報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「肩透かし」

2024-08-07 20:20:18 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月6日11時00分 天候:晴 静岡県富士宮市郊外某所]

〔「それでは、これより閉校式を行います。今回の合宿に当たっては……」〕

 木造の体育館に、合宿の受講生が集まり、閉校式を行っている。
 予定表によると、この後はバスに乗って新富士駅に移動し、そこから新幹線に乗って解散という流れだそうだ。
 ……え?何でいきなり時系列が飛んでるかって?

 愛原「何にも無いじゃん!?」 
 高橋「は……はい」
 愛原「何も起こらなかったよ!?」
 高橋「そ……そっスね……。おい、リサ!オマエ、今から鬼になって乱入しろ!」
 リサ「いいの!?」
 愛原「ダメに決まってんだろ!」

 そう。
 何も起こらなかったのである。
 今回、東京中央進学塾の合宿先は富士山の麓。
 大自然に囲まれた高原で、集中的に勉強するというものだった。
 あいにくと中学3年生向けのものであり、高校生のリサを潜り込ませることはできなかった。
 しかし、私達は彼らについて行ったが、参加者の中に怪しい者はいなかったし、道中で何かが起きるということもなかった。
 そして、怪奇現象が相次ぐという合宿所。
 確かに、木造の廃校をリニューアルしたとはいえ、古さからくる不気味さは拭えない。
 しかしそれでも、許可を取って私達が内部を調査したが、幽霊やお化けはもちろん、特異菌の胞子が飛んでいるなんてこともなかった。
 仮にお化けがいたとしても、鬼姿のリサを見て逃げ出していたかもしれないが。
 とにかく、騒ぎにになるような事態は1度も起きなかったのである。

 愛原「これは一体、どういうことなんだ?」

 私達は車に戻った。
 因みに車は、レンタカーである。
 参加者達は、東京駅から新幹線に乗っていたので。
 新幹線は団体列車ではなく、16号車を1両貸切にしていただけ。
 帰りもそうなのだろう。
 私は電話で、佐久間女史に電話してみた。

 愛原「愛原です。……はい、こちらこそ。今、閉校式がつつがなく行われています。……はい。そうですね。何もありませんでした」
 佐久間「実は息子……次男からも、『噂と違っていて拍子抜けした』っていう連絡があったんですよ。まあ、中学生ですから、悪ふざけで『オバケが出たー』とか、『幽霊が出るー』とか言ってたコはいたみたいですけど、次男は直接そんな怖い目には遭っていないそうで……」
 愛原「一応、新幹線までは見張っておこうと思います。それで何も起こらなければ、それで終了という形で宜しいでしょうか?」
 佐久間「はい、それでお願いします。……私の取り越し苦労でしたかねぇ……」
 愛原「あの、御長男はここで怖い目に遭って、今もそのトラウマで苦しんでおられるんですよね?」
 佐久間「そうです。今でも心療内科に通っています。塾側からは、『勉強のし過ぎでノイローゼになってしまったのだろう』などと言われて……」
 愛原「それはヒドい」
 佐久間「ただ、それに関しての陳謝はありましたけど……」

 塾側は、この施設で起きたという怪奇現象は、受験勉強に追い込まれた生徒達が精神不安定になってしまったことが原因だと考えているようだ。
 そこで塾側は、一コマ辺りの授業時間を短縮し、休み時間を多めに取るなどして、生徒側が追い込まれないよう配慮したという。
 ……施設ごと変えるつもりは無いようである。
 また、佐久間家の長男に関しては、塾の運営会社からも慰謝料はもらっているらしい。
 ので、これ以上、法的に訴えるつもりは無いそうだ。
 ただ、次男も同じ目に遭うのでは困るということで、私に依頼してきたわけだが……。
 蓋を開けてみれば、この調子だ。
 長男が本当にここで怪奇現象に遭い、ノイローゼになるほどのトラウマを植え付けられたのか疑わしくなってくるほど。

 高橋「先生、生徒達が出てきます。恐らく、バスに乗るのかと」

 私が佐久間女史と電話していると、体育館から荷物を持った生徒達がぞろぞろと出て来た。
 そして、校庭に止められている大型観光バス2台に分乗していく。
 バス会社は地元の会社であるようだ。

 愛原「……あ、すいません。生徒の皆さん、合宿所をあとにするようです。……はい。私達も追跡しますので……了解です。ありがとうございます。では、失礼します」

 私は電話を切った。

 愛原「報酬は契約通り、払ってくれるらしい」
 高橋「そりゃそうっスよ。俺達はどうしますか?」
 愛原「バスの後ろを付いて行ってくれ。多分、このまま新富士駅に行くんだろう」
 高橋「了解です」

 しばらくして、バス2台が合宿所を出て行った。
 高橋運転のレンタカーも、その後ろを続く。

 高橋「でも先生」
 愛原「何だ?」
 高橋「これ、レンタカーだから、途中でガソリン満タン入れたり、返す手続きとかしなきゃいけないじゃないっスか。その間、あいつらが新幹線に乗ったらどうしますかね?」
 愛原「その心配は無いよ。ああいう団体客ってのは、乗り換え時間はかなり余裕を持って取られてるんだ。途中でバスが渋滞にハマってもいいようにね。だから、東京駅なんかで、よく修学旅行生とかが日本橋口とかの広場で待機してるだろ?そういうことだよ」
 高橋「なるほど」
 リサ「そういえば、中等部代替修学旅行の時も、郡山駅で長い時間待機したね」
 愛原「バスの到着が少しくらい遅れてもいいように、かなり余裕を持っていたってことだよ。あのコ達もそうさ」

 幸い手元には、佐久間家の次男が持っている参加者の栞のコピーを貰っている。
 それによると、帰りの新幹線は午後イチの“こだま”号らしいから、今から出発したのでは、かなり時間的に余裕があると思われる。
 ゴールデンウィークの最終日だし、恐らく観光都市である富士宮市では、幹線道路が軒並み観光客で渋滞するだろうから、それを見越して余裕を持ったプランになっているようである。

 愛原「だから、俺達が給油や車の返却手続きで、彼らから少し目を離していても大丈夫ってことさ」
 高橋「なるほど!」

 尚、閉校式を行ったこともあり、新幹線に乗った後は、予め決めた駅で降りても良いということだ。
 東京中央進学塾もまた1都3県に教室を展開しており、栞には下車駅として、『新横浜』『品川』『東京』とあった。
 佐久間家の次男は品川駅で降りるようなので、私達もそこで降りようか考えている。
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“私立探偵 愛原学” 「新しい依頼人」

2024-08-07 15:08:31 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月24日18時30分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原家3階ダイニング]

 

 4人で洋食を囲む。
 リサは大盛りの豚肉をガツガツ食べていた。

 愛原「それで、俺が留守の間に来たというクライアントって、どんな人だった?」
 パール「申込用紙に記入して頂きましたが、40代の女性です。先生より少し年上なくらいの」
 愛原「ほお……。すると、依頼内容は『ダンナの不倫調査』とか、そういうのかな?」
 リサ「オプションで、『鬼娘リサによる電撃制裁または丸焦げ制裁』もあります」
 愛原「物騒過ぎる!」
 高橋「待てよ、リサ。不倫調査と決まったわけじゃねーだろ?」
 リサ「ええ?」
 高橋「『息子が悪い友達と付き合ってるかもしれねーから調査してくれ』かもしれねーぜ?そしたら先生、俺の出番っスよ!」
 愛原「随分主観的なことを言ったけど、経験あるのかい?」
 パール「残念ながら、どちらも違います」
 愛原「あ、そうか。応対したのはパールか」
 高橋「俺は俺で、事故物件調査に行ってたもんで」
 愛原「そうだった。Y澤不動産さんとの契約は今月一杯だから、それで何も無ければ、あとは報酬をもらうだけだ」
 高橋「はい」
 愛原「なるほど、そうか……。あ、ゴメン。で、何だって?」
 パール「子供の通う塾について調べて欲しいというものでした」
 愛原「えっ、塾!?」
 リサ「それって、山手学苑?」
 パール「いえ、塾の名前までは聞いてないです。何でも、『子供が通う塾で、ゴールデンウィークに講習があるのだが、悪い噂があるので、調査して欲しい』というものです」
 愛原「悪い噂ねぇ……」
 リサ「じゃあ、山手学苑じゃないかもね。そこは悪い噂、無いんでしょ?」
 愛原「そうだな」

 賃貸物件の事故物件の次は、学習塾の調査か……。
 小口契約だが、大口がデイライトさんだけでは心許ないので、こういう小口契約も引き受けなくてはならないのだ。

[4月25日10時00分 天候:晴 同地区内 愛原学探偵事務所2階]

