報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「アリス・リンクス」

2020-06-25 20:04:35 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月25日18:00.長野県北部山中 マリアの屋敷1F西側・大食堂 視点:稲生勇太]

 大食堂のテーブルで夕食を取る魔道士達。
 この席にアリス・リンクスという名の女騎士はいなかった。
 アリスが意識を取り戻し、イリーナとマリアが様子を見に行き、そこで事情を聴いた。
 それで名前が分かったのである。
 ケガはイリーナが回復魔法で治したが、今晩は安静にしておく必要があり、無理に体を動かさぬよう、夕食は部屋で取らせることになったのである。
 服はメイド人形達に問い合わせたところ、来客用の寝巻があり、アリスの体のサイズに合うものがあったので、これを着てもらっている。
 で、戦闘で汚れたであろう服は洗濯中だ。

 イリーナ:「やっぱりエレーナが絡んでたみたいね」
 マリア:「名前は聞かなかったようですが、リンクス卿の言ってた特徴が明らかにエレーナそのものでしたからね」
 稲生:「大活躍だなぁ……」
 マリア:「暗躍って言うんだよ、ああいうの」
 稲生:「それで、どうしますか?そのリンクスさんって方、魔界に帰すんですよね?」
 イリーナ:「療養が終わったらね。ここで王宮騎士団に恩を売っておくのも悪くはないでしょう」
 稲生:「ケガは先生が治したのに、まだ療養が必要なんですか?」
 イリーナ:「魔法で治すケガってのは、使う方も使われる方も体に負担が掛かるものなのよ。だから本来、無闇に使うものではないの。まだポーションを使う方がいいくらいよ」
 マリア:「口で説明されただけじゃ分からないと思うね。まあとにかく、ここは師匠の言う通りにした方がいいってこと」
 稲生:「なるほど。そうですか」

 RPGではいとも簡単にケガを魔法で治しているが、実際は何かと制約やら代償やらが掛かるらしい。
 MPを消費する、しかもそのMPは後で簡単に回復させることができるという簡単な話ではないようだ。

 ミカエラ:「お客様へお食事、お持ち致します」
 イリーナ:「よろしくね」

 ミカエラが大きなトレイに乗せた料理を持って行った。

 稲生:「魔界の情勢はそんなに悪いんですか?」
 イリーナ:「ミッドガード共和国の政府高官に、中国やらロシアの『赤いの』と太いパイプを持っているのがいるみたいね。そこから兵器を手に入れてるみたいよ」
 稲生:「エレーナがリンクスさんと協力して墜とした戦闘ヘリってのは、米軍のアパッチではなく、中国軍のWZ-10じゃないですか?」
 イリーナ:「かもしれないわね。まあ、戦闘ヘリなんてどれも似たような形をしてるし」
 マリア:「いくら魔力が付与された剣だからといって、プロペラを斬り離すなんてできるのかと思いましたけどね」
 稲生:「中国クォリティですか?」
 イリーナ:「それもあるけど、もしかしたらミッドガード軍の兵器は整備不良が多いのかもしれないわ。『壊れたらまた中国やロシアから中古をもらえば良い』くらいに思っているのかも」
 稲生:「まだアルカディア王国に勝ち目はあるってことですね」
 イリーナ:「作戦指揮がしっかりしていればね」
 稲生:(戦争シミュレーションゲームで何とかなるレベル……じゃないよなぁ……)

[同日19:00.マリアの屋敷2F西側・ゲストルーム 視点:マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレット]

