報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「冥界鉄道999」

2020-06-08 19:53:28 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月9日19:30.冥界鉄道公社999D列車4号車内 視点:稲生勇太]

 隣国ミッドガード共和国による宣戦布告が、ついにアルカディア王国に対して出された。
 それに呼応するかのように、既に入国していたミッドガード共和国工作員による爆弾テロ攻撃が市内のあちこちで繰り広げられている。
 列車はついにインフェルノタウン駅を抜け、アルカディアシティを囲む城壁の外に出た。
 亜空間トンネルの入口は、JR中央線で言うところの中野駅辺りにある。
 今は新宿駅に当たる駅を抜けたところだ。
 だが、第2次世界大戦中において、米軍がJR中央本線を走行中の避難列車を見逃さなかったのと同様、ミッドガード共和国も避難列車は見逃そうとはしなかった。

 車掌長:「こちら4号車!10号車、どうした?応答しろ!」

 10両編成の長距離列車である為、車掌は複数乗務しているようだ。
 中間グリーン車の車掌室に乗務している車掌長は、最後尾の乗務員室に詰めている運転車掌が連絡が取れなくなったのに気付いた。
 電話の向こうからは銃撃音と怒号、乗客の悲鳴が聞こえてくる。

 車掌長:「輸送指令、輸送指令!こちら999D車掌です!応答願います!輸送指令、輸送指令!こちら99……」

 ドォン!

 車掌長:「ぐわっ!」

 後ろからマグナムで射殺された車掌長。

 ミッドガード共和国軍兵士(以下、兵士)A:「見つけたぞ!手配中の魔道士達だ!」
 兵士B:「おとなくしろ!」
 兵士C:「抵抗したら撃つ!」

 剣と魔法のファンタジーの世界はどこへやら。
 まるで本物の米軍兵士のような装備をした兵士達がグリーン車に踏み込んで来た。

 稲生:「せ、先生!?」
 イリーナ:「くっ……!あ、あんた達は何が目的なの!?」

 さすがのイリーナも普段は細めている目を見開いている。

 男性客A:「わ、私達は関係無い!」
 男性客B:「オマエ達こそ、何が目的だ!?私はこう見えても合衆国政府のエージェントだぞ!私に危害を加えてみろ!いくら異世界とはいえ、ペンタゴンが黙っちゃいないぞ!」

 ドォン!

 男性客B:「!!!」
 女性客:「キャアアアッ!!」

 合衆国政府エージェントを名乗る男性客Bは、兵士Aの持つライトニング・ホークによって頭を撃ち抜かれてしまった。

 兵士A:「今一度警告する!武器を捨てておとなしく投降しろ!」
 イリーナ:「分かったわ。目的は私達なんでしょ?だったら、他のお客さんは関係わよね?他の車両に避難させてもいいかしら?」

 イリーナは魔法の杖を床に置いた。

 イリーナ:「さ、あなた達も」
 稲生:「は、はい」
 マリア:「…………」

 稲生とマリアも魔法の杖を床に置いた。
 イリーナが他の乗客に目配せする。

 男性客A:「わ、分かった!さ、早く!」

 男性客Aは腰が抜けてしまった女性客や他の乗客を促して3号車に避難していった。

 イリーナ:「それで?私達にどうしろというのかしら?」
 兵士A:「トンネルに入ったら進路を我が国の方に向ける。我が国に着いたら、そこで列車に降りてもらう。あとは他の部隊の仕事だ」
 イリーナ:「私達はどうして手配されているのかしら?私達は別にミッドガード共和国には何もしてないわよ?」
 兵士B:「白々しいことを……。魔道士達が我が国に対してスパイ行為を働いていることは明らかだ。色々と話を聞かせてもらうからな」
 イリーナ:「なるほど。誰かが私達に罪を被せようとしているわけね」

 列車の外が暗くなる。
 亜空間トンネルに入ったのだ。

 兵士A:「こちら第4分隊。ターゲット3名を確保したプランEへの移行を……がっ……!」

 兵士Aが手持ちの無線機で他の部隊に連絡を取っている時だった。
 稲生達に背を向けた瞬間、イリーナの杖が勝手に動き出し、兵士Aの後頭部を思いっ切り殴った。

 兵士B:「き、貴様ら!」

 続いてマリアの杖を勝手に動き出し……。

 兵士B:「ぐわっ!」

 兵士Bにはみぞおちにマリアの杖がヒットしてダウン。
 兵士Cはイリーナの杖に銃を叩き落とされ、そのまま持ち上げられて床に叩き付けられ、意識を失った。

 稲生:「先生、どうします!?」
 イリーナ:「亜空間トンネルの中じゃ、瞬間移動魔法は使えないわ。取りあえず、トンネルを抜けるまでどこかに隠れ……」

 バンッ!(ドアが思いっ切り開いた音)

 兵士D:「どうした!?何があった!?」
 兵士E:「うわっ、やられてる!大丈夫か!?」
 兵士F:「貴様ら、よくも!」
 稲生:「隠れる間も無く、増援来ちゃいましたよ!?」
 イリーナ:「上等!パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!」
 兵士D:「呪文だ!撃て!」

