報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 前回の続き

2014-02-08 17:05:11 | 日記
[同日10:30.日蓮正宗・正証寺三門前 ユタ、威吹、カンジ、キノ、エレン、藤谷春人]

「全員集合!」
 ピィーッと藤谷がホイッスルを吹く。
 藤谷は会社のユニフォームと思われる作業着上下に防寒用ジャンパー、そしてゴム長靴を履いていた。
「全員集合?」
「つっても、オレ達しかいねーじゃんよ?」
 参詣に来たはいいものの、寺院内は三門付近が辛うじて除雪されているだけであった。
 藤谷が前に立つ。
「えー、今日は皆さんに更なる罪障消滅をしてもらいます。といっても難しいことをするわけじゃなく、普段お世話になっているお寺の雪かきをするだけの話なんだけどね。いわゆる身の供養ってヤツで、雪かきをするだけでこんなボロい罪障消滅は無いだろうというね」
 しかし、5人全員が無表情であった。
「あっ、もしかして招集目的が十分に伝わらなかったことを怒っていたりするかい?いやいや、けしてこれは先に理由を言うと断られるから言わなかったなんてことはけしてなくてね、そもそも東京でこんな大雪が降る機会なんて今や滅多に無いわけで……。正証寺の雪景色の風情を十分に楽しむという目的もあるわけで……。あっ、栗原さんには一応言っておいたんだよ。そしたら、随分と笑って喜んでたよね?ねっ?ねっ?ねっ?」
 エレンは俯き加減だったが、
「ああ……そうだな……」
 口元を歪めるような表情だった。
「ほらね!?」
「……ホント……マジ……笑わせてくれるし……!」
 藤谷はワザとらしく咳払いをした。
「というわけで皆さん、思う存分、罪障消滅しちゃってくださーい!」
 しかし、反応が無い。
「おい、ちょっと待てや、土建屋」
 キノがツッコミを入れる。
「はい、質疑応答のじかーん!キノちゃん、どうぞ」
「まさかテメー、自分の点数稼ぎでオレ達を呼んだんじゃねーだろうな?」
「えっ、何で?」
「オレの偏見かもしれねーが、フツーこういうのって、寺の坊主達がやるんじゃねーのか?それも修行僧が修行の一環とかでよ」
「あー、それはキノちゃんの偏見だね。さっきも言ったように、日蓮正宗には身の供養というのがあります。御供養というと、財の供養が真っ先に思い浮かぶんだけど、うちの宗派は違うのね」
「ふーん……。それともう1つ」
「何でしょう?」
「エレンにこんな力仕事させる気か?」
「キノちゃん、古いなー」
「ああっ!?」
「今の時代は男女平等、男女共同参画社会だよ?女性の社会進出促進。女性団体がそう望んでいるんだ。『女性だから』なんて言ったら、ブッ飛ばされちゃうよ」
「……そういうものなのか」
 キノは首を傾げた。
「はい、他に質問はー?……無いね。じゃあ早速、楽しい楽しい雪かき祭り、開催しまーす!」
 ピッピーと藤谷は再びホイッスルを吹いた。
「……しょうがない。ちゃっちゃっとやって、昼飯食って帰るかー」
 エレンは溜め息を吐いて、防寒・防水用のウェアを羽織った。
「栗原さん、こんな時に無理に制服で来る必要は無いんだよ」
 ユタはスカートの上から、防寒・防水用ズボンを履くエレンを見て言った。
「別にムリしてないけど。何か、『エレン』がお寺にはちゃんとした格好で行けってうるさいだけ」
「そうか」
 栗原江連の中身(魂)は、川井ひとみという名の別の少女である。栗原江連の魂は、川井ひとみと入れ替わるように成仏してしまった。
 この2人の少女は全く性格が正反対で、栗原江連は優等生だったが、川井ひとみは30年前に死亡して堕獄したスケバングループのリーダーだった。
 肉体は魂の入れ物と言うが、それまでの使用者の意向には逆らえないのか、今では随分と真面目に暮らしているようだ。
「カンジはどうする?」
 威吹は弟子に意見を求めた。しかし、
「オレは先生の御意向に従います」
 と、やんわりと逃げた。
「ユタはどうするの?」
「ここで断って帰っても、どうせ電車止まってるし。栗原さん1人にやらせるわけにはいかない」
「そうだなぁ……。じゃ、オレも手伝うか。オレは信者でもなければ、そもそも人間でもないけどな」
「大丈夫。ここで罪障消滅しておけば、次は人間に生まれ変わって、もっとちゃんとした罪障消滅ができるよ」
 藤谷はにこやかに言った。
「だから、こちとら寿命無制限なんだっつの」
「オレは先生の御意向に従います」
 カンジもまたウェアに着替えた。
「威吹はどうするの?」
「こうするさ」
 威吹は着物の上はたすき掛けで袖を捲り、下は藁製のブーツを履いた。
「ユタよ、エレンの制服に突っ込む前に、威吹の着物を突っ込んだ方がいいんじゃねーのか?」
 と、キノ。
「そ、そうかも……」
「悪かったな。徳川幕政の時代の生まれで」
「さり気なく断片的に歳サバ読んでんじゃねーよ。関ヶ原合戦の頃と言え」
 キノはすかさず突っ込んだ。

