報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「仕事そのものは無事終了」

2024-08-10 21:08:17 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月6日13時44分 天候:晴 神奈川県小田原市城山 JR(東海)小田原駅→東海道新幹線718A列車12号車内]

 小田原駅に到着する。
 未だに何も起こらない。
 通過線もある駅なので、ここで“こだま”号は数分停車した。
 見渡す限り、12号車の指定席は満席のようである。
 基本的には空いているとされる“こだま”号も、さすがにゴールデンウィークは賑わうようである。
 小田原駅からも、ぞろぞろと乗客が乗って来た。
 恐らく、箱根方面からの観光客だろう。
 東京都内から箱根方面への鉄道輸送は小田急ロマンスカーというイメージがあるが、小田原乗り換えの新幹線も、特に外国人には人気のようである。
 あとは、他の新幹線からの乗り継ぎが便利というのもあるだろう。
 列車はここでまた、後続列車に進路を譲ると、定刻通りに発車した。
 本当に“こだま”はのんびりしている。
 次の新横浜までは駅間距離が長い為、基本的には“こだま”であろうと最高時速の285kmで走行する。
 その体験ができるというのも、外国人に人気の理由なのかもしれない。

〔「次は新横浜、新横浜です。車内混み合いまして、大変ご迷惑さまです。尚、当列車はグリーン車、指定席も全て満席となっております。大変申し訳ございません。今しばらくの間、御辛抱ください」〕

 “こだま”は30分に1本しか無い為、ハイシーズンはどうしても混雑するのだろう。
 私なら小田急ロマンスカー、または小田原始発の東海道線に乗るかな。
 と、その時だった。

 リサ「ねぇ、先生」
 愛原「ん?」
 リサ「今、ツイッターで、『伊豆諸島近海を航行中の船、航行不能か?』ってニュースが流れて来たんだけど?」
 愛原「そうなのか……」

 最初はそれがどうしたと思った。
 もちろん、当事者には溜まったものではないとは思うが、伊豆諸島近海を航行する船なんていくつもあるはずだ。
 今は真昼間だし、仮にエンジントラブルか何かで航行不能になってしまったとしても、近くを航行中の船が救助に来てくれたり、海上保安庁に通報できたりするだろう。
 しかし、リサはもっと恐ろしいことを言った。

 リサ「船は八丈島から東京港に向かっているチャーター便だってよ」
 愛原「んんっ!?」
 リサ「この時間、八丈島から東京に向かう船なんて、定期便じゃ無いよね?」
 愛原「い、いや、分からんぞ」

 確か、定期便は東京から八丈島までは夜行便である。
 そして、逆に八丈島から東京へは、朝に出航して夜到着するダイヤではなかったか。

 愛原「それかもしれないだろ?」
 リサ「でも、チャーター便って……」
 愛原「ゴールデンウィーク中は多客期だから、臨時便を出すこともあるだろう」
 リサ「そうかなぁ……」

 リサは山手学苑の塾生達を乗せた船だと思っているようだ。
 仮にそうだとしても、航行不能になったというだけでは、まだ命に関わるとは限らない。
 通信設備が生きていれば、それで救助を要請することができるからだ。
 むしろ、それができたからこそ、ネットニュースに流れて来たのではないか。

[同日14時11分 天候:晴 東京都港区港南 東海道新幹線718A列車12号車内→JR(東海)品川駅]

〔♪♪(車内チャイム「会いに行こう」)♪♪。まもなく、品川です。お出口は、右側です。山手線、京浜東北線、東海道線、横須賀線、京浜急行線は、お乗り換えです。お降りの時は、足元にご注意ください。品川を出ますと、次は終点、東京です〕

 ついにクライアントの次男が下車予定の品川駅に接近した。
 因みに、手前の新横浜駅で下車した塾生達も何人かいたようである。

 愛原「俺達も降りるぞ」
 高橋「はい」

 私達は網棚に置いた荷物を下ろした。
 そして、列車は品川駅上り本線ホームに入線する。

〔しながわ、品川です。しながわ、品川です。ご乗車、ありがとうございました〕

 

 私達は列車を降りた。
 東京駅ほどではないが、ここでの下車客もそれなりに多い。
 隣の13号車からも、10人以上の塾生達が降りて来た。
 そして、その中にクライアントの次男もいる。
 後からついて行くと、次男はエスカレーターでコンコースに上がった。
 そして、すぐに改札口に行くのではなく、トイレに向かって行った。
 恐らく、車内でトイレに行く暇が無かったのだろう。
 或いは混んでいて、行けなかったのかもしれない。

 愛原「俺達も行こう」
 高橋「はい」
 リサ「わたしは?」
 愛原「トイレの外を見張っててくれ」
 リサ「分かった」

 私と高橋は、トイレの中に入る。
 次男は小用を足していた。
 それから、トイレを出る。

 愛原「リサは後からついてきて。あくまでも、今回の仕事は俺と、助手の高橋でやってることになってるから」
 リサ「……分かった」

 クライアントの中には、人件費のせいで依頼料が高いことを指摘してくる人もいる。
 その為、私はあくまで仕事は、私と助手の1人でやっていることを伝えている。
 次男は改札口を出ると、その外側で待っていた母親と合流した。
 つまり、クライアントの佐久間女史である。
 次男には、今回のことを探偵に依頼していることは内緒なので、あくまでもアイコンタクトを交わすだけ。
 これで、私達の仕事は終わりである。
 約束では明日、報酬が振り込まれることになっている。
 それにしても、本当に何も無かったな……。

 高橋「どうしますか、先生?」
 愛原「まあ、仕事はこれで終わりだから、あとはもう帰ろう」
 高橋「はい。結局、何だったんスかね?」
 愛原「まあ、クライアントの思い過ごしだったとしか言いようが無いな。今回、結果的には……」
 高橋「はい。せっかく、化け物の頭ァ撃ち抜いてやろうと思ったのに……」
 愛原「まあ、いいや、都営浅草線経由で事務所に帰ろう。まずは、京急乗り場に……」
 リサ「せ、先生!」

 リサがスマホを片手に走って来た。

 愛原「どうした?」
 リサ「BSAAが緊急出動だって!」
 愛原「なにいっ!?リサが12号車に乗ることは通知したはずだぞ!?」

 もちろん、BSAAが出動した理由はそれでは無かった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする