報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「ゴエティアの悪魔エリゴス」

2020-06-01 19:53:36 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月8日11:00.アルカディアシティ南端村 サウスエンド監獄 視点:マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレット]

 普通の処刑が行われていたであろう場所に出た。

 マリア:「Ah...what’s this?」

 どうやら囚人を寝台に寝かせ、その上から処刑器具でプレスするというものらしい。
 しかし、本当にそんな単純なものなのだろうか。

 稲生:「この機械、死体を挟んだままですよ。気持ち悪い。……ん?でも、何か死体以外にも何か挟まってる。これ、上げられないかな?」
 茶取:「電源が切れてるみたいです。……ここが電源スイッチの鍵らしいですね」
 稲生:「待てよ。鍵ならさっき、事務室でいくつか取って来たな……。この鍵かな?」

 稲生が小さな鍵を穴に差し込むと、ピッタリ合った。
 それを回すと電源が入った。
 UPと書かれたボタンを押すと、器具が上昇する。
 無数の針が付いているので、いわゆる“鉄の処女(アイアン・メイデン)”の類だろうか?

 マリア:「フランツ・カフカの中に出てくる看守長のセリフの機械じゃないか、これ?」
 稲生:「『これから処刑する囚人に罪状を伝える必要は無い。何故なら、直接その体に刻み込むからだ』でしたっけ」
 マリア:「そう」

 挟まれていた死体は完全に白骨死体になっており、本当にそのような死刑が行われたのか、確認する術は無い。
 死体と一緒に挟まっていたのは、何かの歯車。
 直径30cmくらいはある。

 稲生:「これだけ大きいんだから、何かの機械の部品だろう。持って行きましょう」

 歯車を持って更に奥へ進む。

 アンデッドA:「アァア……」
 アンデッドB:「ウゥウ……」

 途中で何回か囚人のアンデッドと遭遇するが、マリアの魔法で焼き払ったり、茶取が手足を斬り取って行動不能にしたりした。
 さすがに首を一気に刎ね飛ばすのは無理だったようだ。

 稲生:「見取図によると、その先が運動場です」

 大きな鉄扉によって閉ざされている。
 どうやらこれも電動であるようだが、電力は手動で復帰させることができた。
 レバーを操作すると、機械の動く音はする。
 が、鉄扉はうんともすんとも言わない。

 アンデッドC:「アァア……」
 アンデッドD:「ウゥウ……」

 機械の音でアンデッド達が集まってくる。
 早いとこ開けないと、キリが無い。

 稲生:「そうだ!さっきの歯車……」

 稲生はドアの横にある点検口を開けた。
 その中を覗き込むと、歯車が1個無くなっているのが分かった。

 稲生:「これだ!」

 稲生は持っていた歯車を嵌め込んだ。
 すると……。

 マリア:「It’s open!」
 稲生:「急いで!」

 運動場に出る。
 すると、鉄扉が閉まった。
 鉄扉の向こうから、アンデッド達がドンドンとドアを叩く音が聞こえるが、ブチ破れそうにない。
 で、この運動場兼公開処刑場にも白骨がごろごろと転がっていた。

 稲生:「ここに中世の騎士風の亡霊が?」
 マリア:「……らしいね」
 茶取:「……いませんね」

 空はどんよりと曇っている。
 そして、時折雷鳴が聞こえて来た。

 稲生:「このまま現れなかったら……」

 しかし、そんな稲生の懸念を払拭するように、雷光と共に落雷の音が轟き、その中からそいつは現れた。

 茶取:「出た!」

 コウモリの翼が生えた黒馬に跨り、甲冑に身を包み、鎗を持った中世の騎士風の亡霊が現れた。

 茶取:「た、確かに剣は当たりそうにない!」

 馬を駆っている為か、その動きは素早い。
 まずは稲生達の周りを時計回りにグルグルと回る。
 今度の獲物がどんな奴らなのかを確認しているかのようだ。

 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!Fi ga!」

 マリア、杖から火炎を発射する。
 が、亡霊には効いていない。

 稲生:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
 亡霊:「!」

 亡霊は馬を止めると、鎗を空に向けた。
 すると、雷がその鎗に落ちる。
 自殺行為ではないか?
 いや、違った。

 稲生:「ぎゃっ!!」

 飛び散った雷電をまともに受けた稲生。

 マリア:「勇太!」

 マリアが走り出す。

 茶取:「スカーレットさん、危ない!」

 亡霊が雷電攻撃を繰り広げてくる。

 マリア:「Fuck you!こんなの聞いてない!」
 茶取:「ボクも初耳です!まさか、こんな攻撃してくるなんて……危ない!」

 茶取がマリアを突き飛ばす。
 直後、茶取は亡霊の攻撃で感電した。

 茶取:「くっ……ぐぐぐ……!」

 動けなくなった茶取に対し、今度は亡霊が鎗を向けて突進してくる。
 鎗は茶取の胸を狙っている。

 茶取:「……くそっ!」

 鎗が突き刺さる瞬間、茶取は体をよじった。

 茶取:「ぎゃっ……!」

 鎗は茶取の心臓を外れたものの、貫通した。

 マリア:「ぱ、ハペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。召喚!ベルフェゴール!」

 マリアは咄嗟に契約悪魔、ベルフェゴールを呼び出した。
 キリスト教における7つの大罪の悪魔1つ、怠惰を司る悪魔である。

 ベルフェゴール:「ハーイ」
 マリア:「め、命令だ。あの亡霊を何とかしろ」
 ベルフェゴール:「あれは亡霊じゃないよ、マスター」
 マリア:「え……?」
 ベルフェゴール:「あれはゴエティアの悪魔、エリゴスさ」
 マリア:「エリゴスだって!?」

 そこへ稲生との契約が内定している悪魔、アスモデウスも現れる。
 ベルフェゴールが英国紳士のような恰好をしているのに対し、アスモデウスはキャバ嬢といった感じである。

 ベルフェゴール:「ゴエティアの公爵様がこんな所で何をやっているんだい?いくら契約者がいなくてヒマだからといって、これはちょっと暇人過ぎるんはじゃないのかい?」
 アスモデウス:「私の将来の契約者をケガさせた落とし前、付けてもらうよ?」

 亡霊……いや、ゴエティアの悪魔エリゴスは狼狽していた。
 そして、この場からの逃走を試みようとしたのだが……。

 アスモデウス:「逃がさないよ!」
 ベルフェゴール:「ボクはアスモと違ってキミに恨みは無いけど、契約なんでね。『何とか』させてもうよ」

 とはいえそこは怠惰の悪魔、殆どはアスモデウスに任せっきりだった。
 最後は手持ちのステッキをエリゴスに投げつけ、

 ベルフェゴール:「落雷!」

 そこに雷を落とし、エリゴス自身を感電させた。

 アスモデウス:「悪魔界の風上にも置けないね!」
 ベルフェゴール:「後で悪魔裁判を受けてもらおう」

 悪魔界でも重鎮クラスにいる2人の悪魔により、エリゴスはしょっ引かれることとなった。

 ベルフェゴール:「もっと早くこいつの正体を見極め、ボク達を召喚してくれたら良かったのにね」
 マリア:「くっ……」
 ベルフェゴール:「ああ、追加料金はサービスしておくよ。ゴエティア側から取れそうだから」
 アスモデウス:「それもそうね」

 悪魔達が立ち去ると、マリアは稲生に駆け寄った。

 マリア:「勇太、しっかりして!」

 稲生は意識こそ無かったが、生きてはいた。

 マリア:(良かった……生きてる……)
 茶取:「早いとこ、ここから脱出しましょう」

 茶取が刀を杖代わりにして、よろよろと近づいてきた。

 マリア:「ちょっと待って。師匠に助けを求める」

 マリアはローブの中から水晶玉を取り出した。

 マリア:「師匠、師匠。こちらマリアンナです。応答願います」
 イリーナ:「あいよ。戦いの様子は見てたよ。今、迎えに行くから」

 このクエストは果たして、達成という扱いでいいのだろうか。
 とにかく一応、ここで悪さをしていた悪魔を退治することはできたが……。
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“大魔道師の弟子” 「サウスエンド監獄」 2

2020-06-01 11:15:07 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月8日10:00.アルカディアシティ南端村 サウスエンド監獄跡 視点:稲生勇太]

 今は打ち棄てられた強制収容所、サウスエンド監獄に到着した稲生達。
 打ち棄てられているといっても、その重厚さは現役時代と変わらない。
 正門は硬く閉ざされており、これはややもすれば内側からも開けられないのではと思うほどだった。
 それでもこれだけ老朽化しているのだから、どこかしら侵入経路はあるはずだと、監獄の周りを探索することにした。

 茶取:「でやっ!」
 マリア:「あっという間……」

 監獄の周りにはモンスターが徘徊している。
 ゴブリン達のような哺乳類系もいれば、今倒したウデムシの巨大化したものもいた。
 しかし、この時点では幽霊に類するような者との遭遇は無い。
 本来なら、こういった廃墟にはそのような輩が棲み付くものなのだろう。

 稲生:「あっ、あれは!?」

 少し開けた所に出ると、ほんの僅かに開いたシャッターを見かけた。
 どうやら搬入口か何かだったのだろう。
 壊れた荷車などがそのまま放置されていた。
 で、ここにもウデムシの化け物が3匹ほど徘徊していたが、茶取が一刀両断にした。

 マリア:「ここから入れそうだな」

 シャッターは上に開けるオーソドックスなタイプで、下から30センチほど開いていた。

 稲生:「もうちょっと開かないかな?」

 稲生がシャッターを持ち上げようとした。

 稲生:「結構重いぞ!?」

 シャッター自体が錆び付いているからだろう。

 茶取:「ボクも!」

 見た目は華奢な体つきながら、そこは妖狐。
 稲生とは比べ物にならない力で、チャッターをこじ開けた。
 そして、1メートルくらいの開口部を作る。

 稲生:「マリアさん!行って!」
 マリア:「All right!」

 マリア、前屈みになって侵入した。

 茶取:「稲生さんも行ってください!」
 稲生:「分かった!」

 稲生も中に入る。
 そして、茶取も中に飛び込んだ。
 すると、ガッシャーンと勢い良くシャッターが閉まった。
 もう、ここから出られそうにない。

 稲生:「ヘタすると閉じ込められましたかね?」
 マリア:「こうやって入れる場所があったんだ。出られる場所もあるはずだよ。いざとなったら、私が壁に穴開けるから」
 茶取:「さすが魔法使いさんですねぇ……」