 だが、兵士達が発砲してくるより先にイリーナの攻撃魔法が炸裂した。

 兵士D:「ぎゃあっ!」
 兵士E:「ぐわあっ!」
 兵士F:「ぐえっ!?」

 増援を倒したはずだが……。

 兵士G:「こちら第6分隊!4号車において、ターゲットと交戦中!至急、増援願う!」
 兵士H:「撃てっ!撃てっ!」
 兵士I:「魔法を使わせるな!」
 マリア:「キリが無い!」
 稲生:「どこから乗り込んだんだ!?」

 陸橋の上とか、通過駅から飛び乗ったのだろうか。

〔「こちら1号車!運転室の制圧に成功!しかしトラブル発生!至急、運転に詳しい者を運転室に派遣されたし!」〕

 稲生:「えっ?」
 兵士G:「あのバカ!なに車内放送装置使ってやがる!?」

 どうやら内線電話で他の乗務員室を制圧している別の兵士と連絡を取ろうとしたところ、間違って車内放送の機器を扱ってしまったらしい。
 昔の車両は、車内放送のマイクも電話の受話機だったからだろうか。

 稲生:「一応僕、運転操作分かりますけど?鉄ヲタなんで」
 兵士I:「な、なに!?」
 イリーナ:「もしかして、ブレーキ効かなくなったとか?」
 兵士G:「き、貴様ら、自分達の立場が分かって……」
 イリーナ:「でもこのコ、本当に鉄道には詳しいのよ?連れて行ってあげたら?」
 兵士I:「し、しかし……!」
 イリーナ:「魔法の杖はあなた達に預けて、私達は丸腰になる。もちろんその間、銃は突き付けててもらって構わない。で、私達が変なことをしたらすぐに撃ってもらって構わない。それでどう?」
 兵士G:「へ、変なマネをしたら本当に撃つからな!」
 兵士I:「よ、よし!運転室まで来い!」

 稲生達は前後を兵士達に挟まれる形で1号車に向かった。

 稲生:(でも僕、鉄道博物館のシミュレーター程度の知識しか無いんだけど大丈夫かな?)

 兵士達の納得することをしなければ、その場で射殺されることだろう。
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“大魔道師の弟子” 「名実共に避難列車となった999D列車」

2020-06-08 14:39:29 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月9日19:00.冥界鉄道公社999D列車4号車内 視点:稲生勇太]

 ホームで買い物などを済ませ、稲生達は車掌長の改札を受けて列車に乗り込んだ。
 9両編成という、かなり長い編成で唯一のグリーン車である。
 クリーム色に赤い塗装の入った、いわゆる『国鉄色』と呼ばれる塗装をしたキハ58系という気動車列車だった。
 ただ、鉄ヲタの稲生から見れば、かなり適当な編成のように見えた。
 寒冷地仕様のタイプもあれば、暖地仕様のキハ65系(乗降ドアが折り戸タイプでトイレ無し)も連結されており、しかも後ろ2両は普通列車用のキハ48系が2両連結されていた。
 元々は7両で運転するつもりなのが、乗客の急増に伴い、急きょキハ48系を増結したようである。
 その証拠に、キハ58系やキハ65系には号車番号が表示されているのに、キハ48系には『増1』『増2』という表示がしてあった。
 急行料金を取られて普通列車用の車両に乗せられるのは何ともはやといった感じだが、昔はこのようなパターンがよく見られたという。
 もちろん、その逆パターンならつい最近まであった(今も通勤ライナーなどで見受けられる)。
 で、グリーン車はガラガラなのに普通車はどこも満席であった。
 満席どころか、立ち客も出ているほどである。
 キハ48系2両だけでも増結して正解だろう。

 稲生:「普通車はどの車両も混んでますよ」
 イリーナ:「珍しいわね。人間界からこっちに来る列車にあっては、時たまそういうこともあるのよ。例えば災害や戦争などで、多くの人が亡くなった時とかね」
 マリア:「人間界で死んで、ここでも死んだらどうなるんですか?」
 イリーナ:「あー……そういえば考えたこともなかったわ。別の地獄界に行くのかしらね。後で調べておくわ」
 マリア:「まあ、ちょっと気になっただけなんで」

 キハ58系やキハ65系は急行形なので少し広めの4人用ボックスシート、キハ48系は普通列車用なので狭い4人用ボックスシートと2人用ボックスシート、そしてロングシートである。
 グリーン車は広いリクライニングシートだった。
 特急用と遜色無く、一気に深く倒れる古式ゆかしいリクライニングシート(いわゆる、『バッタンコシート』。その名の通り、バッタンコと倒れることから)であった。
 他にもスーツ姿の男性客や女性客など、グリーン車の乗客に相応しい身なりの良い乗客達を数人見かけた。
 で、グリーン車であるものの、窓は開く。

