報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「双子の危機」 1

2014-02-23 20:50:46 | 日記
[7年前のとある冬 宮城県仙台市泉区 南里ロボット研究所 南里志郎&平賀太一]

「何ですって?今、何と……?」
 平賀は驚愕の顔を浮かべた。
「ボーカロイド・プロジェクト第2弾、コードネーム“鏡音”計画の変更をする」
「で、ですが、財団では既に鏡音リン一本で行うと……」
「平賀君。私は財団の何じゃ?」
「立ち上げメンバーの主任理事ですが……」
「そのワシが、計画変更じゃと言っておるのじゃがね?」
「わ、分かりました。すぐに理事長に連絡します。……せめて、計画変更の理由を教えて頂けませんか?」
「はっきり言って、鏡音リン1機だけでは、初音ミクの二番煎じ感が拭えぬからじゃ」
「では、どういう計画で……?」
「同じもの……同スペックの個体をもう1機製造する」
「ええっ!?よ、予算は……?」
「このプロジェクトへの協賛を表明してくれておる企業に持ち込めば良かろう。初音ミクへの協賛を表明しておる大日本電機はどうじゃ?確か、鏡音リンについても、関心を示しておったようじゃが……」
「それも確認しませんと……」
「そこは財団に任せれば良かろう」
「すぐに本部に連絡してきます」
「すまんが、頼む」

[現在の3月13日12時50分 財団仙台支部事務所 総務部事務室 敷島孝夫]

〔「すまんが、頼む」〕
 敷島は南里研究所の記録映像の編集をしていた。
 この映像を撮影していたのはエミリー。エミリーは自分の目(カメラ)で見たものを録画し、メモリーに保存していた。
(そういえば、ここのボーカロイド達がどういった経緯で製造されたのかまでは、俺もよく知らなかったな……)
 超A級の極秘事項だからだろう。
 南里研究所では所詮、敷島など協賛企業からの出向者に過ぎなかったのだ。
 そしてここでは、いくら役付きとはいえ、一介の事務職員に過ぎない。

[今度は6年前の冬 南里研究所 南里、平賀、鏡音リン]

「ふう……。ついに完成じゃ」
「1年で、よくできましたねぇ……。さすが先生です」
「ふふふ……。わしに師事したこと、とくと喜びたまえ。キミはまたロボット研究の歴史における証人になるのじゃからな」
「はい」
「とはいえ、キミも七海の相手があるじゃろう。初音ミクは今度来る出向者に任せておいて、こやつらの相手は赤月君に任せようと思うのじゃが……」
「ええ。ナツなら、そつ無くやるでしょう」
「もうここには呼んでいるのかね?」
「ええ。もう、そろそろ到着するんじゃないかと思うんですが……」
 すると、研究室に飛び込んでくる者がいた。
「鏡音リン!勝手に・入るな!」
 後からエミリーが険しい顔をして、追い掛けてくる。
「ねえねえ、博士!もうできたの!?」
「ああ。たった今、完成したところじゃ」
 リンは新しくできた片割れの顔を覗き込んだ。
「リンにそっくり!」
「お前とは“双子の弟”というコンセプトで製作した。プロパティもそのようにしてあるから、初音ミクと違い、“楽しみ”や“喜び”もひとしおじゃろうて……」
 リンはレンの手を取った。
「ねえ、博士!リンの弟なら、一緒に連れて歩いても問題無いよね?」
「まあ、待ちたまえ。まずは赤月君に引き合わせんとな」
「えー!リンが後回し!?」
 リンはふくれっ面になった。
「そう言うな。これからお前達の管理は、赤月君にしてもらうことにした。管理者としての立場を明確にする為でもある。よく理解したまえ」
「ふえっ、あの鬼軍曹?」
 平賀もニヤッと笑った。
「まあまあ。それなりに厳しいヤツだけども、それはこのプロジェクトを成功させたいという意気込みの表れでもあるんだから、察してやれよ」
「リンはいいけど、できたばかりのレンをいきなり鬼軍曹に会わせるのも可哀想だYo」
「あ……」
 平賀とエミリーは後ずさりした。
 そこにいたのは……。
「ん?どうしたの?平賀博士?」
「自分、あとは知らないよォ……」
「なに?なに?」
 ガシッとリンは誰かに襟首を掴まれた。
「うああっ!?」
「誰が鬼軍曹よ!ちょっとこっちに来なさい!!」
「うあぁあっ!」
 リンは赤月にズルズルと引きずられて行った。
「相変わらずだな、ナツとリンは……」
「少なくとも退屈はせんと思うぞ」
「ええ」
「鏡音レン、どうかね?“双子の姉”と会った感想は?」
「良かったです」
「何が?」
「リン……笑ってくれて」
「んふふふ……そうかね」

[再び現在の財団事務所 15:00. 敷島孝夫&アリス・フォレスト]

「シキシマ!財団がアタシのラボ(研究所)、決めてくれたってよ」
「おっ、そうか。良かったな」
「4月1日から使っていいって」
「ちょうどいい期間だな。で、どこだって?」
「南里研究所」
「ちょっと待った!あそこって今……」
「プロフェッサー平賀が所有権を放棄して売りに出したけど、立地条件が悪くて買い手が付かず、しょうがなく財団が買い叩いて所有だけしている廃墟同然のラボでしょ?格安で貸してくれるってさ」
「良かったな。で、どうすんの?」
「内見自由だって。画像でもあればいいんだけど、やっぱ直接見た方がいいからね」
(動画なら今、俺のPCにあるんだが……)
「じゃあ、見てくるのか」
「シキシマ、ヒマ?そこで働いてたんでしょ?エミリーも連れて、教えてよ?」
「ああ、いいよ」
「じゃあ、ちょっと準備してくるね」
 アリスが事務室を出て行った時だった。
「参事、電話です。ヒビヤ総研さんから」
「あいよ。……もしもし、お電話変わりました。敷島です。……あ、はい。……ええ」

[同日15:30.総務部事務室 敷島孝夫&アリス・フォレスト]

「お待たせー」
「……分かりました。では、それにつきましては、また後日……日を改めてということで。……はい。……じゃ、失礼します」
 敷島はいつになく険しい顔で電話を切った。
 そして、アリスの方を向き、パンと手を叩いて合わせる。
「What?」
「すまん、アリス。急展開の事態が発生してしまった。俺は内見に同行できそうにない」
「Oh!Why!?……何かあったの?」
「リンとレンをレンタルしていたヒビヤ総研さんなんだが、赤字が嵩んで維持できなくなったんで、今月末で解散するそうだ」
「そうなの!」
「取り急ぎその手続きと、リンとレンを再び財団直接管理にしなきゃいけなくなった。また新たな預け先を探さないと行けなくなったからな」
「アタシの新しいラボで預かろうか?」
「いや、リンとレンには元々別の所からオファーはあったんだ。改めてそこに話を持って行くことにするよ。だから、申し訳無い」
「シキシマの仕事だからしょうがないね。ただ、エミリーは連れて行くよ?」
「ああ、そうしてくれ。どうせ俺も残業決定だ」
「リンとレンの新しいレンタル先って?どこかのラボ?」
「研究所からも確かに話はあるんだけど、今度は研究機関じゃなく、もっと別の所にしたい」
「ふーん……」
                       続く

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