 事務所の前に、1台のタクシーが止まる。
 そこから降りてきたのは、40代半ばの女性。
 ガレージは開いているのだが、その前の通りでタクシーを降りた女性はガレージのエレベーターは使わず、ガラス戸の玄関ドアから入り、階段を上って事務所までやってきた。
 尚、リサは学校に行っている。
 今朝は合同保護者説明会もあるということで、多くの関係者が学校に集まったことだろう。
 あいにくと、私は仕事があるので欠席。
 私は女性客を、応接コーナーへと案内した。

 愛原「昨日はせっかくお越し下さったのに、私の不在で、とんだご迷惑をお掛けしました」
 女性客「いえ、突然お邪魔して、こちらこそ失礼しました」
 愛原「うちのスタッフが少しお話を伺ったようですが、何でもお子さんが通う学習塾について調査ご希望とか……」
 女性客「はい。実は……」

 女性客は佐久間と名乗った。
 やはり既婚者で、高校生の長男と、中学生の次男がいるらしい。
 この兄弟は、2人で同じ塾に通っており、ゴールデンウィークや夏休みの合宿も行っているらしい。
 ところが、そこで怖いことが起きたのだという。

 愛原「因みに、その学習塾の名前、『山手学苑』じゃないですか?」
 佐久間「いえ、違います」
 愛原「違う!?」
 佐久間「はい。今から思えば、『山手学苑』にしておけば良かったと後悔しています」
 愛原「では、学習塾のお名前は……」
 佐久間「東京中央進学塾です」
 愛原「んん!?もしかして、学校法人東京中央学園と何か関係が?」

 東京中央学園、学習塾もやってたっけ?

 佐久間「いえ、それは関係無いようです。(株)東京中央進学塾ですので……」
 愛原「何だ、そうですか……。それで、合宿で怖い話というのは?」
 佐久間「長男は今、高校1年生です。確かに、あの塾に通わせたおかげで、無事、高校受験は成功しました。ところが、せっかく合格した高校に通えていないんです」
 愛原「どういうことですか?」

 この東京中央進学塾は、主に連休中に合宿を行うことで有名らしい。
 もちろん、普段使いの教室はちゃんと存在する。
 しかし、合宿を行うことで、日常とは違う環境に生徒を置き、集中力を高めることが目的であることのこと。
 その為、この塾では地方にいくつか合宿施設を所有しており、ローテーションで行き先を決めているそうである。
 そのうちの1つが、どうも曰く付きであるという。

 佐久間「合宿施設の中で最も古い施設らしいのです。何でも、かつては学校として使用されていた物が廃校となり、しばらく廃墟であった物を買い取って改築したとか」
 愛原「その施設、写真とかありますか?」
 佐久間「そうですね……」

 佐久間さんは自分のスマホを取り出すと、画像を出した。

 佐久間「長男が中学3年生の時に、参加したのがここだったのです。これは長男が撮影したものです」
 愛原「! これだけ古いですな!」

 変わった学習塾だ。
 合宿施設も、全て毛色が違う。
 ホテルみたいに立派な所もあるし、いかにも合宿所といった所もあるし、ユースホステル的な所もある。
 しかし、佐久間さんが出したのは、明らかにちょっとこれは……といったものだった。
 正に、東京中央学園の旧校舎そのものだった。
 木造2階建ての校舎を買い取り、改築して使用しているという。
 これは確かに改築してきれいにしたとしても、何らかの怪奇現象は発生してもおかしくないなと思った。

 佐久間「そうなんです。そして今度、次男がゴールデンウィークの合宿で、ここに行くらしくて……」
 愛原「御長男は、いつ参加したのですか?」
 佐久間「中学3年生の時の秋、シルバーウィークです。ここは山奥にあって、周りには何も無いので、とても集中して受験対策ができるという触れ込みだったのですが……」

 長男も含めて、参加した生徒の殆どが怪奇現象を体験したという。
 とりわけ長男は、『幽霊に取り憑かれた』という噂が立つほどに変わってしまった。

 佐久間「あそこには何かがあります。それを調査してもらいたいんです」
 愛原「分かりました。こちらは事故物件の調査とかもしておりますので、できる限りのことはさせて頂きましょう」
 佐久間「ありがとうございます」
 愛原「それでは、報酬の方ですが……」

 すんなり契約してくれたので、よほどお困りのようであった。
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