〔「1番線から、冥界鉄道公社による特別臨時急行列車が発車致します。この次の快速、インフェルノタウン行きはこの後参ります。黄色い線まで、お下がりください」〕

 プシューというエアの音がして、ドアが閉まる音が聞こえて来た。
 昔の車両なだけに、ドアの閉まり具合もバタンと勢い良く閉まる、いわゆる『ギロチンドア』である。
 そして、列車は屋根からディーゼルエンジンの排気ガスを吹かしながら発車した。

 稲生:「やっと帰れますねぇ」

 稲生は弁当に箸を付けた。

 稲生:「人間界はどこに着くんでしょう?」
 イリーナ:「なるべく屋敷の近くの駅で降りられるようにしてもらったからね」
 稲生:「大糸線はかつては非電化路線でしたし、今でも南小谷~糸魚川間は非電化路線ですから、大糸線のどこかで降ろしてくれるといいですねぇ……」

 もちろん、理想は白馬駅である。

 稲生:「もしかしてこの列車、全部の車両が長野まで行くわけじゃないんでしょうね」
 イリーナ:「切り離して、他の地方に向かう列車もあるみたいよ」
 稲生:「なるほど。いわゆる、『多層建て列車』ってヤツですね。確かにそれなら、こういうキハ58系は打ってつけです」

 稲生達がそんな話をしている時だった。

 男性客:「おい、あそこ、何か煙が出てるぞ?」
 女性客:「あっち、爆発した!」

 グリーン車に乗車している別の乗客達が窓の外を指さした。
 最初は火事か何かだろうと思った稲生だったが、線路のすぐ近くにあった家が突然爆発するのを見た。

 稲生:「え?え?え?どうなってるの!?」
 イリーナ:「列車の外から何か聞こえてくるわ」

 臨時急行列車は1番街駅を出ると、基本的にもう途中駅には止まらない。
 日本で言えば新宿駅に当たるインフェルノタウン駅でさえ、通過するのである。
 冥鉄列車は臨時列車というよりは、団体列車に近いと言える。

〔「こちらはアルカディアシティ危機対策本部です。本日19時ちょうどを持ちまして、我が国アルカディア王国に対し、ミッドガード共和国より宣戦布告が出されました。これは正式布告です。現在、ミッドガード共和国の工作員による爆弾破壊活動が行われております。市民の皆様は……」〕

 稲生:「マジか!?」
 マリア:「運転中止になる!?」

 だが、アルカディアメトロ中央線の通勤電車は軒並み途中駅に待避しているのに対し、冥鉄列車は時速60キロくらいで運転し続けている。
 上空を見ると、アルカディア王国国防軍の物と思われる飛空艇団が編隊を組んで飛んでいた。

〔「こちらはアルカディアシティ危機対策本部です。只今、市内全域において、戒厳令が発令されました。市民の皆様は、速やかに御自宅または近くの建物や駅などの公共施設に待避してください。現在、ミッドガード共和国空軍の大編隊が我が国に向かって来ているとの情報が入っております。市内空爆の恐れがあります。市民の皆様は……」〕

 男性客A:「おい、この列車は止まらないのか!?」
 女性客:「避難しなくていいの!?」
 車掌長:「大丈夫です。運行本部の見立てでは、市内が空爆される前に当列車はインフェルノタウン駅を通過し、亜空間トンネルへと入る予定です。トンネルの中に入ってしまえば、もう安全です。どうか落ち着いてください」
 男性客B:「しかし万が一、爆発に巻き込まれたりしたらどうする!?」

 稲生は開けていた窓を閉めた。

 マリア:「せっかく幕の内弁当は美味しいのに、不味くなる状況だよ」
 稲生:「梅干し食べてみたら、スッキリするかもしれないよ?」
 マリア:「本当?」

 マリアは御飯の上に乗っている梅干しを口の中に入れた。

 マリア:「Nnnnnnnn!」
 イリーナ:「冥鉄は独自の運行体制を取っているから、直接攻撃でもされない限り、運行を続けるでしょうね」
 稲生:「第二種鉄道事業者なのに……」

 通過駅であるインフェルノタウン駅は大混乱していた。
 通過線以外の各ホームには電車が緊急停止している。
 そこを冥鉄列車が警笛を何度も鳴らして通過していく。
 本当にアルカディアメトロの運行管理は受けないつもりであるようだ。
 何しろ、冥鉄列車は『自動運転』である。
 目に見える乗務員は車掌や食堂車があればそこの従業員、そして車内販売があればその販売員だけであり、運転士の姿は見えない。

 イリーナ:「駅を通過すれば大丈夫よ。あとはもうトンネルに入るだけ」
 稲生:「は、はい!」

 すぐ近くで爆発が起きた。
 どうやら待避中の電車内に爆弾が仕掛けられていたようだ。
 駅を時速45キロに落として通過した列車は、アイドリング音をがなり立てて速度を上げた。
 キハ58系の最高速度は95キロ。

 だが、この列車もまた敵国からの攻撃対象になっているようだ。
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