 マリアはイリーナと一緒にアリス・リンクスの部屋に向かった。
 ミカエラから、アリスが食事に手を付けていないという報告を受けたからである。

 イリーナ:「やあやあ、体の具合はどうだい?」
 アリス:「……まあまあだ。だが、所々体が痺れる。これは何だ?」
 イリーナ:「ゴメンねぇ。回復魔法を急いで使ったからこうなっちゃったの。あなたの体力なら……そうね……2~3日もあれば元に戻るわよ」
 アリス:「2~3日。それは時間が掛かり過ぎだ。もう少し早くならぬか?」
 イリーナ:「あくまでも私の見込みであって、あなたの体力次第でもっと早く治るかもしれないわよ。だから、ちゃんと食事を取るといいわ。それとも、嫌いな物でも入ってた?」
 アリス:「……魔道士の家と聞いて、食事に何か入れられていたらと思うと、手が付けられないのだ」
 イリーナ:「そんなことないわよ。さすがの私達も、騎士団とケンカはしたくないからね」
 アリス:「ダンテ一門はミッドガード共和国から狙われてる。にも関わらず、あなた達は王国から退避しようとしない。おかげで、国民が巻き込まれてしまっている。もう既に状況は悪くなっていると思われるが?」
 マリア:「それは一部の連中だ。私達は戦争に入る直前、ここに待避したさ。もっとも、乗っていた列車がミッドガード兵に襲われて危機一髪だったけどな」
 アリス:「ほら、やっぱり。あなた達のせいだ」
 マリア:(イラッ……
 イリーナ:「まあ、そんなことより、早く療養してもらって、向こうの世界に帰らないとね。私の方から騎士団本部には連絡しておくから、治るまでゆっくり療養しなさいな」
 アリス:「ダンテ一門の魔道士に情けを掛けてもらうわけには……痛っ!」
 イリーナ:「ほらほら、無理に起きない。魔法で無理やり塞いだ傷だから、無理に動くと開いちゃうわよ」
 アリス:「ポーションは無いのか?」
 イリーナ:「今日は魔法を使ったから、ポーションは明日ね。とにかく、今日は食事を取って、ゆっくり休みなさいな」
 マリア:「……あんた、いくつだ?」
 アリス:「私はまだ騎士団に入団して日が浅い。クラス3rdだ。まだランクが下で……」
 マリア:「いや、年齢を聞いたんだよw」
 イリーナ:「素質はありそうだから、頑張ればすぐに2ndに上がれそうだけどね」
 アリス:「3rdでも、更にその中でのランキングは厳しい。そう簡単にはいかないさ。……因みに年齢は、今は17。今年で18。あんたと同じくらいでしょ」
 マリア:「それ、魔道士に言うセリフじゃないからな?」

 確かに、マリアとアリスの見た目の年齢はだいたい同じ。
 しかし、マリアの実年齢は【お察しください】。
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“大魔道師の弟子” 「アリスの行方」

2020-06-25 16:00:54 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月25日16:00.長野県北部山中 視点:稲生勇太]

 稲生はイリーナとマリアにお使いを頼まれ、その帰りであった。
 見習いというのは、雑用も多い。
 師匠や姉弟子に顎で使われることなど上等だ。
 誤解の無いように言っておくが、けして本当に顎が扱き使われているわけではない。
 因みにこのような山中と市街地を往復するのに当たり、車を使っている。
 車は稲生の魔力を使ったもののせいか、最近の日本のタクシーに酷似した車種であり、運転手もマリアが作った人形の化身であった。
 そしてリアシートに座る稲生の隣には、同じくマリアが作ったメイド人形がいる。
 人間形態でメイド服を着ているが、人形らしく生気は感じられない。
 しかし自ら率先して稲生の専属メイドを務めており、名前をダニエラという。
 護衛と称して、メイド服の下にハンドガンやショットガン、手榴弾を隠している危険なメイド人形である。
 車は未舗装の砂利道を突き進んでいる。
 山道の県道から、まるで林道の入口のような佇まいの道を入ってからずっとこの調子。
 で、しばらく進むとレンガ造りのトンネルが現れる。
 そのトンネルの中には照明は無い。
 このトンネルを抜けると、マリアの屋敷である。
 トンネルの長さは意外にあり、微妙に左カーブしているせいか、出口が見えない。
 そこをヘッドライトを点灯させて進むのである。
 が、トンネル内を少し走ったところだった。

 稲生:「うわっ!?」

 突然、車が急停車した。

 稲生:「な、なに!?何かあったの!?」
 運転手:「…………」

 路線バスの運転手のような恰好をした運転手が、こちらを振り向いた。
 帽子を深く被っているせいで、目から上がよく見えない。

 ダニエラ:「……どうやら、道の上に何かが落ちているようです」
 稲生:「えっ!?」

 そこは同じマリアの人形。
 運転手の無言の訴えを的確に聞き取り、それを稲生に伝えた。

 稲生:「何が落ちてるんだ?」

 稲生とダニエラは車を降りた。
 稲生達以外誰も通らないトンネルのせいか、中はとても黴臭い。
 ヘッドライトに照らされるようにして、そこに1人の人物が倒れていた。

 稲生:「人だ!どうしてこんなところに人が!?って、しかもこれ……」

 稲生はその人物の服装からして、それが人間界の人間ではないとすぐに分かった。
 何故ならその人物は鎧を着ており、兜はヘッドギア型の装飾が施されたものを着用しているからだ。