 意外にもこの監獄、停電していなかった。
 もちろん、点いている明かりは所々なものなので、明るいわけではない。

 稲生:「例の亡霊はどこにいるんだい?」
 茶取:「話によると、この監獄のどこかに広場があるそうです」
 稲生:「広場?運動場か何か?」
 茶取:「多分……。ただ、聞いた話では公開処刑場でもあったとか……」
 稲生:「何それ?」
 マリア:「多分、アレじゃない?この収容所を脱獄しようとして失敗したヤツとか、或いは暴動を起こそうとして失敗したヤツか、そういう奴らを見せしめにする為の公開処刑じゃない?」
 稲生:「なるほど」

 稲生は一瞬、北朝鮮で行われているような公開処刑をイメージしてしまった。

 稲生:「まあ、まずは公開処刑場……運動場か。それを探しましょう」
 マリア:「強制収容所なだけに、なかなか広いな。迷わないといいけど……」

 すると、薄暗い廊下の向こうから……。

 アンデッドA:「アァア……!」
 アンデッドB:「ウゥウ……!」

 呻き声を上げ、ヨタヨタモタモタしながらこちらに向かってくるアンデッドが現れた。
 半分白骨化しており、顔に肉は殆どついていないし、手足も申し訳程度に皮が貼り付いているだけの状態だった。
 手や足には鎖の切れた手錠や足枷が付けられていることから、収監者の成れの果てだろう。

 マリア:「死体は燃やす!Fi la!」

 マリアは杖を構えると火炎魔法を使った。
 杖の頭から火炎の帯が伸びて、アンデッド達を包み込む。

 アンデッドA&B:「ギャアアアアッ!」

 アンデッド達はマリアの火炎魔法により、『火葬』された。

 マリア:「アンデッド系は任せろ!」
 稲生:「お願いします!」
 茶取:「いざとなったら、オレが首を刎ねる。首と胴体を切り離されれば、例え屍人とて歩けまい」
 稲生:「頼むよ……」

 しかし、稲生は茶取の言葉は半信半疑であった。
 確かに茶取の剣の腕前は、さすが師匠の威吹が推すだけのことはある。
 だが、威吹はかつてこうも言っていた。

 威吹:「この戦国劇、いとも簡単に敵将を首を刎ねてるけど、実際、人間の首をスパッと切るのは難しいよ?ボクでも上手く斬れるかどうか……」

 と。
 もちろんだいぶ昔の発言で、威吹は更に強くなったはずなので、今はどうか分からない。
 だが、稲生が茶取の腕前を見ている限り、稲生がまだ学生だった頃の威吹の剣の腕前と同等か、或いはそれ以下のように見えた。
 もちろん、ここでザコ敵を倒す分には十二分なほどの強さなのだが。
 まだマリアの火炎魔法の方が頼りになるような気がした。

 稲生:「ん、何だこれ?」

 事務所のような場所に入ると、机の上に本が開かれた状態で置かれていた。
 英語で書かれている。

 マリア:「フランツ・カフカの“In the Penal Colony”だよ」
 稲生:「日本語にすると?」
 マリア:「私は英語版しか読んだことないから」
 稲生:「……あっ、分かった。“流刑地にて”だ」

 開かれていたページは、主人公の旅人と監獄の看守長との会話の部分が開かれていた。

 旅人:「あの囚人は自分の犯した罪を知らされずに、これから処刑されるのですか?」
 看守長:「知らせる必要は無いでしょう。何故なら、これから自分の体に刻み込まれるのですから」

 稲生:「この監獄は、“流刑地にて”の監獄を参考にして造ったということなのかな?」
 マリア:「可能性はあるな。大師匠様の表の顔は詩人。その旧友たるバァル大帝も、趣味は文学だったというから」

 インドアの趣味は読書。
 その為、魔王城旧館には掃いて捨てるほどの本が収められているという。
 もっとも、大魔王の蔵書だ。
 普通の本ばかりであるはずがない。
 中にはモンスター化した本があったり、そもそも蔵書されている大図書館そのものにデストラップやギミックが仕掛けられているほどなのだそうだ。
 アウトドアの趣味は言うまでもなくゴルフ。
 魔の森を潰そうとした計画の根底には、そこに自分専用のゴルフ場を造る為だったという噂がある。
 とんでもない大魔王である。

 マリア:「この監獄もバァル大帝の息が掛かっていたのなら、きっと何かこういう文学に因んだものを造ったと思う」
 稲生:「なるほど。脱出の際の糸口にはなるかもしれませんね」

 事務所内で鍵と監獄の見取図、その他アイテムを入手した稲生達は更に先へ進んだ。
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