピンポーン♪ ドアが開きます。1階です〕
エレベーターが1階に着いて、ドアが開く。
そしてエレベーターを降りた時に、ふとまた気づいた。
マンションも5階建てだが、やはりそこのエレベーターも地下1階のボタンがあったような気がする。
そのマンションの地下にも、やはり住人が利用できる施設は無く、機械室か倉庫があるだけかと思っていたのだが……。
リサ:「どうしたの?」
愛原:「いや、何でも無い」
私は首を振って、ビルの外に出た。