 稲生:「もしかして、魔界の騎士か!?え、何でこんな所に!?」

 だが、死んではおらず、ケガをしているだけのようだった。
 しかも、意識が無い。

 稲生:「と、取りあえず屋敷へ運ぼう!ダニエラさん、車に乗せて!」
 ダニエラ:「かしこまりました」

 本来、外部の人間を勝手に屋敷に連れて来てはいけないとイリーナに言われていたが、これは致し方無いだろう。
 ましてや、どうやら魔界在住の人間のようなのだから。
 因みに外部の人間で大っぴらに屋敷への訪問が許されているのは、“魔の者”との戦いで功績を挙げた藤谷親子と稲生の両親だけである(実際に訪問したことがあるのは、藤谷春人だけ)。

[同日17:00.マリアの屋敷2F西側談話室 視点:稲生勇太]

 イリーナ:「取りあえず、ケガの治療は終わったわ」
 稲生:「ありがとうございます」
 イリーナ:「確かにあれは、勇太君の見立て通り、アルカディア王国の騎士団員の1人で間違い無いわ。歳も若いし、簡素な装備だから、そんなに高い階級ではないみたいだけど」
 稲生:「やっぱり!」
 マリア:「どうしてアルカディア王国の騎士があのトンネルの中にいたんでしょう?」
 イリーナ:「マリアは覚えてない?エレーナが2日前に送った報告。エレーナと一緒に人間界に飛ばされたと思われるけど、今は行方不明の騎士団員」
 マリア:「ああ!……でも、どうしてトンネルに?」
 イリーナ:「それは偶然かもしれないわね。もっとも、エレーナには電車に轢かせようとしていたみたいだから、殺意はあったようだけど」
 稲生:「どうします?エレーナに教えますか?」
 イリーナ:「今はやめておきましょう。騎士団員で、エレーナと一緒だったということは、恐らくカネが絡むと思うから」
 マリア:「騎士は貴族の出だ。あの騎士は階級は低いが、きっと家柄は良い所なんだろう。それでカネの匂いを嗅ぎ付けたエレーナが、何か契約でも持ち掛けたんだと思うね」
 イリーナ:「若いから階級は低いけど、後で上がって行くタイプだろうね」
 稲生:「アルカディア王国騎士団の階級……。何でしょうね?」
 イリーナ:「下から順にThird、Second、Firstってところね」
 稲生:「数字ですか」
 イリーナ:「兵士とは違うから、ランキングで決まるみたいよ」
 稲生:「強さのランキングですか?」
 イリーナ:「そんなところ」
 マリア:「エレーナとあの騎士を人間界に飛ばした魔道士って誰なんでしょう?」
 イリーナ:「分からないけど、恐らく東アジア魔道団の誰かである確率は高いわね。あいつらも魔界に出入りしてるから」
 稲生:「そいつらですか……」

 と、その時、部屋のドアがノックされた。

 稲生:「はい、どうぞ」

 稲生が声を掛けると、ドアを開けたのはメイド人形のクラリス。
 今は人間形態である。
 ハク人形と呼ばれる人形形態の時はコミカルな動きを見せてくれるが、人間形態の時はメイド人形を束ねるリーダーとしての実力を発揮する。

 クラリス:「失礼します。騎士様が意識を取り戻されました」
 稲生:「おおっ!」
 イリーナ:「分かった。今行くわ。……ああ、勇太君はそこで待ってて」
 稲生:「えっ?」
 イリーナ:「体の汚れを落としてあげる為に、上半身裸なの。後で怖い目に遭いたくなかったら、ここにいて」
 マリア:「せめて、バスローブくらい着させてあげればいいのに……」
 イリーナ:「アタシのサイズじゃ大きいし、マリアのサイズじゃ小さいでしょお?」
 マリア:「いや、それにしたって裸はちょっと……」

 2人の魔女はそんなことを言い合いながら、談話室を出て行った。
 1人取り残された見習い魔道士は、手持無沙汰にスマホを弄るしかなかった。
 因みに、魔界におけるクエストの達成率と合否結果は魔界での戦争が終わるまで保留とのことだ。
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