報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「新しい依頼人」

2024-08-07 15:08:31 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月24日18時30分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原家3階ダイニング]

 

 4人で洋食を囲む。
 リサは大盛りの豚肉をガツガツ食べていた。

 愛原「それで、俺が留守の間に来たというクライアントって、どんな人だった?」
 パール「申込用紙に記入して頂きましたが、40代の女性です。先生より少し年上なくらいの」
 愛原「ほお……。すると、依頼内容は『ダンナの不倫調査』とか、そういうのかな?」
 リサ「オプションで、『鬼娘リサによる電撃制裁または丸焦げ制裁』もあります」
 愛原「物騒過ぎる!」
 高橋「待てよ、リサ。不倫調査と決まったわけじゃねーだろ?」
 リサ「ええ?」
 高橋「『息子が悪い友達と付き合ってるかもしれねーから調査してくれ』かもしれねーぜ?そしたら先生、俺の出番っスよ!」
 愛原「随分主観的なことを言ったけど、経験あるのかい?」
 パール「残念ながら、どちらも違います」
 愛原「あ、そうか。応対したのはパールか」
 高橋「俺は俺で、事故物件調査に行ってたもんで」
 愛原「そうだった。Y澤不動産さんとの契約は今月一杯だから、それで何も無ければ、あとは報酬をもらうだけだ」
 高橋「はい」
 愛原「なるほど、そうか……。あ、ゴメン。で、何だって?」
 パール「子供の通う塾について調べて欲しいというものでした」
 愛原「えっ、塾!?」
 リサ「それって、山手学苑?」
 パール「いえ、塾の名前までは聞いてないです。何でも、『子供が通う塾で、ゴールデンウィークに講習があるのだが、悪い噂があるので、調査して欲しい』というものです」
 愛原「悪い噂ねぇ……」
 リサ「じゃあ、山手学苑じゃないかもね。そこは悪い噂、無いんでしょ?」
 愛原「そうだな」

 賃貸物件の事故物件の次は、学習塾の調査か……。
 小口契約だが、大口がデイライトさんだけでは心許ないので、こういう小口契約も引き受けなくてはならないのだ。

[4月25日10時00分 天候:晴 同地区内 愛原学探偵事務所2階]

 事務所の前に、1台のタクシーが止まる。
 そこから降りてきたのは、40代半ばの女性。
 ガレージは開いているのだが、その前の通りでタクシーを降りた女性はガレージのエレベーターは使わず、ガラス戸の玄関ドアから入り、階段を上って事務所までやってきた。
 尚、リサは学校に行っている。
 今朝は合同保護者説明会もあるということで、多くの関係者が学校に集まったことだろう。
 あいにくと、私は仕事があるので欠席。
 私は女性客を、応接コーナーへと案内した。

 愛原「昨日はせっかくお越し下さったのに、私の不在で、とんだご迷惑をお掛けしました」
 女性客「いえ、突然お邪魔して、こちらこそ失礼しました」
 愛原「うちのスタッフが少しお話を伺ったようですが、何でもお子さんが通う学習塾について調査ご希望とか……」
 女性客「はい。実は……」

 女性客は佐久間と名乗った。
 やはり既婚者で、高校生の長男と、中学生の次男がいるらしい。
 この兄弟は、2人で同じ塾に通っており、ゴールデンウィークや夏休みの合宿も行っているらしい。
 ところが、そこで怖いことが起きたのだという。

 愛原「因みに、その学習塾の名前、『山手学苑』じゃないですか?」
 佐久間「いえ、違います」
 愛原「違う!?」
 佐久間「はい。今から思えば、『山手学苑』にしておけば良かったと後悔しています」
 愛原「では、学習塾のお名前は……」
 佐久間「東京中央進学塾です」
 愛原「んん!?もしかして、学校法人東京中央学園と何か関係が?」

 東京中央学園、学習塾もやってたっけ?

 佐久間「いえ、それは関係無いようです。(株)東京中央進学塾ですので……」
 愛原「何だ、そうですか……。それで、合宿で怖い話というのは?」
 佐久間「長男は今、高校1年生です。確かに、あの塾に通わせたおかげで、無事、高校受験は成功しました。ところが、せっかく合格した高校に通えていないんです」
 愛原「どういうことですか?」

 この東京中央進学塾は、主に連休中に合宿を行うことで有名らしい。
 もちろん、普段使いの教室はちゃんと存在する。
 しかし、合宿を行うことで、日常とは違う環境に生徒を置き、集中力を高めることが目的であることのこと。
 その為、この塾では地方にいくつか合宿施設を所有しており、ローテーションで行き先を決めているそうである。
 そのうちの1つが、どうも曰く付きであるという。

 佐久間「合宿施設の中で最も古い施設らしいのです。何でも、かつては学校として使用されていた物が廃校となり、しばらく廃墟であった物を買い取って改築したとか」
 愛原「その施設、写真とかありますか?」
 佐久間「そうですね……」

 佐久間さんは自分のスマホを取り出すと、画像を出した。

 佐久間「長男が中学3年生の時に、参加したのがここだったのです。これは長男が撮影したものです」
 愛原「! これだけ古いですな!」

 変わった学習塾だ。
 合宿施設も、全て毛色が違う。
 ホテルみたいに立派な所もあるし、いかにも合宿所といった所もあるし、ユースホステル的な所もある。
 しかし、佐久間さんが出したのは、明らかにちょっとこれは……といったものだった。
 正に、東京中央学園の旧校舎そのものだった。
 木造2階建ての校舎を買い取り、改築して使用しているという。
 これは確かに改築してきれいにしたとしても、何らかの怪奇現象は発生してもおかしくないなと思った。

 佐久間「そうなんです。そして今度、次男がゴールデンウィークの合宿で、ここに行くらしくて……」
 愛原「御長男は、いつ参加したのですか?」
 佐久間「中学3年生の時の秋、シルバーウィークです。ここは山奥にあって、周りには何も無いので、とても集中して受験対策ができるという触れ込みだったのですが……」

 長男も含めて、参加した生徒の殆どが怪奇現象を体験したという。
 とりわけ長男は、『幽霊に取り憑かれた』という噂が立つほどに変わってしまった。

 佐久間「あそこには何かがあります。それを調査してもらいたいんです」
 愛原「分かりました。こちらは事故物件の調査とかもしておりますので、できる限りのことはさせて頂きましょう」
 佐久間「ありがとうございます」
 愛原「それでは、報酬の方ですが……」

 すんなり契約してくれたので、よほどお困りのようであった。

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