報恩坊の怪しい偽作家!

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ヒマネタです。

2013-10-01 02:43:03 | 日記
 “妖狐 威吹”より。 考えさせられる作者の心情。

 所属寺院の御講に参加した稲生ユウタ(愛称ユタ)はその後、地区の座談会に出席した。地区長が前に出て、ユタ達に向かって喋る。
「えー、本日の御講で経王御前御書が取り上げられましたが、実は奇しくも我が地区より、まもなく一組の新婚夫婦が誕生しようとしています。鈴木君達、前へ」
「はい!」
 ユタより年上で、藤谷班長より年下の地区員が2人立ち上がった。
「正に本日、御住職様がお話になられました法統相続の……」

 御講も座談会も終わる頃には、昼を回っていた。
「稲生君。威吹君も、お昼何か食べるかい?」
「あ、御一緒します」
 というわけで、3人は近くのラーメン店に入った。
「御講はどうだった?」
 注文してから、藤谷がユタの顔を見て質問してきた。威吹は例の如く、外で待機していた状態だ。
「あ、はい。顕正会の日曜勤行で、どうして浅井先生……じゃなかった。会長が御書を読んだ後に御題目三唱するのか分かりました」
 ユタがそう答えると、
「なるほど。そこは同じなんだね」
 藤谷は笑った。宗門でやってることを、顕正会でも踏襲しているからだ。
「それじゃ、夕刻の勤行は出たことある?あ、もちろん、うちのお寺のね」
 今度は別の質問だ。
「いえ、それはまだ……」
「あ、そう。時間があったら、それも出てみるといい。どうして勤行の後で、導師が『こんばんは』って挨拶するのか分かるから」
「は、はあ……」
 藤谷は笑いを堪えながら言うので、ユタは少し困惑した。
「何だか今日の説法は、結婚のことについて話してましたね」
 今度は威吹が藤谷に話し掛ける。
「お、聞いてたのかい?」
 藤谷は意外そうな顔をした。
「ボクの耳なら、聞こえます」
「さすが妖狐!」
 ユタが感心した。
「ここの宗派は、坊主でも妻帯可なんですね」
「そういう教えだから。まあもっとも、当の大聖人様は生涯独身であられたけどね」
 藤谷は頷いて答えた。
「あまり、霊力とかは意識してないんですか?妻帯すると、霊力はガタ落ちになるのに……」
「まあ、うちはそういう宗派じゃないから。霊とか妖怪とか、そういう類の話は一切無いからね」
「藤谷さんも、元々は霊力が高かった人間のように見えます。結婚されてから、落ちましたか?」
「いや、俺は結婚してないよ。というか、彼女すらいない」
「そりゃまたどうして?」
 威吹は意外そうな顔をした。江戸時代生まれの妖怪じゃ、現代の事情は不思議過ぎるのだろう。しかし、藤谷の返した言葉は、ユタも目を丸くさせるものだった。
俺は三次元の女が嫌いだから
 取りつくシマも無い言葉を、ドヤ顔で言い放った藤谷。だが、すぐに元の表情に戻って、
「……というのは冗談だけど、俺は法統相続の為だけの結婚ってしたくないんだ。中には結婚願望の強い人もいて、よく祈念しているみたいだな。ま、もちろん、人それぞれの結婚観ってあるから、そんな人達を否定するつもりは無いよ。だけど、だからこそ俺の考えを否定されたくも無いな」
 藤谷は言い終えると、グラスの水を口に運んだ。
「ま、俺は別に折伏対象者は他にいるし、それで御受戒した班員が法統相続してくれればいいと思ってるよ」
「さっきの鈴木さんも、うちの班ですもんね」
 と、ユタ。
「ま、俺の考えが正しいかどうかは別として、それを別に他人に勧めるつもりは無いよ。稲生君はまだ20歳になったばかりだし、30過ぎてから御受戒した俺よりずっと有利だから」
「それからたったの数年で班長になれたんだから凄いですよ」
 ユタはヨイショではなく、本当に心からそう言ったのだが、何故か藤谷は無言で微笑を浮かべるだけだった。

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