[同日同場所 11:00.キノ、ユタ、威吹、カンジ、エレン]

「何だこれ……?」
 キノだけがやる気を起こさず、本堂入口のベンチに寝転がっていた。
 ユタは藤谷に言われて、融雪剤の散布を行っていた。融雪剤をまくのは初めてだったユタはコツが分からなかったので、そこから学ばなくてはならなかった。
 まるで畑の種まきのように、後ろに下がりながら散布している。
 実はユタもユタで、最初は随分とアンニュイな感じだった。
 それがどこからなのかは不明だが、ケータイに電話があってから何故かやる気を出したもよう。
「あー、くそ……」
 ゴロンと今度は仰向けになる。
「エレンとデートしたかった!飯食いに行きたかった!ディズニーランド行きたかった!せめて東武野田線の新型車両乗りたかったーっ!!」
 まるで子供のようにバタバタと駄々をこねるキノ。
「あー、スッキリした。ちっとだけど……。だからって、雪かきする気には……ならんな」
 しかし、明らかに人手が足りない。
「しゃあねぇな……。鬼門の2人でも呼ぶかー……。いや、ヘタにあいつらを召喚したら、後で姉貴の鉄拳制裁が待ってるし……」
 羽田空港にも登場した鬼門の2人は、キノの実姉の眷属達である。最近仕事が無いというので、弟のキノがちゃっかり使っていた。……のがバレて、実家に強制帰還の後、往復ビンタ食らったという。
「くだらねぇ!もっと面白いこと無ェのかよ!なあ、ホトケさんよ!?」
 キノは本堂の方に向かって言った。そこには御本尊が安置されている。
 と、その時だった。
「キノーっ!助けてーっ!」
 エレンの声がした。
「何だ何だ?」
 キノは急いでエレンの声がした方に向かった。
「何やってんだ、お前?」
 エレンは積もった雪の深みハマったようで、下半身の半分くらいが雪に埋まっていた。
「深みにハマって動けない〜」
「あーっ、くそっ!何だよ!せっかく、リアル『カメラが見た!決定的瞬間!!』だったのよ!よーし!テイク2行ってみよー!」
「誰がテイク2だ!彼女がガチピンチなんだから、彼氏として助けろーっ!」
「あー、はいはい。分かったから、ちょっと待ってろ」
 キノは一旦、本堂の方に取って返し、防寒用ウェアのズボンだけ履き、あとは長靴に履き替えた。
「強がっていても、エレンはオレがいなきゃダメだなー。はっはっはー!」
 笑みを絶やさず、キノはエレンの所に向かう。
「待ってろー。白馬の王子様が今、助けてやるからよー」

 ザクッザクッザクッ……(10メートル手前。キノが雪を踏みしめる音)

 ズボッズボッズボッ……(5メートル手前。割と雪が深くなってきた)

 ズボボボッ!!(50センチ手前。お察しください)

「……オマエも深みにハマっただろ?あ?」
「バカ言ってんじゃねぇ!演出だ、演出!」
「……正直に言わないと、『この人、痴漢です!』って大声出すぞ?」
「……墓場歩行中、地面から亡者の手が飛び出てきていきなり足を掴まれた人間の気持ちって、こんな感じなのかな〜?……すいません、ウツボにハマったかもしれません」
「ドツボだろ、ドツボ!」
 その時、キノは融雪剤を一生懸命まいているユタの姿を発見した。
「おおっ、ちょうどいい所に!おーい、ユタぁ!SOS!」
 しかし、ユタは全く意に介せず、黙々と作業を続けていた。
「おうっ!スルーしてんじゃねぇよ!オレを誰だと思ってんだッ!!」
「い、いや……多分、稲生さんはムリ」
「何でだよ!?」
「魔道師の何とかさんって人から電話があってから、ずっとあの調子」
「どんだけ誑かされてんだよ、あいつは!」
「オマエが言うかなぁ……?と、とにかく、この状況を何とかしないと……!」
 エレンは何とか動こうとした。
「ま、待て!慌てるな!ヘタに動くと、後ろの雪山が崩れる恐れがある!」
「そういうわけにも行かないんだ」
「何で?」
「……お、オシッコ漏れそう……!寒いし……」
「だから短いスカートの制服って行くなって言ったんだ!」
「死ぬ前は、逆に長いスカートだったしな……」
 スケバンだったので、逆に袴並みに長いスカートを着用していた。
「えーい、くそっ!だったら、オレを踏み台にしてエレンだけでも助かれ!」
「キノはどうすんの?」
「心配すんな。こう見えてもオレは八大地獄のうち、1つを総べる獄長の息子だ。いざとなりゃ、実家から救助呼ぶ」
「わ、分かった。トイレ行ったら、所化さん達呼んでくるから」
「よし、行けっ!」
 キノはわざとエレンの前に倒れ込み、エレンはお言葉に甘えて、キノの背中に上に上がった。
「もうちょっと低く!」
「ちょっ……いや、これ以上は無理だ!現状で頑張ってくれ!」
「マジ、漏れそう!」
「オレの上で漏らすなよ!?」
 エレンはキノの上に上がり、あともう少しといったところだった。
「……ゴンベが種蒔きゃ♪カラスがカァー♪」
 バックしながら融雪剤をまくユタが接近!
「ユタっ、てめっ!後ろ見ろ!!」
「え?」
 ドーン!!

「もう雪かきなんざ、ぜってぇしねーからな」
「オマエ、何にもしてなかったけどな」
 2人の異種族カップルは完全に脱力した感じでリタイヤした。
「エレン、ションベンは?まさかあん時、漏らしたんじゃねーだろうな?」
「逆に、膀胱の奥に引っ込んじゃったよ。楽しいのは稲生さんだけか?」
「単純野郎め」
「オマエもヒトのこと言えねーだろ」
「先生、取りあえず本堂の裏手が終わりました」
「ご苦労。こっちは庫裡の方が終わった」
「キツネさん達は何だかんだ言って、働き者だねぃ……。どっかの鬼と違って」
「うっせ!……で、元凶の土建屋班長はどこ行った?」
「さっき、『いいこと思いついた』って言って、出て行ったけど?」
 ユタが答えた。
「あの野郎、オレ達に押し付けてケイバしに行ったんじゃねーだろうな!?」
「だからオマエは何にもしてねーだろ」
「というか、この雪で東京競馬は中止だってさ。わざわざ京都競馬やりに行ったのかな???」
「いや、アレを見てください!」
 カンジが駐車場の方を指さした。
 轟音と共に、雪を吹き飛ばす除雪機。
「いやあ、近くの工事事務所に除雪機配置してたの、すっかり忘れてたわー」
 得意げな顔をする藤谷。
「どうせこの雪で工事中止だし、ちょっと借りてきて正解だったぜ〜」
「あ、あの班長……」
 さすがのユタも変な顔になった。
「いやあ、やっぱ断然人手より機械だわ〜。あ、キミタチ、もう帰っていいぞー。他にも除雪機の手配できたから」
 全員目が点になった。
「事務室に御供物のヨーカンあるから、所化さんからもらってくれなー」
「……い、威吹、カンジ君。怒っちゃダメだよ?ここでキレたら、負けだよ?キノも……」
「あー……何か、キレる気にもなんねー……」
「同じく……」
「先生の御意向に従います」
「やっぱオシッコしたくなってきた……」
「行ってらっしゃい」
「ユタ、これって功徳あるの……?」
「うん……僕はね。マリアさんが午後から来てくれるって言うし」
「オレにとっては罰だな」
「ちょうど今、埼京線も湘南新宿ラインも運転再開したって言うし」
 ユタはスマホで運行情報を確認した。
「メチャ混み、ダンゴ運転、次の電車が来るまで間隔空きまくりでしょうか……」
「エレンが便所から戻ってきたら帰るぜ、オレはぁ……」
「取りあえず、御供物もらってくるね」
「ボクも行く。カンジはここで待ってて」
「ハイ」
 ユタと威吹は脱力感を振り払いながら、本堂へ向かった。

 因みに……ユタ以外の各自の功徳紹介。

 エレン:学校の定期テストの成績が思いのほか良かった。ヤマがほとんど当たっていた。
 キノ:鬼のように怖い姉が研修で閻魔城に行くため、ボコられる恐怖が一定期間緩和された。
 威吹:本堂に行ったら、副講頭からお食事券もらえた(副講頭は首都圏で飲食チェーン経営)。
 カンジ:妖狐の里より、正式に人間界での修行許可が出た(今まで威吹の弟子入りも含めて、全て無許可で問題視されていた)。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« “ユタと愉快な仲間たち”「雪... | トップ | かまいたちの夜 »

コメントを投稿

日記」カテゴリの最新記事